ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その1・My heart is…

[クロノ]
朝食を終え、盗賊のボスが来るまで何をしようかと考えていたところに、ドアがノックされる。
クロノ「こんな朝に?」
サクラ「誰でしょう…。」
サクラがドアを開ける。
ボス「カミヅキ・クロノって奴の家はここで合ってるか?」
クロノ「おお。」
ボス「ほら、来てやったよ。」
クロノ「こんな朝に来ちゃうなんて…実はマジメ?」
ボス「来なかったらヒドイ目に合わされるんだろう?」
クロノ「うん、同人誌みたいに。」
ボス「どうじんし?なにそれ。」
クロノ「こっちの話。」
確かに呼んだが、こんな時間に来るとは予想していなかった。
リンコ「はい、お茶をどうぞ。」
クロノ「そういや名前聞いてなかったな。」
ボス「カサンドだ。」
クロノ「カサンド…ね。名前?苗字?」
カサンド「生まれつき名前なんて無いんでね。」
クロノ「あぁ…なんとなく察した。さて、それじゃあお話でもしようか。」
カサンド「村の警備って言ってたっけ?」
クロノ「そ。リースは自警団も軍もない。だから魔獣から村を守る手段ってのが無いのは分かるだろ?」
カサンド「だからあたしらの標的でもあったんだけどね。」
クロノ「そ。この辺りは魔獣が少ない。だからといって、備えなしってのはダメだ。もし何かあったときに対処できませんでしたじゃ笑い話にもならん。俺がそれをするつもりではあるんだが、俺やこいつらだけじゃあ人が少なすぎる。それに、この村にギルドを作るつもりなんだ。よその町に出かけてる間にこっちの村が襲われてちゃあいかん。あんたらは20人近く人がいるだろ?そんなあんたらに手伝って欲しいのさ。」
カサンド「へぇ〜。正義の味方ごっこ?」
クロノ「ごっこ遊びも極めたら英雄だぜ?それに、金もらってやってるんだ。まぁ、そんなことは置いといて…あんたらにもしっかり報酬は払う。魔獣が来ようと来なかろうとだ。その代わり商人襲うのをやめて、村の警備をあんたらに担当して欲しい。頼む。」
カサンド「引き受けるよ。」
クロノ「あらら即答。」
カサンド「引き受けなかったら…」
クロノ「まぁ確かに一方的な脅しではあるけどね。でもこっちの方がマシだと思うぞ?」
カサンド「だから余計タチが悪いんじゃないか?」
クロノ「ふっ…そんな感じだ。」
カサンド「それで、拠点みたいなのはどうすればいいんだ?森の中?」
クロノ「いやできればこの村の中にして欲しいな。緊急事態に迅速な対応ができるように。隣のデッカい家があるだろ?村長に頼んで無人だったのをもらった。これが家の鍵だ。」
カサンド「そこに住めばいいと。」
クロノ「あぁ。他に聞くことは?」
カサンド「今日からやればいいのかい?」
クロノ「そうだな。今日からやって欲しい。んじゃあ頼んだぞ。」
カサンド「はいはい。」
カサンドが出ていく。
クロノ「あぁ〜交渉事は苦手だっての〜。」
サクラ「よくできました。」
クロノ「はぁ〜…」
レオ「なんかすごいピシピシした空気だったね…」
クロノ「そりゃまああいつを何回か殴ったからなぁ。そんな奴から取り引き
があるって言われて快く引き受ける奴なんていねぇだろ。」
ジュリ「隣の家って掃除したんですか?」
クロノ「あぁ、ちょっと前にリミがやってた。」
幽霊が天井から顔を出す。
レオ「まだ慣れないなぁ…」
ジュリ「リミって物触れないんですよね…どうやって掃除してるんですか…?」
リミが口に人差し指を当てる。
クロノ「ヒミツだとさ。俺が聞いてもこんな感じだった。」
ジュリ「気になる…」
サクラ「そういえばギルドは?」
クロノ「あぁ、そうだったな。名前…か…。」
このギルドの名前…
ジュリ「アリアンテの所の『ラフ』ってどういう意味があるんです?」
クロノ「『微笑み』だとか『笑顔』っていう意味の言葉だ。」
ジュリ「へぇ〜。じゃあこっちもそんな感じ?」
クロノ「意味が被るのはなんかなぁ…」
ジュリ「ま、どうせギルドリーダーはクロノさんだし、クロノさんにお任せしますね。」
サクラ「右に同じく〜。」
(どうしよっかな〜…このギルドの特徴…あるいは目指す方向…)
特徴でいえば…リーダーを任される俺が悪人…女の子が多い…
(人を助ける仕事か…とすると…)
クロノ「癒し……heal…heel………癒す者って意味で『ヒーラー』ってのはどうだ?」
ついでに自分が悪役ヒールであるのをかけている。
サクラ「癒す者…いいんじゃないですか?」
ジュリ「でもこの中に人を癒せそうな人…」
クロノ「そのうちそんな奴が仲間にでもなるんじゃないか?」
ジュリ「私達じゃあ力不足だと⁉︎」
クロノ「お前が1番向いてない。」
ジュリ「ひどい‼︎」
クロノ「なら顔を赤らめるな。」

盗賊達の引越しも終わったその日の夜。
シーラ「ただいま戻りましたー。」
マキノの目撃情報を探して、外に出ていたシーラが戻ってきた。
クロノ「おかえりー。どうだった?」
シーラ「有力な情報を掴めました。ここから少し近い場所にマストという村があってそこでマキノさんらしき人物がいたと。」
レオ「マスト⁉︎」
クロノ「なんだ、知ってるのか?」
レオ「えっと…ガイアさんの…妹さんが住んでる村…」
クロノ「ガイアの…⁉︎」
ガイア・フォレストの妹、アリシア・フォレスト。1年に1,2度くらいの頻度でガイアに会いに故郷の村を出てアリアンテにまで来るほど兄貴好き。俗に言うブラコンというやつだ。
サクラ「ガイアさんってクロノさんの話に出てきた…」
クロノ「あぁ…町長の配下に謀殺された人だ…このタイミングでこれか…あのことはアリシアには…」
レオ「言えないよ…」
クロノ「まぁ…そうだろうな…」
シーラ「どうします…?」
どうしますって…
クロノ「行くしかないだろ。マキノを探さなきゃならんし、それに…いつまでも黙ったままってわけにもいかない。」
レオ「じゃあ…」
クロノ「行ってくる。真実を話して、マキノも連れ戻してくる。」
レオ「僕も行く!」
クロノ「レオ…でも……」
レオ「お兄ちゃんは何でもかんでも自分で全部やろうとしすぎ!僕は怪我してないから、足手まといにならないよ!」
クロノ「そうか…じゃあ手伝ってくれ。」
シーラ「じゃあ私も!」
クロノ「あぁ、頼む。」
サクラ「私達は?」
クロノ「そうだな…サクラ達は…高さ…リンコを連れて行くわけにはいかんし…」
リンコ「すみません…」
クロノ「リンコは悪くない。かといって…闇相手に戦えるのが俺とレオだけってのも不安だが…」
エリーの時も結構ギリギリだった。
マキノは戦う側の人間ではないのでエリーよりいくらか楽ではあると思うが、エリーより油断できないかもしれない。
マキノが詠唱魔法を使ってきたとしたら。
詠唱魔法とは、この世界で魔力を持つ者全てが一つ持っている奥義のようなものだ。
詠唱『魔法』とはいうが、何も魔法だけではない。魔力強化をして相手を殴るだけという詠唱魔法もある。
詠唱呪文を唱えることで、強力な魔法を出すための、あるいはそれをする為に魔力強化をする為の魔力を増幅し、詠唱魔法を発動することができる。
詠唱呪文は、よく分からないアブラカタブラとかビビディバビディブーみたいな呪文を延々と喋るわけではない。
自らの意志や心から思った何かに対する想いを言葉が詠唱呪文となる。
その為、いつでも詠唱魔法が放てるわけではない。
何かに直面したとき、危機だとか、闇のように自分と向き合う時だとか。
だから、何かの原因でマキノが自分たちに対して詠唱呪文を唱え、詠唱魔法を放つという可能性があるだろう。
マキノの詠唱魔法「望み壊す改定の境界ワールドブレイク」。特定の範囲内において、その空間内の物理法則を全て自分の操りたいように操ることができる。
簡単に言えば、物理演算を使用したゲームでキャラが地面や壁に埋まったり、変な当て方をするといきなり吹っ飛んだりというようなバグがあるが、そういうことを自分が起こしたい条件で発生させるようにする。
下手な詠唱魔法より強いといえる。
クロノ「じゃあ、サクラ。あんたは付いてきてくれ。ジュリはここでリンコと一緒に待っててくれないか。」
サクラ「分かりました。」
ジュリ「私も何かお手伝いしたいです…」
クロノ「ここを留守にするわけにはいかないんだ。リンコはこの世界に来てまだ数日だから不便はあるしな。今度何か遠征があったら連れてってやるよ。」
ジュリ「分かりました。気をつけてくださいね。」

話を終え部屋に戻ると、サクラが部屋に入ってきた。
クロノ「どったの?」
サクラ「その…こんな時に聞くのもなんですけど…気になって…」
クロノ「気になること?なに?」
サクラ「ジュリのことです…どう思ってますか…?」
クロノ「どうってどういうこと?」
サクラ「あの子…ちょっと変わってるじゃないですか…叩かれたり…ちょっと悪口言われたりしたら喜んだり…本当のことを言ってほしいんですけど、気持ち悪いとか思ったりしますか…?」
そういうことか…
クロノ「いや、思わない。確かにちょっと引くようなものではあるが、だからといってジュリを否定する要素にはならない。むしろ好きだぞ?自分の本心が出てるってわけだからな。どんな変態な趣味を持ってようが、それが人間性に関係があるわけじゃない。」
サクラ「変態…」
クロノ「あぁ。マゾってのは変態だろう。俺から見たら、の話だがな。」
サクラ「俺から見たら?」
クロノ「他人が、あるいは自分が普通持たないような変わった趣味だったり、それを拗らせた奴を変態って言うんだ。だが普通持たないって、誰基準の普通なんだ?叩かれるのは痛いこと。痛いことは不快なこと。だから叩かれたら不快になる。だから叩かれて喜ぶ奴は変わってる。それは痛いのを不快に思う連中が自分を基準にして言ってるだけだ。そういうのが多くなった結果、それがいつしか常識になった。常識ってのは正しいものじゃないんだ。正しいのは自分が自分が信じたこと。自分が思ってる基準が他人をどう思うかを決めるんだ。俺も変態趣味なんざ1つ2つどころじゃないくらい持ってる。俺だけじゃない。この世の人間はみんな変態だ。みんな他人と違うからな。何も気持ち悪いとは思わない。センスがおかしいってのも自分とは違うからだ。だから俺は変態だろうと何だろうと、受け入れる。断言しよう。俺はあいつのことが好きだ。」
サクラ「あの子の友人である私に対して中々大胆なことを言いますね。」
クロノ「そういう意味じゃねーよ。あんただって気持ち悪いとは思ってねぇんだろ?」
サクラ「あの子は…昔は普通の女の子でした。私たちが生まれた頃から家が隣で、幼馴染だったんです。痛いことがあったら泣いちゃう、普通の子供でした。でも、ちょっと不愉快な事件がありまして…それから変わってしまったんです。ある日私の部屋に来て、私を叩いてって言ったんです。」
昔はオープンマゾだったのか。
サクラ「正直気持ち悪いと思いました。でも嫌いにはなりませんでした。幼馴染だから…受け入れてあげないとって思いました。私だってあの子のことは好きです!とっても!だから力になりたいって。そうして今日までずっと一緒に生きてきたんです。」
クロノ「他人の考えなんて自分では変えられない。だからジュリを気持ち悪いと感じる奴がいたら、それを変えることはできない。そいつはジュリの敵になるだろう。そうなった時ジュリを守れるのは、お前だけだ。あいつを受け入れて、あいつを1番見てきた、あいつの理解者であるお前だけ。」
サクラ「じゃああの子が好きな私は、変態なんですね。」
クロノ「でも変態じゃない奴はこの世にいないから、それが普通だな。」
サクラ「…良かった!」
クロノ「俺がジュリをどう思ってるかじゃなくて、自分の思いが間違いかどうかを相談しにきたってのが目的だろう?」
サクラ「…バレてました?」
クロノ「途中からな。で、どうだ?」
サクラ「はい。いつも通り、あの子を好きなまま。愛したままでいこうと思います。私だって変態の1人ですし、あの子を好きでもいいですよね。どういう意味でも。」
クロノ「あんたに叩かれにいったのも、ジュリがあんたのことを好きだったからだろうな。あんたを信頼していたんだろう。」
サクラ「両想いってことですね。」
クロノ「あんたのやりたいようにするといい。ただし、迷惑はかけるなよ?不快に思うのは人の勝手だが、不快にするっていうのは人の勝手ではないからな。」
サクラ「分かってます。ありがとうございました!明日の遠征、頑張りますね!」
クロノ「あぁ。それじゃあおやすみ。」

クロノ「不愉快な事件…か…この世界の住人は過去に色々ありすぎだろう…」
大丈夫かな…ジュリ…。

「ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く