僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

第18節25部ー遊郭の酒屋ー

「どうだい銀狼、うまい酒だろう」
「……まあまあじゃな」
「うはは、なかなか褒めるじゃねーか」
 狭い路地をしばらく行って、とても奥まったところにあるものすごい静かで落ち着いた場所にあった。

 そこには建物がなくて、門をくぐると緋禅桜が沢山咲いた、日本庭園に通されたんだ。
 小さな滝があって、青白く光る魚が泳ぐ池の近くにある席に座って、落ち着いた。

 そう、ここは庭園内で飲むとても開放的な酒屋さんなんだ。居酒屋というより、雰囲気的にはバーって感じかな。
 赤い敷物が引かれた木の舞台にあぐらをかいて座った黒狼様と、お姉さん座りして、肘置きに肘を置いてお酒を呷る銀露。
 その体勢だと、銀露の大きいおっぱいが一方に寄って、ぐっと盛り上がってる。

 ただでさえ、お胸の開いた着物の着方してるんだからこぼれちゃうぞ……。


 うー、でもなんだろうこの二人、並べてみるととても様になるなあ。

 狼だし、勇ましさとか気高かったり、こう……言葉で言うのは難しいんだけど、雅な感じがするというか……。

「だから、八雲やくもにはこのこと黙っててくれねーかッ! 頼む!」
「ごちゃごちゃとやかましいのう……。の、千草?」
「ぼ、僕にはなんとも……」
「君からも何か言ってやってくれねーか? うちのカミさん怒るとやべぇんだ。こいつ、面白がってマジで言いかねねーからよ」

 銀露は意地悪な笑みを浮かべながら、黒狼様のお願いをのらりくらりとかわしている……せいで、今度は僕頼みに……。
 でも、銀露は杯の酒を飲み干して……。

「くは。なんじゃぁ? 今、こいつ……と聞こえたのじゃが、気のせいかの?」
「ぐぬ……」
「銀狼、様。じゃろうが、淫行狼」
「うぬああ! こいつ! 調子に乗りやがってえええ!」
「かかかっ。なんじゃやるか?」

 振り上げそうになった拳をなんとか抑えて、黒狼様は深く長くため息をついて、頭の立派な耳を垂れさせた。

「くっそ、相変わらずふてぶてしいヤツだなお前は……。随分長い間封印されて丸くなったと聞いちゃいたが」

 銀露はそんな黒狼様の言葉も聞かず、僕を呼ぶとほれほれとお酒を勧めてきた。
 僕はもちろんいらないと断ったんだけど、杯を僕の唇に当ててから、その当たったところに口をつけて銀露は杯を傾けた。
 なんて押し付けがましい間接キスなんだ……。

「うん? 何か言ったかの?」
「チッ……。相変わらずいい体してんなって言ったんだよ」

 と、黒狼様は苛立ちまぎれに銀露の胸を見ながらそう言うものだから、僕はぐいぐいと銀露の着物を肩まで上げて、溢れそうだったおっぱいを隠してやった。

 それを見た黒狼様はしばしきょとんとして……。

「くふふ、他の男に意識されるのは嫌なのじゃな?」
「そんなんじゃないし!」
「はぁぁあ、愛らしいの! ほれ、もっと寄らんか。ぬしを抱きしめとうなった」

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