愛山雄町の酔いどれ酒エッセイ
エイプリル・フール特別企画「ハイエルフに聞く麦酒の魅力」(2017年4月1日投稿)
一見するとドワーフと見紛う体形の男がにこやかな笑みを浮かべてカメラに向かっている。そこは樹齢数千年の古代樹をそのまま利用した名店、“悠久の蒼森亭”の酒場の一画だった。
「皆さん、麦酒はお好きでしょうか? MZ文庫編集者の愛山です。本日は麦酒の魅力について、エディンダム王国の大森林グラスベルにお住まいのアーデライードさんに、ここ「悠久の蒼森亭」でお話を伺おうと思っております。では、アーデライードさん、よろしくお願いします」
愛山と名乗る男の紹介で僅かに幼さの残る美しい少女が登場する。
特徴的なとがった長い耳、白磁のように白く透き通る肌、流れ出る蜂蜜のような滑らかな金髪と美しい南の海を思わせる青石の瞳。美神が降臨したと錯覚させるような美しいハイエルフだった。
「あ、アーデライードよ、よ、よろしく……」
彼女は緊張しているのか、ややうつむき加減になっているが、その手には木樽ジョッキをしっかりと握っていた。
「聖なる森の大賢者アーデライードさんに、このようなことをお尋ねするのは大変恐縮なのですが、アーデライードさんは大のお酒好きと伺っております。この時期にお勧めのお酒は何でしょうか」
お勧めの酒と聞き、さっきまで緊張していたことが嘘のようにしっかりと顔を上げる。
「この時期は季節麦酒ね。農閑期である冬の間に作った麦酒なんだけど、ゆっくりと熟成されていて、とてもおいしいのよ」
「セゾンビールですか。さすがはアーデライードさんですね。元々は夏の暑い時期に飲むビールだったそうですが、ホップを利かせたり、スパイスを加えたりといろいろと工夫されており、春先のこの時期でも充分おいしくいただけます。ちなみにお勧めの産地などはありますか?」
「やっぱりこの時期ならエーデルの季節麦酒が一番じゃないかしら。麦の名産地だし、特産の川海老のニンニクオイル煮にはぴったり」
「それはおいしそうですね。ですが、異世界の産地では地球では飲めません。ちょっと残念です。他にも何かお勧めのお酒は?」
その一言が彼女の心に火を着けた。店の主であるアレックスに無言で酒を注文し、受け取ると一気に呷る。そして、軽やかな口調で話し始めた。
「そうね。少し甘くて癖があるけど、小麦の白麦酒もおいしいわ。濁りがあるからとっつきにくいかもしれないけど、私は大好きよ。それにもう少ししたら五月じゃない。五月といえば、やっぱり五月のボック、マイボックよ。あの力強い香りは止められないわ……夏は喉ごしの良いピルスナーね。キリキリに冷やしたピルスナーが一番……大事なのは十月よ。収穫祭にビールは……」
ジョッキを何杯も空け、怒涛の如く話し続ける。さすがの愛山も相槌を打つことすらできなかった。
愛山は諦め顔で静かにジョッキを取り出すと、カウンターの奥にいるアレックスに目で合図を送る。
愛山とアレックスはその時、視線だけで意志の疎通を行っていた。
出されたジョッキを受け取ったアレックスは店の奥に行き、セゾンビールを注いで戻ってくる。
その間にもアーデライードの講義は続いていた。
「……冬は濃色系ね。濃い小麦麦酒やアルトみたいにちょっと度数が高くて味の濃いものがお勧めね……」
その時、扉が開く音がした。そこには一人の少年の姿があった。
「アデリィ、また飲み過ぎてない?」
「エ、エイト!?」
アーデライードは少年エイトの登場で自分が熱くなっていたことに気付き、耳まで赤くなっていった。
その隙を敏腕編集者愛山は見逃さなかった。
「それではアーデライードさん、最後に一言、お願いします」
彼女は真っ赤な顔で呟いた。
「これからの季節、ビールは特に美味しくなります。お酒はみんなで楽しく飲みましょう……これでいい、エイト?」
少年は満面の笑みで頷いていた。
「皆さん、麦酒はお好きでしょうか? MZ文庫編集者の愛山です。本日は麦酒の魅力について、エディンダム王国の大森林グラスベルにお住まいのアーデライードさんに、ここ「悠久の蒼森亭」でお話を伺おうと思っております。では、アーデライードさん、よろしくお願いします」
愛山と名乗る男の紹介で僅かに幼さの残る美しい少女が登場する。
特徴的なとがった長い耳、白磁のように白く透き通る肌、流れ出る蜂蜜のような滑らかな金髪と美しい南の海を思わせる青石の瞳。美神が降臨したと錯覚させるような美しいハイエルフだった。
「あ、アーデライードよ、よ、よろしく……」
彼女は緊張しているのか、ややうつむき加減になっているが、その手には木樽ジョッキをしっかりと握っていた。
「聖なる森の大賢者アーデライードさんに、このようなことをお尋ねするのは大変恐縮なのですが、アーデライードさんは大のお酒好きと伺っております。この時期にお勧めのお酒は何でしょうか」
お勧めの酒と聞き、さっきまで緊張していたことが嘘のようにしっかりと顔を上げる。
「この時期は季節麦酒ね。農閑期である冬の間に作った麦酒なんだけど、ゆっくりと熟成されていて、とてもおいしいのよ」
「セゾンビールですか。さすがはアーデライードさんですね。元々は夏の暑い時期に飲むビールだったそうですが、ホップを利かせたり、スパイスを加えたりといろいろと工夫されており、春先のこの時期でも充分おいしくいただけます。ちなみにお勧めの産地などはありますか?」
「やっぱりこの時期ならエーデルの季節麦酒が一番じゃないかしら。麦の名産地だし、特産の川海老のニンニクオイル煮にはぴったり」
「それはおいしそうですね。ですが、異世界の産地では地球では飲めません。ちょっと残念です。他にも何かお勧めのお酒は?」
その一言が彼女の心に火を着けた。店の主であるアレックスに無言で酒を注文し、受け取ると一気に呷る。そして、軽やかな口調で話し始めた。
「そうね。少し甘くて癖があるけど、小麦の白麦酒もおいしいわ。濁りがあるからとっつきにくいかもしれないけど、私は大好きよ。それにもう少ししたら五月じゃない。五月といえば、やっぱり五月のボック、マイボックよ。あの力強い香りは止められないわ……夏は喉ごしの良いピルスナーね。キリキリに冷やしたピルスナーが一番……大事なのは十月よ。収穫祭にビールは……」
ジョッキを何杯も空け、怒涛の如く話し続ける。さすがの愛山も相槌を打つことすらできなかった。
愛山は諦め顔で静かにジョッキを取り出すと、カウンターの奥にいるアレックスに目で合図を送る。
愛山とアレックスはその時、視線だけで意志の疎通を行っていた。
出されたジョッキを受け取ったアレックスは店の奥に行き、セゾンビールを注いで戻ってくる。
その間にもアーデライードの講義は続いていた。
「……冬は濃色系ね。濃い小麦麦酒やアルトみたいにちょっと度数が高くて味の濃いものがお勧めね……」
その時、扉が開く音がした。そこには一人の少年の姿があった。
「アデリィ、また飲み過ぎてない?」
「エ、エイト!?」
アーデライードは少年エイトの登場で自分が熱くなっていたことに気付き、耳まで赤くなっていった。
その隙を敏腕編集者愛山は見逃さなかった。
「それではアーデライードさん、最後に一言、お願いします」
彼女は真っ赤な顔で呟いた。
「これからの季節、ビールは特に美味しくなります。お酒はみんなで楽しく飲みましょう……これでいい、エイト?」
少年は満面の笑みで頷いていた。
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