奴隷でもチートを目指す

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5話 絶望の始まり ――前日――

「《お前はこいつに従っていろ》。契約期間が終わったらまた来る。勇者奴隷の使い道は多いからな。で、契約金は?」

「こちらになります。総額で魔紙幣10枚と魔貨5枚。そして、魔鉱石10樽分、で合ってますよね?」

「ああ。一応訊いておくが、偽物じゃ無いだろうなぁ?」

「ええ、もちろん。〈奴隷王〉を前にしてそんなことをしたら、奴隷に堕とされてしまいます。そうでしょう?」

「お前なんかはついつい殺しちまうだろうなぁ。役にたたなさそうだし」

「おぉ、怖い怖い」

「とりあえず俺はもう行くぞ。勇者奴隷に何かあったら、承知しねぇかんな?」

「もちろんですとも」

 盗賊風男……いやもう今の聞いたから奴隷王でいいか。奴隷王は俺達の乗っていた馬車に魔鉱石が入っているであろう樽を積むと、馬車を走らせて行ってしまった。

「さぁて、お前らついてこい」

 やけに脂ぎったデブ男の声に反応して、体が勝手に動き始める。ここまで一緒に馬車に乗っていたマッチョ男達もついていく。

「この奴隷主もまだ優しければ良いんだけどな」

 偶然隣にいたマッチョ1号が話し掛けてきた。馬車に揺られている間色々話して、今では気軽に話せる数少ない存在だ。

「俺には奴隷王って呼ばれてたあいつも優しくは無いように感じたけどなぁ」

「そうか? 1日三食出してくれただけでも優しい方だと思うけどな。だって俺が新米冒険者だった頃、全然稼げなくて飯が食えない日だってあったぞ」

 マッチョ1号は、元々冒険者として働いていたそうだ。だけど、森でクエストの魔物を狩ってさあ帰るかというときに奴隷王が表れ、気絶させられたと思えば奴隷になっていたらしい。

「そう言うもんなのか。ん? 着いたのか?」

「みなさん、到着しましたよぉ。ここがお前らの寝床であり、仕事場です」

 デブ男の声が響くが、そこに家のようなものは見当たらない。森と崖と思われる岩肌が有るだけだ。

「今日はもう夜なのでワタシは帰りますが、明日からは馬車馬の如く働いてもらいますので、覚悟するよおに」

 そう言って、デブ男は来た道を戻って行った。

「……マジで、野宿すんの?」

「おいおいマジかよ、テントも無しにこんな場所で寝るなんて」

 冷たい風が俺達の間を吹き抜けていった。

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