高校ラブコメから始める社長育成計画。
06.社長への裏口入学Ⅳ
チュンチュン。
火曜日。
七時起床。
横には幽霊になったメ○マが……うん、いないね。
朝チュンはまだ早い。
木漏れ日が屋根に映る穏やかな春の朝。
俺ん家から学校までは徒歩二十分ぐらいなのだが、今日は早めに行く準備をしている。
なぜなら昨日、階段でグネって足を痛めているからだ。
すでに今日の予定は決まっている。
家、学校、接骨院、家。
はあぁ。
しょーもない人生だ。
だが、楽しみもある。
愛しのマイスイートハニー。
デンジャラスハニー。
上原に聞きたいことがいっぱいある。
なぜ接骨院の受付やねん?
なぜ保健室使いこなしてるねん?
てか、保健の先生どこいってん?
色々あるが、第一声はまず、ありがとうだな。
感謝を。
そんなことを考えながら家を出る。
晴天の朝は気持ち良いが、まだ寒いな。
片手を松葉杖、片手をポッケに突っ込んで肩をすくめながら歩く。
この時間だとすれ違う人間もいつもと違うんだよな。
遅いペースで歩く俺を他の生徒たちが横目で見ながら抜き去っていく。
「見せもんじゃねえよこら」
と、心の中でつぶやく。
まだ閉まってる影月接骨院を通り過ぎ、高校への坂道をえっちらおっちら登っていく。
「そこのどんくさいやつ! もっと端っこ歩きなさいよね!」
後ろから声がした。
振り返ると上原がスタスタと歩いてくる。
「ど、どんくさいってなんだよ!」
「階段で捻挫なんて、どんくさいのほかに何があるのよ」
「うるせーよ! まじ痛かったんだからな!」
売り言葉に買い言葉。
やっちまったな。
ここは大人になろう。
「……昨日はよぉ」
言いかけた時、上原が俺の言葉を遮る。
「でも骨折じゃなくて良かったわ。ちょっと心配だったんだから!」
「あ、ありが……」
「ふんっ。ヤンキーは頭打ってそのまま地獄行ってくれても良かったんだけどね!」
なんか誤解あるようだけど、毒を吐きながらも少し笑顔の上原を見ると、なんだかんだ心配してくれてたんだなと感じる。
やっぱ感謝だな。
そして俺たちは、微妙な距離を保ちながら学校へ向かう。
話を聞くとやはり上原は、バイトで半年前から接骨院の受付に入ったらしい。
ちなみに学校の保健室の先生は叔母にあたるらしく、運動部の生徒のことなどで、今までにも上原には色々手伝わせたりしていたようだ。
昨日は俺の様態を見て、あとは任せるわと会議に行ってしまったんだと。
§
キーンコーンカーンコーン――
スマホで小説を読んでたらあっというまに放課後だ。
俺は例の接骨院へ向かう。
「まってよー!  わわっ、いだっ……」
箕面が必死の険相で駆け寄ってくる。
というか転がってきた。
こいつは本当にドジだよな。
捻挫した俺が言うのもなんだが、あっちこっち毎日のように青あざを作っている。
親譲りなのか、運動能力自体は抜群だ。
体育の成績はいつも満点で、走っても投げても学年トップクラスだ。
運動部からスカウトが来たり、助っ人を頼まれる事も多々ある。
だが、周りが見えない奴なので、かっこいいシーンではいつもドジを踏む。
まあ、そこが放っておけない腕白キャラみたいで好感度高いところなのだが。
真面目で一生懸命。
周りの人に助けられながら生きている。
こんな漫画から飛び出してきたような無邪気な奴は、いつか無人島に放りだしてバトロワさせたい。
「今日も接骨院?」
箕面は制服の汚れをぱんぱんと払いながら俺に聞く。
「ああ」
こいつは上原が受付やってることを知ってたんだろう。
行けばわかるから、みたいな事を口走ってたな。
「お前、上原と知り合いだったの?」
「知り合いというか、前に保健室でちょっとね」
ちょっとってなんだよ。
と、気になるも、上原の事を片思い中な件は誰にも言ってないので、深くは聞くまい。
「へー」
平然を装って軽く返事しとく。
「今日はボクも付いていこっかな。暇だし」
俺と上原のイチャラブな時間を邪魔する気か!
とは、思うはずもなく。
むしろ病院みたいなとこは一人より誰かに付いてきて欲しかったりする。
「助かる」
そう言うと箕面は、ぱあっと笑顔になり、俺のカバンを奪い取った。
悪いな、まあケガの時ぐらい甘えさせてもらうか。
「そういえば昨日の最終回見たー? やっぱし廃課金者最強だったね! 面白かったから二期きてほしーなー!」
こうして俺たちはいつもの雑談を交わしながら、だらだらと影月接骨院に到着した。
自動ドアのボタンを押して中に入ると――
「こんにちは!」
受付で綺麗なお姉さんが迎えてくれた。
今日は上原いないんだ。
少し期待していた分、肩を落とす。
そこへ箕面が俺の耳元で囁く。
「先生の奥さんだよ」
受付のお姉さんの胸元には名札。
『影月』
院名と同じだ。
こんな人と結婚できるなんてうらやましい。
世の中ね……
俺はまた回文を思い出す。
ケッ、とか思いながら待合に座って順番を待つ。
と、そこへ凄い険相をした女の人が子供を抱いて入ってきた。
「先生! 助けてください!!」
……ん?
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