東方狐著聞集

稜さん@なろう)

二十三尾 別れと出会い


私が病に倒れてから三日が経った。私は今、一人で山を後にしている。
なぜ、一人かだって? それは……



 ~数時間前~



「やっと治った」

 熱が引いた私は今まで寝ていた布団を畳んでからグイッと背を伸ばしていた。
伸ばした時にバキバキと音が鳴っていた。やはり、三日も寝ていると体がなまってしまったようだ。





「もう行ってしまうのかい?」

 部屋を貸してくれていた桜鬼がいつの間にか部屋の前に立っていた。

「あら、桜鬼。そろそろお暇しようかと思っているよ」


「寂しくなるねぇ。まぁ、いつでも遊びにおいでよ

「あぁ。遊びに来させてもらうよ。おっと、そうだ。これを」

「……? なんだいこれ」

 私は桜鬼に一本の酒瓶を渡した。その酒の銘は。

「私の作った酒で『鬼神』だ。たぶん美味しいと思う」

「そうかい、ありがたく受け取っておく」

 そういうと、桜鬼は部屋から出て行った。
私は雪夢を探していたが見つからなかったので、屋敷を出ることにした。屋敷を出てみると。

「あの! お姉さま!」

 外に我妹、雪夢が居た。


「外にいたのか探したぞ。それで、どうした? 雪夢」

「あの! お姉さま、私! ここに残らせてください! 私、勇儀さんに恋をしました。てか付き合ってます!」


 突然の妹の告白に動揺したが私は。

「そ、そうか。お幸せに。あと、迷惑をかけないようにな」

「はい! 我が儘言ってすいません」

「気にするな。さて隠れている勇儀、出てきなさい」


 木しかない場所に話しかけると木の裏から一本角の少女、星熊勇儀が現れた。


「気配を完全に消していたのに……」

「ふっ。甘いな。それよりも雪夢を頼んだ」

 私がそう言って頭を下げると勇儀は

「へへ。任せな!」
 
 と言って豪快に笑った。


「ぞれじゃあ、私は行くよ。雪夢を頼んだ」

「お姉様! 旅路、お気を付けてください!」

 私は後ろを振り返らずに鬼たちの住む屋敷を後にした。




 ~現在~

  まぁ、ということがあって私、一人なのだ。
いや、まさかあの雪夢が同じ性別の者と付き合うなんてねぇ……血は争えないのか。
 さて今、私が居る場所は妖怪たちの駆け込み寺と言われている寺の近くだ。
どこに行くか悩んでいた私を襲ってきた妖怪から吐かせた情報だが妖怪を匿っている寺があるそうだ。
雪夢がいないためか少し寂しいが新しい出会いを求めてその寺に来てみたのだ。


「ここが噂の『命連寺』荒れているな」

「誰です?」

「……⁉ 勝手に入ってきてすまない。貴女がこの寺の僧侶さんか?」

「いえ……それは多分、ひじり白蓮のことでしょう。私は毘沙門天代理の寅丸星と申します」

「これはご丁寧に私は、ラグナ。よろしく」


 寅丸の目は赤く腫れていて今まで泣いていたかのような雰囲気を醸し出していた。
これは、何かあるな。

「よろしくお願いします。それでラグナさんは寺に何の御用でいらっしゃったんですか?」

「あぁ。この寺の僧侶さんとお話がしたくて来てみたんだが。この荒れようじゃもしかすると」

「いえ」

 寅丸の目が鋭くなる。ほんの僅かだが妖力と一緒に神力が体からあふれ出している。
なにか禁句を言ってしまったか?


「いえ、聖は死んでいませんよ。ただ、恐れた人間によってある場所に封印されてしまいまたが」

「詳しく聞かせてくれないか?」

 寅丸は少し考え込むと顔を上げ

「わかりました。奥にどうぞ」

と言って歩き出した。




つづく

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