乙女よ。その扉を開け
運動会前日にちょっとした謎
それから一週間後。
今日は待ちに待った
「運動会だ――!!」
「煩い」
腹の奥底から出したようなあやの声をあさがビシリと頭を叩いて制す。
「何よあさ。あ、まさか私に勝てないから色々ハンデを付けようと?」
「バカ言うんじゃないわよ。私があんたに負けたことなんて無いでしょ」
「勝ったことも無いよ」
「何ですって!?」
「やんの?」
大人しくなったと思ったら逆戻りである。
久し振りに二人が喧嘩をしようと臨戦態勢に入ろうとすると何かが割って入ってきた。
「本番前に怪我すんなよお前ら」
「ていうか二人とも同じチームだよね?」
桜高体育祭は学年を全てごちゃ混ぜにしてクジで赤白チーム決めをするのである。
丁度探偵部は四と三に分かれた。
「私とあさとまさが赤。しんとやまとゆかとひなが白ってわけね」
「分かってて何で喧嘩し始めようとしたんだよ」
「「愚問過ぎて話にならん」」
つまり何がなんだろうと喧嘩したいらしい。
勿論紫には勝てないがマフィアに対抗し、探偵として働くことができるように全員それなりの運動神経は兼ね備えている。
異能を使わなくても非異能者に勝てるくらいには。
「三対四って私達不利じゃない? こっちまさだけだし」
「僕ディスられてるの?」
「半々?」
一応まさも異能を使わずに体力温存をした為、眠気は無いらしい。
「それに三対四でも無いしね」
「そのメロンパンは何個目?」
「まだ三個よ」
まだ?
「ひな。どういう意味よ」
「一人出場しないでしょ」
雛子が指差す先にはジャージを着てうずくまり里奈に宥められている紫がいた。
「健康体なのにね」
「片目眼帯してるけどね」
「仕方ないよ。世間一般からすれば病み上がりだしまた怪我してるし」
今日丸一日紫は大好きなスポーツを控えて応援に徹さなければならないのだ。
それが紫にとって苦痛だと言うことは言わずもがなだろう。
「片目だけじゃもしかしたらまた怪我しちゃうかもしれないからね? 今日はお休み。それに仕事もあるでしょ」
「むう〜」
あやに頬を突っつかれて紫は変な呻き声を出した。
――三日前。
相変わらずのように探偵部が放課後部室でまったりしていると天井から何かが降ってきた。
「蜘蛛だ」
「ですね」
別に虫にはビビらない人達である。
「何故?」
蜘蛛がどこにも生息することは分かっている為、天井に貼り付いてても気にはしないが――
「落ちてくるなんて不吉ね。何かの予兆かしら」
「何かって?」
「ゆかの片目が治らないとか?」
「シャレにならないこと言わないでください」
傷が酷すぎて未だ抉られた片目が治らないのだ。
「じゃあ依頼とか?」
「不吉なの?」
面倒らしい。探偵部の意味とは。
そんなことを紫が蜘蛛を手に乗せて転がしながら思っていると
(ちょっと大きくなった?)
小指の爪サイズだったのが掌半分の大きさになり、掌サイズになり両手に収まらなくなり
「成長が早いんですね」
「違うから!」
順応力が高すぎるのも問題だった。
あやがひっぺがし、机に置くと蜘蛛は風船のように萎んだ。
「「「……」」」
再度手に乗せると膨らんだ。
机に置くと萎んだ。
「よし捨てよう」
「なんでですか!?」
窓に投げようとしたあやを紫が止める。
「なんでってなんかやばいから?」
「どういう意味ですかそれ。せめて探偵社に持って帰りましょうよ」
「社長蜘蛛苦手」
「それでもです!」
取り上げて守る。と、そんなことしたら――
「ああ分かった分かった! だから抱き締めないで大きくなってきてるから!」
紫とあやだけでなく他が触れても膨れる為、ビニール袋に入れて持って帰ることにした。
「……くも」
「里奈、帰って早々気絶しないで」
真由美が手に乗せているせいでチワワサイズにまで膨れ上がってしまった蜘蛛を見て里奈は顔を蒼白にして後ろに倒れ込みそうになった。
「から姉その蜘蛛落としてよ。存在感凄すぎて気が散る」
「な、なんでここに」
「ゆか」
「ゆかぁ!!」
拳骨が紫の頭に降ってきた。
「うぅ。だって不思議じゃないですか。人の手に乗ると大きくなる蜘蛛なんて」
「不思議だけど! 確かにそうだけど!」
全員の筆箱に入っているペンをタワーにして蜘蛛を入れ込んだ。籠の代わり?
「で、何か分かるの社長?」
真由美に説得されていくらか落ち着いてきた里奈にあさが聞く。
「え、えっとこの子はどこから持ってきたの?」
「部室の天井から落ちてきた」
「あなた達以外に触れて膨れた?」
「さあ? あなた達以外って?」
「非異能者」
何が違うのだろうか。
「今度非異能者。恵子さんにでも触らせてみて欲しいけど多分この蜘蛛異能者ね」
「……へ? 」
異能者は人間だけでは無かったのか。
「いや人間だけよ? “者”って言ってるんだから。これは呪いによる擬態化じゃないかしら」
「擬態化?」
異能者特有で人間では無い生物に擬態してしまう呪いがあるらしい。
その場合、魔力に触れると膨大し、離すと縮小する。
「でもこれは非異能者には通じないからもし同じ反応ならまた違う特殊能力でしょうけど。
……こっちに来ようものなら刺すわよ」
ペンタワーから出てきた蜘蛛に威嚇するように里奈はナイフを近づけた。
翌日、真由美がひよのお見舞い――紫のような治癒能力は無いのでまだ意識は戻っていない――ついでに事情を話して恵子に触ってもらったが何ら変わりは無かったため、里奈の予想通りにいった。
「この呪いってどうすれば解けるんですか?」
「一定の時間大量の魔力を身に浴びていれば自然と解けるわ。これだけじゃ足りないけど」
「じゃあどうすんの?」
「あら。もうすぐ魔力が多くなる日が来るじゃない」
非異能者にも微量ながら魔力はある。
ということは
「体育祭がチャンスよ」
今日は待ちに待った
「運動会だ――!!」
「煩い」
腹の奥底から出したようなあやの声をあさがビシリと頭を叩いて制す。
「何よあさ。あ、まさか私に勝てないから色々ハンデを付けようと?」
「バカ言うんじゃないわよ。私があんたに負けたことなんて無いでしょ」
「勝ったことも無いよ」
「何ですって!?」
「やんの?」
大人しくなったと思ったら逆戻りである。
久し振りに二人が喧嘩をしようと臨戦態勢に入ろうとすると何かが割って入ってきた。
「本番前に怪我すんなよお前ら」
「ていうか二人とも同じチームだよね?」
桜高体育祭は学年を全てごちゃ混ぜにしてクジで赤白チーム決めをするのである。
丁度探偵部は四と三に分かれた。
「私とあさとまさが赤。しんとやまとゆかとひなが白ってわけね」
「分かってて何で喧嘩し始めようとしたんだよ」
「「愚問過ぎて話にならん」」
つまり何がなんだろうと喧嘩したいらしい。
勿論紫には勝てないがマフィアに対抗し、探偵として働くことができるように全員それなりの運動神経は兼ね備えている。
異能を使わなくても非異能者に勝てるくらいには。
「三対四って私達不利じゃない? こっちまさだけだし」
「僕ディスられてるの?」
「半々?」
一応まさも異能を使わずに体力温存をした為、眠気は無いらしい。
「それに三対四でも無いしね」
「そのメロンパンは何個目?」
「まだ三個よ」
まだ?
「ひな。どういう意味よ」
「一人出場しないでしょ」
雛子が指差す先にはジャージを着てうずくまり里奈に宥められている紫がいた。
「健康体なのにね」
「片目眼帯してるけどね」
「仕方ないよ。世間一般からすれば病み上がりだしまた怪我してるし」
今日丸一日紫は大好きなスポーツを控えて応援に徹さなければならないのだ。
それが紫にとって苦痛だと言うことは言わずもがなだろう。
「片目だけじゃもしかしたらまた怪我しちゃうかもしれないからね? 今日はお休み。それに仕事もあるでしょ」
「むう〜」
あやに頬を突っつかれて紫は変な呻き声を出した。
――三日前。
相変わらずのように探偵部が放課後部室でまったりしていると天井から何かが降ってきた。
「蜘蛛だ」
「ですね」
別に虫にはビビらない人達である。
「何故?」
蜘蛛がどこにも生息することは分かっている為、天井に貼り付いてても気にはしないが――
「落ちてくるなんて不吉ね。何かの予兆かしら」
「何かって?」
「ゆかの片目が治らないとか?」
「シャレにならないこと言わないでください」
傷が酷すぎて未だ抉られた片目が治らないのだ。
「じゃあ依頼とか?」
「不吉なの?」
面倒らしい。探偵部の意味とは。
そんなことを紫が蜘蛛を手に乗せて転がしながら思っていると
(ちょっと大きくなった?)
小指の爪サイズだったのが掌半分の大きさになり、掌サイズになり両手に収まらなくなり
「成長が早いんですね」
「違うから!」
順応力が高すぎるのも問題だった。
あやがひっぺがし、机に置くと蜘蛛は風船のように萎んだ。
「「「……」」」
再度手に乗せると膨らんだ。
机に置くと萎んだ。
「よし捨てよう」
「なんでですか!?」
窓に投げようとしたあやを紫が止める。
「なんでってなんかやばいから?」
「どういう意味ですかそれ。せめて探偵社に持って帰りましょうよ」
「社長蜘蛛苦手」
「それでもです!」
取り上げて守る。と、そんなことしたら――
「ああ分かった分かった! だから抱き締めないで大きくなってきてるから!」
紫とあやだけでなく他が触れても膨れる為、ビニール袋に入れて持って帰ることにした。
「……くも」
「里奈、帰って早々気絶しないで」
真由美が手に乗せているせいでチワワサイズにまで膨れ上がってしまった蜘蛛を見て里奈は顔を蒼白にして後ろに倒れ込みそうになった。
「から姉その蜘蛛落としてよ。存在感凄すぎて気が散る」
「な、なんでここに」
「ゆか」
「ゆかぁ!!」
拳骨が紫の頭に降ってきた。
「うぅ。だって不思議じゃないですか。人の手に乗ると大きくなる蜘蛛なんて」
「不思議だけど! 確かにそうだけど!」
全員の筆箱に入っているペンをタワーにして蜘蛛を入れ込んだ。籠の代わり?
「で、何か分かるの社長?」
真由美に説得されていくらか落ち着いてきた里奈にあさが聞く。
「え、えっとこの子はどこから持ってきたの?」
「部室の天井から落ちてきた」
「あなた達以外に触れて膨れた?」
「さあ? あなた達以外って?」
「非異能者」
何が違うのだろうか。
「今度非異能者。恵子さんにでも触らせてみて欲しいけど多分この蜘蛛異能者ね」
「……へ? 」
異能者は人間だけでは無かったのか。
「いや人間だけよ? “者”って言ってるんだから。これは呪いによる擬態化じゃないかしら」
「擬態化?」
異能者特有で人間では無い生物に擬態してしまう呪いがあるらしい。
その場合、魔力に触れると膨大し、離すと縮小する。
「でもこれは非異能者には通じないからもし同じ反応ならまた違う特殊能力でしょうけど。
……こっちに来ようものなら刺すわよ」
ペンタワーから出てきた蜘蛛に威嚇するように里奈はナイフを近づけた。
翌日、真由美がひよのお見舞い――紫のような治癒能力は無いのでまだ意識は戻っていない――ついでに事情を話して恵子に触ってもらったが何ら変わりは無かったため、里奈の予想通りにいった。
「この呪いってどうすれば解けるんですか?」
「一定の時間大量の魔力を身に浴びていれば自然と解けるわ。これだけじゃ足りないけど」
「じゃあどうすんの?」
「あら。もうすぐ魔力が多くなる日が来るじゃない」
非異能者にも微量ながら魔力はある。
ということは
「体育祭がチャンスよ」
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