乙女よ。その扉を開け

雪桃

しりとり対決とくーちゃんの正体

「ところでくーちゃんは見つかったの?」
『いいえ。分かりやすい所にはいるんですけど教師の方々が見回っていまして』
「から姉は?」
『気配はあるんだけどね。中々見つからない』
「鬼って蜘蛛食べる?」
『食べたくない』

 食えるんかい。

 騎馬戦は長期戦耐久の為、次のリレーの招集は少し遅れる。

「確か次は赤対白のリレーですよね」
「そだね。でもこれは出ないよ」

 この後の学年対抗に二人は出るらしい。

 赤白で分かれているのに何故学年で争うのかは理解できないが。

「というわけで暇になるからしりとりしてよっか」
「どういうわけで?」

 そういえば初めて会った時もしりとりをしていた。趣味なのだろうか。

「まあ良いですけど。りんご」
「ゴア」(インド西部の州)
「雨」
「メーア」(オランダの物理学者)
「もう嫌です」
「何故!?」

 知識の差を見せられているようで精神的に辛かったようだ。

「えーじゃああさやろう」
「ついでか私は」
「リー」(アメリカの軍人)
「イル」(トルコ語)
「ルー」(フランスの細菌学者)
「ウール」(毛)
「お前らやめてやれ。ゆかがパニック起こしてるから」
「慣れろ」

 エンストしている紫の頭をやまが押さえる。

 雛子がメモしていたらしく紫に渡す。調べろという意味だろう。

「頭がクラクラ」
「ゆか、戻ってこい」

 紫が目を回している間に競技が終わっていたらしい。

「よぉし走ってくるぞー」
「行ってらっしゃいあやぁ」
「まだエンストしてるんかい」

 やまに支えられていなければ危うくぶっ倒れていた。

『ゆか。くーちゃん見つけました』
「くー……くーちゃん!?」
「あ、起きた」

 別に忘れていた訳では無かったのだ。

「どこ? 行く!」
『え? 旧館の三階にいますが』
「分かった!」
「え、待て。今立ち入り禁止」

 全速力の紫はもう遥かだ。というか一瞬でどんだけ進んでんだ。

(くーちゃん!)

 空き教室に着いた紫は唖然と口を開くことになった。

 ひよもどうして良いか分からないらしい。

「……くーちゃん?」

 そこにいたのは黒く膝まである長い髪を無造作に垂れ流し、藤色の着物を羽織っている無表情の美少女。

 背丈と顔立ちからするとひよと同い年か少し下だろうか。

「その姿があなたの本当なの?」

 少女はこくりと頷いた。

「あなたの名前は?」
「……みん」
「え?」
「旻」
「みんちゃん?」

 旻がまた頷く。

 呪いをかけられた理由も帰る場所も聞かなければならないが、それは里奈を介した方が良い。

「ゆか。彼女は私達が見ておきますから戻った方が良いです。言い訳が効かなくなってしまいますよ」
「う、うん。ありがとうひよちゃん」

 紫は急いで校庭へ出た。

「あ、ゆかー。くーちゃんどうだった?」
「くーちゃんがみんちゃんになりました」
「何故に」

 説明せずに捲し立てたせいで次はあやがパンクした。

「みんちゃん?」
「蜘蛛は本当は美少女な女の子で名前をみんちゃんって言ってひよちゃんくらいの年っぽくて」
「よし、見に行こう」
「閉会式があんだろ」

 走ろうとするあやをやまが止める。

「だって結果分かってんじゃん」
「どっちが勝ったんですか?」
「白」

 まあ、あやあさコンビに勝てるわけが無いわな。

「で、そのみんって奴はどうしたんだ」
「ひよちゃんとから姉に任せました」
「なら閉会式だな」
「うぅ」

 あやの抗議も虚しく整列させられた。






 色々起こった為、今日は探偵部の営業は無しで帰ることにした。

 旻はひよ達と先に帰ったようだ。

「みんちゃん」
「あや、顔近い」

 ソファーに座っている旻を凝視しているあやを引き離す。旻は気にしている様子も無い。

「旻は姓? それとも名前?」
「名前」
「じゃあ姓は?」
「り」
「り?」

 旻が空で書き始めたので紙とペンを渡す。そこに書かれたのは李と旻だけだった。

 みん。それがあなたの本名?」

 旻が頷く。
 日本人とは何かが違うと思ったが彼女は中国人らしい。

「どうして呪いを受けたのかわかる?」

 知らない。と言うように首を振る。

「故郷はどこ?」

 同様に首を横に振った。彼女は無口で少し無表情らしい。

「それなら仕方ないわね。記憶が戻って落ち着くまではうちの従業員になってもらおうかしら」

 行く宛が無い者を引き取るのは里奈ももう慣れている。

「ところで旻ちゃんはいくつなんですか」

 旻が首を傾げる。

「年です。年齢」
「……十二」
「ひよちゃん何か嬉しそう」
「同い年どころか年の近い人だって四歳差だもんね」

 なすがままの旻の隣にひよは腰掛ける。旻の長い髪もひよは引き付けられたのだろう。

「さて。一段落着いたから仕事するわよ」
「あ、やっぱあんだ今日」

 当たり前と言って里奈はプリントの束を机の上に置いた。

 体育祭の夜。
 新しい異能者がやってきた日となった。

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