連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第17話:フォース・コンタクト⑨
「……クオンか」
「む?」
ふとラナの口からこぼれた妹の名前に、トメスタスも反応を示した。
敵対している2人の視線が注がれ、クオンは慌ててミズヤに指示を出す。
「ミズヤ! 早く降ろしてください!!」
「うっ、うん……」
ミズヤは指示通り、絨毯を降下させる。
クオン一向はトメスタスとラナの間を割って入った。
「2人とも、今はこんな事をしてる場合じゃないでしょう!!? 国が乗っ取られるか危うい時に、喧嘩なんて辞めてください!!!」
「……と、我らが愛おしい妹が言っているが、どうする?」
「知ったことか」
刹那、ラナの周囲にはバチバチと火花に似た雷が走る。
既にスイッチは入っている、止める事は叶わない。
「だったら、僕が力尽くで止めますよ?」
なのに、この少年はにこりと笑ってそう提案するのだ。
この場において誰よりも強く、クオンの護衛を仕る少年は、ゆっくりと刀を構えた。
場が静まり返る。
三者三様、ラナ、ミズヤ、トメスタスは口を閉ざして誰かが動き出すのを待つ。
しかし、動いたのは――
「【罠嵌術・天空】」
トメスタスの側近が1人、ジャガルであった。
ミズヤの前方から銀の糸が伸びる。
「……何?」
しかし、ミズヤは一歩も動く事なく糸を阻止した。
【無色魔法】による空気の壁が、進むべく道を阻んだのだから。
冷めきったミズヤの視線がジャガルに向くも、ジャガルは怯まなかった。
「これは両者が臨まれた真剣勝負、邪魔立ては許さん」
「…………」
「【罠嵌術――」
「待て、ジャガル」
新たな魔法を阻止したのは、他でもなく君主のトメスタスだった。
それが意外だったのか、ラナの眉も少し上がる。
「ラナ、少しだけミズヤ達と話をさせてほしい。それで彼等が退かなければ、その中で戦おう」
「……好きにしろ」
ラナにとってもクオンがいる中での戦闘は好ましくなく、この提案を素直に受け入れた。
トメスタスはラナの不意打ちを警戒しながらも、クオンの元に向かった。
「……トメス兄様」
「クオン、この城はもう終わりだ。亡命でも他の軍基地でもいい、逃げろ」
「それなら、貴方だって逃げるべきです! お姉様と戦ったって、何にもならないじゃないですか……」
「アイツは――ずっと俺を目の敵にしていた。それに、今回の件もラナが原因、戦わないわけにはいかない」
「しかし……」
「話し合いなど無駄だ。お前はこの惨状を見て尚和解ができると言えるのか?」
「…………」
城は炎が広がって所々爆発し、レジスタンスの手に落ちた。
何千という人が死んだであろう、城にいた殆どが死んだのだから。
「いいか、クオン。これを持ってどこかの軍基地に隠れるか亡命しろ。お前だけは守ってみせる」
そう言って、トメスタスは自身の神楽器をクオンの胸元に放り投げる。
刀とマフラーもそれに続き、クオンは目を開いて驚く。
「な、なんで……神楽器が無いと、兄様は……」
「案ずるな、俺はもとより強い。それに、フェアなしで相手をしなくては意味がないからな」
「……。でも……」
状況を認めたくなくて、クオンはその場を動かなかった。
どう考えてもバスレノス城は終わりで、レジスタンスに乗っ取られる事は変わらないだろう。
それでも、自分の家が無くなり、親も死んだその事実をすぐには飲み込めない。
この状況で――何をすべきかは明白だった。
残った皇族を生かす事でバスレノスは復興の余地も見いだせる。
クオン、トメスタスのどちらもが生きているのが最善、しかしラナとの戦いを避ける事は難しい。
そして、トメスタス本人が戦うと言って引かぬのなら、クオンを連れ出すしかない。
「クルタ、クオンを連れて遠くに逃げろ」
「!? 兄様!?」
だから、他でもないトメスタス自身がクオンを連れ出すよう指示するのだった。
クルタという褐色肌の女は素早くクオンの背筋に手刀を当てて気絶させた。
クオンの側近達は――誰も止めなかった。
「ケイク、ヘリリア、ミズヤ。お前達はクオンに付いて行けよ? 邪魔立ては無用だ」
返事をする者はいない。
それでも己の役割をわかっているから、クオンを抱えて走り出すクルタへと付いて行った。
しかし、1人だけこの場に残った者がいる。
「ニャーッ!!」
「こらーっ、サラ! トメスタスさんのマフラーカジカジしないの〜っ!」
クルタの去り際にサラが奪い取ったマフラーを、ミズヤは追いかけ回していた。
こんな状況でいつもと変わらない2人に、流石のトメスタスもジト目を送らずにはいられない。
「……お前、何をしている?」
「捕まえたっ! うわっ、埃だらけ……ああ、はい。僕は残って観戦します。クオンに貴方方の生死を報告したいですし」
「俺が生きていればまた会える。お前も去れ」
「…………」
ミズヤはチラリとラナの方を見た。
猶予を与えた少女は相変わらず仁王立ちしており、目を閉じてずっと待っている。
ミズヤも、仕方ないというように被りを振ってこう言い残した。
「……ご武運を」
それを最後に、ミズヤはプロンを背負ったままその場を後にした。
そしてついに、2人の決戦が始まる。
「む?」
ふとラナの口からこぼれた妹の名前に、トメスタスも反応を示した。
敵対している2人の視線が注がれ、クオンは慌ててミズヤに指示を出す。
「ミズヤ! 早く降ろしてください!!」
「うっ、うん……」
ミズヤは指示通り、絨毯を降下させる。
クオン一向はトメスタスとラナの間を割って入った。
「2人とも、今はこんな事をしてる場合じゃないでしょう!!? 国が乗っ取られるか危うい時に、喧嘩なんて辞めてください!!!」
「……と、我らが愛おしい妹が言っているが、どうする?」
「知ったことか」
刹那、ラナの周囲にはバチバチと火花に似た雷が走る。
既にスイッチは入っている、止める事は叶わない。
「だったら、僕が力尽くで止めますよ?」
なのに、この少年はにこりと笑ってそう提案するのだ。
この場において誰よりも強く、クオンの護衛を仕る少年は、ゆっくりと刀を構えた。
場が静まり返る。
三者三様、ラナ、ミズヤ、トメスタスは口を閉ざして誰かが動き出すのを待つ。
しかし、動いたのは――
「【罠嵌術・天空】」
トメスタスの側近が1人、ジャガルであった。
ミズヤの前方から銀の糸が伸びる。
「……何?」
しかし、ミズヤは一歩も動く事なく糸を阻止した。
【無色魔法】による空気の壁が、進むべく道を阻んだのだから。
冷めきったミズヤの視線がジャガルに向くも、ジャガルは怯まなかった。
「これは両者が臨まれた真剣勝負、邪魔立ては許さん」
「…………」
「【罠嵌術――」
「待て、ジャガル」
新たな魔法を阻止したのは、他でもなく君主のトメスタスだった。
それが意外だったのか、ラナの眉も少し上がる。
「ラナ、少しだけミズヤ達と話をさせてほしい。それで彼等が退かなければ、その中で戦おう」
「……好きにしろ」
ラナにとってもクオンがいる中での戦闘は好ましくなく、この提案を素直に受け入れた。
トメスタスはラナの不意打ちを警戒しながらも、クオンの元に向かった。
「……トメス兄様」
「クオン、この城はもう終わりだ。亡命でも他の軍基地でもいい、逃げろ」
「それなら、貴方だって逃げるべきです! お姉様と戦ったって、何にもならないじゃないですか……」
「アイツは――ずっと俺を目の敵にしていた。それに、今回の件もラナが原因、戦わないわけにはいかない」
「しかし……」
「話し合いなど無駄だ。お前はこの惨状を見て尚和解ができると言えるのか?」
「…………」
城は炎が広がって所々爆発し、レジスタンスの手に落ちた。
何千という人が死んだであろう、城にいた殆どが死んだのだから。
「いいか、クオン。これを持ってどこかの軍基地に隠れるか亡命しろ。お前だけは守ってみせる」
そう言って、トメスタスは自身の神楽器をクオンの胸元に放り投げる。
刀とマフラーもそれに続き、クオンは目を開いて驚く。
「な、なんで……神楽器が無いと、兄様は……」
「案ずるな、俺はもとより強い。それに、フェアなしで相手をしなくては意味がないからな」
「……。でも……」
状況を認めたくなくて、クオンはその場を動かなかった。
どう考えてもバスレノス城は終わりで、レジスタンスに乗っ取られる事は変わらないだろう。
それでも、自分の家が無くなり、親も死んだその事実をすぐには飲み込めない。
この状況で――何をすべきかは明白だった。
残った皇族を生かす事でバスレノスは復興の余地も見いだせる。
クオン、トメスタスのどちらもが生きているのが最善、しかしラナとの戦いを避ける事は難しい。
そして、トメスタス本人が戦うと言って引かぬのなら、クオンを連れ出すしかない。
「クルタ、クオンを連れて遠くに逃げろ」
「!? 兄様!?」
だから、他でもないトメスタス自身がクオンを連れ出すよう指示するのだった。
クルタという褐色肌の女は素早くクオンの背筋に手刀を当てて気絶させた。
クオンの側近達は――誰も止めなかった。
「ケイク、ヘリリア、ミズヤ。お前達はクオンに付いて行けよ? 邪魔立ては無用だ」
返事をする者はいない。
それでも己の役割をわかっているから、クオンを抱えて走り出すクルタへと付いて行った。
しかし、1人だけこの場に残った者がいる。
「ニャーッ!!」
「こらーっ、サラ! トメスタスさんのマフラーカジカジしないの〜っ!」
クルタの去り際にサラが奪い取ったマフラーを、ミズヤは追いかけ回していた。
こんな状況でいつもと変わらない2人に、流石のトメスタスもジト目を送らずにはいられない。
「……お前、何をしている?」
「捕まえたっ! うわっ、埃だらけ……ああ、はい。僕は残って観戦します。クオンに貴方方の生死を報告したいですし」
「俺が生きていればまた会える。お前も去れ」
「…………」
ミズヤはチラリとラナの方を見た。
猶予を与えた少女は相変わらず仁王立ちしており、目を閉じてずっと待っている。
ミズヤも、仕方ないというように被りを振ってこう言い残した。
「……ご武運を」
それを最後に、ミズヤはプロンを背負ったままその場を後にした。
そしてついに、2人の決戦が始まる。
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