乙女よ。その扉を開け

雪桃

未来を見る百目

 あさは異能者ファイルと言われるマイパソコンをボーッと眺めていた。

「今日はやけに消沈してるねあさ。
 張り合う相手がいないから?」
「ウィッグが無いからじゃないのか?」
「いや別にアンテナ代わりにウィッグをあげたわけじゃ無いから」

 長い金髪を二つに結んだあさは中々物珍しい。

「なんかこの前さ」
「うん?」
「から姉がひよにメイド服着させた写真送ってきたんだけどどうしたら良いの?」











「から姉ぇ〜あやぁ〜」

 涙声で二日ぶりの再開を喜ぶ紫に二人は安堵を見せたがそれでも首は傾げたままだ。

「ねえゆか……何でメイドさんになってんの?」

 先程から見ている膝を覆う長さのスカートに加えて肩まで伸びた黒髪をいつも通りハーフアップにするでも無くそのまま垂れ流している紫だった。

「あら可愛い……じゃなくてあなた確か捕らわれていたんじゃないの?」
「ご、護衛さんに依頼を貰ってメイド服を貸してもらったんです。
 日和お嬢様を救ってくれと」
「護衛?」
「雪村千鶴さんと真鶴さんに」
「雪村さん!?」

 叫ぶ萌乃の口を慌ててあやが塞ぐ。
 何年か勤めていた萌乃ならきっとすぐにバレてしまうだろう。

「知っているの萌乃さん?」
「わ、私と同じようにお嬢様の付き人でした。
 彼らは有能なのでそのままここに残れたのです」
(……彼ら?)
「ちづるって女の名前じゃ」
「その二人はこちらの仲間と捉えて良いのねゆか」
「うん」
「え、ちょ……から姉?」

 真由美には――紫もだが――名前に対してあまり気に止める行為をしていないことがある。

 まあ仕方が無いだろう。
 自分達が珍しいのだから。禍乱やら紫やら。

「その人達はどこに?」
「あ、えっと詳しくは聞いてないのだけれど会場内の……スパイ?」
「監視ね」

 慣れてない紫のために一緒に動こうとはしていたが護衛の仕事は避けられず紫も忙しさにかまけてこき使われていた為怪しまれはしなかった。

「確かに忙しいわね。
 少し話を聞きたかったのだけれども。
 今日のメインはやっぱりひよよね。人の心を読める能力を使って」
「あ、それだけじゃないの。
 和田家の未来も他の家の未来も見なきゃいけないらしくて……から姉?」
「未来を……見るの?」
「え? う、うん?」

 真由美の血の気が引いた。

「から姉?」
「……どこ」
「え?」
「日和はどこ!」

 静止をする暇なく真由美は会場へ走って行った。

「からね……ああもう! ゆか、行くよ!」
「は、はい!」

 走るのは目立つので早歩きにするが真由美との距離は開いてしまう。

「から姉待ってよ!」
「…………」
(ひよに未来を見せてはいけない)

 ――――ニクイ

(百目が目覚める!)











 相変わらず日本とは世界が違うような内装に感嘆するどころかあやはドン引きした。

(日本なのに……趣味悪)

 大理石の床に大きく中央に飾られたシャンデリア。
 人が多すぎてあやは危うく酔いそうになった。

「ゆか。ひよって今何してるの?」
「えっと……逃げられないように厳重警戒の部屋に」
「監禁か」

 女子中学生に何をしてるんだそいつらは。

「から姉を見つけたらひよの部屋を見つけて脱出するか。
 でもそうしたらまた脅しをかけて連れ去るの繰り返しだし」
「記憶操作は?」
「最終手段で」

 人と人の間を縫いながら真由美の姿を探す。
 いくら体型が目立ってもこんな人混みの中でそれを頼りに見つけられる訳がない。

「緑のワンピースとか多すぎだし……変装するために黒髪ボブだから目立たないし」
「あやも緋色の髪を染めてますもんね」

 目は流石にそのままだが二人に声をかけたのも一種の気配を読み取ったらしい。

「ひよの登場はいつ?」
「七時頃です」

 残り十分だ。

「公の場で異能なんて使って外に逃げ出されたら私の記憶も追いつかないよ」

 だからと言って今から和田家の精鋭部隊にあや一人――異能を使えない紫は到底戦わせられない――で向かったら最悪全てを放火する以外手段が無い。

「……ひよが無事ならまずはから姉を優先しよう。
 離れないでね萌乃さん。
 から姉の姿を見つけたら教えて」
「は、はい!」

 紫はメイドとして怪しまれないように少し離れる。

(それにしてもから姉があんなに取り乱すなんて珍しいな。
 銃口向けられても平然としてるのに)

 グチュ――――

 何か嫌な物を踏んであやは人知れず鳥肌を立たせた。

(絶対やばい!
 見たくない見たくないぃぃぃ………はあ)

 そのままじっとしてても仕方が無い。
 あやは恐る恐る右足を上げてみた。

「……目?」

 視線の先にあったものは潰れた――潰した?――一つの目だった。

「おい。なんだこれ」

 声のする方に目線を上げると辺り一面に眼球が蠢いている。

「きゃあぁぁぁぁぁ!!」

 悲鳴があがり、それを機に部屋中が動揺で満ちた。

「は、秦さん……」
「ひよ?」

 何故――暴走している?

「……から姉。から姉!」

 こんないさかい止められる訳が――真由美でなければ無理だ。

(ひよ……どこにいるの?)

 時刻を見ると七時丁度。
 会場にはいるはずだ。

「……秦さん。あれ」

 萌乃が指差す方向には――――

「ひよ?」

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