僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第16節—大行列、参加—
 心なしか、空気が薄くなってきているみたい。とても高い山の上にいるような感覚だ。暗いけど、銀露に手を握ってもらっているせいかまったく怖くない。足元はしっかりしてる。少し足が空を蹴っているようだけど、しっかり前には進んでる。
「あの灯……」
「あれが稲荷霊山への門じゃの。見える灯火は全て狐火じゃ。とても明るくよく目立つ」
ここが稲荷霊山への入り口。現世にはない、死角の世に存在する幻の山。
さっきまでの不安定な道とは違って、意識が現実感を持ち出すと飛び込んできたのはこれでもかと大きな灰色の石の鳥居。
「ふむ、色が抜けておるの。本来この霊山を納めておるはずの神が不在のためじゃろうな」
「うわあ……すごいな」
思わず息を飲む景観に、僕はただただ感動していた。巨大な鳥居の先には、山道に沿って敷かれた石畳。そしてその石畳を挟むように上へ上へと並んで浮いている狐火。
ふと山の上を見上げると、その狐火がずーっと頂上の方まで続いてる。空には天の川すらはっきり見える凄まじく澄んだ星空。
銀露が言うには、現世で見える星空とは違って見えるんだって。言われてみれば、なんだか星の配置が左右逆のような気がする。まるで鏡に映したかのように。
「銀狼様、あにさま……こま、まってた」
「あっ、子鞠!? 子鞠がいる!」
見上げるほど大きな灰色の鳥居。その下には、赤色鮮やかな鞠を腕に抱えた子鞠がしょぼくれて待っていた。
「異変が起こっておると聞いて呼んでおいたのじゃ。まあ、本来の山神も戻ってきておるようじゃから、問題ないとは思うが一応の」
「呼んでおいたって……子鞠すごい落ち込んでるんだけどっ。お耳も尻尾もへったり元気ないんだけど!」
「少し長く待たせてしまったからのう……。子鞠よ、汰鞠はどうしたのじゃ?」
「姉様、山に蛇がいっぱいでこれないって……」
「ふむ……こちらにも手を回してきておったか。蛇姫め……。すまんの、汰鞠と共におると思うて時間をかけた」
とぼとぼとこっちに向かってきた子鞠。銀露の前で止まると、しおれた頭を差し出して……。
「くふふ、すまんの。まだまだ姉がおらんと不安じゃったろ」
「んぅ……」
銀露にくりくりと頭を撫でられて、目を閉じ心地良さそうにしてる。心なしか、尻尾とお耳に活力が戻ってきてるようだ。それにさっきから、ちらちらといじらしく僕の方に視線を送ってきてる子鞠。
あんなに人見知りだったのに……。
「ぬしにも撫でてもらいたいそうじゃ」
「え、いいのっ?」
「あにさまなでなでして……!」
そう言っておずおずと小さくてふわふわの頭を差し出してきた子鞠の頭を……これでもかと優しく撫でてあげた。くすぐったそうな声を出して、子鞠のお耳はピンと立ち、尻尾も大きく左右に振れてる。子鞠完全復活だ。
そうして僕らは稲荷山大行列に参列することになった。まだ最後尾の見えない入り口の鳥居。そこにあった手近な狐火に銀露が触れると、その火は分裂して僕たちの頭上をついてくるようになったんだ。
これが行列に並ぶ際の、いわゆる整理番号みたいなものになるらしい。
「わあ、本当についてきてる。すごいあったかいし、不思議な火だね」
「質の良い狐火じゃの。金色毛の九尾が置いていったのじゃろう」
「あの灯……」
「あれが稲荷霊山への門じゃの。見える灯火は全て狐火じゃ。とても明るくよく目立つ」
ここが稲荷霊山への入り口。現世にはない、死角の世に存在する幻の山。
さっきまでの不安定な道とは違って、意識が現実感を持ち出すと飛び込んできたのはこれでもかと大きな灰色の石の鳥居。
「ふむ、色が抜けておるの。本来この霊山を納めておるはずの神が不在のためじゃろうな」
「うわあ……すごいな」
思わず息を飲む景観に、僕はただただ感動していた。巨大な鳥居の先には、山道に沿って敷かれた石畳。そしてその石畳を挟むように上へ上へと並んで浮いている狐火。
ふと山の上を見上げると、その狐火がずーっと頂上の方まで続いてる。空には天の川すらはっきり見える凄まじく澄んだ星空。
銀露が言うには、現世で見える星空とは違って見えるんだって。言われてみれば、なんだか星の配置が左右逆のような気がする。まるで鏡に映したかのように。
「銀狼様、あにさま……こま、まってた」
「あっ、子鞠!? 子鞠がいる!」
見上げるほど大きな灰色の鳥居。その下には、赤色鮮やかな鞠を腕に抱えた子鞠がしょぼくれて待っていた。
「異変が起こっておると聞いて呼んでおいたのじゃ。まあ、本来の山神も戻ってきておるようじゃから、問題ないとは思うが一応の」
「呼んでおいたって……子鞠すごい落ち込んでるんだけどっ。お耳も尻尾もへったり元気ないんだけど!」
「少し長く待たせてしまったからのう……。子鞠よ、汰鞠はどうしたのじゃ?」
「姉様、山に蛇がいっぱいでこれないって……」
「ふむ……こちらにも手を回してきておったか。蛇姫め……。すまんの、汰鞠と共におると思うて時間をかけた」
とぼとぼとこっちに向かってきた子鞠。銀露の前で止まると、しおれた頭を差し出して……。
「くふふ、すまんの。まだまだ姉がおらんと不安じゃったろ」
「んぅ……」
銀露にくりくりと頭を撫でられて、目を閉じ心地良さそうにしてる。心なしか、尻尾とお耳に活力が戻ってきてるようだ。それにさっきから、ちらちらといじらしく僕の方に視線を送ってきてる子鞠。
あんなに人見知りだったのに……。
「ぬしにも撫でてもらいたいそうじゃ」
「え、いいのっ?」
「あにさまなでなでして……!」
そう言っておずおずと小さくてふわふわの頭を差し出してきた子鞠の頭を……これでもかと優しく撫でてあげた。くすぐったそうな声を出して、子鞠のお耳はピンと立ち、尻尾も大きく左右に振れてる。子鞠完全復活だ。
そうして僕らは稲荷山大行列に参列することになった。まだ最後尾の見えない入り口の鳥居。そこにあった手近な狐火に銀露が触れると、その火は分裂して僕たちの頭上をついてくるようになったんだ。
これが行列に並ぶ際の、いわゆる整理番号みたいなものになるらしい。
「わあ、本当についてきてる。すごいあったかいし、不思議な火だね」
「質の良い狐火じゃの。金色毛の九尾が置いていったのじゃろう」
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