ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その3・It's on me.

[クロノ]
リーとともに、街を出て北にある近くの森へ向かう。
森までの道はともかく、森の中は魔獣がいくらか生息している。
リーは戦えないそうなので警戒していたが、襲いかかってくるものこないものがいて、拍子抜けである。
リー「強いのね。」
クロノ「そりゃまぁ、1年くらい戦ってますし。」
リー「たったの1年でここまでできるの?すごい!」
クロノ「まぁな。しかし、この辺は変わってるな。今までは魔獣はみんな襲いかかってくるようなやつらだったんだが…」
リー「このあたりの魔獣は人間に狩られるってことを知ってるから余程自信のある魔獣じゃない限りは襲ってこないの。」
クロノ「狩られる?」
リー「闘技大会の前座で魔獣が使われるのを知ってるでしょ?その魔獣のためだったり、街で新しい武器を買ったりした人たちがここで試し斬りしたりするのよ。」
クロノ「あ〜なるほどね。」
リー「言いたいことでもありそうね。」
クロノ「言いたいことっつーかまぁ、人間の身勝手さが出てくる話だなぁって。」
リー「身勝手?」
クロノ「魔獣が襲いかかってくるんならまぁ、狩られるのは仕方のない話だけどよ、それも理由に含まれてるんだろうけど、そんな理由で捕まったり殺されたりってのは魔獣が可哀想だとは思わないか?」
リー「魔獣が可哀想だなんて言う人初めて見たわ。」
クロノ「1人くらいいてもいいと思うけどね。」
リー「でもそれならなんで闘技大会に参加したの?前座で魔獣を殺すんだし、本戦だって死者が出ることもあるのよ?」
クロノ「できれば殺したくはないかな〜。悪さしたわけじゃないし。」
リー「それでよく参加しようと思ったわね。」
クロノ「闘技大会って、要は決闘だろ?決闘ってのはスポーツの一種だと思うわけよ。お互いが今まで積み重ねてきた鍛錬の成果をタイマン一騎討ちで披露しあうわけだからな。死者が出るったって、この世で死者が100%出ないことが約束されるイベントなんざ1つもねぇよ。」
リー「変な人。」
クロノ「知ってる。」
リー「ほら、見えてきたわよ!ほら!」
先に開けた場所があるのが分かる。
テンションの上がってきたリーが手を引っ張る。
クロノ「おい引っ張んな…」
(ん?なんか…)
リー「ほら見て!すごいでしょ!」
広い場所に出てきた。
あたり一面色とりどりの花が咲いていて、おとぎ話に出てきそうなメルヘンさだ。
花畑の向こうには崖が広がっていて、その下にも花畑が続いている。
クロノ「すごい…」
リー「…でしょ!ここはまだ私しか知らない場所なのよ!」
クロノ「こんなすごい景色初めて見た…」
リー「ここよりすごい景色の場所なんてないわ!賭けたっていいくらいよ!」
クロノ「そんなにここが好きなんだな。」
リー「あの街の荒々しい所も好きよ。大好き。その分、こういう綺麗な景色を一層綺麗に感じられるの。」
クロノ「すごいな…俺の住んでた町にはこういう所はなかった…」
リー「剣士さんはどこから来たの?」
クロノ「あぁ〜、それも言いたくないかな…」
リー「秘密ばっかりなのね。」
クロノ「悪いな。」
リー「あなた強いから、きっと有名人ね。それだったら秘密ばっかりの理由は分かるわ。」
クロノ「有名人か…どうだかなぁ…」
リー「闘技大会、出るんでしょ?今は有名じゃなくても、あなたなら絶対有名になれるわ!」
クロノ「別に有名になるのが目的じゃないんだよなぁ。」
リー「そうなの?じゃあ優勝賞品?」
クロノ「ってわけでもない。」
リー「じゃあなんのために大会に出るの?」
クロノ「さっきも言ったろ?決闘ってのはスポーツだって。俺は結構そういうの好きなんだよ。」
リー「へー。街の外の人ってそういうものなの?」
クロノ「さぁな。他人のことは聞きでもしない限り分からんさ。」
リー「私はこの街から出たことないからよく分かんないな…」


リーと2人で話しているうちに、いつの間にか真っ赤になるほど太陽が落ちている。
リー「やだ!そろそろ帰ろう?夜の森は好きじゃないの。」
クロノ「そうだな。」
話している最中は空気を読んで襲ってこなかった魔獣も、そうでないときはしっかり襲ってくるようで、しかしそれを全て返り討ちにして街まで戻る。
リー「今日は楽しかったわ!ありがとう!」
クロノ「こっちこそ楽しかったよ。」
リー「それじゃあね!闘技大会、応援するから!また遊びましょ!」
リーが手を振って人混みに紛れていく。
クロノ「さて…」
すっかり夜になってしまった。
クロノ「酒場でも寄ってくか…」
人混みの中に入っていくと、奥の方の騒がしさが少し違うことに気がつく。
モーセの海のように人混みが裂けていく。
「捕まえろ‼︎食い逃げだ‼︎」
遠くから男の声がした。
その少し手前でガラの悪い男が人混みを掻き分けて走っている。
どうやら逃げている最中のようだ。
無銭「どけェ‼︎」
無銭飲食の男が自分を退けようと手を出してくる。
当然黙って退けられるつもりもなく、
クロノ「ふっ‼︎」
その左手を取って、右手で男の首を勢いよく掴む。
無銭「ぐっふ⁉︎」
クロノ「しゃあオラァ‼︎」
その勢いのまま体の向きを180度転換して地面に思い切り男を出して叩きつける。
無銭「カハッ‼︎」
手加減したからというのもあったのだろうが、思ったよりピンピンしている。
無銭「ちくしょう‼︎クソッタレが‼︎」
クロノ「うっさい。」
男の顔を殴る。
無銭「ぐぁ‼︎」
クロノ「黙ってろ。それ以上殴られたくなけりゃあな。」
無銭「くそ…」
向こうから小太りのおっさんが走ってくる。
小太り「はぁ…はぁ…観念しろこの食い逃げ野郎が…‼︎」
どうやらされた側の人間らしい。
小太り「いやー、あんた本当に助かったよ‼︎本当にありがたい。」
憲兵「道を開けて‼︎通してください‼︎」
向こうから憲兵がやってきた。
小太り「あぁ、憲兵さん。こいつです。こいつ、うちの店で食い逃げしやがりまして…」
憲兵「なるほど…ほら立て!」
無銭「ちくしょう…」
食い逃げの男が憲兵に連れていかれる。
クロノ「あ〜あ、ざまぁねえな。」
小太り「ほんとにありがたいよ、あんた。良かったらうちの店寄ってかないか?奢らせてくれよ。」
この人当たりのいい小太りの中年はどうやら酒場の店主のようだ。
クロノ「そっか?ならお言葉に甘えちゃおうかな。」

酒場に入ると、人だかりのできているところがあった。
男「おっさん!食い逃げは?」
店主「この人が捕まえてくれたよ!」
男「はっはっは!そいつァざまぁねぇな‼︎」
人混みの群れから店主に話しかけた男はまた人混みに紛れていく。
クロノ「どしたのあれ?」
店主「よその町からギャンブラーが来ててな。客とゲームしてるんだよ。」
クロノ「ギャンブラーねぇ。」
店主「ローブ着てるような女とはいえ、やっぱゲームが上手いやつは上手いんだよな。」
クロノ「ローブ着た女?」
店主「見てきたらどうだ?カウンターの席とっとくよ。」
人だかりの隙間を縫って中心へ向かう。
クロノ「あんた…」
マリア「あらら?」
予想通りマリアだったようだ。
クロノ「こんなところで何やってんの?」
マリア「いやー、なかなかいい酒場ですよね、ここ!」
男「マリー、あんたの知り合いかい?」
客の1人が問いかける。
すでにコミュニティを築いていたようだ。
(というか、マリー?)
マリアではなく、間違いなくマリーと言っていた。
似たような発音だったから間違えたわけではない。
(偽名?わざわざ?)
いや、理由はなんとなく分かる。
腕利きの情報屋であれば、マリアが俺が属するギルドに加入したことを知っているかもしれない。
俺という存在がリースにいること自体知られていないから大丈夫かもしれんが、キキョウはいつ知られてもおかしくないかもしれない。
そのキキョウから色々と繋がって俺のことがバレるかもしれない。
マリア「さっき言ってた私の連れですよ。はい!今日はここまで!次の機会があるまでお預けです!」
「ちっくしょー!今日はツイてねー‼︎」
「俺は一勝してやったもんねー!」
バラバラと席に散らばっていく。

店主「はいよ。この店1番人気の酒だ。」
ジョッキにビールが注がれる。
店主「あんたにもついででサービスだ。」
マリア「おっ、ありがとうございます!」
マリアにも同じようにビールが注がれる。
店主「にしても兄ちゃん、すげぇ動きだったな。」
マリア「なにかしたんですか?」
クロノ「食い逃げ捕まえたの。」
店主「すれ違いざまに首掴んで投げるなんざ相当戦い慣れてるだろうよ。あんた、名前はなんて言うんだい?」
クロノ「名前?」
本名は名乗れないが…
(俺自身が名乗ったことを忘れないような名前は…)
クロノ「ヒールだ。」
店主「分かる、あんたかなりの使い手だよ。ここで20年強者を見てきた俺には分かる。」
マリア「結構昔からなんですね。私がまだ子供の時からですか。」
クロノ「俺はちょうど20だからちょうど生まれた時期だな。」
マリア「えっ⁉︎クロn…」
クロノ「おっと‼︎」
手が滑ってジョッキを落としてしまった。
店主「あーららら。大丈夫か?せっかくのカラムが勿体無ぇ。」
幸い、服は濡れていない。
この酒はカラムと言うらしい。
クロノ「悪い…おかわりもらえるか?こっちはちゃんと金払うよ。」
店主「はいよ。」
実際は手が滑ったのではなく、滑らせたのだが。
クロノ「頼むぜ…」
マリア「すみません…」
小声でマリアに言う。
店主「ほらよ。そんで、あんた闘技大会に出るのかい?」
クロノ「まぁな。初出場だから、前座にも出るし。」
店主「ほっほーう。だが初出場で、しかも20歳ってんなら優勝を目指そうっつってもなかなか難しいだろうな。何せ決闘ってのは経験がモノを言う世界だ。まだ若いあんたは苦労するかもしれねぇな。」
クロノ「まぁ優勝が目当てではねぇしな。」
店主「あんたは結構いいところまでいくと思うよ。」
クロノ「ま、頑張るよ。」
ジョッキに口をつける。
店主「そういや、あんた前座に出るんだろ?どんな魔獣と戦うか知ってるのか?」
クロノ「いや?全然?」
店主「知っておいた方がいいぞ?」
クロノ「そんなに?」
マリア「前座はですね、人と魔獣が戦うのですが、どの人とどの魔獣が戦うかは、その時にならないと分からない上に、組み合わせはくじで決められるんです。」
店主「だから、何と当たってもいいように対策しといた方がいいんだよ。」
クロノ「どんなのがいんの?」
マリア「毎年ちょっとずつ違いますからね〜。私が見たときは1番ヤバイのでリッパボですかね〜。」
店主「あれはもはや事故だよ。」
クロノ「リッパボって?」
店主「知らないのか?」
クロノ「あんまり調べたことないからな、そういうの。」
店主「リッパボってのは、ベアーのような体のネズミの魔獣でな。ただでさえ力も強い上に、肉食なんだ。」
マリア「その時の初出場の傭兵が左腕を食べられちゃいまして。」
クロノ「うわぁ…」
店主「あれからリッパボは1度も見てないな。」
マリア「おやっさんはどうです?」
店主「俺は去年のあれだな。カラドマ。」
マリア「カラドマが出たんですか⁉︎」
店主「去年のは見てないのかい?」
マリア「去年は色々忙しくて行けなかったんですよ。」
クロノ「カラドマって?」
マリア「別名ソウルイーター。デップリとしたウルフのような見た目なんですが、顔がこんな感じに尖ってましてね。」
ジェスチャーを見る限りアリクイか何かだ。
マリア「何がヤバイって、別名の通りですね。」
クロノ「ソウルイーター?どういうこと?」
店主「食っちまうんだよ。魂を。」
クロノ「は?」
店主「初めて聞いたやつはみんなそんな顔をするよ。俺だってそんな魔獣がいるって知った時は同じ反応したもんさ。」
マリア「比喩でもなんでもなく、本当に魂を食べられるんですよ。とんがった顔の先っぽから管が伸びてきてですね。それに触れたり、後は魂喰たましいぐいの魔法を使ってきたりするんですけど、それをされると、魂を抜かれちゃうんです。」
店主「去年のは人間側が良かったから見事に倒してたけどな。」
マリア「誰だったんです?」
店主「キッドマンだったんだよ。」
マリア「あぁ〜あの人なら倒せそうですね。」
クロノ「キッドマン」
店主「この大会を初出場から5回連続で優勝した猛者だ。去年がその5回目。」
クロノ「そりゃまたすげぇな。」
店主「あいつはすげぇ。カラドマは能力だけじゃなくて運動能力も高いんだ。それなのにキッドマンはカラドマを倒しやがったんだ。」
クロノ「凄そうだけど、実際に見てみないと実感湧かねぇな。」
店主「今年も参加するだろうし、毎回前座に出てたから、今年もまた見れるだろ。出場者も観客席で見られるから見てみるといいさ。」
クロノ「そうしようかね。」


そんなこんなしてるうちにかなりの時間が来ていたようだ。
そろそろ日が変わる頃だろうか。
今日は1日がかなり短かった気がする。
店主「じゃあな。また寄ってくれよ!」
クロノ「はいはーい。」
店主と別れ、回禄の剣技場ラムラナ・リパヴォリテに戻る。
マリア「もう一軒行きます⁉︎」
クロノ「行かねーよあそこで10杯も飲んでたろうが。」
マリア「夜はこれからですのに〜。」
クロノ「俺はもう眠いんだよ。」
マリア「そういえばクロノさん、20歳だったんですね。年下ですか。」
クロノ「どした?」
マリア「え?いえ、意外だなって。」
クロノ「そうか?」
マリア「そのなんでも余裕そうな感じというか、達観してるみたいな感じが30歳あたりを思わせるんですよね。こう…いい年したカッコいい若いおじ様…みたいな?」
クロノ「あぁ〜いいね〜。あれだろ?あごひげがカッコいい感じの…」
マリア「そうそう!声がシブくて!」
クロノ「マリアって年上好き?」
マリア「えっと…はい!年上ですね!はい!」
その『間』はなんなんだと。

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