悪意のTA

山本正純

再び動き出した事件

事件発生から七年後の、平成二十四年七月一日。警視庁捜査一課三係の合田警部は、警視庁の鍵室に連れてこられた。月影がドアを開けた先には、かつて清水美里が誘拐された事件を担当した捜査員がいる。
月影は会議室のドアを閉め、集まった三人の男と顔を合わせる。
「合田警部。高崎探偵。斉藤巡査部長。この三人は、かつて清水美里誘拐事件を担当した捜査員だった。この場にいない五人は、全員七年以内に死亡。まず、青田警部補と春野明巡査部長は、七年前に発生した別の事件で殉職。そして、この事件の主犯であると思われる麻生恵一警部は一年前に病死」
月影は一呼吸置き、瞳を閉じる。
「残りの二人。まず、上条は半年前に自宅マンションの屋上から転落死した。そして今日西野が公園で射殺された。それも七年前の赤い落書き殺人事件を思い出させるように遺体を木の枝に吊るして。私の見解は、この事件は七年前の赤い落書き殺人事件に見立てて実行されている。つまり犯人は、この中にいる可能性が高い。何しろ、七年前の事件に関しては、現場に赤色の文字の落書きが残されていたことは、マスコミには話していないから。つまり、西野を殺すことができたのは、七年前の事件関係者か捜査関係者。もしくは、現在も逃亡している第三の犯人。犯人は、この内の誰かです」
月影が西野殺しに関する推測を述べる中、合田は首を傾げた。
「そろそろ本題に入ろうか? 態々あの事件の関係者を招集したのには、訳があるのでしょう」
「実は西野の机の中から、この黒い封筒が見つかりました。差出人は最後の被害者」
月影は黒色の封筒を、机の上に置く。
この発言に違和感を覚えた合田は腕を組み、悩む。該当者が存在しないと思ったからだ。
「最後の被害者?」
誰なことを示しているのかが分からない名前に、高崎と斎藤は顔を青くして、反応する。
斎藤が啖呵を切った。
「その手紙と同じ物が一週間前、届きました」
「同じです」
斎藤に続き高崎も答える。一方で、三の覚えがない合田は、首を横に振った。
「届いていないのは合田警部だけですね。ではもう一つ質問しよう。その手紙の内容」
月影は、机に置かれた手紙を取り出し、声に出して手紙を読んだ。
『親愛なる西野様。貴方を晩餐会に招待します。日時と会場は同封したカードに書いておきました。参加しなければ、後悔することになるでしょう。私は赤い落書き殺人事件の最後の被害者。私は貴方に殺された。貴方の罪が暴かれたくなければ、参加した方がいいでしょう』
月影は手紙を机に置き、手紙が届いた二人に尋ねる。
「手紙の内容はこれと同じですか?」
これに対して全員が同じだと答えた。この答えは予想外だと月影は思った。この手紙が事実なら三人の警察関係者の中に、殺人犯がいることになる。月影にとってこのケースは避けたいものだった。
「西野が殺された事件は、どの班が担当する?」
合田がそう聞くと、月影は頷いた。
「葛城警部が係長を務める捜査一課四係が務めます。それと、合田警部には殺害された西野の代理として、最後の被害者が主催する晩餐会に参加していただきます」
合田は月影の思惑を理解することができない。すると月影は、スーツのポケットからボイスレコーダーを取り出し、それを机の上に置く。
「もちろん俺がお前のことを疑わないのには、理由がある。七年ぶりに赤い落書き殺人事件と同様の手口の事件が発生したということで、警察組織上層部は、七年前の事件の主犯とされる麻生恵一と接触した人物の中に、西野を殺した犯人がいるのではないかと考えている。そこで麻生が病院に入院して病死するまでの期間、彼に面会に訪れたのは、高崎一、斉藤一樹、小早川せつなの三人。そこで小早川せつなは合田警部の偽名ではないかと疑った捜査員は、合田の写真を看護師に見せ、確認させた。その答えがこれですよ」
『この人ではありません。二十代前半の女性の方でした』
ボイスレコーダーから若い看護師の証言が流れた。月影は言葉を続け、合田犯人説を否定する。
「これは麻生の意志を告いだ者の犯行です。合田警部は麻生を逮捕しようとしました。かつて逮捕した男の意志を告ぐとは思えない。そこで合田警部には、警察の内通者として晩餐会に参加して、会場内で起きる可能性が高い第二の事件を阻止してほしいです」
状況を理解できた合田は頷き、月影に尋ねる。
「晩餐会の会場はどこだ?」
「晩餐会の会場は、東京の片田舎にある陰雷館という小さな旅館。部屋は八室と限られている。電話で問い合わせたら、満室という答えでした。もしも西野がその八人にカウントされているなら、残る席は一つだけとなります」
「分かった」
合田が納得を示し、陰雷館に招待された三人は、警視庁の駐車場に用意されたワゴン車に乗り込む。


そのワゴン車が走り始めた頃、警視庁の廊下で葛城警部は、北条から書類を手渡された。
「殺害された西野の着信履歴の結果です」
葛城は立ち止まり、書類に目を通した。
[着信履歴。高崎一。午後八時十分。斉藤一樹。午後八時三十分]
「ありがとう」
葛城は頭を下げ、捜査一課に戻った。すると、今度は部下の刑事が彼の周りに集まり、報告を始めた。
「葛城警部。小早川せつなと名乗る女のモンタージュ写真ができました」
葛城は部下から女の似顔絵を見せられる。
茶色く染まった髪が肩の高さまで伸びていて、後ろ髪をポニーテールに結ってある。二重瞼が特徴的な少女は、大学生のように見えた。

「悪意のTA」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「推理」の人気作品

コメント

コメントを書く