高校ラブコメから始める社長育成計画。
08.もてもて
「と、いうことがあったんだよ……」
昼休み、俺は飯を食いながら箕面の話を聞く。
どうやら昨日、夏香と一緒に放課後ライフを過ごしたらしい。
箕面は瞳を潤ませながら語った内容は、夏香の病気の話。
まあようするに、薬で発作をコントロールすれば短距離選手も続けられるが、夏香自身が喘息発作のトラウマで試合に出られないということか。
「絶対走れないことはないって、わかっただけでも良かったじゃねえか」
少なくともトラウマさえ克服できれば、リレーでも何でも出られるんじゃね?
「……きっと夏香ちゃんがリレーに出たほうが、もっとみんな幸せになれるよね」
箕面は目から涙をこぼす。
昨日は夏香、取り乱していたらしい。
想像がつかないが。
その後、怒鳴っちゃってごめんと箕面に謝り、いつものケラケラした夏香に戻ったそうな。
しかし箕面は単純な奴だから心底ヘコんでいる。
人の痛みを自分のことのように感じてしまうのはこいつの優しいところでもあるが、ほどほどにしないと箕面自身が心配だよ俺は。
「そうだよな。まあ……あんまり気にするなよ。お前はお前で、織田優理に頼まれた仕事をこなしてやれ」
「うん……」
しかし夏香はなんでも出来る奴だからな。
本当はリレーでも自分が出て、一等賞を獲りたいってのはあるだろうけどな。
下校時――
靴箱でエリカと出会う。
「おっす、エリカ」
「あら? あんたもこれからバイトよね?」
「おう」
「じゃ、行きましょう」
「お、おう……」
一緒に帰る。
一緒に帰る……!?
いやあ、周りの視線が気になりますねー。
そりゃこんな美女と根暗……
根暗ゆーな。
エリカは全く気にしてないようだが。
「――と、いうことがあったんだ」
「それで箕面さんが代打でリレーに出るのね」
俺は夏香のことをエリカに相談した。
別に言いふらしたいわけじゃない。
ただ、夏香には幸せになってもらいたい。
いや、幸せになった夏香を見せて箕面に元気になって欲しいのか。
どっちもだ。
「そうなんだよ。何かしてあげられることがあったらいいんだが」
「コトがコトだから、あたしらには下手に手助けできないわよ。うちの院長にも聞いてみたら?」
「そうだよな」
俺はこくこくと頷く。
「それにしても箕面さんは、もう陸上部の人たちと仲良くなってるのね」
「そういやそうだな。まあ箕面は人のために泣けるいい奴だかんな。誰とでもすぐ仲よくなるさ。まあ、夏香は女だからな、何の心配もいらねーが」
嬉しいような寂しいような。
「心配? 何を?」
「へ? 何が?」
「今、夏香さんは女だから心配いらないって。男じゃ何がまずいの?」
「俺そんなこと言ったか? すまん間違い間違い」
「ふーん」
夏香が男だったら何が問題あるんだ?
箕面が男と放課後ライフ?
いや、しかし俺も男だし。
むー。
わけわからん。
いらいらするから、考えるのやめとこう。
「――と、いうことがあったんすよ」
今度は院長に相談する俺。
「なんとかしてやる方法はないっすかね?」
「ふむ……百瀬くん、優しいですね」
「や、箕面も心配だしさ……」
「ただやっぱり僕ら白衣は着れども、骨折や捻挫を手当てする専門。餅は餅屋といいますように、専門外のことを下手に口出ししては余計に困らせてしまいますよ。ドラマじゃあるまいし何でも解決できる人なんていませんから。すみません」
「そうですよね……」
もっともだ。
夏香に何かあってからでは誰も責任とれない。
中途半端な気持ちで考えていい話ではないのだ。
「まあ、なにかをしてあげたいって気持ちはわかります。ひとつ手伝えることがあるとしたら――」
「あるんすか!?」
「例えばスポーツトレーナーとしてサポートしてあげることはできます。選手は自分の身体のケアもなかなか一人では難しく、ましてや他の選手の身体のことまで気遣《きづか》ってる余裕や時間はなかなかとれないものですから」
なるほど、だからマネージャーがいたりするんだな。
「そこで僕らみたいなのが練習メニューであったり体調管理のサポートをすることで、だいぶ選手の負担も減るんですよね」
「そうか! 負担が減れば……」
それなら夏香も少しは安心して走れるようになるかもしれない。
「せっかくですからマネージャーではなく、うちの院からの派遣トレーナーとして行ってみたらどうですか? ボランティアで」
「ほう……なんかかっこいいっすね。ぜひお願いします」
派遣トレーナーか。
そういえばイチロー選手も専属のトレーナーに鍼灸師とかを付けてるって聞いたことがある。
鍼灸は免許がいるから無理だが、トレーナー自体は国家資格じゃないから一応誰でも出来るらしい。
「わかりました。では今度一緒に顧問の先生に営業に行きましょうか。二人……いや三人で。上原さんも連れていきましょう」
「ああ、エリカにも営業の見本を見せてやるためっすね」
「いえいえ、三人のほうが顧問の先生も話しを聞いてくださるでしょうし。上原さんがうちに入ってくれてから学生の患者さんがかなり増えましたからね」
確かに上原がいれば華もあるし、人数が多い方が邪険にし辛いだろうな。
そういえばここでバイト始めて気付いたが、やたら運動部の男子が来るよな。
上原目当てだろ、阻止せねば。
まあ、俺が入ったからにはJKもいっぱい……
「百瀬君を雇ったのに女子生徒は全然増えませんね。ああ、本当にモテないんですね」
「院長……なんかすみません」
「あはは。でも上原さんが『百瀬君はチャラく見えますけど意外と頼りになるんです』と言ってましたよ」
「まじっすか!」
あいつ……わかってるねー!
嬉しいじゃねーか。
「トレーナーを機に広がるのを期待してみますか」
「頑張ります……」
「やるからにはテーピングやストレッチ、またスポーツ医学の基本ぐらいはしっかり覚えてもらいますからね」
「へい……おなしゃす」
episode『もてもて』end...
昼休み、俺は飯を食いながら箕面の話を聞く。
どうやら昨日、夏香と一緒に放課後ライフを過ごしたらしい。
箕面は瞳を潤ませながら語った内容は、夏香の病気の話。
まあようするに、薬で発作をコントロールすれば短距離選手も続けられるが、夏香自身が喘息発作のトラウマで試合に出られないということか。
「絶対走れないことはないって、わかっただけでも良かったじゃねえか」
少なくともトラウマさえ克服できれば、リレーでも何でも出られるんじゃね?
「……きっと夏香ちゃんがリレーに出たほうが、もっとみんな幸せになれるよね」
箕面は目から涙をこぼす。
昨日は夏香、取り乱していたらしい。
想像がつかないが。
その後、怒鳴っちゃってごめんと箕面に謝り、いつものケラケラした夏香に戻ったそうな。
しかし箕面は単純な奴だから心底ヘコんでいる。
人の痛みを自分のことのように感じてしまうのはこいつの優しいところでもあるが、ほどほどにしないと箕面自身が心配だよ俺は。
「そうだよな。まあ……あんまり気にするなよ。お前はお前で、織田優理に頼まれた仕事をこなしてやれ」
「うん……」
しかし夏香はなんでも出来る奴だからな。
本当はリレーでも自分が出て、一等賞を獲りたいってのはあるだろうけどな。
下校時――
靴箱でエリカと出会う。
「おっす、エリカ」
「あら? あんたもこれからバイトよね?」
「おう」
「じゃ、行きましょう」
「お、おう……」
一緒に帰る。
一緒に帰る……!?
いやあ、周りの視線が気になりますねー。
そりゃこんな美女と根暗……
根暗ゆーな。
エリカは全く気にしてないようだが。
「――と、いうことがあったんだ」
「それで箕面さんが代打でリレーに出るのね」
俺は夏香のことをエリカに相談した。
別に言いふらしたいわけじゃない。
ただ、夏香には幸せになってもらいたい。
いや、幸せになった夏香を見せて箕面に元気になって欲しいのか。
どっちもだ。
「そうなんだよ。何かしてあげられることがあったらいいんだが」
「コトがコトだから、あたしらには下手に手助けできないわよ。うちの院長にも聞いてみたら?」
「そうだよな」
俺はこくこくと頷く。
「それにしても箕面さんは、もう陸上部の人たちと仲良くなってるのね」
「そういやそうだな。まあ箕面は人のために泣けるいい奴だかんな。誰とでもすぐ仲よくなるさ。まあ、夏香は女だからな、何の心配もいらねーが」
嬉しいような寂しいような。
「心配? 何を?」
「へ? 何が?」
「今、夏香さんは女だから心配いらないって。男じゃ何がまずいの?」
「俺そんなこと言ったか? すまん間違い間違い」
「ふーん」
夏香が男だったら何が問題あるんだ?
箕面が男と放課後ライフ?
いや、しかし俺も男だし。
むー。
わけわからん。
いらいらするから、考えるのやめとこう。
「――と、いうことがあったんすよ」
今度は院長に相談する俺。
「なんとかしてやる方法はないっすかね?」
「ふむ……百瀬くん、優しいですね」
「や、箕面も心配だしさ……」
「ただやっぱり僕ら白衣は着れども、骨折や捻挫を手当てする専門。餅は餅屋といいますように、専門外のことを下手に口出ししては余計に困らせてしまいますよ。ドラマじゃあるまいし何でも解決できる人なんていませんから。すみません」
「そうですよね……」
もっともだ。
夏香に何かあってからでは誰も責任とれない。
中途半端な気持ちで考えていい話ではないのだ。
「まあ、なにかをしてあげたいって気持ちはわかります。ひとつ手伝えることがあるとしたら――」
「あるんすか!?」
「例えばスポーツトレーナーとしてサポートしてあげることはできます。選手は自分の身体のケアもなかなか一人では難しく、ましてや他の選手の身体のことまで気遣《きづか》ってる余裕や時間はなかなかとれないものですから」
なるほど、だからマネージャーがいたりするんだな。
「そこで僕らみたいなのが練習メニューであったり体調管理のサポートをすることで、だいぶ選手の負担も減るんですよね」
「そうか! 負担が減れば……」
それなら夏香も少しは安心して走れるようになるかもしれない。
「せっかくですからマネージャーではなく、うちの院からの派遣トレーナーとして行ってみたらどうですか? ボランティアで」
「ほう……なんかかっこいいっすね。ぜひお願いします」
派遣トレーナーか。
そういえばイチロー選手も専属のトレーナーに鍼灸師とかを付けてるって聞いたことがある。
鍼灸は免許がいるから無理だが、トレーナー自体は国家資格じゃないから一応誰でも出来るらしい。
「わかりました。では今度一緒に顧問の先生に営業に行きましょうか。二人……いや三人で。上原さんも連れていきましょう」
「ああ、エリカにも営業の見本を見せてやるためっすね」
「いえいえ、三人のほうが顧問の先生も話しを聞いてくださるでしょうし。上原さんがうちに入ってくれてから学生の患者さんがかなり増えましたからね」
確かに上原がいれば華もあるし、人数が多い方が邪険にし辛いだろうな。
そういえばここでバイト始めて気付いたが、やたら運動部の男子が来るよな。
上原目当てだろ、阻止せねば。
まあ、俺が入ったからにはJKもいっぱい……
「百瀬君を雇ったのに女子生徒は全然増えませんね。ああ、本当にモテないんですね」
「院長……なんかすみません」
「あはは。でも上原さんが『百瀬君はチャラく見えますけど意外と頼りになるんです』と言ってましたよ」
「まじっすか!」
あいつ……わかってるねー!
嬉しいじゃねーか。
「トレーナーを機に広がるのを期待してみますか」
「頑張ります……」
「やるからにはテーピングやストレッチ、またスポーツ医学の基本ぐらいはしっかり覚えてもらいますからね」
「へい……おなしゃす」
episode『もてもて』end...
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
4
-
-
52
-
-
157
-
-
516
-
-
124
-
-
238
-
-
15254
-
-
0
-
-
4503
コメント