悪意のTA
黒幕達の密会
夜のライトアップがされた東京タワーの駐車場に、二台の自動車が同時に停車する。
一台は白色のランボルギーニ・ガヤンドで、もう一台は黒色のラシーンだった。
白色の外車の右隣りに停まった自動車から、一人の男が降り、運転席側のドアをノックした。それから間もなくして、ドアウインドーが開いた。
白色の自動車の助手席には、茶色のショートカットの髪型に黒色のライダースーツを着た若い女が座っていた。そのことに気が付いた男は、顔を青くする。
「まさか、あなたもいるとは思いませんでしたよ。ラジエル」
その女、ラジエルは運転席側に首を向け、微笑みかけた。
「暇潰しです」
「なるほど。それで順調ですか? ラグエル」
男は、運転席に座る愛澤春樹ことラグエルへと視線を向けた。ラグエルは頬を緩め、自信満々に答えた。
「もちろん。西野殺害現場に残したオワリノハジマリという赤い落書き。そして、都内数百か所以上に残されたTAという落書き。これで関係各所に伝わったはずです。テロ組織の退屈な天使たちが七年ぶりに復活したと。全てはあの方のシナリオ通りですね」
「勘違いしないでくださいよ。私が聞きたかったのは、朝日奈恵子絡みのことです。ちゃんと成果はありましたか?」
男が首を横に振ると、ラグエルは両手を一回叩いた。
「もちろん。一年前と四カ月前から進めて来たことです。僕が朝日奈恵子に変装して、生前の彼女と関係の深い大物政治家や財閥の会長から、大金を得る。政治的圧力で七年前は逮捕されなかった連中です。一年間で国家予算の半分くらいの大金を得ましたよ。最も、朝日奈恵子の亡霊は、もう現れませんがね」
「どういうこと?」
助手席に座るラジエルが首を傾げると、ラグエルは彼女と顔を合わせることなく、答えた。
「用済みということです。本格的にウリエルが動き出したようですからね。組織の活動資金を稼ぐ幹部。会ったことはありませんが、先代のウリエルよりは、上手く稼ぐでしょう。あのやり方は酷かった」
「ああ、朝日奈恵子という悪女を使い、肉体関係を持たせた上で、多くの衆議院議員や会社幹部に横領をさせるという奴。それで横流しした金は、先代のウリエルの息が掛かっている牧田編集部に集められて、そこから先代のウリエルの元に渡ります。警察の捜査で、牧田編集部の国枝が、一連の横領事件の黒幕だってことは分かっているけれど、その先に潜んでいる仕組みまでは分かっていないから、安心してくださいよ。先代のウリエルの正体を、警察は掴んでいません。最も今更正体が分かっても、捕まることはないでしょう。なぜなら彼は、一年前に病死しているのだから」
ラグエルは懐かしい名前を聞き、笑みを浮かべた。
「そうですね。それでは、本題を聞かせてください。態々盗聴対策で、ここに呼び出したのはなぜですか?」
「明日、レミエルが来日します。迎えに行ってやれというあの方からの指令が来ています」
「レミエル」
腕を組んだラジエルが呟くと、運転席に座るラグエルは首を横に傾けた。
「レミエル。組織の敏腕スナイパーが来日ですか? あの方は何を考えているのでしょう」
「分かりませんね。逆鱗に触れないように聞いてみても、良いかもしれません」
男は白色の自動車から離れようとする。だが、それをラグエルは呼び止めた。
「ありがとうございます。警察組織の捜査情報をリークしてくれて。警視庁捜査一課参事官の喜田輝義さん」
その男、喜田輝義は突然自分の名前を呼ばれ、思わず笑みを零す。
「そこはコードネームで呼んでくださいよ。アズラエルっていうコードネームがあるんですから」
「ごめんなさい。アズラエル」
「全くです。勘違いしているかもしれませんが、これでも組織のナンバースリーで……」
「同率の」
ラジエルが口を挟み、アズラエルは思わず苦笑いする。
「ナンバースリーは二人もいらないと思いませんか? あの方は何を考えているのでしょう?」
「分かりませんね。逆鱗に触れないように聞いてみても、良いかもしれません」
先程のアズラエルの言葉をラグエルは復唱する。それを聞き、アズラエルは自動車から離れた。
「それでは、またよろしくお願いしますね。お二人さん」
アズラエルは再び自分の自動車に乗り込むと、すぐに駐車場から走り去った。それと同じように、愛澤が運転する自動車も、首都高速に向かい走り始めた。
          
一台は白色のランボルギーニ・ガヤンドで、もう一台は黒色のラシーンだった。
白色の外車の右隣りに停まった自動車から、一人の男が降り、運転席側のドアをノックした。それから間もなくして、ドアウインドーが開いた。
白色の自動車の助手席には、茶色のショートカットの髪型に黒色のライダースーツを着た若い女が座っていた。そのことに気が付いた男は、顔を青くする。
「まさか、あなたもいるとは思いませんでしたよ。ラジエル」
その女、ラジエルは運転席側に首を向け、微笑みかけた。
「暇潰しです」
「なるほど。それで順調ですか? ラグエル」
男は、運転席に座る愛澤春樹ことラグエルへと視線を向けた。ラグエルは頬を緩め、自信満々に答えた。
「もちろん。西野殺害現場に残したオワリノハジマリという赤い落書き。そして、都内数百か所以上に残されたTAという落書き。これで関係各所に伝わったはずです。テロ組織の退屈な天使たちが七年ぶりに復活したと。全てはあの方のシナリオ通りですね」
「勘違いしないでくださいよ。私が聞きたかったのは、朝日奈恵子絡みのことです。ちゃんと成果はありましたか?」
男が首を横に振ると、ラグエルは両手を一回叩いた。
「もちろん。一年前と四カ月前から進めて来たことです。僕が朝日奈恵子に変装して、生前の彼女と関係の深い大物政治家や財閥の会長から、大金を得る。政治的圧力で七年前は逮捕されなかった連中です。一年間で国家予算の半分くらいの大金を得ましたよ。最も、朝日奈恵子の亡霊は、もう現れませんがね」
「どういうこと?」
助手席に座るラジエルが首を傾げると、ラグエルは彼女と顔を合わせることなく、答えた。
「用済みということです。本格的にウリエルが動き出したようですからね。組織の活動資金を稼ぐ幹部。会ったことはありませんが、先代のウリエルよりは、上手く稼ぐでしょう。あのやり方は酷かった」
「ああ、朝日奈恵子という悪女を使い、肉体関係を持たせた上で、多くの衆議院議員や会社幹部に横領をさせるという奴。それで横流しした金は、先代のウリエルの息が掛かっている牧田編集部に集められて、そこから先代のウリエルの元に渡ります。警察の捜査で、牧田編集部の国枝が、一連の横領事件の黒幕だってことは分かっているけれど、その先に潜んでいる仕組みまでは分かっていないから、安心してくださいよ。先代のウリエルの正体を、警察は掴んでいません。最も今更正体が分かっても、捕まることはないでしょう。なぜなら彼は、一年前に病死しているのだから」
ラグエルは懐かしい名前を聞き、笑みを浮かべた。
「そうですね。それでは、本題を聞かせてください。態々盗聴対策で、ここに呼び出したのはなぜですか?」
「明日、レミエルが来日します。迎えに行ってやれというあの方からの指令が来ています」
「レミエル」
腕を組んだラジエルが呟くと、運転席に座るラグエルは首を横に傾けた。
「レミエル。組織の敏腕スナイパーが来日ですか? あの方は何を考えているのでしょう」
「分かりませんね。逆鱗に触れないように聞いてみても、良いかもしれません」
男は白色の自動車から離れようとする。だが、それをラグエルは呼び止めた。
「ありがとうございます。警察組織の捜査情報をリークしてくれて。警視庁捜査一課参事官の喜田輝義さん」
その男、喜田輝義は突然自分の名前を呼ばれ、思わず笑みを零す。
「そこはコードネームで呼んでくださいよ。アズラエルっていうコードネームがあるんですから」
「ごめんなさい。アズラエル」
「全くです。勘違いしているかもしれませんが、これでも組織のナンバースリーで……」
「同率の」
ラジエルが口を挟み、アズラエルは思わず苦笑いする。
「ナンバースリーは二人もいらないと思いませんか? あの方は何を考えているのでしょう?」
「分かりませんね。逆鱗に触れないように聞いてみても、良いかもしれません」
先程のアズラエルの言葉をラグエルは復唱する。それを聞き、アズラエルは自動車から離れた。
「それでは、またよろしくお願いしますね。お二人さん」
アズラエルは再び自分の自動車に乗り込むと、すぐに駐車場から走り去った。それと同じように、愛澤が運転する自動車も、首都高速に向かい走り始めた。
          
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