連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第13話:集結

 それから10日間、ずっと模擬戦漬けだった4人はまた地下に居た。
 しかし、そこはミズヤの作り出した地下ではなく、もっと、より広い場所。
 天井が地に覆われたその場所には家々が立ち並び、中央には塔が建っている。
 かつてレジスタンスが使用していた地下都市――この地に、クオン一行と4つの軍事拠点の軍人が集まる予定となっていた。

 レジスタンスが居なくなったことで犯罪者の住む街になるだろうこの地下は、キュール大国の指示で立ち入り禁止区画となっていた。
 当然、立ち入り禁止でも犯罪者は住み着くが、今日は姿を見せることはない。

 バスレノス総勢5000人の軍人がこの地に集まってるのだから。

「……流石に広いですね」

 薄暗い街並みを見渡してクオンは呟く。
 地下都市というだけあり、5000の人間が入るほど広い空間だった。
 そこかしこに軍人が配置され、敬礼をして立っている中を、4人は歩いていく。

 ずっと続く列の中心――塔の周りに立ち並ぶ4人の前にやって来た。

「……ご無沙汰しております。ヤーシャ殿、ドーク殿、ナモン殿、ブロック殿」

 クオンが4人の名を呼び、首を垂れる。
 軽い会釈に次いで、ドークと呼ばれた女がヒールの高い靴で一歩踏み出し、その足に腕を乗せてずいっと身を乗り出した。

 ドーク・ファイサール・アナスタシア――南軍拠点の最高司令官である。
 色黒な肌で藍色の短髪、唯一最高司令官の中でジャージも着ずにブラの上から最高司令官の称号であるバッジを3つ付けている。
 上着のジャージは腰に巻き、下のジャージは履いてすらいない。
 好色家の彼女は肌を晒している方が開放感があるとのこと。

 しかし、両腕に嵌められた銀と黒のガントレットは戦闘員であることを示している。
 そんな彼女は舌なめずりをして、クオンの事を見下しながら言った。

「おいおい、クオンちゃん。アンタがアタシらに頭下げちゃってどーすんのよぉ?」
「……。今回は、人が死ぬかもしれない作戦です。今日集まってくれた人には、感謝してもしきれません」
「ん〜? 今回は人が死なない作戦だったっけ〜?」

 腰に手を当て、どこでもない所を見る。
 何か考えるように見えたが、すぐに手を挙げ、

「でも、アタシは戦いたいんだよねぇ……。もしかしたら失敗しちゃうかもぉ〜……」
「よさんか、ドーク」

 イタズラ気味な発言を、顎に髭を生やした赤髪の男が制す。
 このメンバーの中で一番の長身かつ最年長で、右手には杖を持っていた。
 とはいえ、まだ年寄りというほどではなく、40代半ばの男。
 開放的なドークとは違い、金色の肩章のついたジャージをしっかりと着込み、赤いマントがそよいでいる。
 彼――北軍の総司令官ことブロック・レクイワナ・カルフォルは、クオンに手を差し伸べて優しく言った。

「クオン様、私どもに頭を下げる必要などありませぬ。其方は我等バスレノスの誇りであり、頂点に立つお方……今回集まったのも、貴女様のご意向に沿いたい忠義心ゆえです」
「……ブロック公、貴方はケイクと比べられぬほど私を持ち上げますね。私は1人の人間として、此度の戦争を止めたいだけですよ」
「寛大な御心、恐れ入ります。我々が居る以上、戦争など起こさせますまい」
「フフ、頼りにしてます」

 クオンが大男に手を差し伸べると、ブロックは硬い手で強く握り返した。
 握力の差はあれど、クオンは怯むこともなく握り返し、手を離した。

 ここで話を変えるため、西軍のヤーシャが主張を述べる。

「それでクオン様。あと3日ありますが、ここは自由に使ってよろしいので?」
「構いませんよ。ここは広い……訓練をするスペースもあるでしょう。休息を取るなり訓練に励むなり、自由にしてください」
「……はい。では、遠慮なく寝させて頂きます」
「今日は構いませんが……貴女は会議に参加してもらいますので、そのつもりで」
「ぐぅっ……!」

 頭を抑え、倒れ伏すヤーシャ。
 彼女の睡眠不足は治るのだろうか?

「ううっ……ナルー様さえ西軍に居なければ……。食料の配給とか、備蓄庫の拡大とか保管人員の確保とかぁ……!」
「……電灯設備の設計と説明を頼んだのはすみませんでした」
「クオン様は悪くないです……私、もう3日寝ないのも平気になりましたから……。あはははは、ぐぅ……」

 倒れたまま眠りに入るヤーシャだったが、彼女を起こす者は居なかった。
 3人の最高司令官とは会話を交わしたが、まだ東軍とだけは話していない。
 クオンから見て右端に立つ七三分けの少年――ナモン・テクスレッド・アモフール。
 肩章のついたジャージを羽織り、太い赤色のネクタイをキチンと占めている、クオンよりも背の低い17歳の少年である。
 貴族のご子息であることから縁あって東軍の指揮を務めていた。

「ナモン殿も、この3日は気を引き締めつつ、自由に過ごしてください。軍議の時は呼びますから」
「ハッ!」

 クオンの言葉に、敬礼して答える。
 忠実にして懸命、まっすぐな視線に仰がれ、クオンは1つ頷いて手を叩く。

「では、解散します。各軍の指揮はお任せしますよ」
『御意!』
「ぐぅ……」

 敬礼する3人とは別に寝息を返す者も居たが、それぞれが解散して別行動へと変わるのだった。



 ◇



「シュテルロード公。さっそくで悪いが、良いか?」
「にゃーです?」

 北軍総司令官ブロックはすぐさまミズヤに話しかけていた。
 ミズヤはニコニコしながらいつもの口癖を呟きながら、皿を両手で抱きしめて振り返る。
 15歳で160を超える身長のミズヤだが、ブロックは20センチも高い背で見上げる形となっていた。
 ブロックは頭を掻きながら口を開く。

「また、娘達と遊んでやってくれぬか? 貴公と戦いたいと、この2週間意気込んでいてな……」
「おおー、いいですよ〜っ。どこですかー?」
「塔を中心に北側にある一番大きな家屋だ。案内する」
「はーいっ」

 元気に返事を返し、ミズヤとブロックは北のほうへ消えていった。
 一方、ここで1人の男がヤーシャを抱え上げる。
 ジャージのジッパーを開き、中にヨレヨレのシャツを着た寝ぼけ目の男――【瞬炎禍】のマナーズだった。

「んじゃ、俺はヤーシャさん連れて西の方行くんで」
「ちょっと待ちなよ〜」
「……んあ?」

 その場を去ろうとするマナーズを、ニヤニヤ笑いながらドークが止めた。
 艶やかに舌なめずりをし、ヒヒッと怪しく笑う。

「マナちゃ〜ん……アタシと一発ヤらない?」
「何をッスか? 面倒なら嫌ッスけど」
「ん〜……模擬戦でもいいしぃ、ベッドの相手でもいいよぉ〜? マナちゃんの、どんなのだか忘れちゃったし……ククッ、ヤりたいなぁ〜」
「疲れるから嫌ッス。ふぁ〜……眠っ」
「え〜……」

 マナーズはドークに興味を示すことなく西の方へ、他の兵の雑踏に紛れて消えて行った。
 1人残されたドークは柔らかい唇を尖らせ、最後に残った最高司令官に目を向ける。

「……ナモンちゃ〜ん?」
「失敬。我はクオン様に話がある故、其方の相手は致せない」
「……まぁ、アンタは堅い性格だし、期待してなかったよ。適当にムキムキな男探すかなぁ〜」

 ドークはぶっきら棒にそう言うと、男を漁りに消えて行った。
 ナモンの呼ぶクオンはケイク達と話しており、話に割って入る。

「クオン様。お話があります、よろしいでしょうか?」
「ん? えぇ、何でしょうか?」
「我率いる東軍は東大陸も範囲に魔物狩りを行なっている、トメスタスの言う戦争の最前線に立つ立場にあります。此度の奇策は失敗できないものではありますが、万が一失敗した時の対策を考えて欲しく思い……」
「成る程、それでしたら座ってゆっくりと話し合いましょうか」

 そうしてナモンとクオンも中央から消えて行く。
 側近たるケイクとヘリリアもついて行き、初めの集まりは解散となった。

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