連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第19話:終戦

 戦いが終わり、まだまだ深い夜をラナは見上げて居た。
 ずっとモヤモヤしていた気持ちにケリを付けたはずなのに、弟を殺す事もまた彼女を悩ませた。

 この結果が良かったか悪かったか、それはわからない。
 でもこれが、彼女が人生を賭して行った結果なのだ。
 全てを捨て去り、ずっと昔からの積怨を晴らした。
 何もかも破壊して、平和な世を乱し、国を1つ滅ぼしたんだ。

 全ての罪を背負うべきその身だけれど、その罪を感じる時間はあまりない。

「ラナ」

 キュールのトメスタスは、ラナの一歩手前に立つ。
 その右手には刀が握られており、刀身にはラナの悲しい表情が写っていた。

 ここまでがラナのした約束だった。
 クオンを逃し、城を乗っ取り、トメスタスと一対一で倒す。
 そして――ラナの首を差し出す。
 これでクオンが亡命していれば、バスレノスは本当に再起不能になる。

 東西南北にある4つの軍事拠点は脅威となるが、今回の戦闘だけで多くの死者を出したのにさらに戦闘をして死者を出しては、魔物を駆除できなくなる可能性もある。
 魔王とレジスタンスが手を組んでる可能性もあり、四方が手薄になったところに魔物を置かれる危険性も考えれば、攻め入っては来ない。

 暫くの間は、レジスタンスが政治を操ることになるだろう。
 国名もキュールへと変われば、どうなるのだろうか。
 市民はすぐ受け入れるかわからない。
 しかし、キュールの2人は傲慢ではなく、政治は真摯に行うだろう。
 そうであれば、ラナにも悔いは無い。

「……覚悟はいいか?」
「あぁ……もう少し感傷に浸りたかったがな。いつでも来い」

 刀が上がり、地面と平行になる。
 そして、一思いに首は跳ねられた。

 血飛沫が上がる。
 膝から崩れ落ちる肢体は首からダバダバと真っ赤な血を流した。

「……お兄様」
「ああ……俺たちの勝利だ」

 こうして、ミズヤが来てから4度目の襲撃は、レジスタンスの勝利で幕を閉じた。
 ここまで来るのに、大きな悲しみを積み上げて――。



 ◇



 長過ぎた夜が明け、クオンは静かに瞼を開いた。
 目に映ったのは、草と木々、微かに見える水色の空。
 初めに感じたのは、いつもと違う地面の感触。
 普段ならベッドで寝ているはずが、固い土の上にタオルを挟んで寝そべっていた。

 なんでこんな所に――其処まで考えたところで、彼女は思い出す。
 昨日、何があったのかを。
 皆死んだ――城にいた家族、友人、知人、その殆どが死んでいた。

「…………」

 思い出すうちに、悲しみが溢れながらも僅かな希望がある事を思い出す。

(トメス兄様は、生きてるでしょうか――?)

 彼が生きていれば、神楽器を持ってバスレノス復興目指して頑張れるだろう。
 彼の持つ神楽器なら、ここに――

「……あれ?」

 状態を跳ね起こし、辺りを確認する。
 神楽器の姿はどこにもなく、不安を斡旋した。

 しかし、その不安も杞憂に終わる。

「ニャーッ」
「あ、起きたんだね。クオン」

 草木の向こうから猫の鳴き声がして、そこからミズヤが現れたから。
 彼が居るという事は、楽器も無事である事が予想できた。

「……ミズヤ、他の皆は?」
「んー、ケイクとヘリリアはそっちの方で寝てるよ。クルタさんはあっちで見張りしてる」
「……そうですか」

 自分の側近達の無事が確認でき、それだけでクオンは安堵する。
 皆死んだ、残った自分の親しい間柄の人は、側近達と遠くにいる貴族達。
 今の彼女を守るのは、側近の3人。
 クルタはどう行動するかわからないため、頭数に入れていない。

「とりあえず、皆起こしてくるね? これからの事決めないと……」
「……はい。お願いします」

 クオンがその場で頭を下げると、ミズヤは皆を起こしに草をかき分けて行った。
 ポツンと1人残された皆クオンだったが、彼女の前に1匹の猫が座り、目の前にボードを置いた。

〈亡命したかったら、いつでも迎え入れるわ〉
「…………」

 それがありがたい申し出である事は、今は分からなかった。
 でも、この言葉を持って初めて自覚する。
 ああ、バスレノスは終わったんだ、と――。



 ◇



 5人と1匹が揃うと、今後の方針についての話が始まる。
 夜通し見張りをしていたミズヤとクルタは寝ぼけ目で、というかミズヤは寝ていたので実質3人での話し合いだった。
 ミズヤの連れてきたプロンは一応戦犯であるため、先に国外へ出るよう西に向かって行ったという。

「クオン様、ここはカルノールより西寄りの森です。先日訪れた西軍基地に一度向かい、存命の知らせをするのが宜しいかと……」
「……ええ」

 ケイクの進言はクオンの体を通過した。
 聞いているのに聞こえていない、まさにそんな状態。
 馬耳東風のその様子から、クオンの傷心具合が伺えた。
 ヘリリアも、あまり眠る事ができなかったのか、体育座りのまま俯いている。
 悲しみは大きく、深い。
 たった一夜の事で全てを失くしてしまったのだ。
 今まで見ていた崇高な理想も、夢も途絶え、どうすればいいかを自分達で考えていく。

 13歳の少女には、とても荷が重かった。
 この場で最も力のあるクオンは、まだ年端もない少女。
 国の政治を見てきたとはいえ、窮地に立たされた時の状況判断力はない。

「……すみません。もう少し、考えさせてください。これからどうすれば良いか、全然、思いつかなくて……」
「クオン様……」
「……大丈夫です。城が乗っ取られても、バスレノスはレジスタンスに負けない戦力を保有しています。神楽器も二台ある、兄様か……姉様が、また仲間についてくれれば……」
「…………」

 望みの薄い案を展開して、またクオンは顔を下に向けた。
 思い出すだけで苦しい事だった。
 たった1人の姉が国を裏切り、国中央の城を乗っ取らせる共謀を図った。
 なぜそんな事をしたのか、クオンは未だに理解できていない。
 ラナの意思は何だったのか、わからないのだ。

「……クオン様、もう少し時間を置きましょう。レジスタンスが索敵を出しているかはわかりませんが、今は考える時間と、心を休める時間が必要です」
「…………」

 クオンは無言で、コクリと頷いた。
 全員が憔悴しきっており、切り替えるにはまだ時間が掛かる――。

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