僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

20節-集まる魑魅魍魎-

 落ち込む僕の頭をポンポンと優しく叩く伊代姉は詩織さんを見ながら……。

「男が舞ってもいいなんて結構いい加減よね、伝統なんて……」

「今の神様は性に寛容なのよぉ? 伊代ちゃんったら遅れてるぅ」

「うにゃ……まあ変わらないことを望む神様もいるっちゃいるだろうけどにゃー。伝統ってのも時代とともに変わったりするものにゃん。多分」

「さすがみゃーちゃん、わかってるぅ」

 少しばかり呆れ気味の伊代姉とハイタッチを交わす詩織さんと美哉さん。
 なんだかんだ言ってこの三人はうまくバランスが取れているみたいだ。

「……」

「千草? どこ見てるの?」

「え、あ、ううん。なんでもない」

 ふと伊代姉や詩織さんの足元に視線を移してじっと見てた。それに気づいた伊代姉が怪訝な顔でそう尋ねてくる。
 そりゃそうだろう。突然電源を切ったかのように動かなくなって視線を集中させていれば。

《ハワハワ、ワワワワ》
《ハワワ、ハワワワハワワワ》

(なんかすっごい集まってきとる……!!)


 僕の額に汗がにじむ。
 なんだろう、タンポポの綿毛のような小さくて丸い物体が伊代姉と詩織さんと美哉さんの足元にわっさりと寄ってきてる。
 すごいはわはわ言っててなんだか忙しない。
 伊代姉たちには見えてないし害はなさそうだから放っておいても大丈夫なんだろうけど……。

「うにゃん……」

「どぉしたのぉ? みゃーちゃん」

「んーん、なんでもないにゃん。そろそろここの巫女にゃんがくるはずにゃん」

 お祭りだからだろうか。
 この綿毛たちだけじゃなく、ふと周りを見渡したら結構いろんなのがいる。
 向こうの木にはお猿さんの形をした影がいくつかはっきりと見えるし……ほおずきをくわえた金魚のような淡い赤い光が空中を漂ってるのも見える。
 小さな人型の光が走り回ってるのも見えるけど……あれ迷い童じゃないよね……?

「みゃっ!」

《ハワー》
《ハワワッワワワワ》

……と、大きな竹箒のひと掃きによって謎のはわはわ綿毛たちがわっさあと散っていった。
 その竹箒攻撃をしたのは……。

「失礼しました。お集まりいただきありがとうございます。柊さん、三弦さん、加賀さん。最後の稽古をしますのでこちらへ」

 鬼灯翠。この月並神社の巫女にして僕の同級生だった。

「それじゃあ千草、ちょっとの間他のところ手伝ってあげて」

「うん。わかった! 多分カズマももう来てるだろうから力仕事手伝ってくる!」

「ん、いい子」

 こしょりと僕の顎の下を撫でてから、伊代姉は鬼灯さんについて行ってしまった。
 詩織さんも振り返って僕に小さく手を振ってくれて、僕も手を振って見送った。
 豊穣舞踊の最終稽古、いわば本番にむけた調整だろうな。

「さあて……僕は舞台の設営に混ざろっかな」

 散ったはわはわ綿毛が頭について、それをつまんで取ってから僕は豊穣舞踊が行われる舞台の設営班のところへ向かった。



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