ヒーローアフターヒール(リメイク連載中)

手頃羊

その2・Proposal

[クロノ]
クロノ「とまぁ、これがバイクの乗り心地だ。」
ミランダの案内に従って魔王城に着く。
魔王城はどこかの町の中にあるわけではなく、荒野にデデンと建っていた。
ミランダ「う〜ん、私は速い乗り物苦手かも…」
クロノ「なんだ酔ったのか?」
ミランダ「そうじゃないんだけど…なんかこう…つまらないというか…」
速い車に乗っててつまらないってことは合わないんだろうな。

魔王城の門の前に来る。
門番「ミランダ様!ようこそいらっしゃいました!そちらは…?」
門番はまさに悪魔というか某横スクロールアクションのパンイチの騎士様の悪魔みたいな見た目だ。
ミランダ「私の連れよ。開けてくれるかしら?」
門番「えぇ、どうぞ。」
門番が門を開ける。
門の向こう側もどこか禍々しい雰囲気を漂わせた装飾が並んでいる。
クロノ「うへぇ…これ誰が作ったの…?」
馬に乗った悪魔の風貌の騎士が誰かを突き刺した槍を持ち上げている。
ミランダ「さぁ?初代魔王じゃないの?」
クロノ「悪趣味だなぁ…」
ミランダ「わかる?華やかさが足りないのよねぇ。もっとキラキラした物にすべきじゃない?」
クロノ「モニカも同じ趣味だってことか?」
ミランダ「あの子はセンスがないのよ。」
まさか姉妹の仲が微妙によくないのそれが原因じゃねぇだろうな。

城の門の前に来る。
象が縦に2,3体重なったような高さの門だ。
門が勝手に開いた。
中からはまさにメイドというようなロングスカートの女性が出てきた。
ミランダ「久しぶりステラ。」
ステラ「お久しぶりでごさいますミランダ様、クロノ様。」
クロノ「あぁ、久しぶり。」
モニカの専属のメイドであるステラという女性だ。
200年も仕えているらしい。
ステラ「モニカ様の所までご案内します。」

魔王城の階段を上っていく。
この城、横はそんなにないくせに縦に長いから面倒だ。
ステラ「お噂は魔界にまで届いております。レギオンを討伐なさったとか。」
クロノ「あぁ〜、そこまで噂いってるのか。」
ステラ「ドラゴンスレイヤーのハゼット・ローウェル様をも超える男だというお話も聞きました。」
クロノ「いや、それは言い過ぎだし、倒したのは俺じゃないんだってば。」
ステラ「おや、そうなのですか?」
クロノ「俺はあくまで奴の弱点見つけただけなのよ。」
ステラ「それでもすごい活躍だと思います。ご謙遜なさることはないのでは?」
クロノ「謙遜っつーか…まぁ…」
ミランダ「褒められるのに慣れてないんでしょ?」
ステラ「あ〜。」
クロノ「アホいえ。」
ミランダ「心まで童貞なんだから私には見え見えよ。」
ステラ「この調子ですと一生童貞なのでは?」
クロノ「おい。」
ミランダ「でもこの子好きな子って多いの。」
ステラ「まさか修羅場をお望みなのですか?私は見る側が好きなのですがまさかなる側が好きな方がおられるとは…」
クロノ「いや、待てって。」
ステラ「しかしそれは困りましたね。」
ミランダ「どうしたの?」
ステラ「いえ、魔王様が…」
クロノ「ちょっと待ちなさいって。」
ミランダ「何よぅ。」
ステラ「良いところでしたのに…」
クロノ「何がだよ、俺がいじられまくりじゃん。」
ステラ「申し訳ございません。クロノ様はどうもいじり甲斐があると言いますか…」
ミランダ「そうよねー。M気質な子って、いじると反応が返っても返ってこなくても楽しくなっちゃうのよねー。」
ステラ「なるほど。だからですか。」
クロノ「誰がMだ誰が。」
ステラ「ご安心を。モニカ様はS系の方ですので。」
クロノ「何も安心できねぇよ!」
ミランダ「どう?」
ステラ「難しいかもわかりませんね。」
クロノ「だから何の話なんだよ!」
ステラってこんな人だったっけ…。

大きな門の前に着く。
ステラ「こちらでございます。」
ステラが門を開ける。
中は以前来た時と同じように大きな広間に出る。
その奥に椅子。
その椅子に現魔王、モニカ・カム・スティフィールが座っている。
モニカ「久しぶりね、クロノ。」
モニカが立ち上がる。
クロノ「おう、久しぶり。こんな風にマトモに会えて嬉しいぜ。」
モニカ「そう。良かったわね。」
クロノ「そっちは?どう?」
モニカ「まぁ順調ね。」
クロノ「そ。俺は人間だが、なんかあったら助けに行くぞ?」
モニカ「それはいいけど…その…」
クロノ「ん?どうした?」
モニカ「あなたも、特に用がなくてもここに来ていいのよ…?」
クロノ「あぁ、ありがとう。まぁそんな気軽に門超えていいもんなのかは知らんが。」
モニカ「うっ、そうね…」
ミランダ「モニカ、あなた『あの事』言ってみたら?」
モニカ「あなたは黙ってなさいよ!」
クロノ「あの事って?」
モニカ「えっと…そのあなたには関係ないことだけど…」
クロノ「相談だったら乗るぜ?なんかあったのか?」
モニカ「そう…じゃあその…これのことなんだけど…」
モニカが手紙を見せる。
ピンクの便箋の中には白い紙が入っている。
クロノ「これは?」
モニカ「あぁ、外の世界の住人は私たちの字は読めないわね。」
モニカ、ステラの2人はここであった事件で俺が異世界から来たことを知っている。
モニカ「魔界の各地を治める領主の1人に、薔薇の女王と呼ばれる女がいるの。名はイリヴィ・テスカトレ。ヴァンパイア。とてつもない同性愛主義者よ。」
クロノ「はい?」
モニカ「そのまんまよ。男同士女同士が好きだっていうの。見るのも混じるのもね。」
クロノ「こんなこと言うのもなんだけどさ、サキュバスもそんなもんじゃないの?」
ミランダ「それは偏見よ。」
モニカ「私は男以外とはしようとは思わないわ。」
ミランダ「私は愛さえあれば誰でもいいの。」
クロノ「サキュバスにも色々あるんだなー。」
モニカ「でもこのイリヴィは別格よ。この女、誰でもいいんじゃなくて、男同士女同士以外だけを好むの。男と女ってのは好かないの。」
クロノ「ほんとに別格だな…」
モニカ「それでね、自分が気に入った者にはこうやって手紙を送って自分の屋敷に招待するの。というより、求婚ね。」
クロノ「プロポーズか。」
モニカ「来た奴はそのまま監禁。来なかったら拉致されて監禁。」
クロノ「ってことは…」
モニカ「そのうち私の所にも来るでしょうね…」
クロノ「そいつはヤバイな…魔王のあんたにもわざわざ送ってくるってことはあんたに勝てる自信があると踏んでるっつーわけだな。」
ミランダ「私の知り合いのサキュバスが1人あいつの所に行ったのだけど、帰ってこなかったわ。」
モニカ「あなたに知り合いのサキュバスなんていたの?」
ミランダ「タナージュよ。」
モニカ「タナージュ・ハナバル?あの女が?」
ミランダ「誘われたフリをして殺しに行ってやるって言ったきりよ。」
クロノ「フラグをしっかり回収してったのか。」
モニカ「タナージュがやられたなら相当の腕前なはず…」
クロノ「タナージュって人強いの?」
モニカ「魔王の座を争った1人よ。」
クロノ「殺し合いの生き残りってこと?」
モニカ「あの殺し合いに生き残ったのは私とタナージュとあと1人名前も知らないトロールの男の3人。」
クロノ「何人争ったの?」
モニカ「さぁ?ざっと50人ってところかしら?」
クロノ「あんたはその50人のトップと…」
モニカ「強さを誇るとかそういうのはどうでもいいの。魔界と人間界のいがみ合いを少しでも鎮めないと…。大戦争なんかになったら嫌よ。会いたい人にも会えない。やりたいこともやれない。食べたいものも食べられない。戦争に勝つために兵士の支援しなきゃいけないから関係ない者に飢えと退屈と恐怖を強いらなければならない。戦争が好きだって奴は別にいいわ。好きなんだもの、飽きないでしょ。そうでない人にとって戦争ってのは百害あって一利どころかマイナスよ。」
クロノ「ま、俺も戦争よりは戦争ゲームの方が好きだしね。戦争はごっこ遊びが1番楽しいんだ。」
俺の世界には戦争や犯罪をテーマにしたゲームは山ほどあるが、ゲームだから許される範囲だと俺は思う。
それを現実にまで持ってこようとしなければいいだけの話で。
モニカ「その通りよ。可愛い子供達が笑顔で走り回る…。そんな光景がどれだけ微笑ましいか…」
ミランダ「それも大事だけど、今は違う話でしょ。」
モニカ「あ、あぁそうね、つい…コホン。とにかく、イリヴィは危険な奴なの。タナージュを倒したとなれば、本当に油断できないわ。私ですらタナージュに辛勝だったんだから。」
クロノ「そのイリヴィを何とかすればいいと。」
モニカ「そうだけど、まさかあなた…」
クロノ「俺が倒してこよう。あるいは、俺も協力しよう。」
ミランダ「ちょっとクロノ?」
モニカ「あなたバカなの?人間が魔族に勝てるとでも?」
クロノ「おいおい、前も言ったぜ?俺と他の人間とを同列で語るな。そいつのことはそいつとして見るべきだ。他人なんか関係ない。」
モニカ「あなたはあなたとして……確かに、キュリーを倒したあなたならもしかしたら…」
クロノ「だろ?なら契約成立だ。」
モニカ「それじゃあお願いするわ。私にできることなら何でも協力する。」
クロノ「はいよ。」
ミランダ「じゃあとりあえず今はクロノの部屋に案内したらどう?この城入ってからずっとこれだし、2人にも積もる話くらいあるでしょ?」
モニカ「そうね…ステラ、案内して。」

ステラ、ミランダと共に部屋を出て階段を降りて自分が泊まる部屋に向かう。
クロノ「イリヴィ・テスカトレ…ヴァンパイアか…」
ステラ「どうしました?」
クロノ「いや、気になってさ。キュリーってドラキュラとサキュバスのハーフだったんだよな?ってことはドラキュラって種族がいるんだ。そのドラキュラとヴァンパイアって何か違うのか?名前だけ?」
ミランダ「あなたの世界ではどうだったの?どうせいたんでしょう?ドラキュラもヴァンパイア。架空の存在で。」
クロノ「まぁ、いたけどさ…。」
ミランダに色々見透かされてきた気がする。
クロノ「違いはあった気がしたんだけど…どうだったか…」
ステラ「ドラキュラというのは、クロノ様も経験された通り、血を糧とする種族です。血以外を摂取することはありませんが、キュリー様のような他の種族との混血ならば、そうでない可能性はあります。何せドラキュラとの混血は魔族の歴史でもキュリー様が初なのです。ヴァンパイアは、血以外でも糧とできる吸血鬼です。吸血鬼という通り、当然血も糧となります。」
クロノ「つまり、ヴァンパイアはドラキュラの上位互換?」
ステラ「栄養を摂取できる範囲の広さ、という意味でならそうですが、単純な強さや魔力の話に関してはそうとは限らない、が答えです。強さは種族ではなく、個人によって違うのですから。」
クロノ「なるほど。」
ミランダ「それにしても…」
ミランダが溜息をつく。
ステラ「本当に空気の読めないヴァンパイアですね。」
クロノ「どしたのさ?モニカの悩みだって…」
ミランダ「わたしはもっと別の悩みだと思ったのに〜。」
ステラ「モニカ様もクロノ様以上に厄介ですね〜。」
クロノ「なんなのさ?」
ミランダ「いやこれはもしかして…」
ステラ「もしかして、とは…?」
2人がコソコソと話をしている。
クロノ「あのー?」
ミランダ「こうなれば…」
ステラ「ですが失敗したら…」
ミランダ「そこはクロノよ。失敗するはずがないわ。」
ステラ「なるほど。」
クロノ「なるほどじゃないよ。何勝手に納得してんのよ。」
ミランダ「クロノ、モニカの為にも絶対に成功させるのよ!」
クロノ「え?お、おう。」
一体何を考えていやがるのか…

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