俺は異世界でブリーフをかぶる

川島晴斗

3話目「パンツ1枚で喜ぶのが男」

「判決は万全一致で死刑です。よかったですね」
「俺のおかげでみんなの心が1つに!ひょっとして俺は平和の使者なのか!?」

 場所は変わって俺が召喚された場所。
 ここが神殿の中でも一番神殿らしい儀式の空間であるようで、水色の光る照明が照らされ、この神殿にいる全員が集まっていた。
 こうしてみると、男女比3:7ぐらいだな。
 ハーレムしてぇなぁ。
 なんて、お縄につきながらのほほんと考えてみたり。

「どの辺が平和なんですか。とりあえず、貴方の汚い血で神殿を汚すのも我慢なりません。独房に入れますので、死刑執行は後日ということで」
「そんなバカな、酷いよミスズちゃん!!」
「……誰ですか、このブリーフさんに私の名前を教えたのは?」

 水の巫女様が俺に名前を呼ばれて目を細める。
 さっきまでパンツを履いていなかった鎧の女の子が今は全身フルアーマーになっているのに、おずおずとした様子で手を挙げる。
 おい、さっきの気迫(笑)はどこいったんだ。

「すみません、ミスズ様……パンツの事を聞くために、つい……」
「……レイク。それなら仕方ありません、許しましょう」
「あっ、ありがとうございますっ……」

 ぺこぺことレイクと呼ばれた鎧の子が頭を下げる。
 こうしていると、ミスズって結構地位があるんだなぁと思う。
 俺には関係ねぇけど。

「……とりあえず、独房行きです。トモツキ、短い付き合いでしたね」
「おう、また明日な」
「会いませんよ……私は忙しいんです」
「なんだと……昨日はあれだけ雑談したというのに!」
「異世界に来た貴方にいろいろ説明したかったのに、結局なにも話せなかっただけですよ……」

 何故かため息を吐かれる。
 楽しかったからいいじゃないか。

「じゃあ、はい……セスタ、ミカレー。この変態を独房に放り込んでおいてください」
「ついでにブリーフも忘れないでくれよ?」
「あぁ、はい。ブリーフも持ってってください。貴方の物が残ると気が散るんです。汚いですし」
「俺の心は綺麗だ。汚いのは思考だけだ!」
「……それ、大して変わらないのでは?しかもブリーフ関係ないですし……。って、話してるとラチがあきません。セスタ、ミカレー、お願いします」
『ハッ』
「はっ」

 部下の二人が敬礼したのに対し、俺は鼻で笑った。
 そうすると、セスタ、ミカレーと呼ばれた2人に蹴り飛ばされる。
 痛いです。

 セスタという方は龍の鱗に覆われた、まるで水龍が人になったような人物でイケメンのお兄さん。
 ミカレーさんは普通の人間っぽいけど、水色のローブを被っている。
 多分この人は魔法使いなんだろう。
 髪はここだと珍しい金髪碧眼、ぶすーっとした面構えで体つきとかはローブで見えん。
 セスタに担がれながら、俺は口を開いた。

「ねぇねぇ、俺って勇者なんだよね?いいの?勇者パワーでここ滅しちゃうよ?」
「貴様のような変態にそんな力があるわけないだろう」
「…………」

 セスタには理に適ったツッコミをいただき、ミカレーは黙っていた。
 なんだよなんだよ、俺って勇者じゃないの?
 勇者と変態って全然違うじゃん、扱いおかしくね?

「あ、そういえば男のおっぱいは揉む許可を得てたんだ。セスタ、揉ませてくれ」
「このままお前を地面に叩きつけていいなら考えてやらんでもない」
「そんなバカな。間違いなく俺の脳がパリンって割れて赤い液体が飛び出る。そしたらトモツキ菌が繁殖してこの神殿がきのこだらけになってしまうではないか」
「……貴様の液体は何でできているんだ」
「きのこっていっても、あれだよ?ほら、男にはみんなついてる――」
「それ以上言えば本当に殺すぞ」
「うへぇ」

 黙る事を余儀なくされた。
 仕方なしに俺は独房に着くまでぐねぐねとうねって細やかな抵抗をするのだった。

 そんな抵抗も虚しく、俺は寂しく薄暗い独房にぶち込まれる。

「そんなバナナ。俺はこの世界で主人公をやる筈なんだ。異世界転移ってそういうことだろ?」
「どんな妄想をしているんだ……。まぁ、死刑というのが本当かは知らん。貴様と話しているのはなかなか面白そうだしな。でしゃばりが少々目立つし、そこで少しは反省しろ」
「反省だと?繁殖ならするんだか……」
「……どこまでもふざけた男だ」

 セスタさんにふざけた男認定を受け、また称号がランクアップする俺。
 前の称号が変態だっただけに、大した差はないんだけどね。

「まぁまぁ、セスタさん。ちょっとこれを見てくださいよ」
「……ん?なんだ……?」

 俺はスマホを取り出し、昨日撮ったパンツを被ったミスズの写真を待ち受けにした。
 そしてそのまま牢からスマホをセスタに見せる。

「なっ……こっ、これはっ!!?」

 龍人は顔が真っ赤になった。
 自分の君主がパンツを被っていたなんて、どうよ?

「……これは一体なんだ?魔法か?」
「化学。人間が技術をつぎ込んで作った鉄の塊。電気がないと動かない、っつーか充電ケーブル無いからバッテリーやべぇな」

 そうだ、この世界には充電できるものがない。
 なんで俺は充電ケーブルを俺に巻きつけて寝なかったんだろう。

「……まぁないもんは仕方ない。とりあえず、これを見たからには俺たちは同じ秘密を共有した仲だ。平和的に行こうじゃないか。だからここから出せ」
「誰が出すか! それにしても、ミスズ様にそんな趣味が……」

 何やら考え出すセスタ。
 龍人が顎に手を当てて悩む姿、なんつーか怖えな。

「……ねぇ、他には何か映せるの?」
「うん?」

 その時、今まで黙っていたミカレーが話しかけてきた。
 何か映せるか?男のスマホの写真ホルダーといえば、そりゃあねぇ、ええ。
 いや、さすがにここでエ○画像を持ち出せば殺されかねない。
 というわけで風景画を出してみることにした。
 携帯に最初から入っている壁紙のやつだけど。

「…………綺麗」

 ミカレーにいろいろと見せてやると、食い入るように画面を見てきた。
 自分でも触りたいのか、手をわきわき動かして俺のスマホを奪おうとしてくる。

「……それ、頂戴」
「これはバッテリーなくなったら動かなくなるけど、それでもいいなら。ただし、ここから俺を出すのが条件な」
「……ミスズ様の所に行ってくる。少し待ってて」
「おお」

 なんとかここから出られるかもしれない。
 まぁミスズとは仲良くなってたから十中八九死刑にはならないけど。

「スマホもったいねーかなー……ん?」

 スマホをいじってよく見ると、充電中マークが付いていた。
 え、あれ、嘘、異世界だと充電不要的な?
 ……これ、簡単にあげられるもんじゃねーな。

 そんな風に1人でスマホをいじっていると、寂しくなったのかセスタが話しかけてきた。

「しかし、異世界か。俺たちからしてみればそちらが異世界だからな。そんな物ができているのか」
「ああ。俺の世界ほどにもなると、龍人がモテる化粧水とかたくさん売ってるぞ?」
「ほう……なかなか興味深い。是非とも行ってみたいものだ」
「嘘だけど」
「…………」
「……そんな世界もあったらいいね!!」

 無言て睨まれ、檻の隙間から尾ひれで叩いてくる。
 地味にいてーからやめてくれ。

「くっそー、元の世界でハーレムを築く計画が……」
「貴様にそんな事ができるわけないと思うが……」
「なんでそう思う?」
「頭にかぶっているものを見ればわかる」
「え? ……あれ?」

 何故か俺は、まだミスズのパンツを被っていた。
 ちょっと待て、ブリーフはどこに行った。

「おい、俺のブリーフはどこだ」
「は?貴様が着けてるのがそうではないのか?」
「何言ってんだ。これはミスズのパンティーだ。俺のは別だっつーの」
「!」

 セスタは何か衝撃を受けているようだった。
 ん?……なに?このパンティー欲しい?渡さないけどね。

「……貴様はあのお方のパンツを被っていたのか。俺は見たことがないから気付かなかったぞ」
「あぁ、ミスズのパンティーなんて拝んだこと無いよな。レイクと違って男だし。貸してやるからじっくり見てもいいぞ」
「なっ……くっ、いや、俺は……」

 悩み出す龍人。
 コイツ、ミスズのこと好きなんじゃね?
 ほうほう。

「まぁまぁ、もう秘密を共有している中だ。お前にもこれを貸してやろうではないか」
「……き、貴様がそういうのであれば受け取ろう。いや、断じて変な事には使わんぞ!貴様とは品性が違うからな!ミスズ様に返すだけだからな!」

 声が震えてて全然説得力のない龍人に、俺はひょいっと被っているパンティーを投げた。
 ひらひら舞うそれをキャッチし、セスタはまじまじと見つめる。

 パシャリ

 そしてしれっと俺はスマホでその姿を撮影。
 ふぅ、いい仕事をした。

「……なにをしている」
「ん?おお、ミカレー」
「あっ、ちょっ、み、ミカレー!こっ、これは違うんだ!ミスズ様に返すためにな、この男から奪っただけだからな!うん!」
「…………」

 突如現れたミカレーにセスタは動揺し、ミカレーはその様を流し目で見ていた。
 ミスズ好きなの全然隠せてねーな。
 まぁ召喚者と俺が結ばれる運命だから、どんまい。

「……許可は得た。けど、もともと殺すつもりは無かったって。……どうする?」
「じゃあ貸してやるよ。使い方も教えるからな」
「……ありがとう」
「その代わり、一時間につき一枚、君のパンツを貰います。もしくはパンツ交換しませんか?」
「……しない。それと、これ」

 ひょいっと牢屋に白い布が投げ入れられる。
 俺の被っていたブリーフだった。

「ブリィィイイイイイイイフゥゥウウウウウ!!!!」

 感動の再会のあまり、わんわんと泣いてブリーフを抱きしめる。

「うぉぉおおおおおフリィイイイフゥウウ!!!」
「……セスタ。なんでこの男は、パンツ1枚で喜んでるの?」
「いや、わからないが……」
「セスタもそのパンツで喜んでたのに……」
「…………」

 ミカレーの言葉に絶望するセスタであった。
 俺は泣き、ミカレーは佇み、セスタは絶望する。
 なんなんだ、このカオスな空間は。
 異世界って、カオスッ。

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