連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第5話:恋

 4人は今日、城下町の宿屋に泊まることにした。
 野宿が多かったのだが、それは金銭的に困っていると言う理由ではなく、野宿できるならミズヤが地下に部屋を作るから快適で、地下だから人の侵入もなく、安全面も保証されるから。
 クオンは元皇族として命を狙われることもしばしばある。
 なるべく人目のないところで眠りに就きたい所だが、人の多い城下町で堂々と地下を作る方が人目を惹くため、大人しく宿屋に泊まっていた。

 陽はとうに落ち、三日月が天にデカデカと映っていた。
 黒く色塗られた空に点々と散らばる星々をクオンは窓の外からじっと眺めている。

(感傷的、なんですかね……)

 心の中で自問し、苦悩に表情を歪める。
 幼き頃を過ごした街、家、月日を重ねるほど変わりゆく街並みはあれど、この空は変わることなく夜は闇が訪れる。

 もうこの国は、自分の知っているものではない。
 それが悲しいのだと、クオンは自覚できずにいた。

「……クオン?」
「…………」

 名を呼ばれ、ゆっくり振り返るとミズヤがベッドの上で座っていた。
 他の2人は眠り、物音も立てずに息衝いている。
 1部屋に4人という狭い部屋ではミズヤの呟きも大きく聞こえた。

「……なんですか? 今日は私が夜番なのですから、貴方は寝ててくださいよ」
「……でも、なんか寂しそうな顔してたから」
「…………」

 それだけ聞くと、クオンは再び空を見上げた。
 広く澄み渡る夜空を儚く見つめ、ポツポツと胸中を語り出す。

「胸に……穴が空いていたんです。また一年経って、胸の中に思い出が降り積もった。穴は塞がれたように思えたんです。でも……ここに来て、思い出すんですよ。ああ、私の胸に穴があったんだな、って……」

 自嘲気味な自分語りをして、クオンはクスリと笑う。
 何がおかしくて笑ったのかは、彼女にもわからなかった。
 ただただ寂しい気持ちが募り、夜の静けさがそれを後押しする。
 だがそこに、暖かな温もりがあった。

 ぎゅっと優しくミズヤはクオンを背中から抱きしめる。

「大丈夫だよ〜……クオンには僕達が付いてるからね」
「……フフ、ありがとうございます。弱い所を見せてしまいましたね……」
「まだ僕達子供だもん。弱くたっていいんだよ。色々経験して、これから強くなっていこ……」
「……。えぇ……」

 抱きしめるミズヤの手に、そっとクオンが手を重ねる。
 こうしていると恋人のようで――徐々に彼女の頬は赤く染まっていった。
 背後から抱きしめるミズヤはそれに気付かず、柔らかいクオンをそのまま抱きしめ続ける。

「……ミズヤ、その……」
「んー……?」
「もう少し、このままでもいいですか……?」
「いーよーっ。クオンは可愛いから、ずっと抱きしめてたいぐらいだし」
「っ……まったく、貴方は……」

 羞恥に体温まで上昇し、クオンは悶えたい感覚に襲われる。
 ミズヤの言う可愛いは、サラや他の猫に対しても同じように言うし、抱きしめてたいとも同じように言う。
 だから"特別"扱いではないと、そうわかっていてもクオンは嬉しかった。

「私はまだ、貴方のことが好きなんですよ……。それなのに、貴方は……」
「……ごめんね。ずっと保留で」
「…………。仕方ないとわかっていますから、構いませんよ。それに、これは私の我儘なんですから」

 好きになるって、自分の都合。
 相手に気持ちを押し付けることは単なる我儘でしかないと、クオンはわかっていた。
 しかしそれは遠い目で見ると、仲良くなりたいと言う気持ちと変わりない。
 気持ちを今受け取ることは出来なくとも、ミズヤは仲良くしていたいと思った。
 サラとの関係をどのようにすればいいのかは記憶を取り戻さないとわからない。
 だからまだ、答えを出すことは出来なかった。

「ミズヤは記憶のある方の前世でも恋をしていたんですよね。相手はどんな方だったんですか?」
「……あー、そうだなぁ……。学校に行ってたんだけど、その中でもかなり可愛い方で……それ以外は、普通の女の子だったよ。うん、本当に普通の人だった」
「……そうですか。サラがあんなだから、ミズヤは高飛車な人が好きだと思ってましたけど、その辺は?」
「好きな性格とかは無いよ。でも、優しい人が好き、かな……。優しくない人が好きな人なんて、居ないけどね」
「フフッ、そうですね……」

 小さな声でクオンが笑う。
 話が途切れると、温もりだけに意識が集中し、ミズヤは尋ねる。

「そろそろ、離れてもいいかな?」
「……もう少し、お願いします」
「んーっ」

 要求を受け、ミズヤはまたクオンを抱きしめる力を強める。
 その法要をクオンは慈しみ、体重をミズヤに預けてもたれかかった。

「……ミズヤ、私と居て幸せですか?」
「……え、なに、どうしたの?」

 急な問いかけに困惑し、体を離そうとするミズヤ。
 しかし、クオンが掴んだ手を離さず、脱出できなかった。
 密着したまま、クオンは真っ赤になった顔で問い掛ける。

「……あくまで例えばの話、ですが……今の私とミズヤが、こ、恋人になれたとして……私は貴方を幸せにできるかわかりません……。でも、今の私と居て、少しでも幸せと思っていただけるなら……少しは、救われた気に……なるような気がしまして……」
「そっかぁ……。将来幸せになれるとかなれないとか、僕は気にしないけどね。僕の事を好きでいてくれたら、それで十分だもん」
「……そうですか。貴方らしいですね」
「そーかなぁ〜……」


 言葉尻を伸ばし、うーんと唸るミズヤ。
 しかし、霧代の時も沙羅の時も、向こうが好きだったから瑞揶も好きになったのだ。
 ミズヤの、彼らしさがあるといえば間違いない。

「……私も……」
「ん?」
「……私も、貴方のことが好きなんですよ? 好きになってくれますか?」
「……うーん、好きになるのって、自分で決められないから、なんとも言えないなぁ……」
「……そう、ですね」

 ミズヤの言葉に、クオンはしょんぼりとして力を緩めた。
 がっかりさせたと思ったミズヤは、慌てて言葉を付け足す。

「でっ、でもっ、クオンはとっても可愛いし、胸も器も大きいし、とても魅力的な女性だよ!」
「胸は、まぁ……」

 ここ数年でさらなる発育を見せ、その手に収まらないほど肥大化した胸は、強力な男殺しの武器となり得る。
 だからと言って、仮にも皇族のクオンがはしたないマネに出るわけもなく、ただ大きくなった胸を「戦闘の邪魔」だと疎ましく思うのだった。

「……触っても、いいですよ?」
「えー……なんか悪いから、いいよ。僕は変態ねこさんじゃないしっ」
「そうですか。では、純粋な方法で貴方を惚れさせれるよう、頑張りますよ」

 振り返り、微笑むクオン。
 月に照らされた優しい微笑みは美しく、ミズヤも思わず見入ってしまう。

 ミズヤは――前世で、何かを見ることで感動を覚えなかった。美しい風景やイヤらしいものを見ても、何かを感じることがなかった。
 だけど、今は違う。
 クオンの可愛さ、凛々しさを十分に理解していても、一瞬見せる最高の輝きにはドキリとせずにいられない。

「……ほんと、クオンは可愛いですにゃあ〜。よしよしよしよし〜♪」
「な、なんですか……。やめてくださいよ……」

 髪を撫でられ、くすぐったそうにして笑うクオン。
 じゃれあう姿はまだまだどちらも子供らしく可愛らしい。

(おのれミズヤめ……)
(おのれクオンめ……)
(2人とも恋人みたい……私も彼氏欲しいなぁ……)

 一方、同室で寝たフリを続ける2人と1匹は嫉妬をするのだった。

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