乙女よ。その扉を開け
浅葱こころ
「可愛い女の子だね〜」
背の高い女性が優しそうな目で木葉を見下ろす。だが大人に抵抗がある木葉は怯えて里奈の背後に隠れてしまった。
「あら?」
「真由美。急に話しかけたら怯えちゃうでしょうが。まだ人馴れしてないの」
真由美と呼ばれたその女性は木葉と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「初めまして。禍乱真由美と言います。お嬢ちゃんの名前は?」
「おばさん臭いのよね。こころ、挨拶できる?」
「……」
里奈に呼びかけられて木葉はハッと気づいた。こころとは自分のことだ。
「あ、阿佐ケ谷カルネ木葉です……」
「こころは?」
(あれ? あ、そっか。今こころって言われたから)
「あ、浅葱こころです……」
「?」
真由美の頭に『?』が沢山浮かんでいるように木葉には見える。
どう考えたって訝しげられてるだろう。やはり自分には人との付き合いなんて無理なのだ。木葉は泣くのを抑えながら俯く。
「……りなさん。私やっぱり孤児院戻る」
「どうして?」
「だって迷惑かけるもん。私役立たずだもん」
耐えよう。耐えよう。そう思っても目の前がぼんやり滲んでいく。
「……こころ」
「はい」
呼ばれて里奈の方へ顔をあげる。直後頭に強い衝撃が起きた。
「いぃぃたぁぁい!!!!」
「子ども相手に容赦無いね」
「あまりにもうじうじしてるから制裁を加えただけよ」
見ると里奈の右手は拳になっていた。それが振り下ろされて自分の頭に直撃したのだろう。
「よく聞きなさいこころ」
「?」
「異能者は普通の人間よりはるかに少ないわ。だから気味悪がられるしあなたのように捨てられる人もいる。家族にしても例外では無いわ。けれど私言ったわね? 逃げるも良し。進むも良し。進む決断をしたのはあなたよ。あなたが異能者としてやるべきことは化物としてずっと孤児院でうずくまってること?」
(違う。私がしたいことは)
「人助けがしたい」
里奈は微笑んだ。
「でしょう? 私も真由美も気味悪がられないで生きてきた訳では無いわ。自分が為すべきこと。それには異能が必要なの。もう一度聞くわよ」
里奈は木葉に手を差し出した。
「逃げるも良し。進むも良し。さあ。あなたはどうしたい?」
どうしたい――もう決めた。
「浅葱こころとして。獅子の憑依として。異能者として生きていきます」
里奈の手を握り締めた。自分より少し大きな手。この手はどれだけ苦しみを抱えたのだろう。
「浅葱こころ。あなたを城探偵事務所に受け入れます。これからよろしくね」
「……はい!」
楓の気配が消えていった。
(私は……死んだの?)
それにしてはやけに体が重い。揺さぶられているような感じもする。人の息遣いも聞こえる。
「やま。次は左に曲がってくださいね」
「あいよ」 
「もう少し丁寧に運べないのやま。そのままじゃあさ落ちるよ」
「誰かを抱えながら走るって結構きついことなんだぞ。体験してみろ」
「やだよ重いもん」
「あのそれあさに言ったら確実に怒られますよ?」
ごもっともだよ。これでも痩せてる方なのよ。あやぶっ飛ばす……でも体が動かないや。
ああ本当にむかつく。後でしめてやる。
後で――あ、そっか。
「……だ」
生きてるんだ――私。お兄ちゃん。私生きていくよ。あなたがどれだけ私の死を望もうが。
どれだけ憎もうが……ここが私の生きる道なのだから。
うっすらと微笑んで浅葱こころは眠りについた。
背の高い女性が優しそうな目で木葉を見下ろす。だが大人に抵抗がある木葉は怯えて里奈の背後に隠れてしまった。
「あら?」
「真由美。急に話しかけたら怯えちゃうでしょうが。まだ人馴れしてないの」
真由美と呼ばれたその女性は木葉と目線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「初めまして。禍乱真由美と言います。お嬢ちゃんの名前は?」
「おばさん臭いのよね。こころ、挨拶できる?」
「……」
里奈に呼びかけられて木葉はハッと気づいた。こころとは自分のことだ。
「あ、阿佐ケ谷カルネ木葉です……」
「こころは?」
(あれ? あ、そっか。今こころって言われたから)
「あ、浅葱こころです……」
「?」
真由美の頭に『?』が沢山浮かんでいるように木葉には見える。
どう考えたって訝しげられてるだろう。やはり自分には人との付き合いなんて無理なのだ。木葉は泣くのを抑えながら俯く。
「……りなさん。私やっぱり孤児院戻る」
「どうして?」
「だって迷惑かけるもん。私役立たずだもん」
耐えよう。耐えよう。そう思っても目の前がぼんやり滲んでいく。
「……こころ」
「はい」
呼ばれて里奈の方へ顔をあげる。直後頭に強い衝撃が起きた。
「いぃぃたぁぁい!!!!」
「子ども相手に容赦無いね」
「あまりにもうじうじしてるから制裁を加えただけよ」
見ると里奈の右手は拳になっていた。それが振り下ろされて自分の頭に直撃したのだろう。
「よく聞きなさいこころ」
「?」
「異能者は普通の人間よりはるかに少ないわ。だから気味悪がられるしあなたのように捨てられる人もいる。家族にしても例外では無いわ。けれど私言ったわね? 逃げるも良し。進むも良し。進む決断をしたのはあなたよ。あなたが異能者としてやるべきことは化物としてずっと孤児院でうずくまってること?」
(違う。私がしたいことは)
「人助けがしたい」
里奈は微笑んだ。
「でしょう? 私も真由美も気味悪がられないで生きてきた訳では無いわ。自分が為すべきこと。それには異能が必要なの。もう一度聞くわよ」
里奈は木葉に手を差し出した。
「逃げるも良し。進むも良し。さあ。あなたはどうしたい?」
どうしたい――もう決めた。
「浅葱こころとして。獅子の憑依として。異能者として生きていきます」
里奈の手を握り締めた。自分より少し大きな手。この手はどれだけ苦しみを抱えたのだろう。
「浅葱こころ。あなたを城探偵事務所に受け入れます。これからよろしくね」
「……はい!」
楓の気配が消えていった。
(私は……死んだの?)
それにしてはやけに体が重い。揺さぶられているような感じもする。人の息遣いも聞こえる。
「やま。次は左に曲がってくださいね」
「あいよ」 
「もう少し丁寧に運べないのやま。そのままじゃあさ落ちるよ」
「誰かを抱えながら走るって結構きついことなんだぞ。体験してみろ」
「やだよ重いもん」
「あのそれあさに言ったら確実に怒られますよ?」
ごもっともだよ。これでも痩せてる方なのよ。あやぶっ飛ばす……でも体が動かないや。
ああ本当にむかつく。後でしめてやる。
後で――あ、そっか。
「……だ」
生きてるんだ――私。お兄ちゃん。私生きていくよ。あなたがどれだけ私の死を望もうが。
どれだけ憎もうが……ここが私の生きる道なのだから。
うっすらと微笑んで浅葱こころは眠りについた。
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