少女メイと呪われた聖剣セグンダディオ

小夜子

第31話「北へ」



お姉ちゃんたちと別れた後、お義父さん、お義母さんと別れた。
余韻に浸る暇もなく、私達はトンポリを目指すことにした。
一気に人が減り、いつもの三人に戻る。
それは祭りが終わった後のような寂しさだった。
なんというか、もう少し続いてほしかったというか。
そういう気持ちが心の底にこびりつく。




「メイ、トンポリは歩いて半日くらいで着きます。寂しいのはわかるっスけど、また会えますよ。その為に行くっス」




「……うん」




「行きましょう」




そう言って手を繋いでくれる理沙とノノ。
そんな二人の気遣いに少しだけ心が暖かくなる。
そうだよね、しんみりしてちゃダメだよね。
正直、この世界を守るとかそんな大それた事は考えていない。
けれど、お義父さんやお義母さん達と一緒に暮らすために。
お姉ちゃん達とまた笑って再会するために。
できれば、私の本当の両親とも再会したい。
そしてみんなで暮らせたらなと思う。
そうなる為に頑張らなくちゃ。





「王国からトンポリまで北にまっすぐです。曲道もありませんので楽っスよ」




「道も整備されてて進みやすいね」




道は付近の雑草が綺麗に狩られ、石畳の道となっていた。
石畳の道は歴史を感じさせ、情緒あふれる景観だと思う。
普通の土の地面よりも歩きやすくていい。
心なしか足も喜んでいるような気がする。
こういう道っていいよね。




「でも何で石畳に?」




「この道は王様が避暑地に行く時通る道っス。王様は馬車で行くんスけど、土のままだと雨降った時はぬかるんでしまうっス。そうなると馬車の車輪が泥の中に沈み込んで進めなくなるっス。そこで石畳にしたんスよ。こういう道なら徒歩はもちろん、馬車も楽に進めるんスよ」




「へぇ……相変わらず博識だね」




「ま、師匠から教わったことなんスけどね」




「理沙、師匠さんがいるの?」




「ええ。ナイトゼナに来た時にお世話になったんス。その人から色々学びましてね。
今の知識もホントは受け売りなんスよ」




てへへと照れくさそうに笑う理沙。
まあ、理沙も普通の高校生だもんね。
いくら私より半年前にこの世界に来たとはいえ、博識すぎると思ってたんだ。
師匠さんに教わってきたのなら合点がいく。
思えば私にはそういう人はいないな。




「師匠さんは今でも元気なの?」




「あー……えっと、その」




「号外でーす。はい、お嬢ちゃん達もどうぞ。はー、忙しい、忙しい」




と、急に男の人が割って入ってきて、何かを渡すとさっさとどっかへ行ってしまった。渡されたのは号外と書かれた新聞だ。
ナイトゼナにも新聞があるのは知っている。
以前、シェリルとミリィが捕まったと報じる新聞をロランさんと一緒に読んだことがある。でも、号外があるのは知らなかった。
日本でも超有名バンドが解散とか、大規模な災害、事件なんかが起きたら配られている。ニュースで号外が配られている場面を何回か見たことあるけど、実際に見るのは初めてだ。




「何々……ニルヴァーナ大規模大量殺人事件。昨日午後、死亡したと思われていた国際指名手配犯のミリィが大会参加者として変装し、出場。観客・来賓・参加者達の魔力を強制的に奪い取るという暴挙に出た。魔力の枯渇は死を意味する。動機は自分を捕まえた少女・七瀬芽衣への復讐だ。彼女は今回の大会に参加していた。しかしミリィは七瀬芽衣により返り討ちになり、遂に死亡した。一部観客による自主避難があったものの、犠牲者の数は8万人を超えるとされており、身元確認作業が急がれている」




私はそのまま続けて紙面の下の方に視線を移す。




「今回の事件で国際指名手配犯を事前に見抜けなかった王政に対し、国民は怒りを爆発。大規模なデモ更新を始め、城の前に連日座り込む住民も出た。また「これを期に古い王政は廃止して民主主義国家となるべきだ」という意見も強く出ている。ナイトゼナではシェリル・ミリィの暴挙により王や臣下のほとんどが死亡するという痛ましい事件が起きたことは記憶に新しい。しかし、皮肉にもそれが国民議会運動に火をつけるきっかけともなった。商店会同盟のトップが新しい政治を……ダメだ、長い」




まだまだ続きそうなのでここらでやめておく。
理沙が興味深く新聞を覗き込み、難しい顔をする。
情報収集が得意な彼女にとって新聞はまさに命の源泉だ。
真剣な表情をしているが、その必死さがこちらにまで伝わってくる。




「むむぅ……ミリィ事件はニルヴァーナにとって相当な痛手みたいっスね。国民達は王政を廃止して議会制民主主義にするかもしれません。まあ、それよりも王様が謝罪をする方が先でしょうね。あまりにも多くの人が亡くなりましたから」




「……私がもう少し強かったら犠牲者は出なかったのかな」




「メイ、IFは考えないほうがいいわ。メイはやれるだけの事をやった。あなたは何も間違っていない。自分を責めるのは間違いよ」




「ノノさんの言うとおりっス」




二人は優しい言葉を私にかけてくれる。
確かに頭でIFを考えてもどうにもならない事はわかっている。
それで死者が蘇るわけじゃないし。
前向きにいかないといけない。
そして、もう二度とあんなことが起きないようにしないと。




「……うん」




私はただ頷くだけに留めた。
そのまましばらく無言であるき続けた。








しばらく歩いていくと、そろそろ太陽が最も活動する時間になった。
要するにお昼になってきたということね。




「あと少しでトンポリっス」




私達は石畳を歩き、目的地へと向かう。
先程からモンスターも出ず、ただ自然が広がっている。
辺りは林が広がっているだけで他に人工物はない。
そんな中、奇妙な人を発見した。





「あれは……」




よく目を凝らして見つめてみる。
顔を白いペンキで塗りつぶし、鼻から耳、そして唇をショッキングな赤色に染めている。丸い赤鼻をつけ、派手な赤色のパンチパーマみたいなカツラをつけている。
言うまでもなくピエロだ。
それは玉乗りをしながらお手玉をしており、実に器用だ。
けれど、周りには誰も観客がいない。




「……やあ、こんにちは。お嬢さん方が来るのを待っていたよ」




「待っていたった?」




「なんか怪しいピエロですね」




「へぇ……これがピエロって言うのね。初めて見たわ」




三者三様の驚き方に「ははは」と軽く笑うピエロ。
よっとという掛け声と共に玉乗りから降り、そのままお手玉だけ続ける。
ホント、何なんだろうかこの人は。




「実は道に迷ってしまってね。さっきから人が通りがかるのを待っていたんだ。僕は他の大陸から来ていてね。ナイトゼナの地理をよく知らないんだ。もう5時間近くもこうして待っていたよ」




明日の天気を話すかのように気軽に答えるピエロ。
でも、私達の警戒心はまだ解けないでいる。




「ここから南にまっすぐ行けばニルヴァーナに着くっスよ」




「そうか。それはありがとう。では、さっそくそこへ向かうとしよう。
優しいお嬢さん方、どうもありがとう」




「い、いえ……」




お手玉をようやく止め、ボールを持ち運び南に向かうピエロ。
しかし、何を思いついたのか動きを止め「そうそう!」と大声を出した。




「優しいお嬢さん方、君たちにお礼をしよう。でも生憎僕は物もお金もない。そこで情報を上げよう。この先にある林に行くといい。奥には温泉が湧いている」




「は?温泉なんてこの地方にはないっスけど……」




「まだ誰も見つけていない秘湯だ。魔力の結界が貼られていたので解除したんだが、あれはミリィが張ったものだろう。大雑把なように見えて物凄く繊細で細かい術式だった。ああいう書き方はミリィしかできないだろう。恐らく体力を回復していたんじゃないかな」




「ちょっと待って!なんでそんなに詳しいっスか。アンタ、一体……」




「優しいお嬢さん方。僕は道化師…ただのピエロだ。こうやって世界各地を渡り歩き大道芸をしてお客さんを笑顔にさせることが仕事だ。それ以外は何も知らないし、何もできないエンターテイナーさ。まあ、興味があるなら行ってみると良い。ではまた。君たちの旅に神の祝福があらんことを」




そのままピエロは去っていった。
残された私達はどうしようかと頭を悩ませる。




「……確か、ミリィと戦った時、火球を理沙が跳ね返したっけ。ワープで逃げたけれど、大火傷を負っていた。その湯治の為に温泉に来ていたのかな」




「可能性は大きいっスね。まあ、ピエロの言うことが全部本当ならという話ですけど。行ってみるっスか?」




「最近家風呂ばかりだったから、温泉なら最高ね」




と嬉しそうな声を上げるノノさん。
何だか緊張感がないなぁ。
無視して行くのも一つの選択肢だ。
でも、後で気になるのもねぇ…。
あのピエロの言葉が本当かどうかはわからない。
罠の可能性もあるけど、そんなことをするメリットがあるだろうか。
もし私を狙う刺客なら回りくどいことをしないで戦えばいい。
時間はまだお昼だし、林に立ち寄る時間くらいはある。




「行ってみましょう」








トンポリのルートから少し外れ、林を歩く私達。
流石に獣道だけど気にせず進む。
アスファルトに慣れた私と理沙からすると、こういう土の道は気持ちがいい。
疲れが大地に染み込むというか…これで石が無ければいいんだけど。
しばらく歩くと硫黄の匂いがしてきた。




「ん?この匂い……」




「見るっス、メイ」




林の開けた場所に温泉があった。
あのピエロの言っていたことは本当だったようだ。
しかもそこは動物たちが入っており、憩いの場のようだ。
こちらに気付くと動物たちはささっと逃げていった。
むむ、ちょっと残念。




「よし、さっそく入ろうか。ここなら他に人もいないだろうし」




「待つっス、メイ!」




「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」




現れたのは2メートルはあろう、大熊だ。
青い毛並みをしており、手と足には鋭い爪が生えている。
目は完全にこちらを威嚇しており、グルルルと唸り声を上げている。
口からはだらし無く涎が地面に溢れるほど出ている。




「よく銭湯出た後、フルーツ牛乳飲んで、お腹が空いたらお好み焼きとか食べていったっス。んでテレビを見ながら阪神戦を観てたッスね。奴はその気分でしょう」




「よく一緒に行ったよね。理沙サウナ大好きだから何度もサウナと水風呂を往復してたっけ」




「サウナは身体にいいんスよ。また行きたいっス。今度はみんなで」




「うん」




「ガアアアアアアアアアアアアアア!!!」




俺を無視するなと言わんが如く、襲いかかる熊。
すぐに回避して距離を取る。
獲物は既に準備し終えている。





「さて、奴の射程は短いっスけどあの爪の威力は相当でしょう。
近づいて戦うのは難しいかもしれませんね」




「理沙の斧を投げつけたら?その背後を私が狙うとか」




「いや……そう上手くもいかないようっスよ」




熊はいきなり胸を叩き出し、口からピューと吐息を吐きだした。
みるみる木が氷出し、その木を熊が持ち上げる。
それをブンブン振り回しているではないか。




「あの氷……もしかしてミリィが造ったモンスターなのかも」




「ナイトゼナに氷を吐ける熊なんて聞いたことないっス。恐らく門番として造ったのかもしれませんね」




「二人共どうするの?あれだと前も後ろも攻められないわ。一振りで前も後ろも攻撃できてしまうわ。攻めるに攻められない」




「耳を貸して、ノノ、理沙」




しばし作戦会議。
そして二人は私の案に賛成した。
飛び出す私達。




氷結床アイスフロア!」




地面をノノの手から中心に凍りついていく。
すぐに熊の元まで凍りつき、すってんころりん。
こけたと同時に木も熊の手から離された。
おまけに落ちた衝撃で木は粉々だ。
私達は凍ってない地面を歩き、私が左、理沙が右を行く。
熊は爪を地面に刺し、何とか起き上がろうとするが足がおぼつかない。
そこがチャンスだ。
私と理沙が左右から迫り、射程位置につく。
けど、動きは止めずに走り続ける。
そのまま勢い良くジャンプし、隼の如く左右から切り裂いた。




「グオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!」




血しぶきが舞い、痛みにのたうち回る熊。
それと同時に氷結床アイスフロアがなくなり、普通の地面に戻る。
ここまでくれば熊は赤子同然だ。
理沙が遠慮なく斧で首を掻っ攫う。




「やった!」




「連携プレイの勝利っスね」




「流石ね、二人共」




ハイタッチを交わす私達。
よし、これで温泉に入れる!




「この熊は鍋で煮込みましょう。久しぶりの熊鍋っス。
準備しとくんで二人は温泉入っててくださいっス」




「はーい。んじゃ行こ、ノノ」




「ええ」




私達は仲良く温泉に入ることにした。
タオルもないし裸なのは恥ずかしいが、まあ女同士だし気にしない。
戦闘で汗臭くなっていたので、温泉は普通に有り難い。
ゆっくりつかり、顔を洗う。
うん、湯加減もなかなかいい。
家のお風呂よりちょっと熱いぐらいかな。




「メイ、まだまだ小さいのね」




「ノノ、どこの事を言ってるの!?そういうノノだって……」




比べてみて愕然とした。
私の胸は例えるなら、コンビニに売っている丸いジャムパンぐらいの大きさだ。
なのに、ノノはハンバーガーぐらいの大きさがある。
うわ、これは何も言えないわ。




「でも、可愛さがあって好きよ」




「ちょ、やだ、揉まないでよ。もう、ノノの変態。まるで理沙みたい」




「女同士なんだから気にしない、気にしない」




「きゃー★」




とはしゃぐ私達。
理沙はそんな私達をじっと観ていた。




「あー……ビデオあったら録画しときたかっス。いや、脳内RECすれば大丈夫っス。
たまにはこうやってメイを視姦するのもいいっスね。うえへへ……」




「理沙。いやらしい目で見るなー!」




とお湯をぶっかけて上げた。
きゃはははと笑う私達。
すると、理沙はポイポイと服を抜き出して全裸になる。




「やったっスねー!倍返しっスー」




と、温泉にぶっ飛んでくる理沙。
ザッパーンと大きな音と衝撃が広がり、そこから掛け合いっこが勃発した。
私達はそうやって温泉を満喫したのであった。
ついでに熊鍋も食べてお腹いっぱいです。

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