僕のとなりは!?(僕とな!?)

峠のシェルパ

理由と杞憂

白熱灯の明るく近代的な灯りの光源と白煙がうっすらとD51のとは正反対に未練がましく残っていた、夜の戸張はもうすっかり辺りを包んでいた。
この学生寮の周囲には大通りも無く、交通量も少ないので大きな声を出すとかなり響いてしまうだろう。

「…まさかのお隣さんとは全く世の中って狭いなぁ…」
この先を憂い大きな溜め息をついて膝に手をついて前屈みになる。
溜め息の原因は意外性ナンバーワンな出来事でそれは未だに信じられない節が有るのだけれど
視界が暗転してしまいそうな倦怠感と脱力感に抵抗しながら僕は手を膝につけ気力で立ち続けていた。
レイピアの家の事情は時が来たら聞くことにして僕は早く一息つきたいなと思いながら、時間にしたら三十分から一時間くらいしか経っては居ないとだけれど、

「大丈夫、涼くん頭に酸素回ってる?」
そういう心配の仕方をされても反応に困るんだけどさレイピア、
欲を出すのだったら凄く心配そうに駆け寄って来るとかしてくれると僕の好感度も上がったりするんだけどな…?

「涼くんの心配ももちろんしてるし色々思うことはあるんだけど一先ずここを離れた方がいいと思う、ずーっとここにいるのもあれがまた顔を出して負け惜しみを捲し立てて来そうだからやだよ」

ドアノブに手を掛けるレイピアの手が少し震えていたのを見逃す程僕は注意力を散漫にはしていなかった、D51が隣にいるという事実が分かっただけでも致命的なので少なくとも今日中は注意が必要であろう。
ドアを開けてレイピアが靴を脱ぎ捨てる、数時間前にはここで僕とレイピアは始めて会った事を彼女は知るよしもないのだが妙にあの時から時間が経っているのではと思うほど今日一日の出来事は色々起こり過ぎだよ…

「あいつが見てるかもしれないって思うとあんまり煩くしたりとかしたく無かったんだけどさ…」

僕がに続いて靴を脱ごうとする直前体勢をを低くした時だった、ほんの数時間前この場で布団にくるまって寝ていた少女は僕の胸に飛び込んでいた、
勢いをなんとか殺して背後にあるドアノブが腰に刺さるなんてことにはならなかったがそれでも危うくレイピアの体重を支えきれずに転倒をする可能性は少なからずあったが
ここで彼女の名誉を守ると不意討ちと低くした体勢がわざわいしてよろけたのであってレイピアの体重が重かったと言うことは断じてないのは彼女の名誉のために言っておこうと思う。
「ちょっとレイピア」
倒れそうにはなったが
「り、涼くんそんなにボロボロになっちゃったのは私が悪いんだよね…?」
僕の胸を掴むレイピアの手は何かにすがる様にパーカーに皺を作っている、
「私には涼くんに対しての責任とか保障とかをする事とか出来ないの、まさかこんなに早くから見つかるなんて思っていなかったから…!」
何事もたのしそうに興味津々だった彼女の口調は外の廊下にでも置いてきていうのか、
「実はね…私には」「まぁあれだよレイピアあのジャージマンとはたまたまあそこで会ったんだ、午前中には居なかったはずの人が居るっていうんでD51が訪ねてきた、
君の好物は肉か魚かとか紅茶か珈琲かーとか女の子は大人っぽい方がいいか、子供っぽい方がいいかーとかそんなことから始まったつまんない私情の縺れだよ。
あんなのは喧嘩のうちに入らないし、君は座敷わらしなんだから僕の部屋にいたって僕一人が損得するだけだから関係ないーってそんな下らない男の子同士の意地の張り合いなんだ。」

今回の出来事はレイピアが中心にいるだけの話で僕が上手いこと気を回せずにD51を乗せてしまったのが原因なんだ、君が見るべきではないいわゆる舞台端での転倒みたいな事なんだよ。
なのでレイピアは関係ない話で、君はこれから楽しいことをたくさんしなくちゃいけないんだ。

「…涼くん、優しさってね悲しいときとか悔しいときとかにはすっごく甘い、それこそ甘露みたいになるんだからね?
でもそれと同時に中毒性と微弱な毒を持っていて、やりすぎは人を頼らないとなんにも出来ないただの腑抜けになっちゃうんだ、涼くんは多分無自覚にやっているのだと思うんだけどそれは人の為にならないときもあるってことを貴方には知ってもらいたいなって思う。」

優しさは肩を叩いてくれるがその先の面倒は見ちゃくれない。
僕が個人的に好きでCDも買っている歌手の歌の一節の様な言葉をまさかレイピアから聞くことになるとは思わなかったよ。

「私はあんまり感情に訴えるとか感情任せに動くのが苦手で上手くいった試しがないから誤解を生むこともあるかもしれないけども!
この際だからはっきり私の言葉で言いたいことがありまひゅ!」

レイピアの名言はかくしてすっごく面白いところで、そして惜しいところで台無しになった。
肝心なところで呂律が回らなくなるのがレイピアらしいのだろうかはさておき噛み方とそのあとのレイピアの反応がが可愛らしかったのでよしとしよう、

「私が別に言葉遣いを間違えようとそんなことはどうでもいいの!
私は…自覚があるけど自分のそのままだと多分すっごく面倒くさいと思う。
家のことだって秘密にしていおかないといけないから涼くんには打ち明けられない、この先も涼くんが手を差し伸べてくれる保証は何処にもないのに君というひだまりから出られなくなっちゃいそうな自分がいるの、変なことを言っているのは百も承知なのにさ!」

涙こそ出ていないけれど不安なのか焦りなのかレイピアの明るい表情は随分と変わってしまったな、
レイピアの家の事もどうにかしてこの子を自由にしてやりたいという僕の気持ちはレイピアにとって重いものなのだろうか、聞いてみるだけの勇気は今の僕にはない、それは多分レイピアも同じなのだろう。
お互いに秘密にしていおかないといけない事を打ち明けられないでいる、といったところか
さて、僕としてもレイピアに向けて言っておかなくてはならないことが出来たようだし玄関先でいつまでも押し問答というわけにもいかないだろう、流石に僕が疲れ果てて倒れそうだから

「レイピアあのね、」「皆まで言わなくていいよ涼くん、私は全部聞いてたわけじゃないけどあのジャージマンの言う通りだって思ったりもするよ、でも私は涼くんの幸せの青い鳥になれたりするのかな?
…なんちゃって変なこと言っちゃうのはレイピアさんの癖なので気にしないで下さーい、」
勝手にすねたというかこれは諦めたのかな? いまいちレイピアの台詞回しが分からないのは僕の語彙力のせいだろうか?

D51という目の前に現れた壁をやっとのことで超えたと言うのに僕とレイピアの関係は何処でズレてこじれたのだろうかと寮室に引っ込んで尚あのジャージマンによって引っ掻き回されるのかと憤りながらも目の前の姫様を宥めなくてはなるまいて

「一つ言っておこうと思うんだ、僕は君を助けようなんて思っていない、きっとそんなのは正義のヒーローを自称する公安委員会に所属する人たちに任せてしまえばそれで解決するんだろう、でもそれを君は望んでいない、僕はそれが一番の近道であると思うけど君が望んでいるのはそんな近道ではないんだね?」
レイピアは
「そんな近道文明の利器じゃない、山をロープウェイで登ってくみたいなもんだよ、ずると楽でしか無いもん。
それは最短の時間で頂上のきれいな景色が見られるしそれでいいって思う人からしたらわざわざ重い装備とか背負って顔を疲労の色で汗かきながら頑張って登ってくる人は何でそんなことしてまで此処まで来るんだろうって思うでしょ?
苦労とかっていうのはその時は無駄になってしまうものであっても経験と思い出っていう糧と時間を使わないと出来ないことが出来るから何かと大変なことをしておくといいですよってマスターがなんか言ってたよ!!
それにね私の家族の問題はね、多分そんなことじゃ解決できないし私がしたいのはそんなことじゃないんだよ家族って紛いなりにも血を分けた人達であってその縁は意外と切りたくても中々切れないものだって私はあんまり思うよ?」
レイピアの僕の共通点を取り上げるとしたら、ネガティブな意見だけれど家族のことを話したがらないとかなのだろうか、そんなことを共通点にして一体何にになるというのであろうか、
僕はあの家族という集団の中で自らの孤立を選んだ、レイピアの場合とはまるで違う自分勝手で卑しい行為だと考えが悪い方へ傾いてしまうのは僕の悪い癖だ。

「私実は今だからなんか開き直ってうるさいくらいに明るいって自分でも思うんだけどそれは家を出てくるときに大分吹っ切れたからなのかもしれない。
引っ込み思案ってほどではなかったけど」

落ち着くまでこれはレイピアの話を聞いてやらないといけない感じだな、と思いながら実はレイピアの手はさっきから震えっぱなしで声も落ち着きを失って何を伝えようとしているのか変な声の抑揚になっていた。
多分レイピアは男同士の殴り合いの喧嘩とかそれこそ小学校のときくらいしか見たことがなくて本当なら気が動転してしまうようなところを僕のためとまでは自惚れないけど、あの時なんとかことを収めなくてはと動いてくれたのかなと思うと…あれ?

「レイピアちょっといい?」
僕は俯いたままのレイピアの顔を手でゆっくりと僕に見える位置まで左手でそっと持ってくる、昼前からこの時間帯に入って始めてレイピアに触った気がする、
左の頬触れるとは少しだけ温かくそこに血が通っていることを証明している、
彼女は座敷わらしなどではないしこうして僕と話すことが出来るのだからD51が暇つぶしに探すようなペットのワンちゃんでも無いのだ。
規則正しく鼓動する心臓の音を今まで殆ど感じなかったのは僕らが交代で話をしていたからだと思う、お互いに自分の感情や思考にリソースをさいていたのも可能性としてはあり得る話だ。

「りょう…くん?」
僕はある目的をもってレイピアの顔をわざわざ上げさせたのだが、レイピアはその目的には気づいていない様子で僕に疑問の表情を浮かべて訴えかけてくる。
「すぐ終わるから何秒かだけ目を瞑ってもらえるかな」
大した事ではないが此方も目を瞑ってもらった方が都合が良いので
「え…あっ…ええ!? なん…!涼くんそれは駄目だよ!」
えぇ、まさか否定されてしまうとは、予想外だったよ。
駄目って言われてもなぁ、レイピアだけじゃ出来ないことだし
急に顔を赤らめて否定されてしまうとはおも……うん。

「レイピア、これは君のためでもあるんだよ?」
ここで変な気を回すとレイピアとの関係は不味い方向にいってしまいそうなのでやさしく諭していく、
「わたしの為にって…そんなことないよ!」
取り合って貰えないのだがレイピアにしなくてはいけないことがある、ふざけているのではないと分かったのかレイピアは静かに目を閉じる、なぜ彼女の心臓が勢いよくバクバクしているというのは…
「そういうことじゃないんだけど」
レイピアのことだからませたことでも考えているのだろう、やっぱり精神年齢的な面でまだまだおこちゃまなのでは無いだろうか、

「へ、変なことしたら怒るからね!! 此処のお部屋事故物件にしちゃうからね!!」
そんなことをしたらこの寮の聖母さんが般若さんになりそうなんだけどそうなったら矢面に立つのは実行犯のレイピアだし、僕は逃げる! 後言わせてもらうと事故物件ってレイピアの思ってるより悲惨だよ?

抵抗をやめたレイピアを僕は顔を近づけ…ゆっくりと、ゆっくりとその…右の頬に触れた

「あー、少し赤くなってるね~というかうわっ、レイピアの肌ってやっぱり白いね!
 うんうん、学校に行ってないというかこれ家からもでてなかったとかじゃないかな?」

「……おい涼くん聞いてもいいかな?」
「ん? どうしたのレイピア、そんな改まんなくたってこの寮室にはレイピアの居場所が在るよ?
ただいま! そしておかえりなさい、ここは僕らの」
「そういうことを言っている場合じゃないんだけど、あのね? 私は涼くんが世間一般で量産されているようなライトなのはお前らの頭だノベルのような男のキャラクターとは一線を画す様な人だと思っているんだよ」
いきなりレイピアが怒り出す理由くらいは分かっているつもりでは在るが僕は今もレイピアの右と左の両頬に手を置いている、
有り体に言うのなら今のレイピアはまるでアッチョンプリ…これ以上はやめておこう、安易な模倣は面白さを半減させてしまうからね。
「泣き縋るいたいけな少女とそれを黙って優しく包み込む男の子、二人の目と目が合う、相手の瞳に写った自分の姿を見ながらいつしか二人のくちびるは静かに…とか出来ないの!? 乙女心っていうのは海とか山の天気よりもきまぐれで変わりやすいんだから少しでも…ってこんなことが言いたいんじゃなくって!!!

両頬から僕の手を振り払うと腕組みをしてどうやら怒り始めてしまった、コロコロと表情が変わるというのは少し可愛いなと思う僕である、あんまりそういうことは言わないほうがいいのだろうけれど。
僕としては早く居間とかでゆっくりしたい、とてもとても。

「もう!私が言いたいのは素直にお礼なの!
誰かさんがよく分かんない紛らわしいことをするからそれがすっかり忘れてたよ!」

さて、一体誰のことだろうな?
僕には全然身に覚えがないから分かんないや

「うーん、紛らわしいことというか僕は単にD51に叩かれた頬に怪我とかしてたら大変だなーって思ってさ、
ほら女の子は顔が命でしょ? そこへD51が怪我なんてさせてたら僕はD51にまた喧嘩を吹っ掛け無くちゃいけなくなるからさ、
女の子はガラスと一緒だから丁寧に扱わないと此方がいつの間にか怪我したりしてね」

勢いでこんなことを言ってしまって清々しい程にいたたまれなくなったのは僕の口からは言わないし涼くんとのお約束だぞ?

「り…涼くんキザなこと言うの禁止!」
とまぁレイピアから禁止令が出たし僕としても二度と言う気は無いんだけどね?
「うむ、それはそれとしてレイピアさっき僕が一体何をレイピアにすると思っていたのか僕は君の忌憚のない意見を聞きたいのだけれど…良いかな?」

僕もレイピアの考えていることが予想をついているのに意地が悪い、彼女が預けてきていた体重も無くなったし少しは楽になったよ。
「え?! あ、その~なんというか~そんなことを聞いたところで涼くんは得もしないし損もしない、
ははっお恥ずかしいもので取るに足らないことだから涼くんは気にする必要は全くないんだよ…?」

おやおや、予防線を張られてしまったか…
そんなに恥ずかしがる事でも無いと言うのに、

「別に僕はレイピアの顔に怪我でもないかな~っと思って顔を覗き込もうと思っただけなんだけど多分だけどレイピアはき」「北九州工業地帯!!」
「ここ最近の教科書は北九州工業地域になって太平洋ベルトが縮まったんだけどさいやいや、確かにあの状況でしようと思ったのはぺー」「ペンタゴン!!」
「五角形? それとも米国国防総省ことかな? そんなに慌ててなんか図形のこと気になったの?でもここには(玄関)そんな形のものないじゃないかな、そんなことよりせっぷ」「瀬戸内海!!」
「はぁ、レイピア…塩でも作りたいの? こんなこと言いたくないけどレイピアが想像してたのって僕がレイピアにく」「くしゃとりあーーー―!! バラもーん!!」「うん、カースト制だね」
レイピアとのおもしろ問答もここまでにしておいて僕らは一先ずとしてリビングまで向かうことにした、
重っ苦しい雰囲気というのは僕の苦手とするところでね、どうも茶化したくなってしまうのでレイピアにはちょこっと犠牲になってもらったよ。

「結局レイピアは僕がパツィルーイするもんだと思ってたんだよね?」
廊下を歩いている途中でさらっと僕が耳打ちすると流石にレイピアは分からないよというばかりの反応
流石に露西亜語までは把握できていなかったみたいだね…何で僕が知っているのかって?
ふふ、秘密ですよ―。


 レイピアは押し黙ったまま落ち着かない様子でそわそわしながら僕が今夜寝る予定で広げたあったソファへぽふっとダイブしたあとでちゃんとなおって今はその上に座っている。
お茶でも飲む? と聞くとうーんココアが飲みたいけど今日買ってきてないしこの時間にまたゆずの木行くのもマスターの迷惑だろうしやめておく…でもそうだね紅茶でも…あったかな?」

今日の買い出しでレイピアがお茶一式全部買おうとしたときはびっくりしたけど、アールグレイにカモミール、ダージリンにセイロン、あろうことかローズヒップまで… 僕は紅茶詳しくないからわからないけれど
値段の表示を見てちょっと驚いたのは内緒で普通の市販のどこでも売ってそうなのを買っておいたけどレイピアのお口にあうだろうか?

「レイピアはお砂糖かミルクって入れるの?」「んーーお砂糖で」「分かったー」「一杯くらいでいいからね、私もう大人だからお子ちゃまみたいに何倍も入れないのだ!!」

レイピア、ぼくは思うんだけどそうして大人アピールしているうちにはまだ中身はお子ちゃまなんじゃないかってさ…
「はい、おまちどうさま」
レイピアにコップを渡して僕は食卓の方に座らせてもらうとしよう。

ふぅとレイピアは小さな溜め息をついてからぽつぽつと語り始めたのである…
紅茶の様に甘い話には僕が語る内容もレイピアのもならないだろうとカップに入った紅い色を眺めながら僕は思った。

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