ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その5・A guillotine

[クロノ]
リュクスの周辺を大量に飛んでいた謎の物体の正体は近づいてすぐに分かった。
クロノ「蚊…ハエ…カブトムシにムカデ…よく分からんグロい見た目の気持ち悪いの…」
全て虫だ。
それも10や20ではない。
軽く何百といる。
まだ村から離れた距離にいるが、何匹かこちらの方まで来ている。
クロノ「もしかして空気の面積より虫の方が多くいるんじゃ…」
そんな地獄絵図の村に向かわなきゃならんのか。
レオリー「クロノさん、虫嫌いでしたよね。」
クロノ「あぁ、世界で一番嫌いだ。」
少なくともその辺の虫にキャーキャー言ってる女子より恐怖できる自信がある。
レオリー「僕が代わりに行ってきましょうか?」
クロノ「いや行くよ。行ける多分行ける。」


村の入り口に馬車を止め、中に入る。
中も予想以上にひどい。
人の高さには虫は少ないが、空はそれで覆われまくっている。
そのせいで曇り空だからというのもあるだろうが、虫に光が遮られていてさらに暗くなっている。
足元はほとんど潰れた虫で埋まっている。
レオリー「なにこれ…」
クロノ「避けきれなかったんだろ…踏み間違えて潰しちまったやつの歴史なんだろうさ…お前大丈夫なの…?」
自分は正直立っているだけでもやっと…いや、無理かもしれない。
レオリーの肩を掴んで目を閉じて何とかしている。
レオリー「僕は別に大丈夫ですよ。…安心してください。僕が付いてます。」
レオリーが心臓に染み渡るような優しい声で励ましてくれる。
今ならレオリーに抱かれてもいいかもしれない。
レオリー「まずは…」
クロノ「手紙を出した村長の所に行こう。話を聞かなきゃいかん。」
レオリー「大丈夫ですか?呼吸が乱れてますよ?」
クロノ「大丈夫じゃない。早く行こう。」
レオリー「分かりました。しっかり掴まっててくださいね。」


村人から村長の家の場所を聞き、そこに向かう。
何歩歩いても土と靴がぶつかる音がしない。
その代わり、グチャグチャという音が聞こえてくる。
(村人は本当にこんな村で何日も暮らしてるのか…?)
音は正直怖くない。
ただこの音が潰れた虫から出てる音だと思うと…
クロノ「あああああああああ」
レオリー「クロノさん⁉︎大丈夫ですか⁉︎」
クロノ「大丈夫大丈夫…油断しただけだから…」
レオリー「もう少しですよ!がんばって!」
クロノ「あぁ…頼れる…」
(こんな嫁が欲しい…)


男「はい、どちら様でしょうか?」
レオリー「ギルド「ヒーラー」から来ました、レオリー・クロールと…」
クロノ「カミヅキ・クロノです…」
どうやら付いたようだ。
男「おぉ!よくお越しくださいました!そちらの方は、具合が悪いようですが…」
少し歳のとったおっさんの声だが、こいつが村長なのだろうか。
顔を伏せてるから前が見えない。
クロノ「大丈夫だ…こんな虫が大量発生してる場所だとは思わなくて…」
男「とりあえず中へどうぞ。中には虫はおりませんので。」
レオリー「失礼します。」
中に入る。
レオリー「クロノさん、もう大丈夫ですよ。」
レオリーに言われ、目を開ける。
さすがに家の中までは虫はいないようだ。
男「こちらへどうぞ。」
応接室に案内される。
やっと安心できる空間についた気がする。
クロノ「さて…まずは依頼者さんに会いたいんだが…あんた?」
男「はい。ゴールド・ランゾーンと申します。」
ハゲ散らかしたデブ…
典型的な中年のおっさんの風貌だ。
クロノ「魔女討伐としか手紙に書いてないから状況が分からないんだが、詳しく聞かせてくれないか?」
ゴールド「はい。私の村には何年も昔から魔女がいました。その時はまだ村人とその魔女は仲が良く、この村の中で共に暮らしておりました。ある日、その魔女が今のこの状況のように虫を大量に発生させました。その時はすぐに治まりましたが、魔女は逃げるように村を出て行き、近くの森に住み着きました。今まで仲良く暮らしていたはずなのに、唐突に起きた事件で村人も困惑しておりました。その数年後に、また事件が起きました。またもや魔女が虫を発生させました。村人の中から勇敢な者が5人選ばれ、魔女の住む家を探して森の中に向かわせました。しばらくして帰ってきたのはたった1人だけでした。彼が言うには、森の中に無数の罠が敷き詰められ、何とか魔女の家までたどり着けたものの、そこにいた魔女の娘により自分以外の仲間は皆死んでしまったと。彼は運良く生還できたのです。しかし、その彼も魔女にやられたのか罠でやられたのか、受けた毒のせいで死んでしまいました。彼はこうも言っておりました。親である魔女はとうにおらず、他所に逃げたらしいと。そこにはいたのは娘だけで、我々を見るなりおぞましい笑みを浮かべ襲いかかってきたと。」
(今回の件は魔女の娘ってことか。)
クロノ「その時の虫が、今も残ってるってか?」
ゴールド「はい。何年もの間ずっとです。」
クロノ「虫による害とかは?見た目が気持ち悪くて病みそうとか精神的なもの以外で。」
ゴールド「村の者が今までに何度か被害を受けました。刺されたりとか毒を食らったりとか…数名ほど死者も出るほどでして…」
結構危険な虫が解き放たれているようだ。
ゴールド「それからよその町のギルドや傭兵達に依頼を出しましたが、このように大量の虫がいると知るとみんな断ってしまって…」
クロノ「で、俺らのギルドがその何件目と。」
ゴールド「騙すような手紙でしたが、我々もどうにかしてギルドに頼まないといけなく…」
クロノ「虫がいるってなったら俺自身は来なかったかもだが、誰かしら送るつもりではあったさ。まぁとにかく、依頼は引き受けよう。」
ゴールド「おぉ!有難うございます!」
まぁ、こんな村誰だって来たくはないし、そんな村の依頼なんて誰も受けたがらないだろうし。
クロノ「さて、しばらく滞在するように宿かなんかを取りたいんだが…」
ゴールド「実は依頼を引き受けてくれた方の為に、宿を一部屋常に空けているのです。そちらをお使いください。」


ゴールドに案内された宿に荷物を置く。
結構距離が離れた場所にあり、もちろんその間もレオリーの肩を借りた。
レオリー「それでどう思います?」
クロノ「さぁな。まだ魔女の話を聞いてないから。」
レオリー「でも、もう何年もこのままですよ?魔女も村の人を襲ってるわけですし…」
クロノ「その話が嘘だったとしたら?かなり痛ましい事件だったようだが、それが起きた証拠を見てない以上信じるのは難しい。」
レオリー「でも魔女だって本当のことを言うのか分かりませんよ?」
クロノ「お互いの言ってることが食い違ったら…頑張って証拠を探さなければならない。キキョウにその辺の時代の話を探してもら…そうだキキョウ‼︎」
重大なことに気づいてしまった。
レオリー「どうしました?」
クロノ「あいつこの村が虫まみれだって言ってなかったじゃねぇか‼︎」
レオリー「あぁ…」
クロノ「言い忘れやがったのか…?分かってたらジュリあたりに行かせたのに…」
レオリー「キキョウさんほどの方でしたら、言い忘れるようなことはないのでは…」
クロノ「じゃあなんだ?意図的にとか?あいつSっ気あるからそういう目的で俺を…」
レオリー「知らなかった可能性は…」
キキョウだってかなりの腕の情報屋だし知らないなんてことは…
クロノ「あー…」
レオリー「各地に部下を置いて、その部下から情報を集めるというのがキキョウさんのやり方ですよね?」
クロノ「こんな村に部下を置くかどうか、か…いやそれでもどっか伝いでここがこういう村だって噂が広まるだろ?ここと取引した情報屋とか麻薬の売人とか…」
レオリー「口止め、脅し…」
色々と手段はありそうだ。
クロノ「なるほどね。この村に部下がいなけりゃ人伝いの噂で知るしかない。その噂も何かしらの手段で封じられれば、知ることもできない。知らないことを教えることもできんし、それならキキョウが俺らに言わなかったのも納得っちゃあ納得か。」
レオリー「せめて一言忠告くらいしてくれれば良かったのですが…」
やっぱり言い忘れてるじゃないか。
クロノ「とにかく、どうなるのか分からない以上、手紙を送るわけにもいかんだろう。」
レオリー「なんでです?取り敢えず送ってみて、返ってきたらきたで大丈夫だということになりますし…」
クロノ「大丈夫じゃないパターンだった場合、俺らがこの村の秘密について怪しんでいるということが村の連中にバレる可能性がないことはない。もし手紙をどっかの段階で村の人間に見られてしまったら。秘密があるような場所なら、そういう所まで気を使いやがるだろう。そうなったら、俺らが危なくなる。妨害、もしくは最悪のケース。ただでさえキナ臭い事件だ。下手な冒険したらヤバイかもしれん。」
レオリー「なるほど…」
クロノ「そういえば、御者のおっさんは?」
レオリー「あの人は隣の部屋なのでは?」
クロノ「そうなの?」
レオリー「ここは2人部屋だから隣に行ってもらったって…知らなかったんですか?宿に来る途中でそんな話し合いしたはずですけど…」
クロノ「すまん、道中はいかに地面のことを意識しないかに集中してたから。」
レオリー「僕1人で森を探索してきましょうか…?」
クロノ「そういうわけにはいかん。これはお前の入団試験も兼ねてるからな。俺が確認しないと。」
まぁ普通に戦う力はあるはずだし、わざわざ試験することはないのだが。
レオリーは刀と魔法を駆使して戦うスタイルらしい。
俺が行方不明になったという時から、魔法だけでなく刀も学んで更に強くなったそうだ。
(子供の時ですらチート級の魔法ぶっ放してたくせに…)
クロノ「さて、それじゃあ森に突貫してみますか。」
レオリー「村の事件のことは後回しですか。」
クロノ「あぁ。まずは魔女さんから話を聞いてからだな。」


村から少し西に行った所にある森。
この中からも虫の羽音が聞こえてくる。
クロノ「あぁ…」
レオリー「クロノさん、今になってやっぱり帰るは通用させませんよ?」
クロノ「ですよね…いや、分かってるよ?分かってるけど、やっぱりちょっとなぁみたいなー…」
レオリー「仕方ないですね…それじゃあもしクロノさんが今から逃げるというなら…そうですね…」
クロノ「え、なに?ヤバイ条件叩きつけられるの?」
レオリー「僕が攻めということで。」
察した。
クロノ「よし、俺頑張っちゃうぞ!」
レオリー「なるほど、クロノさんは自分が攻める方がいいと。僕はそれでも、むしろそっちの方が」
クロノ「前提がおかしいだろうがよ!」
レオリー「気は解れましたか?」
俺の気を解そうとわざわざそんなことを言ってくれたのか…
いや、解し方に問題はあったが。
クロノ「よっしゃ!覚悟決めたぞ!行くぜ!」
森の中に入る。


森の中は予想通りジメジメしていてハエやら蚊やら何かしらの虫がその辺ブンブン飛び回っている。
羽音のしないタイミングが見当たらないくらいだ。
クロノ「森の中には罠があるって言ってたな。」
レオリー「そうですね。気をつけないと…」
クロノ「そうだな。作動させちまったらかなりヤバ…」
プツン。
紐か何かが切れた音がした。
足元に何か引っかかった感触がしたから、ロープか何かが繋がっていたのだろう。
クロノ「やば‼︎」
どこから何が来るのかを探すために辺りを見回す。
レオリー「クロノさん!」
レオリーが自分の後ろを指差す。
振り向くと大きな丸太が、しかもかなり尖ってるのがターザンみたいにスイングして近づいてきていた。
クロノ「うおおおおおおお‼︎‼︎」
ギリギリで横に跳んで避ける。
空振りした丸太は振り子のようにだんだん勢いを落としながらスイングしている。
レオリー「大丈夫ですか⁉︎」
こんなことならフラグなんて建てなきゃ良かった。
クロノ「ギリギリ…ありがとう…」
この丸太の尖りよう、多分刺さる。
消しゴムに鉛筆ぶっ刺すような感じになる。
そんくらい鋭く尖ってる。
クロノ「足元をしっかり見ながら歩こうそうしよう。」
立ち上がり、今度は地面と前を交互に見ながらゆっくり歩く。
しばらく行くと、地面に大きな穴が空いている場所を見つけた。
クロノ「あれは…落とし穴か?」
レオリー「既に作動した後ってことですかね?」
近づいて見てみる。
穴の周りには、赤い液体が飛び散っている。
レオリー「これは…」
クロノ「どう見ても血だろう。」
そこまで多くはないが、少なくもない。
更にその穴のすぐ横には大きな三角柱状の木材が地面に刺さっていた。
これもまた、鋭い。
(まるでギロチンだな。)
レオリー「これ新しいですよ!固まりかけてますけど…おそらく今日中、朝辺りに散ったんじゃ…」
レオリーが血を調べたらしい。
クロノ「それ本当か?」
レオリー「間違いなく最近です。」
穴の中を見る。
ウゾウゾと何十何百の虫が中に押し込められ、蠢いている。
クロノ「ウオェ‼︎‼︎」
レオリー「クロノさん⁉︎」
こんなの虫好きでもないと吐く。
レオリー「クロノさんはそこで休んでて…」
レオリーが代わりに穴の中を覗く。
クロノ「どう…何かありそう…?」
レオリー「えーと…あ……え?」
何かを見つけたようだが、かなり驚くもののようだ。
クロノ「何、何があったの?」
レオリー「腕が…」
クロノ「なんだと?」
気持ち悪いとかヌかしてる場合ではない。
穴の中を覗く。
確かに、腕が虫溜まりの中からはみ出ている。
しかも、ただの腕ではない。
そのサイズから予想するに、
クロノ「子供の…?」
レオリー「うそ…」
クロノ「いやいやいや待て待て。この世界には子供みたいな見た目の大人がゾロゾロいる。もしかしたら子供のものではないのかもしれない…とか言ってる場合じゃねぇ。誰のものとかじゃねぇ、腕が落ちてんだ。相当な事態だぞこりゃ。」
レオリー「なんで…」
クロノ「おそらくこれだろう。」
三角柱の木を持ち上げる。
かなりの重量だ。
軽くスーパーとかで売ってる米の袋の3,4倍くらいだろう。
どこにそんな質量が、と思えるほどの重さだ。
クロノ「罠を作動させちまった腕の持ち主がギロチンみたいなこいつに腕をぶち切られてその穴の中に腕が落ちた、ってところだろう。」
周りを見ると、血がどこかにつながるように続いているのが見える。
クロノ「即死にはならず、どこかへ逃げようとしたのかもな。」
レオリー「どうします…?」
クロノ「辿っていくしかないだろう。」
魔女探しはとりあえず後回し。
この血の先で何か情報でも得られるかもしれない。


血を辿っていくと、一軒の家に着いた。
質素な小屋だ。
扉と窓以外は装飾などは何もない。
血は家の中にまで入っているようで、扉は開いたままだ。
小屋の入り口から顔を入れる。
クロノ「すいませーん、誰か居ま…」
中を探そうと見回したその瞬間に発見してしまった。
片腕がない少女が倒れている。
クロノ「おい‼︎」
少女に近づく。
少女「…………ん………」
クロノ「まだギリギリ生きてる‼︎けど…」
(助かるのか?俺は医療系の魔法なんて使えないし…)
レオリー「僕に任せて‼︎」
レオリーが少女の失くなった左手の上で手を重ねる。
手から光が溢れ落ちるように出てきて、傷に光が入っていく。
血がだんだんと収まり、傷が塞がっていくのが見える。
クロノ「お前回復魔法使えたのか…」
レオリー「集中してますんで…」
クロノ「あ、あぁ…ワリ。」
後で話を聞こう。
(とにかく、レオリーに任せたら大丈夫だろう。その間やるべきことを済ませておこう。)
家の中の探索をしよう。
あのギロチンからここまで一直線だった。
つまり、この家はこの少女の住処か、あるいは何かしらの理由でここに長く住んでいるかだ。
どちらにせよ、何か手がかりや情報が落ちているかもしれない。

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