シニガミヒロイン

山本正純

思案

「これしか方法はなかった」
メインヒロインアンサー終了後、自分の部屋のベッドの上で横になった赤城恵一は、自分の決断が間違っていなかったと言い聞かせる。
矢倉を生かすという決断を下したのにはちゃんとした理由がある。全員で生き残る方法を試してみたかったというのも理由の一つではあるが、それよりも大きな理由は小倉明美の魔の手から矢倉を守るため。
イベントゲームクリアしてしまえば、小倉明美は彼を狙えなくなる。小倉明美という危険な女から矢倉を守る方法はこれしかない。しかしこの方法を使えば、自分が小倉明美に狙われる可能性が高くなる。そうなれば白井美緒を悲しませることになるのではないか。そんな葛藤に襲われた恵一は唇を噛んだ。
「自分だけが助かればそれでいいなんて考えたらダメだ」
大きくかぶりを振り、スマートフォンを握って情報を整理する。ベッドに寝転がりながら。
「桐谷君。岩田君。内田君。千春君。高坂君。現状この5人は殺せないっていうルールになってるの。それに加えてイベントゲームをクリアした者も手が出せない。この2つが私に与えられたゲームのルールよ。それだけ分かっていたら、大丈夫よ」
早朝C組の教室の中で2人きりで彼女と会った時の言葉が頭に蘇る。その後で恵一は夢中でスマートフォンを操作した。


『ナンバー01。病弱な後輩。島田節子。1名。千春光彦』


『ナンバー02。底辺アイドル。倉永詩織。1名。3番。桐谷凛太朗』


『ナンバー03。歴女な一面のある文系女子高生。島田夏海。3名。13番。滝田湊。135番。矢倉永人。48番。赤城恵一』


『ナンバー04。マニュアル人間の理系女子高生。三橋悦子。3名。14番。達家玲央。18番。中田蒼汰。26番。西山一輝』


『ナンバー05。体育会系元気ガール。樋口翔子。2名。12番。高橋空。32番。宮脇陸翔』


『ナンバー06。内気な野球部のマネージャー。堀井千尋。3名。21番。三好勇吾。25番。村上隆司。40番。櫻井新之助』


『ナンバー07。演劇部のマドンナ。日置麻衣。3名。7番。小嶋陽葵。19番。中西優斗。33番。武藤幸樹』


『ナンバー08。中二病家庭教師。大竹里奈。3名。28番。古畑一颯。38番。石田咲。43番。鈴木大河』


『ナンバー09。ツンデレ転校生。石塚明日香。1名。39番。内田紅』


『ナンバー10。退学ギリギリお嬢様。平山麻友。1名。29番。高坂洋平』


『ナンバー11。アニオタガール。佐原萌。3名。26番。阿部蓮。36番。藤田春馬。37番。藤田冬馬』


『ナンバー12。二重人格者な学級委員長。小倉明美。1名。5番。岩田波留』


『ナンバー13。ヤンデレ外国人。木賀アリア。2名。41番。北原瀬那。45番。長尾紫園』


恵一は現在生き残っている27人の名簿を閲覧した後で3回戦進出者の名簿を表示させた。


『イベントゲームクリア』


『ナンバー01。病弱な後輩。島田節子。17番。千春光彦』


『ナンバー03。歴女な一面のある文系女子高生。島田夏海。13番。滝田湊』


『ナンバー04。マニュアル人間の理系女子高生。三橋悦子。14番。達家玲央』


『ナンバー05。体育会系元気ガール。樋口翔子。12番。高橋空。32番。宮脇陸翔』


『ナンバー06。内気な野球部のマネージャー。堀井千尋。25番。村上隆司。40番。櫻井新之助』


『ナンバー07。演劇部のマドンナ。日置麻衣。7番。小嶋陽葵』


『ナンバー08。中二病家庭教師。大竹里奈。43番。鈴木大河』


『ナンバー09。ツンデレ転校生。石塚明日香。39番。内田紅』


『ナンバー10。退学ギリギリお嬢様。平山麻友。29番。高坂洋平』


『ナンバー11。アニオタガール。佐原萌。37番。藤田冬馬』


『ナンバー12。二重人格者な学級委員長。小倉明美。5番。岩田波留』


『ナンバー13。ヤンデレ外国人。木賀アリア。41番。北原瀬那』


この14人はXに狙われない。だからXは残りの13人を狙う。これが結論だろうと恵一は思っていたが、何かを忘れているような気がする。
桐谷君は殺せない。確かにXはこのように言っていた。そのことを思い出し、改めて被害者になる可能性が高い12名を整理してみる。


『ナンバー03。歴女な一面のある文系女子高生。島田夏海。35番。矢倉永人。48番。赤城恵一』


『ナンバー04。マニュアル人間の理系女子高生。三橋悦子。18番。中田蒼汰。26番。西山一輝』


『ナンバー06。内気な野球部のマネージャー。堀井千尋。21番。三好勇吾』


『ナンバー07。演劇部のマドンナ。日置麻衣。19番。中西優斗。33番。武藤幸樹』


『ナンバー08。中二病家庭教師。大竹里奈。28番。古畑一颯。38番。石田咲』


『ナンバー11。アニオタガール。佐原萌。26番。阿部蓮。36番。藤田春馬』


『ナンバー13。ヤンデレ外国人。木賀アリア。45番。長尾紫園』


この12人の中の誰かがXによって殺されるかもしれない。このように考えた恵一は、鳥肌を立てた。
とは言ったものの、恵一には岩田との約束がある。Xの正体は他言無用。これでは自分以外の11人に警戒を促せない。ここは全員で生き残る方法をシミュレーションするべきではないか。そう思った恵一は、まだイベントゲームをクリアしていない13人の名前を凝視する。
真面目に考えれば、この作戦は幾つかの条件が揃わない限り成功しないと恵一は思う。たった1人の裏切りで全員で生き残る道が途絶えてしまう。それほど恵一の反逆は脆い。
殆どのプレイヤーたちは自分だけが助ければそれがいいと考えている。もしも恵一の説得を彼らが聞き入れなかったとしたら、作戦は必ず失敗に終わるだろう。言葉にできない不安に恵一は脅え、両手で自分の頬を叩く。
「大丈夫だ。明々後日までに説得して、全員で生き残る」


赤城恵一が決意を固めていた頃、現実世界のワンルームマンション20階の部屋の中で、灰色のパーカーを被った男がノートパソコンのキーボードを叩いていた。画面には緑色のプログラム言語が複雑に羅列されている。
同時刻。男が住むマンションの駐車場に2台の自動車が停車した。その自動車から数人の黒いスーツを着た男達が降り、集合する。
「20階の6号室だったな」
男達の中心にいた毛の薄い低身長の男が仲間たちに尋ねる。
「はい」
男達が同時に首を縦に振ると、毛の薄い男は自分のスーツのポケットを叩く。
「例の書類は用意してある。気づかれて逃亡されたら厄介だ。早く行くぞ」
それから男達はぞろぞろとマンションの自動ドアを潜り、直進した先にあるエレベーターに乗り込んだ。
一方灰色のパーカーを着た男は、スマートフォンに耳を当て、ある人物と電話していた。
「ありがとうな。金に困っていたんだ。依頼料1億円。ありがたく使わせてもらうよ」
座っているキャスター付きの椅子を回転させ、窓の外から高層ビルを眺めた。その時一瞬だけ遠くのビルの屋上で何かが光った。男はそのことを気にせず、再びノートパソコンの画面へ視線を移す。
丁度同じタイミングでインターフォンが鳴る音が男の耳に届く。それから誰かが玄関のドアを強く叩いた。
「警視庁の西野だ」
刑事の大きな声がリビングまで響き、室内にいる男は舌打ちする。どうすればいいのあと一瞬考えていると、突然窓ガラスが割れ男の心臓に銃弾が食い込んだ。そのまま心臓を貫かれ、そこから血液が溢れていく。
尋常ではない痛みに男は手にしていたスマートフォンを握りしめながら、仰向けに倒れた。数秒後、刑事たちがマンションの管理人と共に男の部屋の中に入ってくる。
リビングまで駆け付けた彼らは目を大きく見開き、西野が男の脈を測る。それから西野は首を横に振ってみせた。
「ダメだ。死んでる。刑事部長に連絡しろ。男子高校生集団拉致事件の重要参考人、岩田克明が殺されたってなぁ」
西野は指示を出した後で、被害者が握りしめていたスマートフォンに注目する。白い手袋を両手に填め、スマートフォンを操作する。
「どうやら重要参考人はタダでは死ななかったみたいだな。見ろ。被害者の遺留品のスマートフォンだ。頻繁に女と連絡を取ってる。被害者最期の電話の相手。この女の身元を調べて、事情聴取する」
西野は頬を緩め部下たちに被害者のスマートフォンを見せた。着信履歴の画面いっぱいに椎名真紀という名前が埋め尽くされている。

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