僕と狼姉様の十五夜幻想物語 ー温泉旅館から始まる少し破廉恥な非日常ー

稲荷一等兵

第18節2部ー突然の呼びかけー


 鬼灯さんはなぜだか僕の方を思いっきり見てきた……から、いちおう挨拶らしきものをしておいた。
 本当に会釈しただけだけだったけど、鬼灯さんも会釈して自分の席に向かっていった。

「知り合いかよ」
「一度だけ、神社で会ったかな」
「あっちは随分見知ってるみたいだったぜ」
「うーん……」

 本当に、その一度しか会ったことがないような気がする。小さい頃に会ったことがあるなんていう可能性もあるにはあるけど。

 で、入学後しばらくは授業というものがなくて、レクリエーションを短い時間で受けてお昼前には帰るっていう登校日だったんだ。
 それは伊代姉も同じだったみたいで……。

「千草っ」

 終わったと同時に、伊代姉とその友達のヤンキーみたいな派手な見た目の葉月さんが僕の教室にやってきて、入り口で手招きしてた。
 先輩がわざわざここの教室まで来て僕を呼んだのが、結構な出来事だったみたいで少しだけ教室がざわついた。

「よっす、伊代弟。元気そうじゃん」
「こんにちは、葉月さん」
「よお、制服似合ってんじゃん、和真かずま
「わざわざうちの教室までくんじゃねーよ、姉貴」
「えっ、姉貴!!?」

 ここで発覚した意外な事実。カズマにお姉さんがいるってことは知ってたんだけど……。まさか葉月さんがそのお姉さんだなんて。
 カズマの両親は離婚していて、父親にカズマが付いて行って、母親にはお姉さんがってことは知ってたんだけど。

「知らなかったのね、千草」
「知らなかったよ! へぇ、言われてみれば確かに似てるような……」

 カズマの両親の仲が悪くて、こういう場でないと会うこともないようだし、小学校も中学校も別々だったから知らなくても無理はないだろうってことだったんだけどね。

 さて、お昼ご飯でも食べようと四人で食堂に行った後、伊代姉は部活があるからと弓道場へ。なら僕も帰ろうとしてたんだけど……。

「柊千草。少し時間をいただいてもよろしいですか」
「えっと、うん。大丈夫だよ、鬼灯さん」

 校門から出ようとしたところで、今日登校してきた鬼灯神奈さんが呼び止めてきた。どこか真剣な面持ちでそんなことを言うものだから、少しばかり不安になったんだけど……。

 で、どこで話すのかと思えば……。

「鬼灯さん、ここ立ち入り禁止だよ?」
「いいから、来てください」

 屋上へ繋がる階段。そこには柵がしてあって、立ち入り禁止と書かれた札が貼ってあったんだ。
 でもそんなこと御構い無しに、鬼灯さんは柵をどけてつかつかと迷いなく屋上に……。
 屋上への扉の鍵は、内側からなら手で開けることができるから、あの立ち入り禁止の柵が最後の砦。
 扉を開けると強い風とともに、広い屋上と空が目に飛び込んできた。

 いきなりこんなところに連れてこられてなにするんだろう。まさか愛の告白……なんてことも妄想したりはしたんだけど、んなことあるわけないし。


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