僕のとなりは!?(僕とな!?)

峠のシェルパ

躊躇と顕著

 人の胸の内に秘めているものなんて見えている人なんていたらさぞやその人は生きづらいことだろうか、本音と建前は見えたり隠れたりするもので常に本音しか話さない人はいるわけがない。
人は知性を得ると共に嘘のつき方も騙し騙されるうちに上達していくのだが…目の前で挑発したげに僕を小馬鹿にした顔をするD51という男は真っ当なことを言っても僕は嘘に聞こえてしまう。
真実味が無いと言えば良いのか全てが総じて彼にはかかると雄弁であり同時に詭弁になってしまうのだ…

状況は明らかに彼方に分がある、どうやって地力の差なんて埋めようか、アイデア勝負で何とかなったりしないだろうか…
「話せば分かる」「問答無用!」と決まり文句があるけれど
問答は無用ではなくて有用なものだと思う、
とはいえこちらの話を聞かない人というのはそこそこいるのでそーいう人は放置でいい。

「そーだねぇ、吾が輩はそのドアを開けて依頼人からのオーダー果す為に動かなきゃいけない。
君がそれを阻止してくれるのなら吾が輩はこの身を粉にしても君の心を折り反抗する気をなくさせてビビらせちゃっても良いんだけどさー?」
彼にかかると何だか真っ当なことも道化にしか聞こえない、最初に遭遇してからの恐怖まではいかないものの物怖じしていた頃のイメージはどこへいってしまったんだろうか?
本当に頭の良い人って馬鹿になれるけど馬鹿な人は頭が良くない、相手の反応とか見たくてわざと馬鹿なふりをしたりするんだよね、たぶんD51はそういうタイプなんだと思う、
はぁ、僕が此処でD51侵入を防ぐ意味は果たしてあるのだろうか、
レイピアを起こして上手いことD51の感情に訴えかけるような演技をしてもらって…駄目だ、多分だけど彼みたいなタイプには泣き落としは通用しない。
僕は…レイピアの泣き落としで落ちるほど感情的になることはあんまりないから大丈夫だと思う、多分だけど。
予測ばっかり立てて行動に移さないのは意味がない、取り敢えず此方は動き続けないと…

「…どうだろう、お互いに家に戻って対策を練り直すと言うのは、本来話し合うべきもの同士が対決し論を戦わせていないし、代理人が本人の意志と関係なく争ったって意味がないじゃないか」
だってレイピアの意見を家の人に直接伝えなくては彼女が家出という家の状況に抵抗した意味が無いもの。
「はぁー? まだそんなこと言ってるのかよ…なにきみこの期に及んでまだそんなことを言ってるのかい、議論は譲歩も和解も無くやったかいもなかったんだぜ、待っているのは闘争による解決だけだろ…この場合冷戦だけどな。」
冷たい戦争…対立が深まったまま両者の関係が冷え込んでいくと言うわけかな? 
それなら君が言うような殴り合いなんて起きないじゃないか。なんだ安心した…。

「冷戦って言ってなんで安心してるか皆目検討が付かないんだけどさー、冷戦って要するに代理戦争の応酬だから殴り合いはするんだぜ?」
なにそれ聞いてない…二つの大国の協力を得た国同士ががかたや国内でかたや南北に分かれてぶつかり合う、
「でもそれ僕らにとって百害あって一理なしじゃない? 同じ学校の生徒なんだし仲良しこよしーとは行かないまでも…」
それが出来れば戦争なんてこの世の中からなくなるんだろうけどなぁ…
「出来ないことは分かっているけれど君だって人が不幸になったりする姿を見たくないでしょ、
君はそんな時一体どうしたいんだい?」
話をそことなくそらして時間を稼ぐ事が目的の質問、多分この人は飽きっぽい性格なんじゃないかとこれまでのやり取りから分析してみたのだけれど上手いこといってくれてD51が日を改めてくれるのならレイピアとこの人に対する対策を練られるのだが…

「人が苦しんでいるのを見たら? 助けてやらない、人を助けることに意味なんて無いし」
思いがけずに言葉が出たのは僕にとって初めてかもしれない
「は…アンタ何言ってんだ…。」
相手の言葉と自分の言葉を同時に疑うという初めての経験を僕はその時するのである。
「それで得を得るとか徳を得るとか言うけどさそんなんで人を助けたって何にもならないじゃないか、違うかい?」
一般常識ではこの人は計れないしその外にでもいるってのか…
「まぁ、君の主義主張に意義を唱えるわけでも無いけれど相手本位の考え方には賛同できないな、世の中にはどうしようもない連中ってのがいるんだ。
もしの話だけど君が匿っている少女が「ここは私の部屋だから出ていけ!」とか「お前これから召し使いな」とかこんなんじゃ無くとも理不尽な要求をしてきたとしても君は匿うのかい?」

…多分それがどんな人であれ例え僕が騙されることになっても僕はあの子を匿うのかもしれない、D51の言葉を否定できない僕はここにいるのがどうにも苦しくなった、
激しい運動をしたわけでも無いのに息が苦しくて肩が上がるのは一体どうしてだろう。

「あんまり哲学っぽい問答はするもんじゃねぇな息が苦しくなるぜ…しかも妥協を出来ない形式だけの交渉は決裂しているんだから普通ならなんの気無しに殴り合いの大喧嘩ってのが漫画の展開だろうが」
D51の目付気が急に鋭くなってにエアボクシングを始めると
平和畑にすっかり埋まっている僕にはこれからの展開が予想できるわけもなかった。
「吾が輩は腕力がものをいうだけの喧嘩なんて真っ平でね、
相手を押し倒すかなんかしてぶん殴れば再起不能でゴングが鳴るのはボクシングの試合だけでいい。
日本人ってのは不思議なもんでね今こそどうか知らないが陣地と攻守がコロコロ変わるサッカーよりも攻守がルールによって厳格に決められている野球の方が好きだったりするんだ。 
機会の平等ってのは大事なことだよ、特に今のこの国にはね…
そこで今回はね…君が吾が輩を転ばせたり押し倒したり降参と言わせれば勝ちにして殴り合いのゲームでもしようかと思うんだけどどうかな?」

まるでと言うか文字通りこいつは喧嘩という暴力的行動をゲームとして楽しむつもりらしい。
僕の部屋の前に来てピンポンダッシュする前の最初からそれが目的だったのではと言わんばかりに言い慣れた言い方だ。

「そんなことして何になるのさ、僕と君との腕力の違いはさっきの扉のやり取りで分かったはず
殴り合いなんてしたらその差は歴然でしょ?」
僕がD51に比べ背が高いが力負けするのは目に見えているそれに喧嘩なんて小学校の時にやんちゃしてた時以来まるでやっていないな…

「う~んだからね最近の若い人は人の痛みとかがわからなくなってんじゃないかって思うよ、勢い余って集団リンチで気がついたら動かなくなっていたとか結構ニュースになってるじゃない。
喧嘩やいじめは駄目ですよーってカテゴリー自体を禁止したらそりゃ歯止めが無くなるよね~、
親が駄目だって言ったことをやるのって一種の背徳感があるから楽しくて仕方ないんだよねぇ
先生はどっちも駄目だって言わなきゃいけないけど親はもう少し賢くなった方がいいと思うよねー。
禁止されていることに興味を持つっていうのはいけないことだけれどもただひたすらに口を酸っぱく表面だけでものを言ったってそんなの糠に春日井だ」

今と昔の子供がたとえ大きくその資質を変えても僕らが生きているのは今だしそんなに昔で変わったことがあるだろうか、
今の若いものはなんてのは大人のよく言うことだけど僕はあんまりよく分からないな… 

「こんなことを考えたってどーしようも無いんだが
時代によって問題点なんて山ほどあるけれどその課題の解消策が間違ってると思っちゃうのよ、話して深めて発信しないといけない気がしてる、こればっかりは吾が輩の正直な気持ちさー
っと柄にもないことをお喋りしちゃったねぇ、ゲームルールの続きだよ~。
ハンデとして君は吾が輩からの攻撃を回避し防御してもいい、 吾が輩はそのどちらもしないから安心してくれたまえ君の勝ちしか見えないわー。
あれだよ将棋で言うところの飛車角落ちで対戦するようなものだよ大丈夫だってこんだけお膳立てしてやってんだから四、五発やりやったら満足して終わるって~」

一度話始めるとマシンガントークが一方的に繰り広げられるので反論のしようもないしなんだか噛みつくだけバカらしく思えてきた、このひとには空気を読む機能は備わっているのだろうか…

「それに個人的にいけ好かないってのはお互い様なんだし倒れるまでと怪我残らない様にしかやらないのは喧嘩の鉄則だぜ?
相手が死ぬまでやるのは決闘罪でpolicemenのご登場だから勘弁して欲しい。」
寮の廊下に高い靴が地面を蹴る音がこだまする、駄目だこの人はどうしても跳んだ跳ねたの喧嘩がしたいんだ…
両肘を軽く絞めて拳を嬉々として握るD51に呆れることしか僕は出来ない、僕には暴力という力の行使はどうも野蛮にか見えない。

「それともうひとつ、君が決して無視できない事実を教えてあげよう。
吾が輩にはあの女の子の生殺与奪の権利が与えられている、
交渉が決裂するか、女の子が逃亡を謀った際には使えと言われているんだよね~ふざけて使うなとは厳命されているけど。
孫悟空の頭にしてる輪っかって思ってくれればいい」 

何食わぬ顔でさらっと重大発表をこのタイミングでしなくてもいいだろこの策士気取りのジャージ男は…
つまりレイピアには枷がはめられていてそれがある限り家の人の言うことを聞かなくてはならない…と?
その情報だけは正直な話聞きたくなかった、致命的だよそれは 僕の堪忍袋の一番つついていけない場所を突き破る事が出来る数少ない槍だよ…
僕が嫌悪するもののうちでそれは一番駄目なものだ。 
子供を自分の管理物、所有物だとして疑わずあまつさえ子の道を親が決めるなんてのはもう救いがないと言うのも僕の祖父母というのがまさしくそれで年中行事は殆ど家族だけで行い呼び出された時しか親もわざわざ訪ねることはしなかった。
「今始めてそんなことを聞いたんだけどさ何だよそれ、本当レイピアをなんだと思っているんだアイツは…」
今までのやり取りの殆どが目の前の男の算段であったって知るものか、今はあの子を見えないところで助けてやる方が優先だ。
いくら温厚でどこかボケているように見える中華圏のアイドル、パンダだって怒るときくらいあるのだから。
覚悟なんて出来てない、ただのプロレスごっことか子供のじゃれあいとは訳が違う、

「ふーん君らの間じゃあのちっちゃい子"レイピア"なんて呼んでるんだ~可愛らしい…かはともかくとしてさっき言った枷の話なんだけど、これが発動すると文字通り足やら首やらに枷がつくんだってーでも少しは安心しなその効力は半径数mなんだってよ」「僕が君をこれ以上レイピアに近づくことを許さなければ良いんだね、」
僕はD51の言葉を遮ってこれ以上の会話の主導権を渡さないよう画策する。
「おいおい、お前よぅそんな甘っちょろい顔して女の一人も守れんのかぁぁぁ!
見え見えなんだよ小手先の護身術みたいなのを使うのがよぉ!
吾が輩はなぁ君が恐らく嫌悪するものなんだろう?
合理主義と利己主義の塊だからなぁ吾が輩はよぉぉ!!」

怒号とまでは大きくないけれど僕が振り上げた拳を躊躇うくらいに迫力としたは十分だった。
「うるっさいな…少しはその減らず口をガムテープか何かでふさいで静かに出来ないの? 
あの子がどんな扱いを受けてきたかは僕はすべてを知ることは出来ないだろう。僕はレイピアとは違う一個人だからあの子の全てを理解してレイピアの立場ででしゃべっている訳じゃない…でもけれど…僕は僕個人の意思でここに立ってる、
彼女は誰にも頼る人がいなかったのを助けてくれた人がこの町にいるんだ、僕なんかに頼ったり笑いかけてくるほどにあの子は寂しくて人の温もりなんてものを求めてるんじゃないかって僕はそう思ってる。
あの子が掴んだ自由を僕の手で終わらせるわけにはいかないんだよ…!!だからあんたの出番はこれで終わりだ、レイピアの知らないところで僕に阻まれてとぼとぼとお家に帰って泣き腫らすんだな…!」
本当だったら僕はこんな言葉遣いも感情任せのジェスチャーなんて絶対にしない、けれどどこかトリッキーな彼に対抗するためにはそうしなければならないのだ。
「はっ! 上等じゃねぇのお前、単になよなよしてる言い訳製造機じゃ無かった訳か!」

違うよD51、本当だったら僕は君の言う通りのいわゆる言い訳製造機なのだろう、でもそれでは君は負かすことは出来ないと判断したから君の一見して傲岸無知にも聞こえる言い回しと大胆不敵とさを真似させてもらったよ。
自分で言うのもなんだけど僕にはこんなことしか出来ないから友人とか出来ないんだろうね、八方美人だから。

「さて、お互い宣戦布告も済んだことですしぼちぼち始めたいと思うんだけど~どっちから始める?」

自己否定をする必要なんてないのにどうにも自身を卑下したがるこの癖はもしかしたら治らないのかも知れないけれど今はそんな下らないことを考えるより目の前のジャージマンの方が優先だ。
「別に10円玉でもあればコイントスでもすれば公平なのだけど今は小銭を持ってくる様な場面じゃないしなどっちが先に始めるんだい?」
じゃんけんとかでも構わないけどD51がグーをだしてそのまま右ストレートが僕の頬にきれいに決まる未来が頭の端に一瞬だけ見えた。 
「ふふふ、吾が輩に抜かりなし10円玉とは言わず100円玉でも5円玉でも良いぞ?」
D51なんで君のズボンのポケットからなぜそんなに小銭が出てくるのかは聞かないでおくしどうでもいいけど硬貨の表裏って数字が書いてあるのが表で合ってるのかな?
「因みに言っておくとだな、硬貨は一見すると数字と鋳造年が表であると誤認されやすいが実は裏の平等院鳳凰堂だったり桜の花が表だったりするんだよ、っと今回はご縁がありますようにで五円玉ではなく五十円玉なちなみに表は菊の花絵描がれてるからあとで確認しておくように」
此処まで来たらやるしか無いと頭のなかで僕の平和ボケ的な自分を押しとどめることに成功したので
ここらで強い自分というものをイメージしてみよう、目の前の何の変哲もない少年を簡単に打ち倒せるほどの技量なんて僕は持ち合わせていないけれど根性とかの精神論にすがるほど今まで何もして来なかったわけじゃない。

 「特段吾が輩だっていつも人を殴りたいとか思っているわけじゃない、
それは理解して欲しいところだけと、ほら丁か半かじゃないや表か裏かどっちにする?」
D51に差し出されたその言葉は今までのとは少しだけ違った口調
それはたぶん今まで含ませていた嘘とか裏とか無く率直な彼の言葉だったと後になって思った。
さて、コイントスの表を選択してみた所僕は新年度早々幸先の良いスタートを切れそうで僕が先攻となった
意気込みとかはあまりないけれど色々作戦を練ることにしよう好都合なことにD51は防御の姿勢すら取らずにいてくれるらしいなんとも大した自信を持っていることから僕が攻撃をした後には
さぞ重い一撃が繰り出されるのだろう、それを避けるか上手いことふっ飛ばされて受け身を取るかとか考えた上で動かないと多分こいつに参ったとは吐かせられない。

「後一つだけ聞いてもいないかな、君は仕事とか言われたことって本当に忠実にこなすタイプなの?
機械的にといえばいいのか分からないけど」
女の子を争奪戦(厳密に言えば現状は少し違うのだけれど)戦いの前とかって某有名キャラクターは(一人称)ワクワクすっぞ!! みたいなことを何時も言っているけれど僕は戦闘民族でも不良でもヤンキーでもなくDQNでもないので人を殴ることには抵抗を覚えるので気を紛らわすためにあえて質問をしてみる
回答には期待していなかったが簡単にその答えは帰ってきた。
「そんな簡単な構造してるんだったらわざわざこんなまどろっこしいやり方してねぇし、こんな任務放り出して家で寝てたほうがいいなw」
それなら何で僕に喧嘩なんて仕掛けてくるんだというのは野暮なのかもしれない、意気込みとかはっきりとした意志なんてものはこの頃の僕には何もなくて僕の戦いの第一戦が始まろうとしていた。
いざテレビで見ただけのファイティングポーズを取ってみるとこんな時間に何をやっているんだろうと大分阿呆らしく思えてきたけれど目の前のジャージマンはさも当たり前のように此方が動くのを待っている。
距離があるからハンドボールのシュートの要領で踏み込んで拳でも振り下ろそうか…
「なんでもいいけどお早く~」
個人的にはこののんきな声をさっさと黙らせたいところだから思い切り助走をつけるためにD51から距離を取ってから勢いをつけていく、この瞬間にもD51が怯んだり臆病風に吹かれて参ったと言ってくれればあんなことにはならなかっただろうにと僕は踏切をした瞬間に思うのである。
一瞬だけD51の表情を確認することが出来たがその顔はとても楽しげに口角を上げていた、ただ目が爛々と光っているおかげで凶悪そのものであったのは僕の個人的な感想でしか無いがギリギリまで振り絞った右のストレートと噛み合わなかった踏切のお陰で威力は殺されていたに違いない、そうでなかったら僕が逆に出鼻をくじかれ尻もちをつくなんてことにはならないはずだ…
出鼻をくじかれたというのは比喩では決してなくて鼻にわさびでもたんまり入れられたかのようなツーンとした猛烈な刺激が僕を襲った、後々思い出して言って書いているからこんな冷静な文章になっているけど当時なら混乱と激痛でパニック状態だったね。
頭のなかで赤信号と黄色の信号が激しく点滅してるみたいなそんな感覚が数秒間止まらなくて僕は動けなかったけどルールが適応されているからD51は余計なことまではしてこない。
「あ、いけねやり過ぎたかねぇ~?大丈夫かーい、脳震盪起こしてるんだったらもうギブアップしておきなね、後々響いてくるしそれが元で後遺症が起こるとか恐いからさ~?」
心配でもしたのかそれとも何か哀れみなのかこっちに寄ってきたので不意をついてやろうと彼の顎に向けて
頭突きを喰らわせようと思い切って体制を立て直しにかかるもそれは流石に僕にそんな勇気もなく
D51の足を掴んで引き倒してやることくらいしかできなかった、
「これはターンが回ることに入らないよね!?」
不意を突かれニヤついたD51の表情を見られるかと思いきやそんなこともなく素直にマウントを取らせてくれたのは少し思惑からはずていたけどそれは置いておこう、
「ああ、確かにどんな態勢から攻撃してもかまわないと言ったがいささか吾が輩には随分不利な盤面にしてくれたなぁ、君さもしかして喧嘩とか良くしてたの?」
そんなわけ無いでしょ、僕は平和主義者なんだから喧嘩とかするわけないじゃないか。
これは単に中学生時に習った人の重心がズレたときには何処か異なる方向に引いてやればバランスを失って倒れるといったのを実際に試したまでである。
僕にできることはできるだけD51の攻撃の威力をどれだけ殺してぼくの攻勢に活かせるか
そんなこと考える余裕もなく僕は思い切ってD51の頬を叩いた、
「痛っ…もうこれいじめじゃね?一方的にマウント取って顔叩いてくるとかさぁ…」
減らず口をよく言う。君がレイピアに悪事を働こうとしているんじゃないか、僕が待って欲しいと言ったらその話が通らないからこうして君の誘いに乗って喧嘩しているんじゃないか、
「怖い怖い、そんな顔をして睨むなよ老けたときに怖い顔になっちまうぞホンマ」
自分が不利な状況に陥りながらも相変わらずのニヤけた顔が僕にとっては見ていて気分が良いものではなかった。
何だよコイツ仏頂面とは違うけど僕に対してなんにも思っていないのか表情の一つも変わらない、眼中にすら無いってのかよ…!
真正面から顔面を狙った一撃が来ると思って目の前で腕を使ってガードしていたのだが…
「そんな真正面から真っ正直に攻撃するわけ無いでしょーーーが!!」
意識の外から衝撃を受けたため力の向きそのままに今度は僕が倒れ込む番になった、どうやら脇腹を狙った様で脇を押さえながらで無いと息が出来ない……!?
ただ痛いとかそういうのじゃなくて、肺に空気が入る時ある程度膨らんだ肺に向けて釘でも刺さっているみたいにのたうち回るしか出来ることがなくなっているではないか、
そんな僕を尻目にすんなりとD51は立ち上がって僕へこう言った。
「あのねぇ、教科書通りに事が運ぶんならこんな世の中面白くもなんともなくてただマニュアル通りに事が運ぶだけの侘しい世界になっちまいますからね~?
そういうのは吾が輩としても面白くもなんともないのよ! 攻略不可能じゃんこんなの、この世界にマニュアル通りに誰かの背中追えば一人前なんかになれるわけがねぇんだよ!!
70億人のプレイヤーがただ勝手気まま生きるために生産活動や破壊活動に勤しむわけだろ? 乱数操作出来るのはどれだけ一握りの人材だと思ってる?!少なくともお前や吾が輩じゃ三回位人生続けても不可能だろうよ!!
それとあれだ、その部屋にいる女の子のことを調子に乗って言ってやるとするなら今時女が一人で家出してくるなんざろくなことは持ってこないぜ止めておきな、泣き落としでもなんでも使ってきたりするんだろうが誑し込まれたら最後だろとんだ女狐がこの学校には潜り込んでんな~、高校生活壊されたくないんならそんな女を家に入れるってのは止めておきな」
…前言撤回するよ、こんな痛みは全然痛くない。
「あの子のことを全く知らないのに…あの子を勝手に一般的な、しかも変な目線で語ってんじゃねぇよ謀略家気取りメガネ、実は脳筋なんじゃねぇか…」
今までの自分を変えることは簡単でなくとも、この怒りに任せて自分を偽ることは出来る。
少し力を入れて触れてしまえば崩れそうな儚い笑顔、半日しか一緒にいなかったけれどそれなりには楽しかったんだ、それを否定されるってのは我慢ならないんだよね…
立ち上がるのにも少し力を入れて、眼前の敵を敵意を持って迎い入れてやろう。
僕は多分この人よりも人生の重みが違うのだろう、彼の言っていることには一定の説得力が有る、
だが拳の重さくらいは少しくらいしか変わらないのだとしたらせいぜいこの自己満足でしか無いかもしれない殴り合いにもやりようは有るだろう。
「ハッ! なんだよ君はそんな顔もできるのかよ、とんだ猫かぶりだなおい…いい顔になっってんじゃねぇか、それとも何か?もっと盛り上がれるってのか?来いよ王子様、年季の違いなんざ此処にねぇんだから単純明快な方法に頼っちまいな!!」
血が登って逆上せそうな僕を宥めるかのように夜風が静かにまだ肌寒い夜を駆けてゆく、
眼の前にいる同級生が言った言葉の数々を僕は許容することが当分できそうにないのであった…。


次回もお楽しみに!!





「あれ? 涼くんが居ない…先にお風呂でも入ってるのかな…?」
僕の望む平穏は一体いつになれば得られるのだろうか、残念ながらどんどんと僕が望まぬ方へ話は展開していきそうなのである。

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