僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第18節ー49部ー子鞠の力ー
「子鞠ちゃんはどうやって楼閣の結界を抜けてきたんすか? あれ、神すら通さない鬼灯の結界なんすけど……」
頭上、はるか彼方の楼閣に向かって目を凝らしていた朱音さんが、僕の膝の上で丸くなる子鞠にそんなことを聞いてきた。
すると子鞠は身を起こして……。
「どうやって……?」
「うん、朱音さんが、結界をどうやって抜けたのかって」
子鞠が小さく首を傾げて頭のお耳をぴこぴこと動かし、僕の顔を見上げてきた。
朱音さんも不思議なんだろう。楼閣の関係者、つまり蛇姫様の神使や黒狼様達は鬼灯の巫女に許可されているために結界の出入りは自由だけど、子鞠はそうじゃないから。
「なにもしてない……よ?」
「あはは。いや、僕に疑問符向けられてもわからないよ!」
子鞠は本当に何もわかってない風だ。偶然結界が解けていて、その瞬間を狙ったとか?
……と、子鞠すらも困っちゃう事態になったところで銀露が口を開く。
「この子に結界は意味をなさん」
「なんで?」
「どして……?」
結界を抜けた本人すらそうして訳をきいている。銀露は苦々しい笑みを浮かべて子鞠の頭をわしわしと乱暴に撫で、ぬしの事じゃろがーと苦言を呈していた。
「元々、結界というのは聖域を穢れから護るものじゃ。または、聖域から出る穢れを閉じ込めておくもの。子鞠は純粋であるが故、その穢れが一切なく結界という概念が通用せん」
「チートじゃん!!」
「ちーと。こま、ちーと?」
「チートだよ子鞠ー。すごいよ!」
「えへ……あにさま、ちーとってなあに……?」
「とにかくすごいことだよ!」
「こますごい……」
子鞠は突然の大絶賛に、くすぐったそうに笑って尻尾を振っている。チートの意味がわかっていないみたいだけど、そこはまあいいや。
「幼いが故……そしてこの子が底なしの良い子だからなし得ることじゃが。それもいつまで続くかじゃな」
「ええ……いつか子鞠も純粋じゃなくなっちゃうのー?」
「こまずっといいこにしてる……」
「そうだよねー?」
「ねー……!」
子鞠に対する、僕の甘々さに呆れてしまったのか、銀露は肩をすくめてしまう。
「この子がこのように育ったのは奇跡に近い。それに、ものを知るということは、穢れをも取りこまんといかん場合もある。そして、何より……恋じゃの」
「……恋?」
「鯉……おさかなさんおいしい」
子鞠だけなんだか解釈が違うよ。ものを知らない純粋な子だから仕方ないんだね、きっと。そうに違いない。
っていうか、鯉食べたことあるんだ。
「この子もいつか想いを寄せる者ができる。その感情は正にも傾くが負にも傾く。その振れ幅は他の感情の非ではない」
幸せなだけじゃなくて、嫉妬や怒りを生んだりするもんね、恋心って。だからこそ、誰かを好きになったらそういった感情も覚えてしまい、穢れが生まれてしまうって事なんだろうか。
「じゃが、まだ子鞠は安心じゃの。汰鞠にもこの子にも、わしは特別目をかけて育ててきたからの」
「銀狼さまー……!」
その慈愛に満ちた言葉に母性を感じたのか、子鞠は僕から離れて銀露の膝に乗って抱きついていた。
その時の銀露の表情はまさに、母の顔……といった雰囲気なんだけど……今の小さな銀露はもちろん、元の銀露にしても見た目が若すぎるから母親って感じじゃないな。
どちらかというとお姉様だね。
頭上、はるか彼方の楼閣に向かって目を凝らしていた朱音さんが、僕の膝の上で丸くなる子鞠にそんなことを聞いてきた。
すると子鞠は身を起こして……。
「どうやって……?」
「うん、朱音さんが、結界をどうやって抜けたのかって」
子鞠が小さく首を傾げて頭のお耳をぴこぴこと動かし、僕の顔を見上げてきた。
朱音さんも不思議なんだろう。楼閣の関係者、つまり蛇姫様の神使や黒狼様達は鬼灯の巫女に許可されているために結界の出入りは自由だけど、子鞠はそうじゃないから。
「なにもしてない……よ?」
「あはは。いや、僕に疑問符向けられてもわからないよ!」
子鞠は本当に何もわかってない風だ。偶然結界が解けていて、その瞬間を狙ったとか?
……と、子鞠すらも困っちゃう事態になったところで銀露が口を開く。
「この子に結界は意味をなさん」
「なんで?」
「どして……?」
結界を抜けた本人すらそうして訳をきいている。銀露は苦々しい笑みを浮かべて子鞠の頭をわしわしと乱暴に撫で、ぬしの事じゃろがーと苦言を呈していた。
「元々、結界というのは聖域を穢れから護るものじゃ。または、聖域から出る穢れを閉じ込めておくもの。子鞠は純粋であるが故、その穢れが一切なく結界という概念が通用せん」
「チートじゃん!!」
「ちーと。こま、ちーと?」
「チートだよ子鞠ー。すごいよ!」
「えへ……あにさま、ちーとってなあに……?」
「とにかくすごいことだよ!」
「こますごい……」
子鞠は突然の大絶賛に、くすぐったそうに笑って尻尾を振っている。チートの意味がわかっていないみたいだけど、そこはまあいいや。
「幼いが故……そしてこの子が底なしの良い子だからなし得ることじゃが。それもいつまで続くかじゃな」
「ええ……いつか子鞠も純粋じゃなくなっちゃうのー?」
「こまずっといいこにしてる……」
「そうだよねー?」
「ねー……!」
子鞠に対する、僕の甘々さに呆れてしまったのか、銀露は肩をすくめてしまう。
「この子がこのように育ったのは奇跡に近い。それに、ものを知るということは、穢れをも取りこまんといかん場合もある。そして、何より……恋じゃの」
「……恋?」
「鯉……おさかなさんおいしい」
子鞠だけなんだか解釈が違うよ。ものを知らない純粋な子だから仕方ないんだね、きっと。そうに違いない。
っていうか、鯉食べたことあるんだ。
「この子もいつか想いを寄せる者ができる。その感情は正にも傾くが負にも傾く。その振れ幅は他の感情の非ではない」
幸せなだけじゃなくて、嫉妬や怒りを生んだりするもんね、恋心って。だからこそ、誰かを好きになったらそういった感情も覚えてしまい、穢れが生まれてしまうって事なんだろうか。
「じゃが、まだ子鞠は安心じゃの。汰鞠にもこの子にも、わしは特別目をかけて育ててきたからの」
「銀狼さまー……!」
その慈愛に満ちた言葉に母性を感じたのか、子鞠は僕から離れて銀露の膝に乗って抱きついていた。
その時の銀露の表情はまさに、母の顔……といった雰囲気なんだけど……今の小さな銀露はもちろん、元の銀露にしても見た目が若すぎるから母親って感じじゃないな。
どちらかというとお姉様だね。
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