僕のとなりは!?(僕とな!?)

峠のシェルパ

第一次203号室会談

会談というにはかなり大袈裟だけれど一先ずはお茶うけとお茶でもあれば少しはリラックスも出来るものの、そんなものなあるわけもなく互いに遠慮をして動けないのがお互いに辛いところである。

レイピアなんて言う物騒な名前を持っている理由はさておき卓に座ったら互いの自己紹介といこう…だなんて言い出せる雰囲気とはかなり違う気がする、僕はそこまで他人に対してオープンにはなれないし気さくと馴れ馴れしいの境界を見極められる程の人間観察力なんてものを持ち合わせてはいないよ。

わかってはいたけれど初対面の僕達がいきなり気さくに話しかける胆力をお互いに有していないし恋愛ドラマみたいな言い方をするのなら僕らの出会い方は至極最悪なものだった。

席に座ったはいいものの…気まずい沈黙が場を覆うのにそこまで時間はかからない、いやいやシーツお化けさん、そのつぶらな瞳がこっちを向くのは構わないのだけれど出来ることならその神秘のシーツのなかにある素顔を見てみたいなーって思うのだけど…どうだろうか?

「あの…えっと…お茶でもだ、出せればいいんだけどあいにくなことにその手のもの切らして…探してみれば有るのかな?あれっ、ごごめんなさい私もその…色々と把握しきれてなくって混乱してしまっているの」
たどたどしくくすぐったいような口調がなんともこそばゆい、
他に謝ることはある気はするけど彼方から話しかけてきたお陰で会話の流れをつくってくれたのはありがたい。
ぼくが話を切り出すのあがってしまって「昨日の晩御飯思い出せますか?」なんて言う的はずれすぎる文言で会話を始めるところだった、危ない危ない。
彼方が謝ってくれたのだから此方も…
「いやいや、此方こそあんな大きな声が出てしまうなんて…思わなかったから…」
「いいのいいの! あれはほら、お互いの善意といたずらごころの織りなす一種の若気の至りだから!」とかえってきた。

しかし白い塊だった、依然としてマジックで描かれたつぶらな黒い目はまだこちらを向いている…
つぶらな瞳にみえて実はこれは純白の世の中に一粒だけ落とされた真っ黒な闇なのでは…?
レイピア、姿形はまだわからないけど案外と造詣が深い子なのかもしれない…いやいや待て北村涼まだ女の子だって決め付けてはいけないよ、確かに体格は細いし背丈だってそんなに無いけれど女の子…だよな?あんまり疑い深い自分も困りものだけどさ僕は自分は曲げたくはないんだよね、残念ながら
頭を垂れたりもするし
「そうだそうだ!確か冷蔵庫に甘いものの一・二個あったと思うんだけど…食べちゃったかなぁ?」

僕が疑問を投げかける前にそそくさと席を立つレイピア、その素顔を見ることな無いままにまさかの同棲生活が始まっちゃうとか…無いよね?
マリアさんといい、微風といい、どこかずれた人ばっかりなこの寮生活で目下一番の難敵となるのが彼女なのかもしれない、常にベットのシーツをかぶり生活をするのでは!?
いや待てよ…特段シーツと限った話ではない、色々バリエーションが有るのでは??なんて在らぬ妄想が膨らんでしまうのである。
この時期の人ってどうしてもあることないこと考えたりするよね!

「何にもなかったと言いましたね…あれは嘘だったよ!!」
キッチンから少し喜んだ声がしてそちら側を振り向くとそっと何か黄色と茶色い物体がこちらへ飛来するのでうまいこと手に取ると
「昨日のおやつの残りだけどお客さまだからあげるね! 良かったらどーぞ?」
台所から後頭部? が僕に語るがしかし、この場合の御客人とは一体どちらなのだろうか…(シーツお化けには顔は有るがもしかしたら中でくるくる回ってるのかもしれないし…)

「お、お構い無く…」
投げられたカッププリンなんてキャラメルとプリン本体がぐちゃりしててとても食べられるものじゃ…
と思い手に収まったものを見てみると意外なことにそっくりそのままで、濃黄色の層と茶色い液体は混ざりあってはいなかった。
というか状況が本当に掴めないのだけれどこれは一体どういったことなのだろう…本来無人であるはずの場所に人がいてちゃっかり生活感ある室内になっているのだが…これは備え付けてあるもの?それとも彼女が購入したもの?どうにも理解が追い付けない、わんこそばでも食べてるみたいに次から次へと情報が追加される…

「よいしょっと!」  
シーツお化けは元気良く座蒲団の上へ着陸する、楽しそうにも見えるけれど真意は神秘のベールのなかに隠されている、
神秘のベールっていいつつシーツの中にそれはあるから別に大した秘密でも無いんだけどね。 

「改めて自己破産…じゃなかった自己紹介するね!」
怖いよ、自己破産してるの?! してないよね?!不吉な彼女の台詞に少し驚いたが言い間違えただけな様子で自己紹介を続けるようである、人にものを尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀なので僕はまだこのシーツお化けさんに何も聞けないわけだけれどもマジックペンで描かれたつぶらな瞳の奥には一体どんなご尊顔を隠しているのか僕にはすごく気になるのである。

「っと、この被り物はもう要らないよね!」
読心術でも知らず知らずのうちに使われたのか心が読まれた僕は少しだけ驚いた。
でもしかしタイミングとしてもその被ったシーツは要らないか
レイピアの神秘のベール(布団のシーツ)に包まれた姿が今明かされようとしていた
天井の蛍光灯の光が一瞬レイピアが投げたシーツに鈍く遮られる
よっぽど勢い良く宙に投げたのだろう、
ではそのご尊顔を拝謁することに致しましょうかね!!

「私の名前は諸刃レイピアその名前のゆらモゴモゴ!?」
僕は刹那、肩まで伸びた黒い髪と目鼻立ちはっきりした顔立ちまでは確認できた、出来たのは良いのだけれどレイピアは失念していたのだ、この地球上には僕達を地上に縛り付ける重力の存在とそれに蛍光灯のカバーの存在にも…
勢い良く投げ上げたシーツの二・三枚は勢いそのままにレイピアのもとへ吸い込まれる様に落下し彼女の顔へ再び覆い被さったのである。
「わ~~!?な、なんでぇーーーー!?」
今回のパニックは直ぐに解消して目の前の女の子は一息つくと今度ばかりは勿体つけずにシーツお化けからレイピアに戻ったのは少し間違いでシーツの中で数十秒もぞもぞした後少し息を切らして視線を恥ずかしそうに俯いていたのには僕は目をつむるとしよう。

「見苦しいところを見せちゃったけれど私が、これがレイピアです!」
右手で緩く敬礼する少女は少しつり上がった目にぴょこっと頭の右側に跳ねた髪が特徴的な可愛らしい幼げな少女だった。
見惚れなんてしないよ? 一目惚れをしてしまうほどのロマンチストではないのが僕だからね。
「乙女には個人情報保護法に特定機密事項保護法がかかっているから年齢・体重・身長・スリーサイズは絶対に秘密だから!」
とレイピアは続ける。
確かに声から僕とそこまでの年齢差は感じられなかったし、年上の人の落ち着いた感じもなかったから年下だとは思っていたけれどものの分別がついている子みたいだから…だから…ギリギリアウトであると言いたい。
ギリギリもつくかどうか怪しいけどこの子多分中学生位だよね、背格好が大部華奢なのでぱっと見たらそんな風にしか見えない。
「それでそれで?貴方は誰?」
頼む、その楽しげに話しかけてくるのはちょっと目に毒というか…
「あ、まっくろくろすけとか言うのは無しね! でないと目玉をほじくるぞぅ~?
お邪魔してますけどこれからよろしっくぅ!!」
某有名映画の台詞をを不穏にアレンジするんじゃありません!
これはまずいな、僕としては同棲とかノーサンキューなんだけれど肯定されてる前提で話がレイピアへいってしまっているし上機嫌だねこの子は!!
「僕は…北村涼だよ、north village coolだね」
わざとらしく英語を使って分かりにくくしたのが功を奏したのか単純に僕の発音が中学生にはわかりずらかったのかのどっちかだね、
「うーんび…ビレジェ?」
訂正発音が分かりずらかったみたい。
「まぁ良いよ! さぁ!プリンでも食べて!リラックスしてね!」

プリンを食べることでリラックス効果があるのか、それは知らなかったなー。
とその前に確認しておきたいことがあるのでそこから聞いて行こう、あくまで僕としてはの話なので聞く必要はないかもしれないが…思いきって聞いてしまおう。
「四月から何年生?」
実際と年齢差を考えれば少しはこう…自制が効くかなって?
効くかなぁ、効くといいなぁ、まさか恋心なんて芽生え無い…はずよ?
「んふふ~涼くんとおんなじ花の高校生だよ!!」
別に胸を張ってどや顔とおぼしき顔をされても困るのだけれど…
え? 本当は中学生だけど少しその背伸びしてるんでしょ?
違うの? いやいや、僕としては別に? 誇らしげにしてるレイピアが何処か猫のように見えて可愛らしいなぁなんて全然思ってなんていないからね?
僕はこれでもポーカーフェイスであるってことは周知の事実だよね? しらないの?なんで?
まさか顔になんて出てるわけがないよねぇ…

「どうしたのりょう…だよね? あっているよね?」
これ以上首を傾げて可愛らしく此方を覗き込んでみたりニコニコするのはやめて下さいこっちの罪悪感凄いんだから!!

これから僕がするのは彼女の期待を裏切る行為に他ならないのだから
簡単に折れる訳にはいかないし、といってもツッケンドンに拒絶するしか無いのでは無いかと思う僕はどうにも切り出すタイミングを失ってしまったのではないかと…あれ? 

「流石に…馴れ馴れしかったかな? ごめんね?
そーだそーだ!! 涼くんって呼んでいい?」
「くん」付けときましたか、これまた難易度と好感度の高いことをしてくるなー

「別に構わないけれど一つだけだけ質問をしてもいいかな?レイピア?」

「んーー? どーんとこーい!!」

とレイピアの許可を得られたのでここからは此方のターンだ。
いつまでも女の子のペースに乗せられっぱなしの僕じゃないぞ!

「何で僕の部屋に今君がいるのかを教えてほしいんだ。
居るのが悪いとかさっさと出て行けとか気味が悪いとは思っていないし
勿論、むさ苦しい男一人部屋に女の子が来てくれるってのは嬉しいよ?
でも会っていきなりそんなに好印象を持たれる様なことはしていないんだけど…」
会っていきなりの金切り声なんて上げればそれは印象には残るだろうが警戒されてしかるべきだと思うのだけれどあまりに好意的すぎないかと僕の頭のなかで疑問の種が芽を出し葉を出しはながこうパッカーンなんて…

「うーん、強いて言うんであれば私の悪い癖の一つだけど、悪い人にはぱっと見た第一印象でみえなかったからそれにこれから生活とか一緒にするんだったら最初から萎縮してちゃダメでしょ!! いくら男の人が相手でも!!」

「じゃあもう一つ、何でこの部屋なの?」「他の部屋が満杯だったから!!」
ホントですかマリアさん、女子寮満杯だからって僕のとこにこの子に半ば強制的に押し付けてきたの…?
あの人はもしかしたらやることがえげつない注意人物なのかもしれない、
と魔王のようなマントを着て笑みを浮かべながら高笑いするマリアさんを想像できたしまった自分が恐ろしい。

「私ね、いろんな理由があって学校に中々行けなかったんだ。」
レイピアは僕にこう切り出すとふぅと一度深呼吸をすると自分の過去を少しだけ僕に語り始めたのだ。
しかし、レイピアと僕の少しずれた寮生活は結局始まっていくことをまだ僕は知らないし、この部屋は実は三人用だったってことも後で知ることになる…
まだお互いにお互いを知り得ていない初々しい時だ。



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