シニガミヒロイン

山本正純

プロトタイプアンサー 前編

「早速ですが、敗者決定戦を開始します。このゲームでゲームオーバーになるプレイヤーは最低でも3人です。結果によっては、A組に投票したプレイヤー全員がゲームオーバーになる可能性もあります。そのことを踏まえたうえで、対象の19名の皆様のスマートフォンに新しいアプリをダウンロードします」
いつの間にか黒ずくめの大男たちが、後方の赤いパネルが埋め込まれたドアの前に横一列に並んでいる。
ラブのアナウンスの後、敗者決定戦に参加するプレイヤーたちが所有するスマートフォンに新しいアプリがインストールされた。
「敗者決定戦に参加されるプレイヤーの皆様のスマートフォンに、シニガミヒロイン体験版というアプリがインストールされたと思います。シニガミヒロインこそ、本選で皆様にプレイしていただく、恋愛シミュレーションゲームの名前です。B組とC組に所属する皆様は、スクリーンをご覧ください。体験版の映像がリアルタイムで再生されます」
ラブが指を鳴らすと、ステージに白色のスクリーンが降り、青色に染まった画面を映し出した。ラブはステージから降りて、言葉を続けた。
「そろそろ敗者決定戦のゲームの説明をしましょうか。19名のプレイヤーの皆様に行っていただくゲームは、プロトタイプアンサー。まずは、シニガミヒロイン体験版というアプリをタッチしてください。体験版に収録されているゲームは一種類のみ」
ラブの指示を聞きながら、赤城恵一はシニガミヒロイン体験版のアプリをタッチする。


すると、突然画面上に1人の少女が現れた。
その少女の髪型は、艶のある漆黒の髪を腰の高さまで伸ばした、高校生である。可愛らしい二重瞼に前髪を右に分けピンで止めた少女の下に大きな四角い空欄があって、その下には横に4分割された空欄があった。同じ映像はステージ上のスクリーンにも表示される。
4つの空欄の右端には数字が振ってある。
「19名のプレイヤーの皆様には、ナンバー00、プロトタイプ、東郷深雪とうごうみゆきの好感度を上げていただきます。やり方は至ってシンプル。そのスマートフォンの画面に、4択クイズの問題と選択肢が表示されます。その選択肢の中から、一つだけ答えだと思った物を選択するだけです。尚4つの選択肢の内の1つは不正解です。不正解を選んだプレイヤーは敗者となり、公開処刑を行います」
4つの選択肢の内3つが正解なら、なんとかなるのではないかと、赤城恵一たちは思った。だが現実はそれほど甘くない。
「何だよ。簡単じゃないか」
三好勇吾が率直な感想を述べる。だがラブは首を横に振る。
「正解を選ぶ確率は4分の3だから、ヌルゲーだと思った皆様。残念ですね。実は正解とされる3つの選択肢には、それぞれ評価があるんですよ。100点満点の答えならS評価、70点の答えならA評価、赤点ギリギリの50点の答えならB評価という風にね。万が一不正解者がいなかった場合は、評価が低い答えを選んだ者が敗者となります。例えば不正解者がいなくて、B評価の答えを選んだ人が、10名いた場合は、その10人全員を殺害します。そしてS評価の答えを導き出したプレイヤーの皆様は、敗者決定戦から離脱できます」


「ふざけるな。それはいくらなんでも不条理じゃないか」
赤城恵一はラブに抗議する。だがラブは彼の言葉を聞き流し、左手でスマートフォンを握る。
「S評価の答えを選べばいいだけの話じゃないですか。今回はヒントなし、話し合いも禁止です。制限時間は、1問辺り1分間。ゲームは最低3人の敗者が決定するまで続くサドンデス。それではゲームスタート♪」
ラブが自身のスマートフォンをタッチすると、19名の男子高校生たちのスマートフォンの画面上に、質問が表示された。


『そういえば、数学の秋山先生に呼び出されたみたいだけど、何かあったの?』


『A。何でもないですよ』


『B。追試の課題を貰ったんだ』


『C。今日のプリントを風邪で休んでいる平山麻友に届けろって言われてな』


『D。授業中に分からないところがあるって質問したら、職員室に呼び出された。だから呼び出されたんじゃなくて、俺から職員室に乗り込んで質問をしに行ったんだ』


「何だよ。この問題」
赤城恵一には問題の意図が分からなかった。明らかにこれは、一般人の言う4択クイズではない。
そうこうしている間に時間は刻一刻と迫っている。赤城は周囲を見渡しながら、桐谷凛太朗の顔を見る。彼がみた桐谷の顔は頬が緩んでいた。
残り時間。30秒。赤城恵一は悩みに悩み、Bという選択肢を選んだ。


そして制限時間を迎え、ラブが早速結果を発表する。
「それでは、正解発表です。本当は、各プレイヤーのスマートフォンに結果が表示されるだけで、何が正解だったのかという答え合わせはしないんだけど、今回は特別。スクリーンで4パターンのリアクションを再生します。本来のやり方だと、アンフェアですから」
そうしてラブはスマートフォンの画面をタッチした。
「まずは、Dから行きましょうか?」


スクリーン上の東郷深雪は、ニヤリと笑い、画面越しに話しかけた。
『へぇ。結構勉強熱心ね』
続けて、画面を覆うように、Aという文字が表示された。
「次はCですよ」
同じようにラブがスマートフォンをタッチすると、画面上の東郷深雪は微笑んだ。
『優しいんだね』
画面に大きくSという文字が表示されると、ラブは覆面の下で頬を緩める。
「S評価の答えを選択された6名の方。おめでとうございます。敗者決定戦から離脱するプレイヤーは6名。3番の桐谷凛太朗様、10番の百谷次郎様、11番の杉浦薫様、17番の千春光彦様、25番の村上隆司様、40番の櫻井新之助様、以上6名は本選進出となります」
その結果発表を受け、桐谷凛太朗は奇声を上げる。
「やっぱり、このデスゲームで生き残るのは、恋愛シミュレーションゲーム上級者だったんですよ!」
桐谷の近くにいた5人は、一斉に頬を緩め、予選突破を喜ぶ。
その一方で残りの11人は絶望感に囚われた。
「うぉぉぉぉ」
三好勇吾を含む三人が後方のドアに思い切り体当たりしようとする。だがその行動は、ドアの前に立つ黒ずくめの大男によって静止させられた。
結果によっては誰が負けてもおかしくない。殆どのプレイヤーたちは、今にも崩れそうな崖の上に立たされたかのような気分になっている。そんな彼らの耳にラブからの説明が届く。
「えっと。皆さん。まだ正解発表は終わりではありませんよ? 次はAです」
この答えがB評価だったら、赤城恵一は必然的に殺される。
不安と緊張感が全身を走り、額から冷や汗が落ちた。それから間もなくして、頬を膨らませた東郷深雪の姿がスクリーンに表示される。
『そんなこと言わなくてもいいじゃない!』
そのメッセージが流れてから数秒後、ラブはマイクを握り、絶望感に囚われた男子高校生を笑う。
「不正解はAでした。Bを選択された方。ご安心ください。実は不正解を選択してしまったプレイヤーが2人います。不正解者は、16番の新田健一様、24番の小林優馬様。以上2名はリタイアとなります。答えがAだと思った無関係のB組とC組の皆さん。あなたたちは殺しません。良かったですね」
赤城恵一は皮肉にもラブによって絶望感から救われた。その結果発表を聞き、2人の男子高校生が茫然とその場に立ち尽くす。


10秒ほど沈黙の時間が流れ、メタボリックシンドローム予備軍というほど肥満気味な体型の新田健一が、ステージに上がり、ラブに泣きつく。
「頼む。殺さないでくれ」
ラブが沈黙する。それから新田健一は目を大きく見開き、ペラペラとした口調で捲し立てるように、ゲームマスターに伝えた。
「そうだ。俺の家は資産家なんだ。知っているだろう。新田オフィス。親父に頼んで10億円をやる。だから殺さないでくれ。金ならいくらでも出してもらうから」
敗者の言葉を聞き、ラブが覆面の下から笑みを見せた。
「無様ですね。何でも金で解決しようとする行動。ハッキリ言って金なんてどうでもいいんですよ。じゃあ、敗者の新田健一君には……」


ラブの言葉に重なるように、痩せ型な体型に眼鏡をかけた少年、小林優馬が号泣しながら、叫んだ。
「嫌だぁぁ。死にたくないぃぃ。うぁぁぁ」
その叫び声を聞き、ラブが咳払いする。
「叫んでもいいって言ったけど、うるさいですね」
ラブが呟き、スーツのポケットからケースを取り出した。それからゲームマスターはケースを開け、白色のチョークを握る。
次の瞬間、ラブは小林優馬に向かい、チョークを投げた。チョークは銃弾のように回転して、彼の心臓を撃ち抜く。
心臓から血液が溢れ、小林優馬は一瞬で絶命した。
再び男子高校生たちの目の前で殺人が実行された。小林の周りに立っている男子高校生たちは、全員目の前に横たわる遺体から目を反らす。
それからラブはマイクを左右に持ち直し、咳払いした。
「それでは皆様。ご覧ください。これが負け犬の末路です」

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