東方狐著聞集

稜さん@なろう)

 二十一尾 勝敗の行方



 両者が妖力を纏ったまま睨みあうこと数分、離れて酒を飲みながら見ていた星熊勇儀は楽しそうに戦いを観ていた。

「しかし、動きませんね」

「あぁーそりゃ動けないさ」

 勇儀の当たり前だろとでも言いたそうな顔を無視して雪夢は首をかしげていた。

「あの二人は隙を探しているのさ。だから先に動いたら隙ができるだろ? だから動けないんだ」

「なるほど……あ、お姉様の妖力が乱れ始めた?」

「あれは、誘ってるんだよ。しかし、おまえの姉は器用に妖力をを操るねぇ」

 酒を飲みながら勇儀は感心した風に笑いながら雪夢の背中を叩いた。

「ちょ、痛いですって!」

「悪い悪い。そういえばさっきから杯が空っぽじゃないか。ほれ、もっと飲みな!」

「あ、どうも」






「どうしたんだいラグナ。戦いの最中に考え事か?」

「どうやってお前をぶっ飛ばそうか考えてたのさ」

「フン、探り合いは十分だろ?」

「あぁ、そうだな。これ以上の探り合いは不要だ。いくぞ!」


 ラグナは纏った妖力を拳に集中させると一気に駆けた。だが、その行動を読んでいたかのように桜花は妖力を固めた剣のようなものを作り出し斬った。

「ッ?! 拳で来ると思ったんだけど……得物を使うなんてね」

「フン、昔を再現しようと思ったのさ。ただ今回は立場が違うけどねッ!」

 桜花の振るう妖力剣を躱しながらラグナは妖力を纏った拳を叩き込む、が桜花の表情は苦痛を浮かべるどころか笑みを浮かべていた。

「なぁ!? 効いていないだと」

「ふん、言っただろ? 探り合いは終わったと。次は私の番だ。ほらきりきり舞え!」

 妖力剣による怒涛の攻撃をどうにか躱すラグナだが、一瞬だけできた隙を桜花は見逃してくれなかった。


「もらったァ!」

 妖力剣がラグナを一刀両断する。上半身と下半身が別れてしまったラグナはそのまま倒れ込んだ。

「これであの時の借りを返せたという訳だ。勇儀! 帰るぞ」

  ラグナの死体を放置したまま勇儀のいるところへ歩き出した桜花は不自然なことに気が付けないでいた。

「おい! 勇儀、なに無視してるんだ? いい度胸だな……? なんだこれは」

 ようやく自身が不自然にとらわれていることに気が付いた桜花はあたりを見渡した。

「なんで、音がないんだ? だが、自分の声は聞こえる。別に耳をやられたという訳ではないなら……なっ!? 死体がなくなっている!?」

 先ほど一刀両断したはずのラグナの死体が消えていることに気づいた桜花はもう一度自身の周囲を見渡した。だが、どこにもラグナの死体はない。


「なぁ、『これで借りが返せた』と言っていたよな?」

 突如耳もとで声が聞こえた。桜花はすぐさま後ろを振り向くが誰もいない。

「残念だったな。今回もお前の負けだよ」

 また声が耳もとから聞こえた。桜花は振り返るが誰もいない。
さすがにしびれを切らした桜花が叫んだ。

「隠れてないで出てきな! 隠れることしかできないのか!?」

「なにを叫んでいるんだ? 私はずっとお前の前にいるのだが」

 突如、桜花とラグナが戦っていた場所がひび割れた。
そして両断されていたはずのラグナが無傷・・・で立っていた。


「幻覚を見せられていたのか」

「お前の心の中の願望をを具現化させたものだ。そして、この術を解いた今、おまえの負けが確定した。秘儀『狐結界』」

  桜花の足元から陣が現れ桜花を取り囲んだ。そして、ラグナの手の動きに反応するかのように陣から透明な妖力の壁が現れ桜花を閉じ込めた。

「フン! こんな結界すぐに壊して……くぅ?! なんだ……力が……」

 いきなり片膝をついていしまった桜花を見てラグナはにやりと笑みを浮かべた。
桜花は何が起きたのかをラグナの笑みを見ることで理解した。

「貴様、この結界は力を吸い取る結界か!」

「御名答。そして、これで終わりだ。 秘儀『狐結界 ~崩壊~』」

 ラグナは柏手を打つように手を叩いた。すると、結界が白く光りだし、爆発した。
爆発による爆風が山の木々を吹き飛ばし土煙を巻き上げる。
 そして、土煙が収まると着物が少し吹き飛んだ桜花が空を見上げ大の字で寝ていた。



「おいおい、あの爆発で服しか飛ばせなかっただと? 消し飛ばすつもりだったのに」

「さらっと恐ろしいことを言うね。だけど、もう動けないよ……能力を使えるだけの妖力が残ってなかったら消し飛んでただろうね。はぁーっまた、負けたのか」

「お前も殺すつもりで攻撃してきただろ? おあいこだ。……あと、今回は引き分けだな。私ももう動けん」

「そうかい」

 そういうと二人は顔を見合わせ笑いあった。浮かべている笑顔はとてもきれいな笑顔だった。





「二人して笑い出したけど、どうしちまったんだろうな」

 酒瓶ではなく酒樽を飲んでいた勇儀は少し心配そうにラグナ達を見ながら酒樽の酒を飲みほした。

「でも、嬉しそうな笑顔ですよね」

「あぁ、そうだね。よし、あの二人を呼びに行こうか!」

「はい!」

 酒樽を地面に置くと勇儀は桜花のもとへと足を進めた。そして雪夢は白い尻尾を揺らしながら姉であるラグナのもとへ駆け寄った。





つづく

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