ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その4・Future, come

[クロノ]
朝になる。
7時過ぎ。
いつもは起きても眠さで二度寝しようかと思うほどだが、今日はスッキリ起きれた。
リミもそれに少し驚いたが、良い事だとでも言いたげにうんうんと頷く。
まぁおそらく今日だけだろう。
一階に降りる。
リンコが既に朝食の準備をしていて、レオリーがそれを手伝っていた。
レオリー「クロノさん、お早うございます。」
リンコ「おはようございます。」
クロノ「あぁ、おはよう。」
キキョウ「お主にしては遅めかの?」
キキョウも起きていたようだ。
クロノ「そういうあんたも。」
キキョウ「ワシは朝は弱いんじゃが、今日はなぜかスッキリ起きれた。」
リンコ「朝が弱い時はなんとなく気持ちを切り替えようとしてみるだけでも変わりますよ?」
キキョウ「いや、ワシのは精神論で何とかなるものでもなくてな…」
リンコ「低血圧とかですかね?」
キキョウ「さぁの。」
こちらの世界には低血圧という言葉は存在するのだろうか。
レオリー「クロノさん、朝食を終えたら出発ですよね?」
クロノ「あぁ。すぐに出よう。」
リンコ「あら、じゃあ急いだ方がいい?」
クロノ「いや、そんなでもないよ。」


ぞろぞろとメンバーが起きてくる。
全員で朝食を食べ終える。
クロノ「ごちそうさん。それじゃ…」
レオリー「行きますか?」
クロノ「あぁ、行こう。」
外に出て、馬車の元へ向かう。
御者「お、クロノさん。行きますか?」
馬車の運転を御者のおっさんに任せ、出発する。


レオリー「クロノさんは、今回の依頼はどう思うんです?」
出発して数分してレオリーが尋ねてくる。
クロノ「どうって?」
レオリー「魔女っていうのが本当に悪人なのか。」
クロノ「あぁ…知らねぇよそんなの。」
レオリー「でもラパレリャですよ?あんな麻薬を生産してるなんて…」
クロノ「麻薬を生産してるからって悪人ってわけじゃねぇし、そもそも悪人の敵は善人ってルールも存在してないしな。」
レオリー「えっ?でも…」
クロノ「確かに俺は怪しいとは言ったさ。そりゃまぁ怪しい。だが悪人の敵は善人とは限らないってのは結局のところ、悪人かどうか分からないってことだ。それっぽいってだけ。実際悪人かどうかは自分の目と耳で感じて頭の中で考えなきゃいけない。予測する分にはいいさ。だが、その予測で自分の中立な立場を揺らがしちゃいけない。」
レオリー「なんか納得いかないです…麻薬を作るのは悪いことでしょう?」
クロノ「悪いことがイコール悪人ってわけじゃない。俺が単に麻薬って存在が嫌いなだけだったりするから今こうして向かってるのもあるかもしれんしな。麻薬はデメリットの大きいものだ。自分から使いにいって精神イかれましたとかってのは自業自得だ。だがそんなものを他人に共有させるのは悪だと思う。他人を壊すってことだからな。あくまでそいつの人生はそいつのものでしかない。他人が干渉して壊していいものじゃない。」
レオリー「でも人を壊すものを作ってるんでしょう?」
クロノ「この世には需要があるものは売れるという法則があるんだ。確かに麻薬ってのはクソみたいな存在だが、需要は存在してしまう。そして売れてしまう。ならそれを金儲けに利用できるんならしてしまおう。それが人間ってもんだ。そうでもしなきゃ経済ってのは回らねぇのさ。もしくは、その村は麻薬以外に特産物となるものがないから仕方なく、って場合もあるからな。」
レオリー「あ、そっか…それだったら魔女が本当に悪人なのかも…?」
クロノ「分からなくなってきたろ?だから推測だけで判断しちゃあいけないんだ。」
レオリー「仮に魔女が悪人だったとしたらどうするんです?」
クロノ「殺す。」
レオリー「えっ?」
クロノ「ドン引きか?悪いが、変えるつもりはない。悪人ってのは悪いことするから悪人なんじゃない。悪いこと考えてそれをして反省する気もなくもう一度同じことしてやろうかと考えてる奴が悪人だ。」
レオリー「それはそうかも…ですけど、殺すんですか?」
クロノ「あぁ。」
レオリー「いくらなんでも…」
クロノ「気持ちは分かるさ。だが、俺は間違ってないと思ってる。悪い奴がいなきゃ平和なんだ。なら根絶しなくちゃ。そうして残った善人達だけで祭りを開けばいい。善人はそもそも悪事を働かないし、悪事を働くような奴に祭りを楽しむ資格はない。」
レオリー「殺すんじゃなくて改心させるとか…」
クロノ「して治るようならハナからしてないさ。それに、本当にこんなことする気はなかったってんなら反省するだろう。別にそんな奴まで殺そうってわけじゃない。」
レオリー「そうじゃなくても!悪いことしたからってその人を殺すんじゃあなたが悪人ですよ!」
クロノ「あぁそうだ。」
レオリー「⁉︎」
クロノ「俺も悪人だ。もう3桁ほども殺しただろうしな。だからこの世の悪人ども全員殺しきったら、俺もそれなりの最期を迎えるつもりさ。」
レオリー「おかしい…おかしいです…」
クロノ「お前との価値観の違いだよ。それだってんなら、俺は他のメンバーとも価値観は違うぞ?キキョウもジュリもリンコもマリアもサクラもミーアもリミもカサンドもシリューもナナも。あいつらは悪人ですら人を殺すことを良しとしないだろうさ。だが俺は、悪人なら全部死刑でいいだろって思ってる。」
レオリー「死刑…?そんなのひどいですよ…」
クロノ「ひどいな。だがそいつが他の罪もない人にやってきたことに比べりゃ何倍かマシだろ。どうだ?俺とウマが合わないんだったら、別のギルドがオススメだ。そうだな、アリアンテって町にあるラフって名前のギルドがいいだろう。あそこは俺と真反対の方針だ。あそこはどうあがいても人を救済することしか考えん。変人と変態ばっかりではあるがな。」
こんな俺の仲間になるよりも、ハゼットの仲間になる方が圧倒的にマトモな選択だろう。
レオリー「いいえ…僕はクロノさんといます…。」
クロノ「……えっ?」
即答は予想外だった。
自分の目をまっすぐ見て言われたのも予想外だった。
普通はこんな人殺し優先の殺人鬼みたいな男とはいたいとは思わない。
そう思わせるつもりの発言でもあった。
だが、レオリーはそれでもいたいと言う。
レオリー「僕は…」
一度うつむき、もう一度顔を上げこちらをまっすぐ見て言う。
レオリー「僕の正体…言ってもいいですか…?」
クロノ「正体?」
キキョウは、未来から来たレオだと言っていたが…
レオリー「これで…分かりますか…?」
ポケットから赤い布でできた小物を取り出す。
クロノ「お守り…?」
昨日、レオにあげたものだ。
レオリー「あの時からずっと大切に持ってるんです。」
クロノ「ってことは…」
やはり本当にレオだったか。
レオリー「レオリー・クロールは偽名です。本当は、未来から来たなんてクロノさんに知られてしまったら余計なところで未来が変わってしまうかもしれなくて騙していたんですけど…」
クロノ「未来が変わる?」
レオリー「僕が過去に来た理由は、クロノさんを助ける為です。将来、クロノさんの身に降りかかってしまう事件から。」
俺の身に一体何が起こるというのか。
クロノ「事件って?」
レオリー「今から数ヶ月ほど先で、クロノさんが行方不明になってしまうんです。それから何年も見つからないまま…」
自分が行方不明になるという未来が来るというのか。
クロノ「その未来から俺を守るためか。それなら、むしろ言ってくれた方が俺を助けることになるんじゃないのか?そうなる未来を先に言ってくれた方が、今からでも対策を立てられるだろう?」
レオリー「唐突に現れた男に、未来から来たあなたの仲間です、なんて言われて信じますか?」
確かに信じないな。
いや、俺のような特殊なケースがあるのだから疑いくらいはするだろうか。
(ないな。俺だってキキョウがその予測を立てたから俺も疑い始めたんだし。)
レオリー「これを小さい僕に渡してくれたから説得力を持つことができたんです。」
本当はリュクスでうまいことお守りを持っているところを見つけて、そこでレオリーがレオだということを暴くつもりでいたのだが、向こうから言われてしまった。
レオリー「にしてもひどいですよ。あの頃の僕は本当のプレゼントだと思って受け取ったのに…」
誰かが途中でレオに言ったのだろうか。
未来にいるキキョウが言ったのかもしれない。
クロノ「ごめん。ほんとごめん。」
レオリー「そうですね。責任とってもらいましょうか。」
クロノ「え゛」
レオリー「冗談ですよ。」
一瞬本気で背筋が凍った。
レオリー「それで、少しおかしいんです。」
クロノ「おかしいとは?」
レオリー「僕が子供の頃の…今の時と、違うんです。まず、僕とクロノさんが出会ってリースに向かってヒーラーに着いたとき、子供の頃の僕はミランダさんに会いませんでした。」
クロノ「ミランダがいなかった?」
レオリー「はい。普通に入って、普通に会話しました。同じようにこの依頼を受け、その時の未来から来ていた僕を連れてリュクスに向かっていきました。」
クロノ「それなのに、なぜかミランダがいたと。」
レオリー「はい。だから予想外のことで…しかもすぐに見抜かれてしまいましたし。」
あの知ってる匂いってのは、レオの匂いを知っていたからか。
というか、ミーアもそれを見抜いていたのか。
クロノ「でもミランダがいたから俺たちがレオリーに疑問を持てたってことでもあるわけだし…それならなんでその時レオリーがレオだと分かったんだ?」
レオリー「その時はミーアさんがその時のクロノさんに言っていました。同じ匂いだって。」
どちらにせよか。
レオリー「多分、既に未来は変わってるんだと思います。既にあの頃とは違うところがいくつかありますから。」
クロノ「ミランダがその一例か。なんで今回はいたんだ?」
レオリー「ミランダさんは気まぐれな所がありますから、案外気まぐれでこうなったのかもしれませんね。ただ、あの時のクロノさんがあの時のレオリーをレオだと分かったのも、今のこの時だそうです。」
クロノ「つまり、多少のことで運命は変わらんと。」
レオリー「過去に来るとき、未来のマキノさんにあまり過去を改変するなと言われましたが、そんなこと言ってられないかと。」
クロノ「その考えは、その時のレオリーと同じか?」
レオリー「…そうですけど、変えないつもりなら未来は変わらないんです。同じでも、変えようという意思がないと。」
その時のレオリーが同じように思っていたのなら、結局同じことになりそうだ。
なら俺がなんとかしないと…と、その時の俺も思ったことだろう。
(結局何をしても一緒なのか…?)
クロノ「ちなみに、この先で何があるのか知ってるのか?」
レオリー「いえ、今回の事件はリュクスに向かうところまでしか知りません。」
クロノ「そうなの?に話さなかったのか?」
レオリー「このことの後にあなたと会えたのは、この次が最後でしたかね…」
クロノ「この次?」
ってことは、俺はあと1度しかレオと会えないのか…?
クロノ「長い間、会えなかったってこと?」
レオリー「はい…だから、再びこうしてクロノさんと会えて…本当に良かったです…」
レオリーが涙声になっている。
見たところ俺が最後に会ったという時代から10年くらいも経つのではないのだろうか。
好きな人に久しぶりに会えるということは、それはもう嬉しいのだろう。
レオリー「クロノさん、いえ……お兄ちゃん。」
精一杯の勇気を振り絞ったのだろう。
お兄ちゃんの一言を出すのに一瞬間があった。
その年でお兄ちゃん呼びはかなりキツい。
レオリー「気持ち悪いと思うかもしれませんけど…その…隣に…寄りかかってもいいでしょうか…?」
この年になっても俺のことが好きなままだったのか。
レオリー「あ、いえ!やっぱりいいです!やっぱりおかしいですよね!なんでも…」
クロノ「お前がしたいってんなら、いいぞ。」
レオリー「え?」
クロノ「気持ち悪いとは思わん。」
レオリー「そ、それでは…失礼します…」
おそるおそる自分の右側に近づいてきて座る。
体を傾け、自分の肩に頭を乗せる。
レオリー「はぁ………」
恍惚とでも言うような声を出す。
そしてすぐに、涙が一筋流れ、右腕の袖をギュッと握りしめてくる。
自分の恋した、長年会えなかった人間が、今隣にいるのだ。
(寂しかったんだろうな…)
空いている左手でレオリーの頭を撫でる。
(大人になっても、心の中はのままなんだな。)
しばらく経つと、寝てしまったのだろう、レオリーから寝息が聞こえてくる。
こうして見るとかわいいと思わないこともなかったり。
(俺も寝ようかな…)
ほんの少しそう思っただけで、眠気がゆっくりと優しく襲いかかってくる。


ガタンと大きく揺れたせいで目が覚める。
肩に寄りかかって寝ていたレオリーもそれで起きたようだ。
御者「クロノさん、もうすぐですよ。リュクスです。」
馬車から顔を出す。
雨でも降りそうな感じの灰色の曇り空の下に、小さな町が寂しく佇んでいる。
クロノ「あれがリュクスか…」
規模的には町と言えなくもないが、村らしい。
それよりも気になるのは、
クロノ「なんか飛んでない?大量に。」
リュクスの上空を大量の小さい何かが飛んでいる。
生き物ではあるだろう。
『上空』というよりは、『周囲』と言う方が正確である。
レオリー「飛んでますね。」
御者「なんでしょうねぇ…近づかないと分かりませんね…。」
よく分からないが、村を襲っているという雰囲気でもないようだ。
クロノ「どのみち向かうんだ。近づこうじゃん。」

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