ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その6・"A good guy"

[クロノ]
クロノ「おーい、ハインツー。」
イリヴィの館内を歩いていたらハインツに出くわした。
俺が剣を刺した右手の怪我はもう塞がっているようだ。さすが魔族。
ハインツ「あぁ、君か。」
クロノ「悪いな、昨日は。怪我はもう大丈夫っぽいが。」
ハインツ「いいんだよ。イリヴィ様からの命令だったからね。むしろ、こっちが謝りたいくらいだ。侵入者とはいえ、君は仲間を助けに来たんだ。どちらかというと、悪いのは僕らさ。」
クロノ「そ。」
ハインツ「それで?何の用だい?てっきりもう帰ったのかと思っていたよ。」
クロノ「あぁ。」
特に用もなく歩いていたわけじゃない。
クロノ「イリヴィの部屋まで案内してくんない?場所分かんなくてさ。」
ハインツ「部屋って、君昨日1人で行けたろう?」
クロノ「あんたと出会った場所からなら行けるさ。ここが屋敷のどの辺なのか分からないの。」
部屋を出るときにモニカに聞けば良かったのだが何もなく知ってるつもりで出てきてしまったのだ。
ハインツ「そうか。仕方ないな、なら案内しよう。」

ハインツ「ここだよ。」
クロノ「おぉ、見覚えがある。さて…」
ドアをノックする。
イリヴィ「どうぞ。」
クロノ「失礼しまーすよ。」
イリヴィ「あなた…‼︎」
イリヴィが身構える。
クロノ「あぁ落ち着け。話があるだけだ。」
イリヴィ「話…?私に?」
クロノ「あぁ。」
イリヴィ「私は今それどころじゃないの…結局モニカが私の元を去ってしまって…」
クロノ「はぁ…」
イリヴィ「言いたいことは分かるわよ…無理やり手篭めにしようとしたくせに、でしょ?そんなの私だって分かってるわ。でも、それくらいあの人が好きなのよ、私は…」
本人は至って真面目な顔をしている。
イリヴィ「別に私からモニカを奪い返したあなたを恨むつもりはないわ。そんなのただの逆恨みだもの。でも…私の悔しいって気持ちくらいは分かってて…」
クロノ「まぁ、分からんことはないかな。俺は誰かを好きになることなんてなかった気がするから、あんたがどんくらい悔しいのかは知らんが、無念だっつーのは何となく分かる。」
イリヴィ「そう…それで、何の用なの?」
クロノ「いや、ちょっと聞きたいことがさ。何だってモニカを狙ったんだ?いくら眠らせるのが得意だったり部下が強いっつっても、あんた自身は弱いんだし相手は魔王だぞ?」
イリヴィ「恋に強い弱いは関係ないのよ。相手が強かろうが弱かろうが、自分の愛を伝えたいと思う相手かどうかが大事なの。」
クロノ「恋…ね。」
イリヴィ「女同士がそんなにいけない?」
クロノ「あぁいや、そこじゃなくて…恋っていう割にはなかなかな手段を取るなって。捕まえて洗脳とかな。」
イリヴィ「その気がない人にはしないわ。だったらその気にさせれば、大丈夫じゃない?」
クロノ「『その気になる』ことは、本人は望んでんのか?」
イリヴィ「『その気になって』しまえば見方も変わるのよ。それに、洗脳なんて言わないで。私はこちら側を教えただけ。こちら側に堕ちてくるかどうかは、教えられたその人次第なのよ?」
クロノ「無理やりやってることには変わりねぇし、いつまでもやるんだったら結局同じだろ。」
イリヴィ「えぇ。だから、1週間も耐えきった人は返すようにしてるわ。モニカも、お供の2人もあなたも、1週間経って変わらないようだったら諦めるつもりだったの。」
クロノ「その間あいつらはあの手この手で洗脳されるわけだ。」
イリヴィ「こっちだって、あの子たちの体が欲しいんだもの。」
(悪人なんだよなぁ…悪人なんだけど…悪人じゃないんだよ…)
どう判別したらいいのか分からない。
イリヴィ「でももしかしたら、モニカには意味ないのかもしれないわね。」
クロノ「どういう意味だ?」
イリヴィ「あの人、私に詠唱魔法を放ってきたの。あなたを守るって言ってね。だから、私には見向きしないんだわって気づいたの。」
クロノ「はぁ…それはまぁ、詠唱魔法放つくらいだしな…」
イリヴィ「好きな人に好きな人がいたら…さすがにできないわ。」
クロノ「モニカに好きな人がいるってこと?」
イリヴィ「………はぁ…」
イリヴィが急にため息をつく。
クロノ「なんだよ。」
イリヴィ「別に。ねぇ、こっちからも質問していいかしら?」
クロノ「あ?あぁ、どうぞ。」
イリヴィ「あなたは、私たち同性愛者をどう思うの?」
クロノ「別にどうも?」
イリヴィ「え?」
クロノ「あんたらが異性愛者だろうと両性愛者だろうと関係ない。あんたはあんた。両性愛者のあんたじゃなくて、あんたはあんたなんだ。そこから意外見るつもりはない。つもりはなくても見ちゃうけどな、見たとしても、そいつを測る材料にはしない。」
イリヴィ「ハインツのことはどうなの?」
クロノ「同じく。迫ってこない限りはな。俺はあいにくちょっと変態なだけの一般人でね。同性って言っても、こんないかにも漢なマッチョは範囲外なんだよ。だから迫られても嫌なだけだよ。嫌いなだけだ。」
イリヴィ「それは差別なんじゃないの?」
クロノ「嫌いかどうかってのと差別ってのは別次元の話、ってのが俺の持論だ。違いを分けるのは同じ次元同じレベルのものじゃないといけない。」
イリヴィ「ふーん。魔族にも人間にも、今まで会った色んな人に無かった意見ね。」
クロノ「あんたが何年生きてきたのかは知らんが、思ったより変わった思考の人間ってのはいないんだな。」
イリヴィ「そりゃまぁね。例えば、あなた魔族についてどれくらい知ってる?」
クロノ「人間に追い出されて…空っぽの世界に魔族が住み始めてそこが魔界になって…」
イリヴィ「人間の割にはなかなか知ってるわね。まぁそうなのだけど、なんで人間に追い出されたかは知ってる?」
クロノ「人間じゃないからだろ?」
イリヴィ「じゃあなんで人間じゃないから?」
クロノ「見た目だけでも人間からしたら化け物と大差ないわけだし、自分達を襲ってくるかもしれんしな。」
イリヴィ「確かに魔族に荒っぽい性格は多いけど、人間だって似たようなものよ。魔族に平和を望んだり、義を愛する者だっている。でも人間はそれを知らなかった。そんな魔族がいることを知らなかった。」
クロノ「なるほど。知識がなけりゃ、見方なんて一個しか生まれんわな。」
イリヴィ「そういうことよ。魔族も人間も。だから、あなたみたいに他人と違った見方をする人間ってのは不思議だし、なかなか存在しないのよ。」
クロノ「俺が喧嘩嫌いってのもあるだろうけど、俺がそういう風になってるのは厨二病なのと精神イかれたからってのがあるんだろうよ。」
イリヴィ「喧嘩嫌い?」
クロノ「喧嘩っつーか争い?やるときゃやるさ。じゃないと嫌い嫌い言う前に殺されるからな。でもできればやりたくない。だから争った後も、なるべくこうやって話し合いしてお互いの意見交換して、後腐れをなるべく減らそうってなわけよ。」
イリヴィ「それも、今までにないことね。そういう意味では、確かにあなたはイかれてるわね。狂ってる。」
クロノ「だろ?でも狂わない条件が平和を嫌うことだってんなら、俺は狂人にでもサイコパスでもなんにでもなってやるよ。俺は、そういう人間だ。」
イリヴィ「何があなたをそうさせたのかしらね。」
クロノ「ガキの頃にいじめられてたことがあってな。物を盗まれたり、靴の中に砂を入れられたり。魔族から見たら緩いものかもしれんが、子供には十分心を苦しめることだ。普通なら、人を嫌うようになったり、疑心暗鬼になったり…歪んだ人間になるだろうよ。でも俺は、幸い、厨二病だったんだ。それに加えて、ゲームとアニメが大好きなオタクだったんだ。自分が嫌われていようと、死ぬほど嫌なことがあろうと、この世に未練が死ぬほど残ってる。やりたいゲームもある、見たいアニメがある、読みたいマンガがある、そして何よりも、人から好かれたかった。いじめられたくなかった。その為に、徹底的に『良い人』になってやろうと思った。誰も俺のことなんか嫌いと言えなくなるような、めちゃくちゃ最高な聖人になりたいと思った。まぁ結局は?どこで狂ったのか、悪いやつはみんな死んでしまえっつー変な考えに至ったけどな。自分は聖人にはなれないけど、なれそうな奴はどっかにいるからそいつに任せて、俺は悪人に徹して聖人の真似事をしようってなっちゃったし。」
イリヴィ「そう思えるってことは、変えられるんじゃないの?」
クロノ「無理だな。あといやだ。今のこの考えが俺にとって最善のものだって思ってるわけだし。」
イリヴィ「じゃあむかし思った『良い人』になりたいっていうのは…」
クロノ「その考え自体は消えてない。今でも目指してる。それも最善の1つだと思ってる。でも、人を殺すのに後悔も遠慮もないようなヤツに、なる資格はないんだよ。それが、世間様の意見だ。俺は俺の事を『良い人』だと思う。なんせこんなでも人助けしてるからな。でも、人殺しに感情を抱かない殺人兵器キリングマシーンなんだ。そんなやつを『良い人』だなんて誰も呼びたくないのさ。『良い人』になるっつー目標は、一応達成だぜ?次は自分が『良い人』であるのを世間様に伝えることが目標かね。こっちは達成する気はないが。」
イリヴィ「さっきから矛盾ばっかりね。結局どうなりたいの?」
クロノ「知らね。なるもんになるさ。その結果を受け入れて後悔してやろうかなって腹づもりさ。」
イリヴィ「やっぱイかれてる。」
クロノ「ありがとう。それじゃ、そろそろ帰るよ。」
イリヴィ「最後に一つ聞いていい?」
クロノ「なに?」
イリヴィ「私が今ここで、睡眠霧を使うとは考えなかったの?」
クロノ「あぁ。俺が眠る直前にモニカ達だけでも助けてくれって言った時、あんた目を丸くしてたからな。きっと俺の覚悟に惚れてくれたんじゃないかなって賭けてたのさ。」
イリヴィ「なにそれ。」
クロノ「あらー、どうやら違うっぽい?」

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