シニガミヒロイン

山本正純

クラス希望調査ゲーム改 前編

幼馴染の楽しい会話が続く、赤城恵一の部屋のドアが開き、不気味な声が2人の耳に届く。
「赤城様。良かったですねぇ」
彼の部屋のドアの前にはラブが立っている。何の前触れもなく現れた因縁のゲームマスターの登場に、恵一は緊張する。
「ラブ。真紀はどこ?」
啖呵を切る美緒にラブは思わず苦笑いした。
「脅えて赤城様に泣きつくと思っていたのに、まさか真紀ちゃんのことを聞いてくるなんてねぇ。真紀ちゃんは常に私が監視してるよ。感動の再会はここまでにして、私と来てもらいましょうか? 簡単なゲームが終われば、赤城様のところに返してあげますから」
そう言いながらラブは美緒の腕を掴む。
「美緒に何をする気だ!」
恵一が睨み付けながら怒りを露わにした。だがラブは少女の腕を離さない。
「脱落者600人突破記念ゲームのゲストにするだけですよ。絶対に殺しません」
ニヤっと笑うラブは美緒の手を引っ張り、恵一の部屋から立ち去る。
「ちょっと待て」
少年はラブを追いかけるため、自分の部屋から飛び出す。だが、廊下にはラブと幼馴染の少女の姿はなかった。
白井美緒が赤城恵一の前から忽然と姿を消してから、数時間が経過した頃、5月18日の朝を迎えた。
午前5時という高校生が起きるには早過ぎる時間帯に、恵一のスマートフォンから、新たなゲーム開催を知らせるクラシック音楽が流れる。
その音に反応して、24人の男子高校生達は跳ね起きた。あの時ラブは美緒を脱落者600人突破記念ゲームのゲストにすると言っていたことを恵一は思い出す。ということは、新たに行われるのは、それなのか?
疑いながら自身のスマートフォンを手にした少年は、例のようにゲームのルールを伝えるドキドキ生放送が行われていることに気が付いた。
今度のゲームは何をするのかと思いながら、アプリをタッチすると、いつものようにスマートフォンの画面にラブの姿が映し出される。
ラブは真っ暗な部屋の中でスポットライトに当たっていた。
『皆様。朝早くからすみません。早速ですが、脱落者600人突破記念ゲームを始めます。このゲームの結果次第で、隠しヒロインが今日中に解禁されるかもしれません。メールで仲間に連絡を取り合っても構いませんので、自由にゲームを攻略してください。その前に特別ゲストを紹介しましょう。現実世界の椎名真紀のお友達。白井美緒さんです』
ラブが指を鳴らし、スポットライトが消えた。そして部屋が明るくなり、椅子に座らされた少女の姿をカメラが捉える。その少女、白井美緒の目の前には机が置かれ、その上に白色の箱が置かれている。
ラブは椅子に座る白井美緒に近づきながら、話を続ける。
『白井美緒さんはシニガミヒロインのプレイヤーの1人である、赤城恵一様の幼馴染です。それと同時に本ゲームの隠しヒロインである椎名真紀のお友達でもあります。問題の真紀ちゃんは、現実世界で彼女に自分の正体を打ち明けようとしました。もちろん私はそれを止めましたよ。シニガミヒロインの真実を知ろうとした美緒さんを殺しても良かったのですが、それでは面白くありません。そこで彼女も仮想空間に送り込むことにしました。これで経緯説明は終わりね』
ラブは優しく美緒の右肩に触れる。だが彼女はそれを受け入れず、ゲームマスターの手を振り払った。
『触らないで』
『そう怒らなくてもね。このゲームが終わったら、赤城様の所に返してあげますから。早速だけど、幾つか質問に答えてもらおうかな? 仮想空間に行っても赤城様と一緒に学校に行きたいよね?』
『当たり前でしょ』
ラブは当然の答えを聞き、覆面の下で頬を緩ませた。
『予想通りの答えをありがとうございます。大切な幼馴染の所に行けただけで満足できないと思いましたよ。ということで、彼女の夢を叶える脱落者600人突破記念ゲームを開催します。ゲームを始める前に皆様が所属しているクラスの中から1人だけ代表者を選んでください』
ラブは不敵な笑み浮かべながら、説明を続ける。
『誰を代表者に選べばいいのか? 悩みますよね? そんな皆様のためにシニガミヒロインのアプリ内で、オススメプレイヤーを紹介しています。残念ながら、オススメプレイヤーはB組とC組に所属している合計6名しかいません。A組は誰を代表者にしたとしても、隠しヒロイン出現条件が今日中に満たされることはございません。一応この場でオススメプレイヤーを名指ししようかな? B組の場合は、達家玲央様と中田蒼汰様。小嶋陽葵様と中西優斗様。以上4名がオススメです。C組は、高橋空様と宮脇陸翔様がオススメですね。誰かが立候補したら、投票なんて無意味になるんですけど。投票はシニガミヒロインのアプリ内でやってね。制限時間は1分間。それでは投票スタートです』
ラブが指を鳴らすのと同時に、赤城恵一はシニガミヒロインのアプリをタッチする。それによって画面に投票ページが表示された。
赤城恵一の答えは決まっている。どんなゲームをやるのかは分からないが、幼馴染の少女はこのゲームで傷つくのは確実だろうと彼は思う。恐怖に脅える彼女の姿を黙ってスマートフォンの画面越しに見るわけにはいかない。
そう思った恵一は、画面の上部に設置された立候補という文字をタッチした。
そして、再び動画アプリを起ち上げると、ラブは画面越しに拍手する。
『皆様。ほぼ即答でしたね。投票開始から10秒くらいしか経過していませんよ。それでは早速各クラスの代表者を発表します。まずA組は、立候補により赤城恵一様。B組は中田蒼汰様。C組は高橋空様です。素直にオススメプレイヤーを選んでいただき、ありがとうございます。そして、皆様に朗報です。本日中に、隠しヒロインが姿を現すことが確定しました。イカサマしなくても、ゲームの結果は分かるんですよ。それでは、各クラスの代表者の皆様をステージにご案内します』
ラブのアナウンスが流れるのと同時に、恵一の部屋に黒服の大男が突然姿を現した。会場への案内人に腕を掴まれたが、少年は抵抗しない。ゲームの内容は分からないが、少年は彼女を助け出す覚悟を決め、大男と共に姿を消した。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品