少女メイと呪われた聖剣セグンダディオ

小夜子

第5話「四英雄」



そこはどこか暗い場所だった。
暗くて、ジメジメしてて、かび臭い。
そして、人の気配を感じた。
それは複数の人の気配だ。
恐らく10人以上いるのではないだろうか。
私はゆっくり目を開ける。




「ようやくお目覚めか。お寝坊さんだな」




その声は優しくなかった。
不快すら感じるニュアンスだった。




「あ……?」




さっきから喉に違和感が有る。
手足も自由に動けない。
暗くてよく見えないが、口には猿轡が嵌められていた。
手足は手錠か何かで拘束され、自由を奪われている。
動かそうとしてみたが、動くことができなかった。




「……ここは地下墓地の休憩所だ。この世界では墓を地下に造る。人々はお墓参りの後、ここで休憩するのさ。だが、最近は魔物が出没するせいで、墓参りの人間はめっきり少なくなった。私達には都合の良い場所ということだ」




シェリルさんは不気味に笑いながら言う。
一体、これは何?
どういう事なのだろうか?




「あんたのセグンダディオは頂いたよ。これが本物なら大金が……いや、それどころじゃない。国がまるまる買えるぐらいの金が手に入る!財布とか、異世界の物も古物商に引き取らせればいい金になるわ。ねえ、みんな! 」




ミリィさんはセグンダディオや私の鞄や財布をまるで自分の物として持っているようだ。男たちが声援を上げるが、それは私の耳を汚す、極めて不快な声であり、周波数だった。その言葉で私は全てを悟った。
私は……騙されたんだと。




「もう気づいただろうが、レッドスチルには睡眠薬を仕込んでいた。それにあの酒場にいた連中は全てここにいる私の部下だ。マスターもな。ただ、店だけは借り物だ。元々いたマスターや客は全て八つ裂きにして殺したよ。マズい癖にケチな値段をつけてきたからな。今頃は魚の餌になっているだろうな」




ぎゃはははと汚く笑う男たち。
あまりに不快すぎる声を私は聞きたくなかった。耳を引きちぎって捨てたいほど、聞くのを避けたかった。だが、容赦なく耳は声を拾い、私のストレスを増大させていく。なんとか自由を手に入れようとするが、手錠のせいで腕も足もうまく動けない。




「しかし、貴様もバカだな。自分の素性を他人にベラベラと……。お人好しにもほどがある。まあ、そのお人好しのお陰で我々は楽ができるのだから、笑いが止まらんよ」




更に笑う男たちを背にシェリルさんは刀を出した。それを迷うことなく私の首に突きつける。金属特有の冷たさが私の首に伝わってくる。彼女の眼は本気だ。冗談でも嘘でもない。恐ろしいぐらい澄んだ瞳に私は恐怖した。




「お前にはここで死んでもらう。軍に通報されてもやっかいだからな。即死と安楽死……お好みは?」




「頭ぁ、それはないですぜ。まずは俺たちに遊ばせてくだせぇよ。こんなロリっ子、滅多にいないんですからよ。最近は金なくて風俗通いもできてないんすから。俺のムスコが暴れたくてウズウズしてるんすよ」




「いつからそっち方面に興味が出たんだ?成熟した女性が好きなんじゃないのか?」




「ゲヒヒ……こっち方面も最近好きなんすよ。前に街をぶっ壊した時、女食ったんすけど、そん時にそういうのが堪らなく好きになりやしてね。抵抗したんですぐ殺したんすけど、今思えば勿体ない上玉でしてね。へへへ」




男たちのバカ話が耳に入ってくる。
私は身震いした。
それがどういうことになるかを。
怖い、想像なんかしたくない。
だが、現実はいつも残酷だ。
シェリルは私に顔を近づけ、耳もとで囁くように、しかし、ハッキリと言葉を口にした。




「わかっただろう、メイ。お前はあいつらのおもちゃだ。そういう経験は初めてだろう?ゆっくりと楽しむといい。お前が恐怖と絶望に染まりきったら殺してやる。安心しろ、一撃で首を落としてやる。恨むのなら、この世界に来たことを恨むんだな」




「お前ら、間違ってもすぐに殺すなよ。シェリルが殺す前に魔法実験とかもしたいしぃ~どんな声で鳴くのかマジ楽しみ☆」




「わかりやしたぁぁ! 」




ミリィに男たちは威勢のいい声を上げた。
そして2人がいなくなったのを確認すると、男たちはカチャカチャとズボンに手をかけた。ベルトを外し、下半身を露出させ、汚い笑みを浮かべる男達……。
私は吐き気がしていた。
目を瞑り、もがくが、手錠はキツく固定され外れない。
シェリルの話が本当なら地下墓地のこの場所に人が来ることはないのだろう。私は犯され、おもちゃのように扱われ、地獄のような時間を過ごすことになる。そして、最後は殺される……。




「ショータイムだ、お嬢ちゃん。まずはその邪魔な服をぬぎぬぎしましょうね♫」




ぎゃははは!!とクソな笑い声が響く。
一番距離の近い男が私に触れる。下半身が露出し、ほぼ全裸の男が私の猿轡さるぐつわを外してから、馬鹿力で服を引き剥がした。私は下着姿のみとなってしまう。周りの男たちもゆっくりとこちらにやってくる肝心のセグンダディオは奪われ、口こそ拘束が解けたものの、手や足は拘束されたままだ。逆らう術がない。




「安心しな。痛いのは最初だけだ。徐々に気持ちよくなってくるからよ。まずは唇から奪ってやるよ」




「あ、あああ……」




私は咄嗟に目をつぶった。
怖い、怖い、怖い!
涙が出て止まらないほど、怖い。
身体が震えてしまう。
こんなどこの誰ともわからない奴とキスするの?
こんな連中に犯されちゃうの?
私の人生はこれで終わりなの?
まだやりたいことがいっぱいあるのに!
お姉ちゃん、たすけて!!
誰か、誰か、助けてぇ!!!!




「いやああああああああああ!!」




私は泣き叫んだ。
男たちはきっと笑うものだと思った。
私を押し倒し、徐々に唇を近づけてくる。
どうして、私がこんな目に……。
ここで私の人生は終わりなの?
ここで犯されて、殺されてしまうの?
圧倒的な絶望的状況に覚悟を決めようとしたが……。
いつまで経っても男は何もしてこない。
恐る恐る瞳を開けると、唇を押し付けようとした男は一時停していた。
かと思ったら、そのまま地面と濃厚なディープキスをした。




「おいおい、どうしたんだよ……ひいい!!し、死んでやがる」




もう一人の男が驚きの声を上げる。
そう、それもそのはず。
地面キス男は既にこの世の住人ではなくなっていたからだ。
黒い血だまりが床に広がる。




「ゲス共が……こんなか弱い少女を。破廉恥極まりない、恥を知れ!!」




私の前に現れた女の子は長剣を手にしていた。ジャケットにジーンズらしき物を履いている。金髪が目に眩しかった。




「もう大丈夫だよ」




と、もう一人女の子が私の手錠を外してくれた。髪を二つ結びし、顔も肌も茶色な女の子だ。ついでに毛布で私を包んでくれた。




「ミオ、その子を頼む。こいつらは任せろ」




「OK。気をつけてね、ロラン。さ、いくよー」




二つ結びの女の子は私をひょいと抱き抱え、お姫様だっこでその場を後にした。




「下賤の輩め……か弱き少女を貶めようとした罪、身をもって知るがいい!!」




墓場に男たちの断末魔の悲鳴が上がった。


          

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