乙女よ。その扉を開け

雪桃

幽霊怪奇事件? 前編

「探偵部。営業日月~土。時間は放課後。場所五-一。あなたの謎を解明します。なにこれ?」

 桜高一年のひいらぎゆかりはポスターを見て眉をひそめた。
 隣に立っていた友達のしんじょうひなみの顔も苦笑が混じっている。

「噂で聞いたんだけど、五人の生徒がどんな難題もさらっと解決しちゃうんだって。まあ周りからは変人の集いとか言われてるけどね」
「ふーん。それでその変な部活のポスターを見せて何がしたいの?」

 あまり興味のなさそうか紫にひなみは少し躊躇いながら口を開いた。

「その……この人達にアレを解決してもらおうと思って」
「はあ?!」

 ひなみの言葉に思わず紫は態度を悪くしてしまった。大声を出したため周囲の人も遠巻きにこちらを見てしまう。

「だ、だって本物の探偵を雇ったらお金かかっちゃうし、何より相手にしてくれないだろうし」
「だからって……この人達は変人なんでしょ? 詐欺とかそういうのじゃないの? それなら」
「変人とは失敬な」

 後ろで声がして二人は瞬発的に振り返った。
 そこには肩より少し上までの緋色の髪に同じく黒が少し混じったような緋色の大きな二重の目をした女性――制服を着ているところからすると学生だ――が目の前で不機嫌そうに睨んでいた。

「人の個性や性格を変人なんかと一緒にしてたらこの先やっていけませんぞお二方」

 いきなりお説教(?)をされた二人は訳もなく縮こまった。

「す、すいません。あの、どちら様でしょうか?」

 おずおずと紫が口を開くと女子生徒は面食らった顔をした。

「まだ言ってなかったか。ごめんごめん。私は二年一組三十二番の秦彩乃。探偵部の部長様です!」
「探偵部……あ! あの、今の聞いて」

 ひなみと紫は先程の事を思い出して思わず後ずさった。もしかしたら彩乃に今から怒られてしまうのではないか、と。

「別に良いよ慣れてるし。それより今から探偵部に行こうか。積もる話もあるんでしょうし」

 は別に気にした様子もない。むしろ二人の返事も聞かずに彩乃はそそくさと行ってしまった。

「……どうする?」
「とりあえずついて行こう」

 二人も彩乃を追いかけた。




「ロア!」(フランスの詩人)
「アイアコッカ!」(アメリカの経営者)
「かあん……あ」(中国の学者)
「はいまさの負け~」

 こころ、俊、正一のしりとり対決は三人が入ってきた途端に終わった。

「おーいお客さんだぞー」

 彩乃は紫とひなみを教室に招き入れた。

「えーっと一年生かな? 名前は?」

 真一が二人分の椅子を持ってきて座らせた。

「私は新上ひなみ。こっちは柊紫です。ポスターの前で話してたらえっと……秦先輩に声をかけられて物は試しだ的な感じで来たんですけど」
「誘拐」

 ぼそっとあさが呟いた。しかしそれをあやが逃す筈も無くとにかく睨みに睨んだ。

「それで? 何か事件があったの?」
「あ、はい。実は今変な……本当に変な事件に巻き込まれてるんです」




 それは二人の友達が経験している事だった。
 彼女の名前はしいりん
 鈴は地味系とは言わず、派手系とも言えない、普通の女子生徒である。

 ただ鈴の家は小中学校どちらも大分歩かなければ着けない所にある。だから親には用事が無い限り早く帰ってこいと小さい頃から言われていた。

 だが鈴だって年頃にもなると流石にあれこれ指図されるのは億劫だったりイライラすることだってある。
 鈴は何度か約束を破り、友達と遊んだりしていた。そんなある日、高校入学まで一週間と言ったところで事件は起きた。

 いつも通り薄暗くなった一本道を歩いていると後ろからも何やらざっざっと足音が聞こえてきた。鈴の身長は百六十センチと平均のため、普段なら少しも気にしない。だがその時は違った。

「はぁ……はぁ……」

 と、荒い息遣いが聞こえる。



「ストーカーじゃねえの?」
「話の腰をおるんじゃねえ!」

 やまの脇腹にあやは肘鉄を食らわせた。

「は、話続けますよ?」



 案の定、鈴は変質者やストーカーの類だろうと思い少し歩みを速めた。すると

「椎名……鈴」

 そう言った後、気配が消えてしまった。慌てて振り返っても、既に影も形も無い。

 その後、高校に入学してから二週間。そんな毎日が続いていた。

 それから一ヵ月。まだ続くその連鎖にいい加減痺れを切らした鈴は両親に相談して探偵を雇ってもらおうとした。だが

「そんなの信じられる訳無いだろう」
「最近の子はそういう手を使うのが好きだからね」

 鈴がどれだけ喚こうと親は聞く耳を持とうとせず泣く泣く諦めたのだった。



「……で? あなた達には何の被害があったの?」
「え? ああ。その後鈴ちゃんと家近いってこともあって私達と待ち合わせて登下校をしてたんですが。それでも椎名鈴、椎名鈴って言うし……それにこの前なんか紫の手の甲を何かがかすめて少し切れたんですよ! もう気味が悪くて仕方が無いんです! ストーカーなら見つけるのを手伝ってください。お願いします!!」

 五人の前でひなみは勢いよく頭を下げた。慌てて紫も同じ行動をとる。

「とりあえずその鈴ちゃんって子に会わせてくれない?」
「んじゃ頑張れあや」

 彩乃を抜いた四人はいつものようにくつろぎ始めてしまった。
 
「あ、あんたら……とにかく行こうか二人とも」

 三人は玄関に向かった。

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