Costume

有刺鉄線

Costume



 黒板に箇条書きで色々と書く。
 屋台にお化け屋敷、メイド喫茶などなど
「他に意見ないですか?」
 振り向くとクラスのみんなは私をそっちのけで、騒いでいた。
「ちょっとみんな、文化祭の出し物の候補これでいいなら、多数決取るけど」
「いいと思いまーす」
 リア充グループのリーダー格の女子が答える。
 さて、多数決取りますか。
 と思った時、チャイムが鳴る。
「えーと、次のHRで多数決で出し物決めるから、それまでにみんな考えてね」
 クラスメイトは聞いているのかいないのか、もう帰り支度をしている。
 はあ、私も支度しよ。
 ていうか、クラスの文化祭の実行委員って
 ただ、面倒事押し付けられてるような気がする。
「月山さん」
「はい」
 名前を呼ばれて、返事する。
「なに? えっと日向さん?」
 たしか、教室の隅の席であまり目立たない女の子で、正直あまり話したことがない。
「あの、出し物候補で写真を展示するのはどうかな?」
「ああ、うんわかった、一応候補に入れとくね」
 写真か・・・
「あと、手伝えることがあったら、言ってください、じゃあ」
「あ、ちょっと」
 そういって、すぐに教室を出て行ってしまった。
 なんだろう?


 ◇


 月山暁
 普段はごくごく普通の女子高生。
 将来は女優志望。
 そんな私の休日は。
「写真とってもいいですか」
「はい、どうぞ」
 アニメキャラクターの衣装を着て同人イベントに参加している。
 そう私はいわゆるコスプレイヤーだ。
 最初は好きな女優さんがコスプレが趣味だって知って、興味本位で始めたのが始まり。
 今は、衣装を手作りしたり、完成度を上げるため研究を重ねに重ねた結果。
 イベントに参加するたびに写真を求められる頻度が増えていった。
 でも、私にとってはコスプレは女優になるための特訓でしかない。
 アニメのキャラクターになりきるつまりは、そのキャラを演じるということだ。
 とか思いつつ、違う自分に変身している自分に楽しんでいる部分は否定しない。
 ついでに今日のキャラクターは日曜朝にやっている「美少女ファイターしげ美」の主人公しげ美の変身コスチュームだ。
「次いいですか」
「はい」
「ポーズの指定とかいいですか、しげ美の必殺技お願いします」
「いいですよ」
 私は目の前に怪人フジンがいる体で、しげ美の必殺技、しげ美アイアンクローをする。
 ああ、怪人フジンていうのは美少女ファイターしげ美に出てくる敵キャラね。
「ありがとうございます」
「いえ、こちらこそ」
「すいません、合わせで撮りませんか」
「いいですよ」
 声をかけてくれたのは、こちらも美少女ファイターしげ美に出てくるしげ美の友達で一緒に怪人フジンと戦う。
 美少女ファイター和子のコスプレをしていた。
 ぐぬぬ、この人そうとうクオリティー高え。
 プロじゃね。
 イベントが終わるまで私は和子と一緒に撮ってもらった。
 更衣室へ向かうと、和子がまた話しかけてくれた。
「あの、連絡先交換しませんか」
「えーと」
 どうしようか。
「いろいろと意見交換したいし、あと美少女ファイターしげ美についていろいろ話したいし」
「ああ、はい、いいですよ」
 とういうことで、連絡先を交換する。
「えーと、AIさんっていうですか」
「そうですよ、レイヤー名です」
「へえ」
 レイヤー名か、自分考えてねーな。
「じゃあ、これからもよろしくねツッキー」
 和子もといAIさんは去ってしまった。
 ツッキーか、いいかも。


 ◇


 イベント終わりのバスの中、私は普通の女子高生に戻っていた。
 だから、さすがに私が美少女ファイターしげ美だってことはわからないだろう
 そう思っていた。
「隣いいですか」
「どうぞ」
 ほぼ無意識だったから気づかなかった。
「月山さん、すごかったですね」
 え? 誰?
「美少女ファイターしげ美、なかなかでしたよ、私も写真撮ったんですけど、その様子だとまだ気づいてない感じですね」
「えーと、日向さ・・・ん・・・?」
「正解」
「ごめん、気づかなくって」
「いいですよ、私影が薄いですから」
 どこのバスケ少年だ。
「え、ていうかカメコだったの!?」
「カメコというよりは、ただ単に写真を撮るのか好きなだけです、特に人物写真が主です」
「へえ」
 意外だ、普段こんなに発言する日向さんを見たことがない。
「まあ、今回は姉が参加するから、お前も来いって言われてついてきただけです、カメラと一緒に」
「お姉さんも撮るの?」
「いや、月山さんと同じで、レイヤーですよ」
 マジか。
「でも、今日はいろいろ面白かったですよ、月山さんの意外な面が見れて」
「な!?」
 バスが駅前で止まり、私達は降りる。
「じゃあ、月山さん学校で」
「あの、日向さん」
「はい?」
「あの、このことは内緒にして欲しいんだけど」
 クラス内に知れたら多分笑われる。
 かもしれない。
「誰にも言いませんよ、言うわけないじゃないですか」
「なら、いいんだけど」
 よかった。


 ◇


 はあ、月曜からの学校は辛い。
「疲れた」
「暁、まだ月曜日だぜ」
 今日は、放課後別の高校に通う、中学時代の友達とファミレスで駄弁っていた。
「それがさ、昨日のイベントの帰りでクラスメイトにばったり会ってさ」
「ふーん」
「内緒の約束したけどさ、気が気じゃなかったよ」
「そんなことで、疲れてたの」
「理華には分かんないよ、自分がコスプレやってるってバレたら、やってけないって」
「好きなことなのに」
「好きだけど、否定されたら辛い」
 オタク的なコンテンツは多少市民権を得ているとはいえ、やはりバカにされやすい。
「理華は最近どう、学校とか」
「ああ、新しい友だちができたんだ」
「へえ、どんな子」
「一言でいうなら、ドのつくぐらいのきれい好き」
 ドのつくぐらいのきれい好き!?
「潔癖症で、普段から白い手袋にマスクに黒縁メガネで過ごしてるの」
「そんな子がいるんだ、でもどうやって知り合ったの」
「同じクラスでさ、なんか放っとけなくってさ」
 思い返してみれば、理華にも似たような状態だったことあったからな。
 あの時は私もいろいろとやったな。
 まあ主に演技の練習に付き合ったりとか。
「暁みたいに荒治療したら、少しはましな感じになったらしいんだ」
「え、理華が演技とかしたの」
「ちゃうわい、無理矢理教室の掃除しただけじゃい」
 ふたりして笑ってしまった。
「良かった」
「へ!?」
「だって、最近心から笑ってる理華、久しぶりに見たから」
「そうかな」
 首を傾げて理華は不思議そうにする。
「もっと、その子と仲良くなりたいんだけど、まだ踏み込めなんだよね」
「その子が潔癖症だから」
「それもあるけど・・・、怖いんだあの事を思い出すと」
 やはり、簡単にはトラウマを消すことは出来ないのだろう。
 理華は、人に触れられることを極端に恐れる。
 なぜなら、かつて慕っていた人に心身ともに弄ばれた挙句に。
 裏切られた過去がある。
 まだそれを、気にしているのか。
「まあ、でも前に進んでみるよ、好きだからね千香のこと」
 その友達はチカっていうだ。
「そう、頑張ってね」


 ◇


 友達と別れ、家に帰ろうとした時スマホが鳴る。
 イベントで知り合ったAIさんからだ。


(知り合いのレイヤー同士でカラオケにいるんだけど、こない?)


 メッセージを確認して、どうしようか悩む。
 あれから、AIさんとはよくメッセージをやりとりしていた。
 AIさんの勧めで、SNSに登録してコスプレ写真をアップしたり、同じ趣味の人とやりとりするようになった。
 参加してみようかな。
 AIさんに、行きますと返信する。
 カラオケ屋の近くまで来るとAIさんが手を振って知らせてくれる。
「久しぶり、ていうかツッキーもしかして、女子高生」
「はい、学校帰りです」
「リアルJK、いいねえ」
 若干テンション高いなあ、この人。
「みんな待ってるよ、ほら」
 強引に引っ張られて部屋に入る。
 そこには、数人が楽しそうに歌ってたり、話してたりしていた。
「ツッキーも歌おうよ」
「は、はい」
 みんな、コスプレイヤーなのだろうか。
 私服だからわからない。
「ねえ、ツッキーこれ歌おう」
「えーと」
 ああ、美少女ファイターしげ美の主題歌か。
 たしか、デュエット曲だっけ。
「じゃあ、俺合いの手入れるわ」
「あはは、オッケ~」
 じゃあ、歌おうと言われマイクを渡される。
 イントロが流れて、AIさんと一緒に歌い出す。
 途中で合いの手が入り、盛り上がる。
 歌い終わって、ここにいる全員が一体になった感じになる。
「イエーイ」
「ふう」
「ツッキー歌上手いね」
「まあ、結構歌ってますからね」
「へえ、今度これ歌おう」
「はい」
 AIさんはどんどん曲をいれて、私達は歌う。
 ほとんどはアニソンや特撮の曲ばかりで、普段友達とカラオケに行くよりも楽しかった。
 なんせ同世代の友達は流行りの曲しか歌わないのでこういうのはなかなか無い。
「ツッキーさん」
「はい、えっと」
「ああ、僕レンドっていうの、ツッキーさんのフォローしてんだけど」
 そう言われ、スマホでSNSを開く。
 たしかにレンドという人がフォローしてくれている。
「でしょ、ツッキーさんいろんなコスプレしてるよね」
「はい」
「しかも、高校生って、結構すごくない衣装とか小道具とか、お金掛かるじゃん」
「ええまあ、なるべく手作りでお金が掛からないようにしてますけど」
「へえ、それにしたってクオリティー高いよね」
「ありがとうございます」
 会話するに連れて、男性が近づいてくる。
「あっ、これ僕のコスプレ姿」
 そういって、写真を見せてきた。
 よくわからないが、多分特撮かロボットアニメのコスプレだと思う。
 なんか、いかにも段ボールで作りました感があって、正直作るのが下手くそだな。
「どう、カッコイイだろ」
「ええ、はい」
 正直なこと言ったら失礼だろうな。
「ねえ、二人で抜け出さない?」
 何を言ってんだこの人。
「ツッキーさんかわいいからさ、もっと仲良くなりたんだよね」
「いやでも・・・」
「いいじゃん、ね!」
 ね! じゃねえよ
 女子高生に何言ってんだ。
 私はさり気なくスマホで時間を確認する。
「ごめんなさい、もうそろそろ帰らないと」
「じゃあ、送ってあげるよ」
 このままじゃやべえ、AIさんに目をやるが、他の人と盛り上げっていてこっちに気づいてくれない。
「すいません、ちょっとトイレ行ってきます」
「出口で待ってるね」


 ◇


 エクストリームヤバイんですけど。
「どうしよう」
「どうかされましたか?」
「えっと・・・」
 あれこの声って。
「日向さん!」
 なんでこんなところに。
「月山さん、どうしました?」
「ああ、その・・・、て言うかなんで日向さんここに」
「今、バイト中です」
 ここでバイトしてんだ。
「で、どうしたんですか?」
「実は・・・」
 カクカクシカジカと説明した。
「大変な事になりましたね、ちょっと待ってください」
 隅に移動して、携帯で誰かに電話をし始めた。
「あの、日向さん・・・」
 手のひらを前にだして、無言で待てと言われる。
 え、何してんの、ていうか誰に電話してんの。
「じゃ、そういうことで」
「日向さん」
「もう大丈夫ですよ、無事に家に帰れますよ」
「え?」
「なんなら、出口まで一緒に行きますか」
「う、うん」
 トイレから出ると、さっきの男はいなかった。
「さあ、行きましょう」
「ああ、うん」
 長いようで短いような廊下を歩いて、店の出口まで到着する。
「じゃあ、また明日」
「明日、今日はありがとう」


 ◇


 翌日、AIさんから、ごめんなさいと謝罪のメッセージが届いた。
 難を逃れたから、良かったから責める気ないし、AIさんがすべて悪いわけじゃない。
「しかし」
「ん?」
「まさか、写真展に決まるとわね」
「みんな、ノリノリでしたね、正直予想外でした」
 今日のHR、文化祭の出し物がやっと決まった。
 写真展になった。
 正直、これに決まるとは思わなかった。
 ただ、黒板に候補のひとつとして書いてみたら。
 クラスのみんながいろいろ聞いてきた。
 どういう写真を飾るのか、スマホの写真はいいのかと。
 ああだこうだいって、なし崩し的に写真展に決まった。
 そして放課後、私と日向さんで文化祭について相談することした。
「あのさ、昨日ありがとうね」
「いえ、当然のことしたまでですよ」
「でも、助かったよ、今度お礼させて」
「じゃあ、モデルになってください」
 静寂が教室を包み込む。
「・・・はい?」
「ダメですか?」
「いや、いいけど」
「もちろん、衣装はコスプレでお願いします」
「お・・・おう」
「ああ、コスプレ衣装はこっちで用意します、メイドに巫女、バニーガールとかもありますよ」
 バニーガールって、どこのラノベだよ。
「ていうか、なんで?」
「え? 撮りたいからですよ」
 それだけ。
「それに、昔から好きだから」
「え・・・」
「あ・・・」
 また静寂が包む。
「あの、と、とにかくいい文化祭にしましょう」
「そ、そうだね」
 好きってどういう意味だ。
 きっと、コスプレを撮るのが好きって意味だよね。
 そうだよね。
「ていうか、スマホで撮った写真って、現像出来るの」
「出来るよ、アプリでプリンターに送信して現像したり、アンドロイドだったら赤外線で送信すれば一発だし、あとクラウドで共有してパソコンでプリントできるし」
「へえ、詳しい」
「家が、写真屋だから、うちもスマホとかデジカメで撮ったの現像してくださいってくるし」
「へえ」
 初耳、写真屋だったんだ。
 だから、カメラとか好きなのかな。
「ですから、写真撮影も本格的に出来ますよ」
 キラキラしてんですけど。
「それに、写真現像だったら私に言ってくれたら、お金かかりませんよ、親に学校行事って言えば快く受けてくれるだろうし」
「分かった、今度のHRでみんなにいうね」
 メモメモっと。
「あの」
「はい」
「文化祭終わったらでいいですか?」
「私の撮影?」
「はい、多分文化祭で忙しいだろうし、だから終わったら、撮らせてください」
「いいよ」
「・・・良かった」
 ていうか。
「そんなに私のコスプレ写真撮りたいの?」
「だから、私は月山さんが好きだから・・・」
 日向さんの顔が赤くなる。
 やべえ、私まで赤くなってしまう。
 女子からとはいえ、面と向かって好きって言われるとは。
 エクストリームやべえ。
 ところで、この好きの意味ってどういう意味だろう。
 まあ、その意味は文化祭で知ることになる。
 でも今の私は分からないままだった。          

コメント

  • ノベルバユーザー603850

    あり得ない設定なんですが突き抜けた非現実感が逆にいい!
    ちょっと違うかなってなるかもだけど面白いので読んで欲しい!!

    0
コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品