高校ラブコメから始める社長育成計画。
07.玲瓏
合宿の二日目も順調に捗り、RAGERAVEは、ロックフェス予選で演奏する二曲を完璧なまでに仕上げた。
りぃが作曲した『哀憐』には歌詞が付き、さらに迫力が増していた。
その演奏を、生で聴かせてもらった俺。
将来このバンドが売れたら、こんな間近で見られる贅沢、一生ないだろうな。
自慢したいから売れてくれ。
俺の為に売れてくれ。
うひひ……
「ひゃっひゃっひゃっ!」
「兄ぃ……気持ち悪いの」
「うぐっ……」
りぃに気持ち悪いと言われるのは、胸にフォークでも刺さったかのように痛いな……以後、気を付けよう。
そう思いながら合宿場を後にする。
§
時は経ち、ロックフェス予選の日がやってきた――
あれからもスタジオ練習を繰り返し、最高の状態で予選を迎えたRAGERAVE。
身内びいき抜きにしても、落ちる気がしない。
場所は繁華街にあるライブハウス。
いつか俺がエリカに連れられて来た、ヒロさんの美容院がある街だ。
天候も晴れ。
リハーサルもあるので、朝早く集合する俺たち。
ライブハウスへと足を踏み入れる。
「出演順が決まったっす」
「おお! 私たちは何番だ!?」
スタッフからリストを預かってきた俺。
メンバーに知らせる。
「なんと、最後です」
「げえー! トリかよ!」
「マジか……」
トリを務める……と聞くと、主役な感じがするかもしれないが、こうゆうアマチュアのバンドが出るライブでは、トリは不遇である。
なぜなら、目当てのバンドを見た人たちは帰ってしまうからだ。
こうゆうライブで自分たちのファンを増やしたかったら、他のバンドの客を取り込むしかない。
しかし、最後の出番となると、その客自体がほとんど残っていないことが多いのだ。
「まあ、今回は各バンド二曲だけの、回転の早いライブだからな。客も残ってんじゃねーかな」
「だと、いいんですけど」
「あー! このバンド、見たコトある!」
「ん? どれどれ……」
「Yummy……か」
「こいつら、出んのか……」
「え? なんか因縁があるんすか。ライバル……みたいな?」
「いや、違う。全然会ったこともねー。ただ……」
「ただ?」
「モデルの女の子をボーカルにした、いわゆる企画バンドだ」
「マジ? しかも後半のめっちゃ良い順番にいるじゃん」
「おいおい……これ、出来レースじゃねーだろーな……」
「それは悲しすぎる」
「いいよ、私たちがすげーってとこを見せりゃいんだろ? ぜってー負けねーし!」
「とりあえず逆リハだろうから、こいつらのリハーサル見てから昼飯いこうぜ」
逆リハ……それはライブのリハーサルでよく使われる方法で、本番の演奏順とは逆の順番にリハーサルを行っていくのだ。
つまり、一番手のバンドが、一番最後にリハーサルをするということ。
そうすることで、一番手のセッティング――すなわちドラムの位置や音響調整などがそのまま本番に持ち越せるので、手間が省けるからである。
すなわちRAGERAVEがリハーサルも一番なわけだが。
リハを終えたあと、そのまま客スペースに戻り、例の企画バンドも見学する俺たち。
「おっ、あいつらか」
「おはよーございまーすっ」
ふりふりのロリータファッションに身を包んだ、可愛らしい女の子が挨拶する。
その他のメンバーは、二十代後半ぐらいのお洒落な男。
「あの楽器隊、セミプロじゃねーの……」
「余裕の登場だな」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ではではこれで、本番よろしくおねがいしまーすっ」
そいつらは、さらっと音の確認をし、一曲だけ合わせたあと、そそくさと出ていった。
「おいおい、他のバンドのことも一切無関心かよ」
「なんか、演奏は上手かったけど、曲は普通だったねー」
「でもラブソングはいいなって思いましたけど。姐さんも歌ってくださいよ」
「絶対いや。世界を絶望色に染めるのが私の役目だから」
完全否定するナオミ姐さん。
ヒロさんが報われる日は来ないんだろうな……
「どっちにしろ、どう考えても私らのほうが良いぜ! 余裕だろ!」
「ま、俺もそう思うっすけど」
そんな中、ヒロさんだけは顎に手を当てて、険しい顔をしていた。
「どうだろうな……」
「リーダー、心配しすぎだよ。ハゲるよ」
「っ! 美容師に向かってハゲとか言うな!」
「あれ、もしかして……もう」
「まだだよ! でも遺伝子的にはヤバいんだよ! オレの家系!」
この時はまだ、冗談を言い合って笑いあっていたが、この企画バンドのせいで、あんなことになるとは誰も思っていなかった。
そしてりぃ達は昼食のあと、楽屋に戻り本番の衣装に着替える。
「兄ぃ……この格好どう……?」
「可愛いし拝めたいし神棚に祀りたい」
「はう……」
顔を赤らめて、もじもじと照れる妹。
かわいいぜ。かわいいぜ。
三回言ってやる。
かわいいぜ。
「よし! 私が化粧してやるよ! りぃにはごりごりのヴィジュアル系メイクがいいと思うんだ!」
「ストーップ!」
ありえないことをほざくナオミ姐さんを制し、俺は言い放つ。
「今日はそのためにスペシャルゲストを呼んであるんですよ、姐さん」
「ん? 誰だ?」
「こちらです!」
手をひらひらさせ、俺の背後にいる人を紹介する。
「はじめまして。上原エリカです。先日は披露宴の素敵なアイデアをありがとうございました!」
「おーう! これはこれは! キミが兄貴くんの好――もごもご!!」
ナオミ姐さんの口を両手で塞ぐ俺。
「エリカはビューティアドバイザーってのを目指してるんで、化粧のことなら任せてみてください」
「僭越ながらお手伝いさせてください!」
「どうもエリカさん。僕はベースの啄木。メールアドレスは――」
エリカの手を握り、自己紹介をするベースの女たらし啄木。
「うぇいうぇいうぇい! 啄木! 頼むからおとなしくしててくれ!」
「はは、今日は来てくれてありがとう。エリカちゃんと美容院以外で会うとは思わなかったな。りぃちゃんの化粧、楽しみにしてるよ」
「はいっ! ありがとうございます! りぃちゃん、任せてね!」
「ひゃい……おねがいしますなの……」
そんなこんなで、楽屋にてりぃに化粧を施してくれるエリカ。
ちなみに箕面も午前の陸上部練習を終えたあと、出番までには応援に来てくれるそうな。
俺の数少ない部下どもよ、我が妹の晴れ姿をしっかり見ててやってくれ。
しかし、りぃに化粧なんてして、これ以上かわいくなったらどうしよう。
男の客にりぃを狙うやつが出てくるじゃないの。
いや化粧しなくても、かわいいから危ないな。
ああ、ステージに出すのが心配になってきた……
「りぃ、今日は覆面を被って歌いなさ――うぶしぇ!」
「ちょっと黙ってなさい」
こんなところに来てまで、グーパンごちそうさまでした。
りぃが作曲した『哀憐』には歌詞が付き、さらに迫力が増していた。
その演奏を、生で聴かせてもらった俺。
将来このバンドが売れたら、こんな間近で見られる贅沢、一生ないだろうな。
自慢したいから売れてくれ。
俺の為に売れてくれ。
うひひ……
「ひゃっひゃっひゃっ!」
「兄ぃ……気持ち悪いの」
「うぐっ……」
りぃに気持ち悪いと言われるのは、胸にフォークでも刺さったかのように痛いな……以後、気を付けよう。
そう思いながら合宿場を後にする。
§
時は経ち、ロックフェス予選の日がやってきた――
あれからもスタジオ練習を繰り返し、最高の状態で予選を迎えたRAGERAVE。
身内びいき抜きにしても、落ちる気がしない。
場所は繁華街にあるライブハウス。
いつか俺がエリカに連れられて来た、ヒロさんの美容院がある街だ。
天候も晴れ。
リハーサルもあるので、朝早く集合する俺たち。
ライブハウスへと足を踏み入れる。
「出演順が決まったっす」
「おお! 私たちは何番だ!?」
スタッフからリストを預かってきた俺。
メンバーに知らせる。
「なんと、最後です」
「げえー! トリかよ!」
「マジか……」
トリを務める……と聞くと、主役な感じがするかもしれないが、こうゆうアマチュアのバンドが出るライブでは、トリは不遇である。
なぜなら、目当てのバンドを見た人たちは帰ってしまうからだ。
こうゆうライブで自分たちのファンを増やしたかったら、他のバンドの客を取り込むしかない。
しかし、最後の出番となると、その客自体がほとんど残っていないことが多いのだ。
「まあ、今回は各バンド二曲だけの、回転の早いライブだからな。客も残ってんじゃねーかな」
「だと、いいんですけど」
「あー! このバンド、見たコトある!」
「ん? どれどれ……」
「Yummy……か」
「こいつら、出んのか……」
「え? なんか因縁があるんすか。ライバル……みたいな?」
「いや、違う。全然会ったこともねー。ただ……」
「ただ?」
「モデルの女の子をボーカルにした、いわゆる企画バンドだ」
「マジ? しかも後半のめっちゃ良い順番にいるじゃん」
「おいおい……これ、出来レースじゃねーだろーな……」
「それは悲しすぎる」
「いいよ、私たちがすげーってとこを見せりゃいんだろ? ぜってー負けねーし!」
「とりあえず逆リハだろうから、こいつらのリハーサル見てから昼飯いこうぜ」
逆リハ……それはライブのリハーサルでよく使われる方法で、本番の演奏順とは逆の順番にリハーサルを行っていくのだ。
つまり、一番手のバンドが、一番最後にリハーサルをするということ。
そうすることで、一番手のセッティング――すなわちドラムの位置や音響調整などがそのまま本番に持ち越せるので、手間が省けるからである。
すなわちRAGERAVEがリハーサルも一番なわけだが。
リハを終えたあと、そのまま客スペースに戻り、例の企画バンドも見学する俺たち。
「おっ、あいつらか」
「おはよーございまーすっ」
ふりふりのロリータファッションに身を包んだ、可愛らしい女の子が挨拶する。
その他のメンバーは、二十代後半ぐらいのお洒落な男。
「あの楽器隊、セミプロじゃねーの……」
「余裕の登場だな」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「……」
「ではではこれで、本番よろしくおねがいしまーすっ」
そいつらは、さらっと音の確認をし、一曲だけ合わせたあと、そそくさと出ていった。
「おいおい、他のバンドのことも一切無関心かよ」
「なんか、演奏は上手かったけど、曲は普通だったねー」
「でもラブソングはいいなって思いましたけど。姐さんも歌ってくださいよ」
「絶対いや。世界を絶望色に染めるのが私の役目だから」
完全否定するナオミ姐さん。
ヒロさんが報われる日は来ないんだろうな……
「どっちにしろ、どう考えても私らのほうが良いぜ! 余裕だろ!」
「ま、俺もそう思うっすけど」
そんな中、ヒロさんだけは顎に手を当てて、険しい顔をしていた。
「どうだろうな……」
「リーダー、心配しすぎだよ。ハゲるよ」
「っ! 美容師に向かってハゲとか言うな!」
「あれ、もしかして……もう」
「まだだよ! でも遺伝子的にはヤバいんだよ! オレの家系!」
この時はまだ、冗談を言い合って笑いあっていたが、この企画バンドのせいで、あんなことになるとは誰も思っていなかった。
そしてりぃ達は昼食のあと、楽屋に戻り本番の衣装に着替える。
「兄ぃ……この格好どう……?」
「可愛いし拝めたいし神棚に祀りたい」
「はう……」
顔を赤らめて、もじもじと照れる妹。
かわいいぜ。かわいいぜ。
三回言ってやる。
かわいいぜ。
「よし! 私が化粧してやるよ! りぃにはごりごりのヴィジュアル系メイクがいいと思うんだ!」
「ストーップ!」
ありえないことをほざくナオミ姐さんを制し、俺は言い放つ。
「今日はそのためにスペシャルゲストを呼んであるんですよ、姐さん」
「ん? 誰だ?」
「こちらです!」
手をひらひらさせ、俺の背後にいる人を紹介する。
「はじめまして。上原エリカです。先日は披露宴の素敵なアイデアをありがとうございました!」
「おーう! これはこれは! キミが兄貴くんの好――もごもご!!」
ナオミ姐さんの口を両手で塞ぐ俺。
「エリカはビューティアドバイザーってのを目指してるんで、化粧のことなら任せてみてください」
「僭越ながらお手伝いさせてください!」
「どうもエリカさん。僕はベースの啄木。メールアドレスは――」
エリカの手を握り、自己紹介をするベースの女たらし啄木。
「うぇいうぇいうぇい! 啄木! 頼むからおとなしくしててくれ!」
「はは、今日は来てくれてありがとう。エリカちゃんと美容院以外で会うとは思わなかったな。りぃちゃんの化粧、楽しみにしてるよ」
「はいっ! ありがとうございます! りぃちゃん、任せてね!」
「ひゃい……おねがいしますなの……」
そんなこんなで、楽屋にてりぃに化粧を施してくれるエリカ。
ちなみに箕面も午前の陸上部練習を終えたあと、出番までには応援に来てくれるそうな。
俺の数少ない部下どもよ、我が妹の晴れ姿をしっかり見ててやってくれ。
しかし、りぃに化粧なんてして、これ以上かわいくなったらどうしよう。
男の客にりぃを狙うやつが出てくるじゃないの。
いや化粧しなくても、かわいいから危ないな。
ああ、ステージに出すのが心配になってきた……
「りぃ、今日は覆面を被って歌いなさ――うぶしぇ!」
「ちょっと黙ってなさい」
こんなところに来てまで、グーパンごちそうさまでした。
コメント