高校ラブコメから始める社長育成計画。
13.どきどき
「はい、それ採用しましょう」
俺たちのアプリケイドロ案は、院長に速攻で受理された。
当日参加者は四十八人。
社員さんの子供に小学生とかもいるので、スマホを持ってない子もいる。
なので、警察チームは基本的に大人、泥棒チームは未成年で組むことになった。
スマホを持ってないほうは、必ずペアで行動すること、そして半径五メートル以上は離れないことをルールにした。
警察チームのリーダーは院長、そして未成年チームもとい泥棒チームのリーダーは俺がすることになった。
誰をどう使うかがカギだな。
以前院長に個々の長所短所が何か見極める能力を褒められたし。
絶対負けたくねえな。
集合は公営の運動公園――
住宅街から少し離れた丘にある、自然に囲まれた閑静な公園。
競技場だけでなくテニスコートからプール、体育館とかもある広い場所だ。
もちろん許可はとってある。
「しかし夏香、遅いな」
「大丈夫かなー?」
蝉時雨とコンクリートからの熱に汗ばみながら全員が集合するのを待っていた。
あとは夏香だけである。
かき氷でも買ってきてくれたら女神と呼んでやるのだが、そんな気の利くことをされたらそれはそれで気持ちが悪いか。
あいつ、待ち合わせの場所を間違えるんだろうか。
天然キャラだもんな。
そこへやっと夏香が登場した。
「ごめんご! 待ち合わせの場所間違えたっす!」
「まんまかよ。だと思ったわ。携帯繋がらないしどうしようかと」
あれれという顔で夏香はカバンを漁る。
「しまった! 携帯と間違えてテレビのリモコンを持ってきたよ!」
「ああ! わかるわかる! 似てるもんね」
同調する箕面。
「わかんねーよ!」
こうしてスマホの無い夏香は俺と組むことになった……
さあ、全員そろったところで院長の挨拶。
ケイドロの始まりである。
泥棒こと未成年チーム対、警察こと大人チームだ。
ルールは単純。
警察チームに捕まる前に、泥棒チームの誰かが広場の缶を蹴り飛ばせば勝利。
全員タッチされて捕まると敗北だ。
チームワークのなさそうな夏香と、そもそもチームの輪に入れない内向的な俺。
大丈夫かこれ。
「よし、とりあえず散るぞ」
「うん!」
箕面や才川、織田優理は子供たちとペアを組んでいる。
「よっしゃあ、お前らオレに付いてこいっ!」
「へいっ! たいちょー!」
才川のやつ、子供の扱いが上手いな。
あいつ自身がガキだからだろうな。
って言ったら喧嘩になるだろうからやめておく。
「さて、どうするか……」
「缶を蹴るんっすよー」
「わかっとるわい! 何にしろ作戦を立てないとよ」
俺と夏香のペアはひとまず木に囲まれた敷地内で身を潜めた。
しかしスマホのケイドロアプリは凄いな。
泥棒チーム全員の位置が地図上に表示されている。
それを見て動いているのか、みんな上手く散り散りに隠れているようだ。
「箕面は缶のある場所を挟んで俺たちと反対側か」
「私も子供たちと組みたかったなーぶーぶー」
「黙れ、お前がリモコンなんて持ってくるからだろ」
作戦……といってもやることはただひとつ。
うまく回り込んで誰かが缶を蹴ればいいだけだ。
ここはやはり箕面のスピードを使うべきだろう。
「いっちに、いっちに」
体操をし出す夏香。
こいつも走るのが速いことは証明済み。
ただ喘息のこともあるから、長い距離を走らせる訳にはいかない。
せいぜいオトリ程度だな。
んで、俺なんかはオトリのオトリ程度だ。
いや走るのしんどいから指示出し係でいいか。
「――箕面、お前に蹴ってもらう……っと」
チャット機能で、箕面チームに指示を出す。
するとすぐ返信があった。
「――わかったよ!」
よし、タイミングを決めないといけないな。
まず才川たちガキんちょ軍団を一斉に送り込んで、警察チームが動揺したところを狙うか……
その時だった。
ピーっ!!
と笛の音が聞こえた。
沸き上がる大人たちの歓声がここまで聞こえてくる。
「あらら、誰か捕まっちった?」
泥棒が捕まると鳴るように設定されている笛の音。
そして捕まったチームの名前がスマホへ送られてくるのだ。
「――箕面チーム、アウトー!」
「はぁっ!?」
「ひなた、もう捕まっちゃったの?」
おいおい、なんで箕面捕まってんだよ!
まさかさっき俺が送った『缶を蹴ってもらう』って指示を……
「早とちりやがったな!!」
何してんだよ阿呆……古典的阿呆!
ごめーんと必死で謝る箕面の姿が想像できる。
そうだ、そうゆう奴だということを忘れていた俺の過失だ。
「俺のせいだわ……」
「ほんとだよ百瀬っち、この泥棒男!!」
「や、今それは悪口ではない」
夏香はほっといて、次の作を考えねばならん。
気を取り直して才川たちを送り込むところから再度考え直そう。
子供たちにオトリをさせたあと誰が特攻するかだ。
だが、あと残ってる未成年メンバーで走れそうな奴といえば……夏香か才川。
あ、陰が薄いが織田優理もいたか。
あとは俺。
いや、俺は無い無い。
やれば出来るが、やらない天才の俺だぞ。
「どうすんのさー百瀬っち」
「……やはり才川たちにオトリをやらせて、バタついてるときに織田優理に蹴らせるか」
「ふむ、優理で大丈夫かなー」
「……」
ひょいと木陰から頭を出して様子を伺う夏香。
「夏香、ちょっと来い。話がある」
俺は真剣な顔で夏香に声をかけた。
「だがことわ――」
「いいから、早く来い!」
「へーい」
ぶっちゃけ今のままだと、この作戦は成功率が低い。
なぜなら特攻隊長の箕面が捕まったからだ。
ここのとこ陸上部の練習を見てきた俺が判断しても、織田優理には荷が重いだろうと感じている。
「夏香、もし織田優理が失敗した時は……」
「失敗した時はー?」
「俺がオトリになる」
「そんな……百瀬っち、死ぬなんてゆーな!!」
「死なねーよ!」
たかがケイドロで死んでたまるか。
そしてこれは織田優理が捕まってしまった場合の最終手段だ。
俺がオトリをやる、すなわち……
「お前が缶を蹴れ」
「やった!! では、行ってくる!!」
「ちょい!」
走り出そうとする夏香の襟首を掴み、引き留める俺。
「お前は箕面か!」
「そう……だったのか……」
「いや、違うから」
こいつも危なっかしい犬だから、首輪を付けたいもんだぜ。
「ただ、今のポジショニングだと問題がある」
泥棒チームの居場所が映ったスマホの画面を見せる俺。
「ほえ?」
「缶を蹴るにはどうやっても、お前は大きく後ろから回り込まないと見つかってしまうんだ」
そう、織田優理や才川たちのいる場所から考えると、そいつらが捕まって俺がオトリとなり広場へ出た場合、夏香も見つかってしまうのだ。
「才川たちの陽動で缶から警察チームをぎりぎりまで離してもらう」
「ほほう……」
「その後に織田優理が出るが、もし捕まったらすぐさま俺が残りの奴らに向かって飛び出す。オトリだ。警察が俺に目がいってるうちに、お前は大きく後ろから回り込み、缶を蹴るんだ」
「え……ここからここまで?」
「ああ……距離は百メートルを超すだろう」
「百……」
夏香のトラウマだ。
知ってる。
喘息の発作で救急車まで呼ばれた記憶。
こいつは百メートルを走りきるのが怖いのだ。
だが、医者が言うにはちゃんとコントロールすれば問題ないと聞いている。
あとは夏香の気持ち次第だと。
「頼めるか……? 勝ちたいんだ」
「……」
胸を押さえ、俯く夏香。
「無理は……するな」
「わかったよ百瀬っち」
「……いけるか?」
「大丈夫、吸入器はポケットの中。私がんばる。がんばる……」
夏香は『大丈夫、大丈夫』と小声で自分に言い聞かせている。
手を震わせながら。
俺はその手を掴み『大丈夫、俺を信じてくれ』と一言をかける。
頑張れ夏香。
頑張れ。
「突入まで、三……二……」
才川たちとチャットで連絡を取り、打ち合わせ通りの時間に突入をかける。
織田優理が缶を蹴ることができれば何も問題はない。
「ゴー!!」
一斉に缶を目掛けて走り出す才川チビッ子軍団。
おろおろと慌てる大人たち。
他の警察たちも集まってくる。
「頼むぜ織田優理……」
そして織田優理が走り出す。
そこへ待っていたかのように院長が飛び出してきた。
まあ俺の考える作戦なんて誰でも思いつきそうなもんだから、こうなることを読んでいたんだろうな。
慌てる優理。
このままだと他の警察も優理を狙い、捕まるのも時間の問題だ。
「仕方ねえ。ちょっと予定より早いが俺も行くわ」
「……」
「夏香、頼んだ」
「わかった……」
不安そうな顔で呟く夏香。
「お前が蹴れたら次の陸上練習、一回だけサボらせてやるから」
「わかった……」
ご褒美にも飛び付かない夏香は今、きっと不安のほうが強いんだろうな。
「じゃあな」
「うん……」
そう言って俺は院長の方へと飛び出す。
「へいへいへい!」
「来ましたね! みなさん、百瀬君を捕まえてください!」
俺が出てきたことで完全にみんなの意識が缶から離れている。
今だ夏香、と心の中で思いながらも俺が振り向いてバレては意味がないので、大人たちの意識を引き付けるよう陽動する。
「織田優理! いったん引くぞ!」
「え? あ、はい!」
そう叫ぶ俺だが、これも作戦のうち。
案の定、警察チームの気が緩む。
俺は息を切らしながらも、立ち止まらない。
絶対振り返らない。
緊張も相まって心臓の鼓動が高まる。
カァーーーーン!
「やられた!」
缶の蹴られた音が鳴り響く。
カランコロンと地面を転がる缶。
振り返るとそこには両手を挙げてブイサインをしている夏香がいた。
「よく頑張ったな……」
夏香に向けてグーサインを出す俺。
こうして俺たちは勝利と、なにかしらの成果を掴んだのだった――
episode『どきどき』end...
俺たちのアプリケイドロ案は、院長に速攻で受理された。
当日参加者は四十八人。
社員さんの子供に小学生とかもいるので、スマホを持ってない子もいる。
なので、警察チームは基本的に大人、泥棒チームは未成年で組むことになった。
スマホを持ってないほうは、必ずペアで行動すること、そして半径五メートル以上は離れないことをルールにした。
警察チームのリーダーは院長、そして未成年チームもとい泥棒チームのリーダーは俺がすることになった。
誰をどう使うかがカギだな。
以前院長に個々の長所短所が何か見極める能力を褒められたし。
絶対負けたくねえな。
集合は公営の運動公園――
住宅街から少し離れた丘にある、自然に囲まれた閑静な公園。
競技場だけでなくテニスコートからプール、体育館とかもある広い場所だ。
もちろん許可はとってある。
「しかし夏香、遅いな」
「大丈夫かなー?」
蝉時雨とコンクリートからの熱に汗ばみながら全員が集合するのを待っていた。
あとは夏香だけである。
かき氷でも買ってきてくれたら女神と呼んでやるのだが、そんな気の利くことをされたらそれはそれで気持ちが悪いか。
あいつ、待ち合わせの場所を間違えるんだろうか。
天然キャラだもんな。
そこへやっと夏香が登場した。
「ごめんご! 待ち合わせの場所間違えたっす!」
「まんまかよ。だと思ったわ。携帯繋がらないしどうしようかと」
あれれという顔で夏香はカバンを漁る。
「しまった! 携帯と間違えてテレビのリモコンを持ってきたよ!」
「ああ! わかるわかる! 似てるもんね」
同調する箕面。
「わかんねーよ!」
こうしてスマホの無い夏香は俺と組むことになった……
さあ、全員そろったところで院長の挨拶。
ケイドロの始まりである。
泥棒こと未成年チーム対、警察こと大人チームだ。
ルールは単純。
警察チームに捕まる前に、泥棒チームの誰かが広場の缶を蹴り飛ばせば勝利。
全員タッチされて捕まると敗北だ。
チームワークのなさそうな夏香と、そもそもチームの輪に入れない内向的な俺。
大丈夫かこれ。
「よし、とりあえず散るぞ」
「うん!」
箕面や才川、織田優理は子供たちとペアを組んでいる。
「よっしゃあ、お前らオレに付いてこいっ!」
「へいっ! たいちょー!」
才川のやつ、子供の扱いが上手いな。
あいつ自身がガキだからだろうな。
って言ったら喧嘩になるだろうからやめておく。
「さて、どうするか……」
「缶を蹴るんっすよー」
「わかっとるわい! 何にしろ作戦を立てないとよ」
俺と夏香のペアはひとまず木に囲まれた敷地内で身を潜めた。
しかしスマホのケイドロアプリは凄いな。
泥棒チーム全員の位置が地図上に表示されている。
それを見て動いているのか、みんな上手く散り散りに隠れているようだ。
「箕面は缶のある場所を挟んで俺たちと反対側か」
「私も子供たちと組みたかったなーぶーぶー」
「黙れ、お前がリモコンなんて持ってくるからだろ」
作戦……といってもやることはただひとつ。
うまく回り込んで誰かが缶を蹴ればいいだけだ。
ここはやはり箕面のスピードを使うべきだろう。
「いっちに、いっちに」
体操をし出す夏香。
こいつも走るのが速いことは証明済み。
ただ喘息のこともあるから、長い距離を走らせる訳にはいかない。
せいぜいオトリ程度だな。
んで、俺なんかはオトリのオトリ程度だ。
いや走るのしんどいから指示出し係でいいか。
「――箕面、お前に蹴ってもらう……っと」
チャット機能で、箕面チームに指示を出す。
するとすぐ返信があった。
「――わかったよ!」
よし、タイミングを決めないといけないな。
まず才川たちガキんちょ軍団を一斉に送り込んで、警察チームが動揺したところを狙うか……
その時だった。
ピーっ!!
と笛の音が聞こえた。
沸き上がる大人たちの歓声がここまで聞こえてくる。
「あらら、誰か捕まっちった?」
泥棒が捕まると鳴るように設定されている笛の音。
そして捕まったチームの名前がスマホへ送られてくるのだ。
「――箕面チーム、アウトー!」
「はぁっ!?」
「ひなた、もう捕まっちゃったの?」
おいおい、なんで箕面捕まってんだよ!
まさかさっき俺が送った『缶を蹴ってもらう』って指示を……
「早とちりやがったな!!」
何してんだよ阿呆……古典的阿呆!
ごめーんと必死で謝る箕面の姿が想像できる。
そうだ、そうゆう奴だということを忘れていた俺の過失だ。
「俺のせいだわ……」
「ほんとだよ百瀬っち、この泥棒男!!」
「や、今それは悪口ではない」
夏香はほっといて、次の作を考えねばならん。
気を取り直して才川たちを送り込むところから再度考え直そう。
子供たちにオトリをさせたあと誰が特攻するかだ。
だが、あと残ってる未成年メンバーで走れそうな奴といえば……夏香か才川。
あ、陰が薄いが織田優理もいたか。
あとは俺。
いや、俺は無い無い。
やれば出来るが、やらない天才の俺だぞ。
「どうすんのさー百瀬っち」
「……やはり才川たちにオトリをやらせて、バタついてるときに織田優理に蹴らせるか」
「ふむ、優理で大丈夫かなー」
「……」
ひょいと木陰から頭を出して様子を伺う夏香。
「夏香、ちょっと来い。話がある」
俺は真剣な顔で夏香に声をかけた。
「だがことわ――」
「いいから、早く来い!」
「へーい」
ぶっちゃけ今のままだと、この作戦は成功率が低い。
なぜなら特攻隊長の箕面が捕まったからだ。
ここのとこ陸上部の練習を見てきた俺が判断しても、織田優理には荷が重いだろうと感じている。
「夏香、もし織田優理が失敗した時は……」
「失敗した時はー?」
「俺がオトリになる」
「そんな……百瀬っち、死ぬなんてゆーな!!」
「死なねーよ!」
たかがケイドロで死んでたまるか。
そしてこれは織田優理が捕まってしまった場合の最終手段だ。
俺がオトリをやる、すなわち……
「お前が缶を蹴れ」
「やった!! では、行ってくる!!」
「ちょい!」
走り出そうとする夏香の襟首を掴み、引き留める俺。
「お前は箕面か!」
「そう……だったのか……」
「いや、違うから」
こいつも危なっかしい犬だから、首輪を付けたいもんだぜ。
「ただ、今のポジショニングだと問題がある」
泥棒チームの居場所が映ったスマホの画面を見せる俺。
「ほえ?」
「缶を蹴るにはどうやっても、お前は大きく後ろから回り込まないと見つかってしまうんだ」
そう、織田優理や才川たちのいる場所から考えると、そいつらが捕まって俺がオトリとなり広場へ出た場合、夏香も見つかってしまうのだ。
「才川たちの陽動で缶から警察チームをぎりぎりまで離してもらう」
「ほほう……」
「その後に織田優理が出るが、もし捕まったらすぐさま俺が残りの奴らに向かって飛び出す。オトリだ。警察が俺に目がいってるうちに、お前は大きく後ろから回り込み、缶を蹴るんだ」
「え……ここからここまで?」
「ああ……距離は百メートルを超すだろう」
「百……」
夏香のトラウマだ。
知ってる。
喘息の発作で救急車まで呼ばれた記憶。
こいつは百メートルを走りきるのが怖いのだ。
だが、医者が言うにはちゃんとコントロールすれば問題ないと聞いている。
あとは夏香の気持ち次第だと。
「頼めるか……? 勝ちたいんだ」
「……」
胸を押さえ、俯く夏香。
「無理は……するな」
「わかったよ百瀬っち」
「……いけるか?」
「大丈夫、吸入器はポケットの中。私がんばる。がんばる……」
夏香は『大丈夫、大丈夫』と小声で自分に言い聞かせている。
手を震わせながら。
俺はその手を掴み『大丈夫、俺を信じてくれ』と一言をかける。
頑張れ夏香。
頑張れ。
「突入まで、三……二……」
才川たちとチャットで連絡を取り、打ち合わせ通りの時間に突入をかける。
織田優理が缶を蹴ることができれば何も問題はない。
「ゴー!!」
一斉に缶を目掛けて走り出す才川チビッ子軍団。
おろおろと慌てる大人たち。
他の警察たちも集まってくる。
「頼むぜ織田優理……」
そして織田優理が走り出す。
そこへ待っていたかのように院長が飛び出してきた。
まあ俺の考える作戦なんて誰でも思いつきそうなもんだから、こうなることを読んでいたんだろうな。
慌てる優理。
このままだと他の警察も優理を狙い、捕まるのも時間の問題だ。
「仕方ねえ。ちょっと予定より早いが俺も行くわ」
「……」
「夏香、頼んだ」
「わかった……」
不安そうな顔で呟く夏香。
「お前が蹴れたら次の陸上練習、一回だけサボらせてやるから」
「わかった……」
ご褒美にも飛び付かない夏香は今、きっと不安のほうが強いんだろうな。
「じゃあな」
「うん……」
そう言って俺は院長の方へと飛び出す。
「へいへいへい!」
「来ましたね! みなさん、百瀬君を捕まえてください!」
俺が出てきたことで完全にみんなの意識が缶から離れている。
今だ夏香、と心の中で思いながらも俺が振り向いてバレては意味がないので、大人たちの意識を引き付けるよう陽動する。
「織田優理! いったん引くぞ!」
「え? あ、はい!」
そう叫ぶ俺だが、これも作戦のうち。
案の定、警察チームの気が緩む。
俺は息を切らしながらも、立ち止まらない。
絶対振り返らない。
緊張も相まって心臓の鼓動が高まる。
カァーーーーン!
「やられた!」
缶の蹴られた音が鳴り響く。
カランコロンと地面を転がる缶。
振り返るとそこには両手を挙げてブイサインをしている夏香がいた。
「よく頑張ったな……」
夏香に向けてグーサインを出す俺。
こうして俺たちは勝利と、なにかしらの成果を掴んだのだった――
episode『どきどき』end...
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