乙女よ。その扉を開け

雪桃

初日の成果

 文化祭初日。

 この日は内部公開であり、家族のみ来れる日である。
 真由美とひよは二日目に来るらしい。

「フェリス!」
「ン? ……monster!!」
「違う違う紫!」
「ユカリ?」

 昨日の夜、里奈に出来る限りフェリスといるよう言われたのだ。

 紫がくっつけば異能も使えない――元よりフェリスを異能者と断言した訳では無いが。

「ユカリ……monster?」
「あ、えっとお化け屋敷……ゴースト」

 お化けと言うよりゾンビだが。

 特殊メイクの出来るものを買ってきてあたかも頭を撃ち抜かれ目を抉り取られ全身血だらけの娘になっている。

「コワイ……」
「あはは……」

 自身で見ても怖かった。
 里奈が点呼に来た時カオス状態の教室を見て小さく悲鳴を上げていたのも無理はない。

「来てねフェリス。レッツカムイ……」
「NO! イヤ!!」

 本気で嫌がられた。
 そのまま逃げられてしまう。

(あれ……やりすぎた?)

 少し申し訳なく思っているとメールが来た。

 《あさの所に集合》

(来るなって言ってたけど大丈夫かな)

 とりあえず二階に行ってみるとあやとやまが階段の前に立っていた。

「お待たせしまし……」
「化け物!!」
「違います!」

 危うくやまに殴られそうになったが何とか免れた。

「またどうしてあさのクラスへ?」
「面白いもの見せてあげる」

 くっくっとあやは笑う。
 あさのクラスは始まったばかりなのに繁盛してるようだ。

「喫茶ですか?」
「しー。気づかれたらまずいの」
「こんな赤い髪をしてて目立たない方が可笑しいと思うけどねぇ?」

 ガシ!と音がしてあさはあやの頭を鷲掴んだ。

「いててててて死ぬ死ぬ!」
「来んなっつったでしょうが!」
「……部室じゃないのに全員揃ったね」

 後ろにはまさとしんもいた。
 それより紫はあさのその姿に目を奪われた。

 腰まである金髪を二つに束ね、ピンクのフリルたっぷりな腿半分までしか丈のないメイド服にネコミミ。

「ネコミミメイド……」
「やめろ言うな恥ずかし……誰だお前!!」
「紫です」
「食欲失せるよねこんなの見せられたら」

 好きでこんな格好してるわけじゃない。
 そう言ったらあさも同意してきた。
 似合うのだけれども。

「まあ来ちゃったんなら入れてあげるけど……せめてどうにかなんないゆか?」
「うーん……あ、じゃあ」

 左目から取れかけていた義眼――勿論特殊メイクである――をブチリと引き抜く。

「これで良いですか……」
「グロイわ!!」

 結局紫は入れてもらえなかった。









『時間空いてるなら深雪ちゃんの所行ってきて』

 そう指示を出されて紫は演劇部の控え室に来た。

「失礼します。間先輩いらっしゃいますか?」
「ん、俺? ……化け物!!」
「紫です」

 もうツッコむことに疲れた紫は軽く名前を言っただけでそれ以上の追求はさせなかった。

「ネックレスは?」
「今日は作りもん。
 本当は二日ともだったんだけどやっぱり事もあれだしな。
 主役は宝石を身に付けることの喜びのせいで偽物を付けさせるわけにもいかねーし」

 はあ。と深雪は大きく溜息を吐く。

「それで。お前らはなんか進展あったの?」
「いえ特には……このままだとやはり現行犯になるかと」
「厚かましいけど出来れば早く見つけて欲しい。
 主役の奴はこの日の為に汗水流して練習してきた。他も皆。
 頼んだぞ探偵部」
「……はい」

 調査の時に練習風景を見ていた紫も劇を壊したくないのは同じことだ。

「お忙しい所ありがとうございました。
 では頑張って……」

 目の前が一瞬光り足元がふらついた。

「?」
「おい……おい大丈夫か?」

 急によろける紫を深雪は慌てて支えた。

「あ、ごめんなさい。この頃よくあるんです」
「……疲労でバテてるんじゃないか?
 頼んだと言っても無理すんなよ。
 後輩倒れさせたら秦に何されるか」
「き、気を付けます」

 再度会釈をして紫は退散した。



「明日になったら玩具が帰ってくるわ……」

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