連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第21話:これから
日が暮れて夜になり、クオンは皆を集めていた。
森の中は暗く、ケイクが火を点けて焚き火をみんなで囲っている。
「私達はこれから、各軍事拠点を回ります。目的としましては、バスレノスの総力で話し合いをして、この北大陸をどうやって守り、統一を守って行くかを話し合うためです」
クオンのこの言葉の意図が初めはよく伝わらず、皆呆けていた。
だから、クオンはさらに言う。
「我々バスレノスは、もうこんな悲しいことが起きないように、人が死なず、平和になるように戦ってきました。その意志を受け継いで、不安の渦巻くこの北大陸に安寧を取り戻したいのです」
「……それは、バスレノスの復活はしないってことですか?」
クルタがけったいな態度で、小さく挙手をして質問する。
クオンは少し黙って、答える。
「……復興については、キュール次第です。キュールがこの世界を安寧に導くと言うのなら、私はキュールの致す国政には干渉しません」
「はぁん、及び腰だねぇ……」
「ですが――」
クオンは一度言葉を区切り、頷いてからもう一度口を開く。
「キュールが国に害なす行為をするならば、私に貴方達の力を貸してください。全力でキュールを止めましょう」
『…………』
それがクオンの決めた道であり、残されたバスレノスのあり方だった。
人を守る、悲しみを起こさせない。
そのためにまず、活動する事が最優先。
先代からの意志を継いだその言葉を、嘲笑う者はいなかった。
「私達はこの事を全軍事拠点に知らせます。各拠点毎に私に従うかどうかは任せますが、私に従ってくれるのならばこれからの拠点運営方法も考えていきましょう」
「それで、私達はこれからどうするんです? 西軍基地に行きますか?」
「ええ、その予定です。その後、他の拠点も巡って意見を聞きます」
「その必要はないよ」
『!!?』
クオンの言葉を真っ先に否定する、聞きなれぬ声。
誰だ――そう思って全員が森の陰に視線を集中させると、そこには久方ぶりに見る、赤いコートを着た男が立っていた。
『郵便屋……』
「アラルさん……」
赤くとんがった帽子をかぶる、優しい目をした青年。
ミズヤだけは彼を名前で呼び、呼ばれた青年は5人の方にやって来る。
「これを……」
アラルはクオンに向けて、黒い紙筒を差し出した。
クオンはゆっくりと筒を受け取り、開けようとしてアラルが紙筒の蓋を留める。
「1人で読むようにって、言われたんだ。後で1人で読んで欲しい」
「……送り主を、伺っても?」
「……。送り主は、トメスタス・レクイワナ・キュール。今現在、旧バスレノス城の玉座に座る者だ」
「…………」
トメスタスはトメスタスでも、敵の名前が出た事でクオンの表情は曇る。
しかも、アラルは"旧"バスレノス城と言った。
もうあの城がクオンの自宅でない事が、その一言でわかってしまう。
「それで、さ。軍事拠点から意見を集めるんだろう? 僕が手紙を出してあげるよ。返事もすぐ君達に届けてあげる」
「ありがとうございます。ですが、今の私達にお金は……」
「要らないよ。これは僕の人助けだ。……ずっとね、可哀想だと思って見てたんだ。でも、僕に出来るのは手紙を届けることだけだから……」
「……この大陸の問題ですから、貴方が気に止む事はないですよ。でも、ありがとうございます」
「……うん」
それだけ伝えると、アラルは踵を返して手を振った。
言伝の内容については、既に分かっているようだ。
「じゃ、またね」
「ありがとうございました」
クオンがぺこりと礼をすると、アラルは笑顔を残して消えて行った。
先ほど話していた内容も、まず西大陸に行くという事は衣食住を確保する上でも変わらないため、誰も反対する事なく集まりは解散となった。
森の中で、半径3mぐらいの狭い空きスペースから逃れ、クオンは赤魔法の炎で近くを照らしながら所管の蓋を外す。
中からはその重さ通り、紙が一枚丸まって入っているだけだった。
クオンは紙を出して書かれている内容を黙読する。
〈クオン・カライサール・バスレノス殿
生きてこの書簡の文章を読まれることを願う。
貴公等バスレノスは誇り高き我が宿敵てあった。長年の戦いの中で彌我々が勝利を掴み取り、貴公等の陣地を占領した。その際、多大なる死者を出した事については詫びておく。
さて、此度こうして文書を認めた理由は大きく2つある。1つは貴公の家族について、もう1つは貴公の身柄についてである。
まず第一に、貴公の家族である皇族は、貴公を除いて全員晒し首としている。旧城下町の広場に土台が置いてあるため、見たければ見るがいい。
第二に、貴公について我々キュール側は一切の罪を着せず、身柄を追わない事を保証する。これはラナ皇女との約束であり、其方が我等に危害を加えず、これから作る法律に違反するようでなければ、我々は其方を一市民として受け入れ、共にこの大陸を築く仲間として迎え入れる。
貴公の英断を期待している。
トメスタス・レクイワナ・キュール〉
文章を読み終えると、およそ察しのついていた出来事が事実へと変わったんだという実感が湧いた。
それは家族全員の死。
ラナもトメスタスも死に、バスレノス皇家はクオンだけとなってしまった。
それでも、もう決めた道は変えないし迷わない。
だから進もう――新しい道を、一歩ずつ――。
◇
クオン達は暫くの間、西軍に厄介になることになった。
軍基地の総意としては、クオン同様、キュール側の動き次第で対応するとのことで、一先ずはクオンの身柄を保護していた。
クオンもまた、修行を始めた。
今や肩書きのないただの少女、西軍のトレーニングに混ざり、体を鍛え技を磨いた。
主な武器としてはドライブ・イグソーブを使い、日々汗を流した。
その一方で、神楽器の小太鼓も持っている。
善意を鍛えるために1日1時間、人にいい事をする事について考えて膳を組むことをした。
主君が努力する一方で、ケイクやヘリリアもトレーニングに混ざり、戦闘スキルを磨くのだった、
ミズヤは新しい魔法作りやイグソーブ系の新規開発に参加し、新しいプロジェクトを立ち上げる予定。
クルタは、トメスタスの後を追って殉死した。
色々と変わりゆく生活の中、ついに1ヶ月が過ぎる。
キュール側は、正式にバスレノスの占領を宣言した。
そして新たな政治改革を始め、結果として政治内容はさほどバスレノスとさほど変わらなかった。
軍事国家になるわけではないと知り、各軍事拠点は動かなかった。
それからは暫く、平穏な日々が続いた。
軍事拠点の食材集めなどは全て魔物退治の報酬や、軍事拠点自体が街と連結していることもあって協力関係にあるため困ることはなく、なにも問題がないように思えた。
それでも、問題は1つ――
「僕、アルトリーユに行くね」
ミズヤが唐突に、この国を出て行くと宣言したのだ――。
森の中は暗く、ケイクが火を点けて焚き火をみんなで囲っている。
「私達はこれから、各軍事拠点を回ります。目的としましては、バスレノスの総力で話し合いをして、この北大陸をどうやって守り、統一を守って行くかを話し合うためです」
クオンのこの言葉の意図が初めはよく伝わらず、皆呆けていた。
だから、クオンはさらに言う。
「我々バスレノスは、もうこんな悲しいことが起きないように、人が死なず、平和になるように戦ってきました。その意志を受け継いで、不安の渦巻くこの北大陸に安寧を取り戻したいのです」
「……それは、バスレノスの復活はしないってことですか?」
クルタがけったいな態度で、小さく挙手をして質問する。
クオンは少し黙って、答える。
「……復興については、キュール次第です。キュールがこの世界を安寧に導くと言うのなら、私はキュールの致す国政には干渉しません」
「はぁん、及び腰だねぇ……」
「ですが――」
クオンは一度言葉を区切り、頷いてからもう一度口を開く。
「キュールが国に害なす行為をするならば、私に貴方達の力を貸してください。全力でキュールを止めましょう」
『…………』
それがクオンの決めた道であり、残されたバスレノスのあり方だった。
人を守る、悲しみを起こさせない。
そのためにまず、活動する事が最優先。
先代からの意志を継いだその言葉を、嘲笑う者はいなかった。
「私達はこの事を全軍事拠点に知らせます。各拠点毎に私に従うかどうかは任せますが、私に従ってくれるのならばこれからの拠点運営方法も考えていきましょう」
「それで、私達はこれからどうするんです? 西軍基地に行きますか?」
「ええ、その予定です。その後、他の拠点も巡って意見を聞きます」
「その必要はないよ」
『!!?』
クオンの言葉を真っ先に否定する、聞きなれぬ声。
誰だ――そう思って全員が森の陰に視線を集中させると、そこには久方ぶりに見る、赤いコートを着た男が立っていた。
『郵便屋……』
「アラルさん……」
赤くとんがった帽子をかぶる、優しい目をした青年。
ミズヤだけは彼を名前で呼び、呼ばれた青年は5人の方にやって来る。
「これを……」
アラルはクオンに向けて、黒い紙筒を差し出した。
クオンはゆっくりと筒を受け取り、開けようとしてアラルが紙筒の蓋を留める。
「1人で読むようにって、言われたんだ。後で1人で読んで欲しい」
「……送り主を、伺っても?」
「……。送り主は、トメスタス・レクイワナ・キュール。今現在、旧バスレノス城の玉座に座る者だ」
「…………」
トメスタスはトメスタスでも、敵の名前が出た事でクオンの表情は曇る。
しかも、アラルは"旧"バスレノス城と言った。
もうあの城がクオンの自宅でない事が、その一言でわかってしまう。
「それで、さ。軍事拠点から意見を集めるんだろう? 僕が手紙を出してあげるよ。返事もすぐ君達に届けてあげる」
「ありがとうございます。ですが、今の私達にお金は……」
「要らないよ。これは僕の人助けだ。……ずっとね、可哀想だと思って見てたんだ。でも、僕に出来るのは手紙を届けることだけだから……」
「……この大陸の問題ですから、貴方が気に止む事はないですよ。でも、ありがとうございます」
「……うん」
それだけ伝えると、アラルは踵を返して手を振った。
言伝の内容については、既に分かっているようだ。
「じゃ、またね」
「ありがとうございました」
クオンがぺこりと礼をすると、アラルは笑顔を残して消えて行った。
先ほど話していた内容も、まず西大陸に行くという事は衣食住を確保する上でも変わらないため、誰も反対する事なく集まりは解散となった。
森の中で、半径3mぐらいの狭い空きスペースから逃れ、クオンは赤魔法の炎で近くを照らしながら所管の蓋を外す。
中からはその重さ通り、紙が一枚丸まって入っているだけだった。
クオンは紙を出して書かれている内容を黙読する。
〈クオン・カライサール・バスレノス殿
生きてこの書簡の文章を読まれることを願う。
貴公等バスレノスは誇り高き我が宿敵てあった。長年の戦いの中で彌我々が勝利を掴み取り、貴公等の陣地を占領した。その際、多大なる死者を出した事については詫びておく。
さて、此度こうして文書を認めた理由は大きく2つある。1つは貴公の家族について、もう1つは貴公の身柄についてである。
まず第一に、貴公の家族である皇族は、貴公を除いて全員晒し首としている。旧城下町の広場に土台が置いてあるため、見たければ見るがいい。
第二に、貴公について我々キュール側は一切の罪を着せず、身柄を追わない事を保証する。これはラナ皇女との約束であり、其方が我等に危害を加えず、これから作る法律に違反するようでなければ、我々は其方を一市民として受け入れ、共にこの大陸を築く仲間として迎え入れる。
貴公の英断を期待している。
トメスタス・レクイワナ・キュール〉
文章を読み終えると、およそ察しのついていた出来事が事実へと変わったんだという実感が湧いた。
それは家族全員の死。
ラナもトメスタスも死に、バスレノス皇家はクオンだけとなってしまった。
それでも、もう決めた道は変えないし迷わない。
だから進もう――新しい道を、一歩ずつ――。
◇
クオン達は暫くの間、西軍に厄介になることになった。
軍基地の総意としては、クオン同様、キュール側の動き次第で対応するとのことで、一先ずはクオンの身柄を保護していた。
クオンもまた、修行を始めた。
今や肩書きのないただの少女、西軍のトレーニングに混ざり、体を鍛え技を磨いた。
主な武器としてはドライブ・イグソーブを使い、日々汗を流した。
その一方で、神楽器の小太鼓も持っている。
善意を鍛えるために1日1時間、人にいい事をする事について考えて膳を組むことをした。
主君が努力する一方で、ケイクやヘリリアもトレーニングに混ざり、戦闘スキルを磨くのだった、
ミズヤは新しい魔法作りやイグソーブ系の新規開発に参加し、新しいプロジェクトを立ち上げる予定。
クルタは、トメスタスの後を追って殉死した。
色々と変わりゆく生活の中、ついに1ヶ月が過ぎる。
キュール側は、正式にバスレノスの占領を宣言した。
そして新たな政治改革を始め、結果として政治内容はさほどバスレノスとさほど変わらなかった。
軍事国家になるわけではないと知り、各軍事拠点は動かなかった。
それからは暫く、平穏な日々が続いた。
軍事拠点の食材集めなどは全て魔物退治の報酬や、軍事拠点自体が街と連結していることもあって協力関係にあるため困ることはなく、なにも問題がないように思えた。
それでも、問題は1つ――
「僕、アルトリーユに行くね」
ミズヤが唐突に、この国を出て行くと宣言したのだ――。
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