シニガミヒロイン

山本正純

クラス希望調査ゲーム改 後編

赤城恵一が連れてこられた場所は真っ白な空間だった。そこにはラブと、クラスの代表者として選ばれた中田蒼汰と高橋空の姿もある。そして、その場所には、椅子に座らされた白井美緒の姿もあった。
おそらくこの場所で生放送動画が撮影されていたのだろうと考えながら、恵一は幼馴染の少女の元に駆け付ける。
しかし、その前にラブは彼の前に立ち塞がった。
「赤城様。まだ早いですよ。危害は加えないから安心してください」
ラブは覆面の下で微笑み、その後で手を叩く。
「各クラスの代表者が揃ったので、ゲームを始めます。今回行っていただくゲームは、クラス希望調査ゲーム改。予選で行ったゲームが帰ってきました。基本的なルールは予選でやった奴と同じ。所属したいクラスに投票するだけね。これで白井美緒さんが所属するクラスを決めようっていうわけ。クラスを選ぶのは白井さん自身。彼女が選んだクラスの代表者は脱落です。白井さんは脱落者と入れ替わる形で、選択したクラスに通うことになります」
「何が各クラスの代表者だ。それは生贄と同じじゃないか!」
無茶苦茶なゲームのルールに、赤城恵一は腹を立てた。だが、ラブは不気味に笑う。
「怒る意味が分かりませんね。このゲームが終われば、隠しヒロインが出現するかもしれないんですよ? そうなれば全てのヒロインが揃う。こんなに嬉しいことはありませんよ。それと、白井さんが新しくクラスメイトに加わったら、特別なイベントが起こります。彼女が選んだクラスでしか起きない特別なイベントです。これで少しは面白くなったでしょう?」
薄笑いを浮かべるゲームマスターは、各クラスの代表者に対し、人差し指を立てる。
「さて、代表者の皆様はご自由にどうぞ。自分のクラスを選ばないよう説得しても構いません。自らの命と引き換えに、隠しヒロイン出現させて、尚且つ特別なイベントが起きるよう仕向け、感謝されながら負けるのも一興。白井さんは制限時間3分以内に決めてくださいね。制限時間までに決めないと、この場にいる人全員死亡だから」
制限時間が過ぎるまで答えを決めなければ、この場にいる人達と死ぬ。このルールを聞いた白井美緒は、意外なことに気が付く。この場にいる人にラブが含まれるとしたら、ラブと心中できるのではないかと。
直感的にラブが死ねば真紀は助かって、デスゲーム自体を終わらせることもできるのではないかと少女は思考を巡らせた。しかし、その考えを読み取ったように、ラブは嘲笑う。
「白井さん。この部屋に爆弾か何かが仕掛けてあって、制限時間が過ぎたら爆発。それによってラブや代表者を殺すんじゃないかって予想しているみたいだけど、残念ですね。そう簡単にラブは死にません。それと、仮想空間に行けば、突然自分の目の前で拉致された幼馴染を助けることができるっていうのは、建前だよね? 本当は赤城様と一緒にいたいだけ。でも、あなたは現実世界と同じように彼と接することはできない」
「どういうこと?」
美緒からの質問に対し、ラブは頬を緩めた。
「現実世界だと、赤城様の隣にいつもいたようですね。登下校の時も。でも、それと同じことを仮想空間内でやれば、確実に赤城様は死にますよ。ヒロインとの関係を拗らせれば死ぬ。それがシニガミヒロインのルールですから。彼のことは諦めた方が身のためです。気を付けないと、目の前で幼馴染が死ぬ所を見る破目になりますよ。長話はここまでにして、ゲームスタートです。皆様の気を引き締めるため、久しぶりにアレをやるからね。見たくなかったら見なくていいよ。このゲームの結果はメールでお知らせしますし、見なかったからって殺すような無粋なマネはしませんから」
ラブはカメラに向かい説明しながら、美緒の前に置かれた机の上にある箱を取り外す。その中にはABCと書かれたボタンが入っていた。
「さあ、白井さん。好きなボタンを押してください。ボタンを押せば、ボタンに該当するクラスを選んだということになり、そのクラスの代表者が脱落します」
再度説明を受けた美緒はボタンの前で悩んだ。Aを選べば大切な幼馴染が脱落してしまう。そうなれば、元も子もないから、選択肢からは外れる。
問題はBとCのどちらを選べばいいのかということだった。白井美緒はどちらの代表者とも一度も顔を合わせたことがない。言わば初対面の関係。
脱落と死亡が同義だということを予め聞いていたためか、少女の細い腕は振動を始める。この選択に他人の命が賭けられている。そのことの恐怖に、美緒は脅えた。
すると、高橋空が椅子に座る白井美緒に近づく。
「白井さん。頼むからC組は選ばないでくれ」
高橋空は深く頭を下げる。それに続き中田蒼汰も頭を下げ、彼女に頼み込む。
「B組を選ばないでほしい。B組の学級委員は危険な奴だ。白井さんは女子だから学級委員と深く関わることになると思う。そうなったら命が幾つあっても足りない」
「それだったら、C組の方が危ない。こっちにはヤバイ奴がいるんだ。恋敵を全員惨殺するような奴。C組ではクラスメイトと距離をとらないと、命はない!」
白井美緒の目の前で、どちらのクラスが危険なのかという論争が繰り広げられる。その間、彼女は思い悩んだ。2人の話を聞けば、どちらのクラスにも危険人物がいることが分かる。最もどちらかが嘘を吐いている可能性も否定できない。
何とか着眼点を見つけられた少女の震えは止まらない。そんな彼女に、恵一はそっと近づき、彼女の右肩に優しく触れた。
「大丈夫だ」
自然と震えが消え、美緒は落ち着きを取り戻す。
「そうだよね」
幼馴染の言葉の真意を読み取った少女は、首を縦に動かした。一方でやり取りを近くで見ていたラブは失笑する。
「ごめんなさい」
そう呟いた美緒はBというボタンを押した。その結果に中田は全身を振るわせる。
「それでは、インタビューでもしましょうか? どうしてB組を選んだんですか?」
ラブは結果を受け、白井美緒に問いかける。すると、少女は理由を説明し始めた。
「クラスメイトと距離を取るなんてできないから。一番は恵一と同じクラスが良かったんだけど、それができないんだったら、私がB組の危険人物と恵一の接触を拒む存在になればいいんだって思ったの。それと、中田君は助かるよ。真紀が……」
「助かりませんよ」
ラブが不敵な笑みを浮かべながら、少女の声を遮る。
「どういうことだ?」
恵一が尋ねると、ラブは覆面の下で頬を緩めた。
「あなたたちの企みは分かっているんですよ。今後誰かがゲームで脱落したとしても、ラブを裏切った椎名真紀が助けてくれるって。中田様に特別な処置を施し、命だけは助けるはずだって。でも、忘れていませんか? 椎名真紀は私の監視下にある。だから下手な小細工はできないってわけ。残念ですね。シニガミヒロインのプレイヤーの皆様は全員察しているみたいで、誰も見てないけど、よく覚えておいてね。白井さんのせいで死んだ中田様の姿を」
目の前で行われた異様な光景は、雷で打たれたような衝撃と荒い呼吸を伝えた。
突然ラブがスマートフォンを絶望して立ち尽くす中田蒼汰の耳元に押し当てた。その次の瞬間、中田蒼汰の全身が振動し、口から大量の血液を吐き出す。全身に流れる全ての血液の水溜まりに、中田の体は崩れ落ちた。
グロすぎる遺体を目にした白井美緒は吐きそうになり、自分の口を塞いだ。
「本当は拳銃で撃ち殺しても良かったんだけど、ゲストにある事実を分かりやすく伝えるために、中田様のメインヒロインの声を聞かせました。白井さん。中田様はあなたのせいでウイルスによって死んだんですよ。あなたが赤城様と同じ高校に通いたいって言いださなかったら助かったのに」
私のせいだと落ち込む美緒の隣で、恵一は怒声を響かせた。
「違う。お前はそうやって自分のやり方を正当化してきた。俺はお前を許さない」
「そう言うと思いましたよ。兎に角、強力なウイルスは白井さんの体の中にもあります。プレイヤーだったら事故か何かで死ぬこともあるけど、白井さんは中田様と同じように死ぬことは確定です。今生き残っている23人のプレイヤーが全滅したらね。ということで、ゲーム終了。中田様の死亡によって本日から隠しヒロイン、椎名真紀が出現するようになります。無印だから放課後の街中を探し回ると会えるかもしれません。尚、彼女には特別ルールが適用されます。彼女を視認できるエリアなら、ゲーム云々といった発言が許可されるんですね。ヒロインが近くにいたらアウトだけど」

絶望が顔に刻み込まれた白井美緒の前で、ラブは人差し指を立てた。
「プレイヤー以外の人間に、あの世界が偽りだってことは知らせるなってことは、赤城様から聞いているみたいね。そのルールに追加で、現実世界で起きていることに関しても話したらダメよ。プレイヤーの自宅の部屋と人気のない場所だったら話しても構わない。だけど、人気のない場所でNPCに会話の内容を聞かれたらアウト。人気のない場所での会話は自己責任でよろしくお願いします」
少女への忠告を終わらせたラブは、カメラに向き、手を振る。
「それでは、第3回イベントゲームのルール説明の時に会いましょう。さようなら」
ラブはそれだけ言い残し、恵一達の前から姿を消した。中田蒼汰の遺体と共に。
そして、赤城恵一と白井美緒、高橋空の3人は仮想空間に戻される。

          

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