僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー
第18節39部ーイヌー
牢屋の隅で、子鞠は尻尾で包むように鞠を保持しつつ小さくなっていた子鞠がふと、千草のことを思い出して呟いた。
「あにさま……」
「兄様ならば無事でしょう。捕まったという話は聞きませんし、何より九尾様方も付いておられる。今はその機を待ち、耐える時です」
あいも変わらず、ぐちぐちとした牢番の言葉を聞きながら捕らえられるがままになっていた子鞠と汰鞠だったのだが……。
あまりに静かな二人に対し、牢番からこちらに話しかけてきたのだ。
「銀狼の従者というのは貴様たち二人だけか?」
「……」
「ふ、そうらしいな。随分と寂しいことだ」
問いかけに対して、なんの言葉も返さなかったが、肯定と取られてしまったようだ。
間違いではないために反論することはしなかったが……。
「お前たちの主人も、随分とあの人の子をうまく囲っているようだが……なんだ。そんなにあの人間はいいものなのか?」
「……」
「フン、だんまりか」
随分と冷めた様子でそう吐き捨てた牢番は、再びもう一人の牢番との会話に入ろうとしたが……そのもう一人の牢番が子鞠と汰鞠のことを気に入らないと言い。
「黙って丸くなる貴様らは狼というよりは、“犬”畜生だな。人間に飼い慣らされ過ぎて牙を抜かれたか?」
「……い……ぬ……?」
犬。その一言を聞いた瞬間、汰鞠が纏う雰囲気が変わった。
少し綻びを出しつつも、落ち着いていた汰鞠の雰囲気が、なにか言いようのない恐ろしいものに変わったのだ。
それを感じ取った子鞠が尻尾から鞠を取り落とし、ころころと格子の方へ転がっていき……。
当たって、ぽんと音を鳴らした。
「なんだ? また鞠遊びか犬っころめ」
と、牢番が振り向いた瞬間だった。ごつん、という音ともに薄い笑みを浮かべた汰鞠の顔がすぐそこまで迫っていたのだ。
格子越しとはいえ、牢番は思わず一歩退いて声を上げてしまった。
「今、なんと」
「あ、ああ?」
「今、そのドブ臭いお口で、私共をなんと形容致しましたか。申し訳ありません、聞き取りづらかったもので。もう一度、聞かせていただければ、と」
驚かせやがってと前置きしながら、牢番は声高らかに言った。
「はっ! 犬っころと言ったのだ。尻尾を振り吠える事しか能のない貴様らにぴったりの呼び名だろうが」
「ほう……左様でございますか……」
その時点で、子鞠は部屋の隅でふるふると震えながら、“こま、わんわんでもいいよう……”と、そんなことで怒らないでと言いたげな言葉をつぶやいていた。
我が姉、汰鞠から放たれる凄まじい殺気を感じて怯えているのだ。
「ん……待て、貴様枷が外れて——……」
もうすでに、そんなことに気づいた意味は無く。
格子を両手で鷲掴みにした汰鞠が力任せにそれを破壊し、するりと外に出てしまっていた。
「な……この牢を破壊するなど……ッ」
「イヌ。我々誇り高き狼を、犬と呼んだこと。貴方はこの先その命消えるまで後悔することになりましょう……ね」
「あにさま……」
「兄様ならば無事でしょう。捕まったという話は聞きませんし、何より九尾様方も付いておられる。今はその機を待ち、耐える時です」
あいも変わらず、ぐちぐちとした牢番の言葉を聞きながら捕らえられるがままになっていた子鞠と汰鞠だったのだが……。
あまりに静かな二人に対し、牢番からこちらに話しかけてきたのだ。
「銀狼の従者というのは貴様たち二人だけか?」
「……」
「ふ、そうらしいな。随分と寂しいことだ」
問いかけに対して、なんの言葉も返さなかったが、肯定と取られてしまったようだ。
間違いではないために反論することはしなかったが……。
「お前たちの主人も、随分とあの人の子をうまく囲っているようだが……なんだ。そんなにあの人間はいいものなのか?」
「……」
「フン、だんまりか」
随分と冷めた様子でそう吐き捨てた牢番は、再びもう一人の牢番との会話に入ろうとしたが……そのもう一人の牢番が子鞠と汰鞠のことを気に入らないと言い。
「黙って丸くなる貴様らは狼というよりは、“犬”畜生だな。人間に飼い慣らされ過ぎて牙を抜かれたか?」
「……い……ぬ……?」
犬。その一言を聞いた瞬間、汰鞠が纏う雰囲気が変わった。
少し綻びを出しつつも、落ち着いていた汰鞠の雰囲気が、なにか言いようのない恐ろしいものに変わったのだ。
それを感じ取った子鞠が尻尾から鞠を取り落とし、ころころと格子の方へ転がっていき……。
当たって、ぽんと音を鳴らした。
「なんだ? また鞠遊びか犬っころめ」
と、牢番が振り向いた瞬間だった。ごつん、という音ともに薄い笑みを浮かべた汰鞠の顔がすぐそこまで迫っていたのだ。
格子越しとはいえ、牢番は思わず一歩退いて声を上げてしまった。
「今、なんと」
「あ、ああ?」
「今、そのドブ臭いお口で、私共をなんと形容致しましたか。申し訳ありません、聞き取りづらかったもので。もう一度、聞かせていただければ、と」
驚かせやがってと前置きしながら、牢番は声高らかに言った。
「はっ! 犬っころと言ったのだ。尻尾を振り吠える事しか能のない貴様らにぴったりの呼び名だろうが」
「ほう……左様でございますか……」
その時点で、子鞠は部屋の隅でふるふると震えながら、“こま、わんわんでもいいよう……”と、そんなことで怒らないでと言いたげな言葉をつぶやいていた。
我が姉、汰鞠から放たれる凄まじい殺気を感じて怯えているのだ。
「ん……待て、貴様枷が外れて——……」
もうすでに、そんなことに気づいた意味は無く。
格子を両手で鷲掴みにした汰鞠が力任せにそれを破壊し、するりと外に出てしまっていた。
「な……この牢を破壊するなど……ッ」
「イヌ。我々誇り高き狼を、犬と呼んだこと。貴方はこの先その命消えるまで後悔することになりましょう……ね」
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