ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その11・A feeling of wrongness

[クロノ]
大会4日目。
ピエロ男が戦っているのを観客席で眺める。 
今回初出場の選手は今日で全員出ることになるが、それまでに勝てた初出場者は自分だけだ。
マリア「あれ、キッドマンは一緒なのでは?」
クロノ「さぁ。」
2日目までは一緒に試合を見ていたが、3日目、昨日から顔を合わせていない。
マリア「キッドマンの出番は明日ですよね。」
クロノ「あぁ。準備してるとかだとは思うが。」
なんとなく仲良くなったから会えないのも不思議だが、何度も優勝してるのだからきっと何か特別な準備やら精神統一やらをしているのだろう。
マリア「う〜ん…」
マリアが何やら疑問に感じているようだ。
クロノ「どした?」
マリア「あの道化師さん…なんか不自然です。」
クロノ「なんかって?」
マリア「初出場にしては動きが慣れているというか…」
確かに、無駄のない動きではある。
道化師の見た目の通り、随分サーカスじみたようなクルクルしたりピョンピョンした動きをしているが、隙がなかなかない。
クロノ「戦い慣れてるんだろ。」
マリア「戦いというか闘技場にと言いますか…」
クロノ「ふ〜ん。」
マリア「前座の試合の時も思ったんです。クロノも見たと思いますけど、テムとかいう格闘家さんも、私には変に感じました。それだけでなく、今回の初出場選手全員に同じような違和感覚えました。」
クロノ「へぇ〜。それ…マジ?」
マリア「賭け師としての勘と言いますか、人の表情を見るのは慣れてるんです。人の性格によって違いますが、こういう時にこういう表情をするというのは大体みんな同じです。例えば、初めての場所ですと、誰だろうと緊張します。その緊張は仕草や表情に出ます。笑みが隠れきれない人。目が開ききっている人。ウロチョロしたりキョロキョロする人。あるいは、こういう戦いなんかをする時は、動きが固くなるんです。間違いなく。大衆の前ですと更にそうなるはずです。」
クロノ「はずって言っても、やっぱり、個人差だろう?」
マリア「みんなに見られるような戦いに慣れてるとかでしたら緊張しないのはありえますが…」
(慣れてるかどうか…)
ピエロとの会話を思い出す。
妹の病気を治すためにこの街にまで来た。
賞金のためと言っていたから、こういう大会にはよく参加するのだろう。
クロノ「こういう闘技大会とか、みんなの前で戦って勝ったら賞金って他の町でもあるの?」
マリア「ないですよ。」
クロノ「断言しちゃう?」
マリア「私は賭け師ゆえに裏事情にまで詳しいんですよ。そういうものはどの町に言ってもないです。そういうことするくらいなら相手を殴って財布奪い取る方が早いですからね。」
(まぁそうか…)
となると、この大会で初出場なら見世物の試合自体も初めてとなる。
(それでも緊張しないのは妹の為っつー補正のせいか…あるいは…)
マリア「どうしました?」
この間ロナルドと酒場で話した内容が頭をよぎる。
アリウスが自分を品定めして殺そうとしていること。
(何をやるか分からない…アリウスがこの大会の運営者ならば、色々とできるはずだ。いろいろ……いろいろ…)
既に頭の中にこれと声に出したい仮説は浮かんでいる。
ただ、自分の為にそこまでするかという疑問もあるし、そもそもマリアの言った緊張云々の論が正しいとも限らないからどうも当たっている自信がない。
マリア「何か思いついたことでも?」
クロノ「まぁ…うん。1個な。」
マリア「なんなんです?」

闘技場内の病室、1回戦で相手をしたテラーの元に向かう。
マリアが感じた違和感について、何回もこの大会に出ている彼なら何か思い当たる節があるのかもしれない。
テラー「で、試合の観戦ほっぽって俺様の所に来たと。」
腹を包帯でぐるぐる巻きにされてベッドに横たわるテラーがいた。
腹以外は特に怪我もしていないらしい。
クロノ「あぁ。なんか思い当たるか?」
テラー「そうだな、今までに何回もこの大会に出場した俺様が言おう。おかしい。間違いなくだ。」
クロノ「そこまで自信有りか。」
テラー「あるね。何せ俺様の威厳に気づかないんだからな。俺様のことを知ろうが知るまいが、みんな俺様の威厳にひれ伏すはずなんだ。なのに今回の出場者ときたら…」
クロノ「ありがとう。」
テラー「待て待て冗談だって。落ち着け。」
クロノ「はぁ…」
テラー「まぁそこに座れって。」
近くの椅子を促す。
テラー「まぁ威厳はともかくとして、やはり態度に驚いたかな。」
クロノ「態度?」
テラー「自分で言うのもなんだが、俺様は無名だ。」
(自分で言うのか…)
テラー「俺様が1番分かってる。大会で毎回優勝を逃すっていう微妙においしい役で有名ではあるが、それはレキュリエテの中での話。1人の戦士としては全くの無名だ。それなのに、あの格闘家野郎、テムだったか、あいつは初対面なのに俺様に敬語を使いかけた。」
クロノ「そういう奴なんじゃ?」
テラー「あいつは妙に礼儀正しくて色んな奴に初めましてと挨拶してたが、敬語を使おうとしたのは俺様だけだ。他の奴には言っていない。」
クロノ「俺のとこには来てないぞ?」
テラー「なに?俺様が知らないだけじゃなくて?」
クロノ「あぁ。」
テラー「………あの道化師とは話したか?話し方はぎこちないが、割と気さくというか……」
クロノ「むしろほとんど無視されまくりなんだが…」
テラー「………俺様だからか…?いや、それはない。あの道化師とテムが話してるのも見たし…」
いよいよ、怪しくなってきた。
テラー「そう考えると、1番普通な初出場者はお前しかいないな。今回。」
クロノ「俺1人?他には1人も?」
テラー「俺様に見えた範囲内での話だぜ?全員見れるほど俺様も暇じゃない。」
クロノ「そうか…いや、参考になった。やはり間違ってはいなかった。」
テラー「なんの話だ?」
クロノ「こっちの話。そんじゃ、ありがとな。」
テラー「あぁそうそう。お前、なんかキッドマンと仲良かったよな?」
クロノ「まぁ、な。」
なぜかは知らんが。
テラー「あいつ、今日チラッと顔見えたんだけど、スッゲェ顔色悪かったからさ。気にしといてやったらどうだ?」
こいつ、こういう気遣いできたのか。
クロノ「分かった。」

観客席に戻る。
ちょうど、試合が終わったところのようだ。
ピエロ男が負けていた。
マリア「あ、ヒール。今終わったところですよ。」
クロノ「あの道化師負けたのか。」
マリア「はい。序盤は押してたのに、後半はあっさり。つまらない劇でも見てる気分です。」
クロノ「それはさっき言った仮説を聞いちまったからだろ?」
マリア「ですね〜。普通の状態で見てたら、結構熱くなれたかもしんないですね。ヒールの言った通り、ピエロ男が負けちゃいました。」
クロノ「ふむ。いよいよ、それっぽくなったな。」
マリア「なっちゃいましたね…」
自分が立てた仮説とは、今回の初出場者のいくらかは何らかの目的があって何者かに集められた者達で、優勝するのが目的ではなく、他の何か。
その何かを成すために、おそらく1回戦目でそれらの初出場者は負けるだろう。
という予想をした。
今日ピエロが負けたということは、今回の初出場者は俺以外全員敗北。
俺の予想はここまで当たったことになる。
マリア「何らかの目的ってのが分かりませんね。」
クロノ「それだわな。でもまぁ、良い予感はしない。」
マリア「外れるといいですね…予感。」
もちろん、フラグなのだが。

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