ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その13・Invitation

[クロノ]
男「おっ、目が覚めたな。」
会場の医務室で目が覚めた。
肌黒で金髪のチャラそうな男が顔を覗き込んでいた。
男「死んだように眠ってっからこっちは心配したんだぜ〜?特にあの女の子、さっきまであっちこっちソワソワウロついてて、見てるこっちがソワソワしてきちまうくらいさ。今はお手洗いっつって席を外してるがな。」
微妙に早口だ。
(女の子ってのはマリアのことかな。)
クロノ「そうか。ってかあんた誰?」
男「おいおいおいおい俺の声覚えといてくれよ〜何度も聞いてるはずだぜ〜?」
クロノ「声?…あぁアレか。ピギーか。」
大会の実況をしていた男。
ピギー「そうそう。この俺がピギーだ。あんまりこういうこと言うようなタイミングではねぇが、キッドマンとの闘い、スッゲェ熱かったぜ。あれが本物の試合だったらどんなに良かったか。」
クロノ「キッドは?あと、あのバンとかいう…」
この医務室の中にはいないようだが。
というか、自分とピギー以外誰もいない。
ピギー「キッドマンは別の医務室だ。いや、医務室というよりは牢というべきか…何せ何をするか分からんからな。お医者様からのお達しだ。バンは命に別状はなし。脚もくっつくだろう。」
なるほど。
ピギー「にしてもよぉ、あの斬撃を殴って消す奴なんかビックリだ!あんなことしたやつ見たことねぇ!どうやってんのあれ?力技?」
1つ言い終わるまでが長い男だ。
クロノ「あれは受け止めた攻撃のエネルギーを魔力やら別のエネルギーに変換して体内に吸収してそれを再利用してるのさ。」
ピギー「エネルギー?なんじゃそれ?新手の魔力か?」
クロノ「簡単に言うと、物の他の物体に及ぼす力のことだ。エネルギーが強ければ強いほど、威力やらスピードやらが高かったりする。」
ピギー「ほぅ…よく分からんが、相手の攻撃の勢いを小さくして、その小さくした勢いは自分のモノにしちまうと。」
クロノ「まぁそんなもんか。」
ピギー「バケモンかよてめぇは!そんなこと考えるやつ初めて見たぜ!どうなってんだ⁉︎」
(こっちとしてはむしろよく思い浮かぶ方なのだがな。)
格闘ゲームなんかのキャラがよくやっているカウンター。
大半は構えを取ると、敵の攻撃を真正面から受け止め、シールドのようにダメージを無効化して、自分が攻撃している。
受け流すのなら攻撃し返すのはやりやすいが、相手の攻撃には勢いが付いているのに、その勢いに真っ向から刃向かう向きで攻撃し返すなど、相手が弱くないとできないし、ゲームのキャラにそういう強弱はない。あるのは相性とプレイヤースキルだ。
それを現実で再現するには、相手のエネルギーを奪う必要がある。
その結果編み出したカウンターのスキルなのだ。
クロノ「理屈が分かれば誰にでもできるんじゃないの?」
ピギー「分かってもする奴なんざいねぇっての。下手すりゃそのまま死んじまうぜ?」
クロノ「そうだな。タイミングがズレたら死ぬかもな。」
ピギー「かもなって…お前アレか?死ぬのが怖くねぇとか言う奴か?」
クロノ「別に怖くないわけじゃないさ。でも怖いからって、せっかくの強力な技を使わない手はない。特に、命がかかってる時はな。」
ピギー「……脱帽だぜ。あんたは心の底から戦士のようだな。あんたのような奴が今回出場してくれて良かったぜ。あんたじゃなけりゃあ、実力のことを除いてもあのキッドマンには勝てなかったろう。」
クロノ「そうだ。あれは結局なんだったんだ?」
ピギー「何かをきっかけに頭がイかれちまった…と、お医者様は言っていた。だが、俺はそうは思わん。」
クロノ「なんだって?」
ピギー「俺だって最初は気でも違ったのかって思ったけどな。時間が経つにつれ違うんじゃねーかって思えてきたんだ。狂ってんだったら、アヒャヒャヒャヒャヒャみてーな意味不明なこと叫んで騒いだり、クネクネクネクネ変な動きして気持ち悪いことになったりするだろう?でもあいつ。あのキッドマン。妙〜に落ち着いてなかった?
クロノ「そう…だな。」
確かに、問いかけても何の反応も見せなかった。
返事も何もせず、ただただ無視して見つめてきていた。
ピギー「狂ってる人間にだって目的はある。何かを理由に、あるいは何かを目的に狂ったんだからな。あのキッドマンはどうだ?まず最初の一撃。バンを狙った一撃だったが、バンを追撃していなかった。つまり、バンを殺すのが目的ではない。次に観客席。実は観客を殺すつもりで、あの斬撃は結界を破壊する為のものだったら。だが奴は追撃しなかった。これも違うだろう。後あり得るとしたら、目に見える人間全員を殺すのではなく傷つける、怪我させるのが目的。もしくは、うまいことお前をおびき出すためにあんな風に暴れて、いい感じにお前が出てきた。この2つのどっちかだったら目的があって狂ったと言えるだろう。だがその目的を目の前にして、狂ったはずのキッドマンは何の反応も示さなかった。俺はな、ヒール。こう思うんだよ。何者かに操られていた。」
クロノ「操られていた…?」
ピギー「そう。操られていたんだよ。それか催眠かな。とにかく人為的な何か。証拠も何もない推測に過ぎんが、俺はそうなんじゃないのかって思う。」
クロノ「催眠か…」
ピギー「詳しくは本人に聞くしかないがな。お前は何か違和感とか感じなかったか?」
クロノ「違和感ねぇ…1つだけあるかな。」
ピギー「ほほう?」
クロノ「なんで三騎士が出張って来なかったのか。」
ピギー「……⁉︎それは確かに変ってわけではないがどうしてとは思うな…確かにこの大会の運営なんだから全試合を見るはず…だからあの試合も見ていたはずだし、すぐに止めに入るはず…それなのに…ヒールが戦っていたからといって普通は救援に入るくらいするはずだし…」
クロノ「そこがどうしても疑問なんだ。別に助けにこいよとか自己中じみたように言うつもりはないが、ただ普通は選手とはいえ関係者とは違うような俺に戦わせることはしないだろう。」
ピギー「あぁ確かに。昔似たような事件があってな。元からおかしかったんだが、人殺しで有名な殺人鬼が素性を隠して出場してたんだ。その時の奴は試合そっちのけで結界を壊そうとしていたところを速攻で紅の剣士様に止められてた。あの時に剣士様は実況席の横、俺のすぐ横にいた。それなりに距離がある場所なのに一瞬で舞台に移動していたんだ。だから遠回りをしていたっつーことでもねぇだろう。」
クロノ「三騎士は普段どこで観戦してるんだ?」
ピギー「実況席の横ってわけではないが、近くだ。」
クロノ「あの時、いたか?」
ピギー「いたかどうか…分からん、確認してないんだ。どうせいつものようにその席で観戦なさるんだろうなって思ってすらいなかったからな。いつもの当たり前のことだからさ。」
クロノ「そうか。」
ピギー「なにか…あるのか?」
クロノ「いや…特に。ただ気になってさ。」
ピギー「まさか、三騎士が何か企んでるってか?」
(企む…企みだとしたら…)
医務室のドアが開く。
ロナルドとマリアとジグが入ってきた。
マリア「ク…ヒール!目、覚めたんですね!」
ロナルド「ヒール様、この度は誠に…」
クロノ「魔導士さんちょっといい?」
ロナルド「はい?」
ロナルドの話を遮る。
クロノ「あの時どこいたの?」
ロナルド「えっ…と……それはどういう…」
クロノ「そういうセリフは自白したも同然のごまかし方だぜ。剣士様もそうだし弓使いのおっさんもそうだ。なんでいなかったんだ?」
ジグ「それは…」
クロノ「主催者がその場にいねぇとかそんなのありかよ?」
ロナルド「あぁ〜…」
ジグ「じゃから言ったろうに、この男ならすぐ気付くと。」
ロナルド「そうですね…」
クロノ「とりあえず説明してくれるとうれしいな、俺は。」
ジグ「ワシらはあの時観覧席にいなかった。別の所から試合を見ておったのじゃ。それもただ試合を見ていたんじゃない。」
ロナルド「キッドマンが変な動きをしないか見張っていたのです。」
クロノ「してたじゃん、思いっきり。」
ロナルド「いえ、ああするように仕向けたのです。僕たちは余計な被害を出さないように暴れさせるつもりだったのです。」
クロノ「あんたらがキッドマンを操っていたっつーわけだ。」
ピギー「ホントですか⁉︎」
クロノ「へぇ〜。洗脳?催眠?」
ロナルド「催眠に近いでしょうか。キッドマンの意識を眠らせ、私たちに従うようにさせたのです。」
クロノ「それでちゃんと従っているかどうかを見張っていたと。なんで?」
ロナルド「その…貴方とテラーの試合では、貴方の本当の実力が見られないのだそうで、早く本気の実力が見たいということで、1番実力の近いキッドマンに無理やり戦わせようと…」
クロノ「ほーーん。」
ジグ「お主が怒るのは至極正当じゃ。お主を危険な目に…」
クロノ「そこじゃねぇよ怒ってんのは。」
ジグ「?」
クロノ「俺が怒ってんのは、そんなくだらん理由の為にキッドマンを催眠にかけたっつーとこだ。いや、どういう理由があっても許されんことだがよ。キッドマンはそれを了承してたのか?」
ロナルド「いえ…無理やり…」
クロノ「はぁ………」
ため息をつく。
大きくしたつもりはないが、自分でもデカイため息だなとは思った。
クロノ「ふざけてんのかっての。俺だけじゃない。そうしないようにうまいこと調整したんだろうよ。とはいえ、何の関係もない観客にも被害が出るところだったんだぞ?観客にも斬撃ぶっ放してたんだぞ?俺が守りにいくとでも思ってたのか?俺だってあの時あまりの事態に体が固まってたんだぞ?それを何とか動かして守りにいけたさ。もし行けなかったらアレだけで軽く何十人と死んでたんだぞ?」
ロナルド「あれは私たちにも予想外で…」
クロノ「予想外なら人が死んでも仕方ねぇのか?あ?」
ロナルド「えっと…」
クロノ「はぁ…とにかく、色々と分かった。」
アリウスはどうも目的の為なら人の事なんて関係ないと思うタイプのようだ。
(まじでキレてきそう…)
マリア「ヒール…」 
クロノ「死者が出なくて本当に良かった。罪悪感と怒りとでどうにかなっちまいそうだからな。」
ピギー「いやでも、ヒールは関係ないじゃん?あんたが手を下したわけじゃないんだし…」
クロノ「俺が原因で何人も人が死ぬってんだろ?俺の為にキッドマンが催眠にかけられたんだからな。それで人が死んだら、俺にも責任はあるってことだろ?」
マリア「そんないじめはいじめられた側にも責任があるみたいな…」
クロノ「時と場合による。いじめってのはいじめられた側にも責任がある時とない時がある。場合によって違う。今回もそうだ。場合によっては催眠にかけた奴が、催眠にかけるよう指示した奴が、催眠をかけようと思わせるようにしてしまった存在が、どれに責任があるかはその時その時だ。俺が剣士様の目にとまるようなことがなけりゃあこういう事態にならなかったんだ。」
ピギー「いや、それもあんたは関係ないし…」
クロノ「あるんだよ。俺が理由になってるんだから。被害者はキッドマンとバンで原因が俺。真犯人はアリウスで実行犯がロナルド、共犯でジグ。ただそれだけだ。これに当てはめるとするなら、責任を取らなくていいのは被害者にあたるやつだ。少なくとも責任を取るべきなのは真犯人。時と場合に応じて原因と実行犯、共犯。そんなところだ。今回はキッドマンを除く全員に責任がある。」
ピギー「そんな…いや…まぁ、そうっちゃあそうかもだけどよ…そんな何もかも悪いみたいなさ…」
クロノ「何もかも悪いって言ってるわけじゃねぇさ。そいつの行動が悪と呼べるか正義と呼べるか。悪人かそうでないかは正確に、確実に、判断しなくちゃいけない。じゃないと、罰ってのが正しく与えられなくなるからな。」
マリア「罰⁉︎」
クロノ「罰はただ言ってみただけだ。ただ、善悪はっきりってのはそのつもりだ。悪いやつが悪くないって言われるのは気に食わんし、悪くないやつが悪いと言われるのはもっと気に食わん。悪いことして反省しないのは殴りたくなるし、何もしていないのに反省させられるのは呆れを通り越して怒りしか出てこない。」
マリア「これからどうするんです?」
ロナルド「大会はもはや続行できない状態です。」
クロノ「そうだな。もう少し考えてみようかと思う。」

ロナルドとジグが部屋を出て行く。
ピギー「ヒール…あんたスゲェな…」
クロノ「何が?」
ピギー「三騎士のうちの2人を相手にあんなこと堂々と言えるなんて…」
クロノ「生きてるやつはみんな平等、地位とか強さとかそんなもん名前でしかない。それに、俺は怒ってもいいだろう?あの状況。」
ピギー「…考え方から違うのかねぇ…いくらあれでも自分より立場が上の人にあんな口調で話すのは俺には無理だよ…」

その夜、ピギーはとっくに自室に戻り、マリアは横のベッドを借りて寝ている。
色々あったからか、寝れない。
(気を失ってた間に寝れてたってことかねぇ。)
そんなことを思っていると、ふと手紙が腹の上に置かれていた。
扉を見ると、音を立てずに閉まっていくのが見えた。
手紙の封を開ける。
手紙には文字が書いておらず、ただ風景が描かれていた。
リーが教えてくれた秘密の花畑だ。
(来いってか?そういう意味なのか?)

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