連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜
第11話:フォース・コンタクト③
城の地下では囚人、もしくはレジスタンスが収容されている。
彼らは今日も暗い鉄格子の中で天井を見るぐらいしか時間の使い道がない――はずだった。
今や牢の中はもぬけの殻で、人っ子一人居やしない。
ラナの側近の1人、ベネーハという老兵がすべての鍵を開け、破壊していったのだ。
その地下に遅れながらやってきたミズヤは、洞窟に似た作りの廊下で静かに周りを見渡す。
壁に打ち付けられた衛兵、血が噴き出した跡のある岩、力技で開けられ、曲がった鉄格子……。
「うーん、一足遅いとこうなっちゃうよねぇ……」
ミズヤは落ち込みながら、この惨状を見て呟いた。
寂しい言葉は岩が反射し、エコーのように響く。
「……まぁ、いいですにゃ。これから頑張って立派なねこさんになるもんねっ」
しかし、即座に気を取り直して笑顔を取り戻す。
用のない地下を出るため、ミズヤは歩き出す。
「よっと……あーあー、重いですにゃーっ」
ミズヤは担いでいるあるモノを背負い直すと、その背にあるものに背を向ける。
「――1人捕らえたし、とりあえずOKかなぁ〜……」
そこに居た人物こそ、老兵ベネーハであった――。
ラナの側近であり、戦力としてはこの城内でもトップクラスの筈の人物は白目を剥いて頭から血を流しているのだった。
ミズヤはそんな彼がラナの側近である事など知る由もない。
ただ襲われたから倒した、それだけなのだ。
【羽衣天技】、そんなものはミズヤにとって強い魔法でもない。
彼にとってみれば、1対1の戦闘などおそるるに足りないのだ――。
「えーっと、とりあえずクオンの所に行きますかにゃーっ」
ミズヤは陽気に笑いながら、よたよたと食堂へと戻っていくのであった。
◇
「イグソーブ武器は使わなくても良い! 自分の命を最優先に行動しろ! 城の略奪を全力で阻止せよ!!!」
『オオオオオオォォオオッ!!!!』
大広間は血と熱気に包まれていた。
大将ヴァムテルの指揮のもと、多くの兵士が魔法を持って特攻していく。
空を駆け地を蹴り、ひたすら相手を殺すことのみを考える。
その相手は、レジスタンスだった。
かつて倒し封じてきた者たちだけではない、キュールのトメスタス本隊もが攻め入っている。
怒号と叫び声が飛び交い、いくつもの血が吹き出て肉が倒れる。
火が点き氷が刺し、風が人を吹き飛ばす。
ここはまさに、地獄の最奥と呼ぶに値する場所だった――。
「怯むなァア!!! 今までの雪辱、今こそ晴らす時!! 我らが祖国と誇りを取り戻すのよぉ!!!」
ヴァムテルに対し、広間で相対するは彼の妹であるフィサだった。
牢屋で話し合った彼らは、ついぞ和解ができずにこうして相対し、共に指揮官として兵を奮い立たせる。
(フィサ――!!)
(兄さんなんかに負けない!! あの悲しみを忘れないためにも――!!!)
遠く離れた兄妹の絆は、こうして戦う運命を手繰り寄せた。
互いに悪いわけではないと知りつつも戦う兄妹、その命運は"力"によって示される――。
◇
「どこもかしこも煩くて敵わんな」
「? 兄様、今何か仰いました?」
「なんでもない! 行くぞミュベス!」
「はいはい」
肩透かししながらも、ミュベスは兄のキュール王子について行く。
レジスタンスの長たる2人は部下を連れずに2人で歩んでいた。
目的地など無い、この城の構造を詳しく知らないからだ。
しかし、狙う獲物は居る。
それは当然、皇帝及び皇后だ。
バスレノスの王を討ち取れば戦いは終幕へと向かう。
バスレノスはこれまでレジスタンスを殺さなかった、その敬意を評して2人は今日の敵を殺さず、早く戦いを終わらせるために国の王を探していた。
「んっ?」
「む」
そこに、銀髪でポニーテールの女が現れる。
目つきの悪いその女は、何を隠そうこの国の皇女であるラナだった。
「よく約束を守り、自国を滅亡に導いたな、ラナ」
「世辞はいい。貴様等、こんな所でのんびりと何をしている?」
「皇帝、皇后を探してるのですわ。こんな戦い、さっさと終わらせたいですの」
「ああ、それなら――」
ラナは自分の頭の位置まで右手を上げる。
そこには2つの首があり、血がぼたぼたと落ちた――。
「もう殺ったぞ」
「……。仮にも自分の実親だろうに、お前は豪胆な女よな」
「御託はいい。これで用は済んだ筈だろう。これからどうする気だ?」
「そんなの、もう戦いを終わらせるに決まってますわ」
「ハッ」
ミュベスの言葉に、ラナは鼻で笑った。
バカにする態度にミュベスはムッと顔をしかめる。
「戯け、こんな奴らを殺した所で何にもならん。この2人は政治、軍整備面において活躍していたに過ぎん。バスレノスの戦う気力を無くさせ、終戦に向かわせるには――トメスタス、ヘイラ、ヴァムテルを討つ他にない。そして、トメスタスは私が討つ」
「……ふははっ。単に其方がトメスタスと戦いたいだけだろう。それに、プロンとかいう側近を向かわせたんだろう? 暗殺術か……もう死んでるんじゃないか?」
「案ずるな、プロンには殺さないよう言ってある。それに――」
ラナは思い浮かべる。
トメスタスという男の戦い方を。
豪快で野蛮で無鉄砲――しかし、それだけではない。
常に最新の注意を払っている、その点に関してはラナですら測れしれないほどに。
「プロンでは、奴等に勝てんだろうな」
こういう緊急時にはトメスタスの元に3人全員の側近が揃う。
プロンも側近とはいえ、1対4では――勝てない――。
◇
2階、廊下――。
「【罠嵌術・綱渡り】!!!」
プロンは壁に背を付け、手から炎の絡む糸を発車させた。
しかし、その糸は
「【青魔法】【水】♪」
最も簡単な【青魔法】により、消されてしまう。
トメスタスは手で腹を抑えて笑い、満身創痍なプロンを指差していた。
彼の側近は無傷で、トメスタスはプロンを相手に何もしていない。
側近の3人だけでプロンを倒したのだ。
「うぅっ……」
ズルリとプロンの体が落ち、座り込んでしまう。
その壁は彼女の血がベッタリと付き、赤く染まっていた。
彼女の周りには糸が散らばっており、戦いにすらならなかったことを示唆していた。
「もう諦めろプロン……兄妹のよしみだ、すぐに逝かせてやる」
「ツッ……ばーか、まだ諦めてないし〜……」
強気に返しながらプロンは立ち上がる。
しかし、その足はもつれて倒れてしまった。
切り傷、火傷、打撲、そして足の骨も折れている。
意識があるのは奇跡と言えよう、もはや彼女になす術はなかった。
「…………」
「ジャガルさぁ、私ゃ別にコイツ生かしといてもいいよ? 断頭台に乗る日までは」
「おお、俺もいいぞ? 少しでも国民がスッキリする死に方をしてくれればな」
「いやいや、トメスタス様もクルタも適当なこと言わないでくださいよ。それなら俺が殺しますから」
黒髪の青年は褐色肌の女と君主を制し、糸で作った爪を出す。
そんなお堅い兄を見て、2人はやれやれと肩をスかせた。
もう1人、刀を携えた青年は表情一つ変えず、ただ終わるのを待っている。
「そういう事だプロン、悪く思うな」
「ヒュー……ヒュー……」
「……返事もできぬか。いいだろう、早くラクにしてやる――」
ジャガルは手を挙げ、そして――動けぬ妹へ向けて、鋭い爪を突き立てた――。
しかし、その爪は赤いカーペットに刺さるだけで、プロンには当たらなかった。
突然消えたプロンの体、4人は目の色を変えて体制を整える。
しかし、見つけたものを見て力を抜くのだった。
「……何を、してるんですか?」
プロンの体を身元において立っていた、緑の帽子を被るクオンの側近を見つけたのだから。
彼らは今日も暗い鉄格子の中で天井を見るぐらいしか時間の使い道がない――はずだった。
今や牢の中はもぬけの殻で、人っ子一人居やしない。
ラナの側近の1人、ベネーハという老兵がすべての鍵を開け、破壊していったのだ。
その地下に遅れながらやってきたミズヤは、洞窟に似た作りの廊下で静かに周りを見渡す。
壁に打ち付けられた衛兵、血が噴き出した跡のある岩、力技で開けられ、曲がった鉄格子……。
「うーん、一足遅いとこうなっちゃうよねぇ……」
ミズヤは落ち込みながら、この惨状を見て呟いた。
寂しい言葉は岩が反射し、エコーのように響く。
「……まぁ、いいですにゃ。これから頑張って立派なねこさんになるもんねっ」
しかし、即座に気を取り直して笑顔を取り戻す。
用のない地下を出るため、ミズヤは歩き出す。
「よっと……あーあー、重いですにゃーっ」
ミズヤは担いでいるあるモノを背負い直すと、その背にあるものに背を向ける。
「――1人捕らえたし、とりあえずOKかなぁ〜……」
そこに居た人物こそ、老兵ベネーハであった――。
ラナの側近であり、戦力としてはこの城内でもトップクラスの筈の人物は白目を剥いて頭から血を流しているのだった。
ミズヤはそんな彼がラナの側近である事など知る由もない。
ただ襲われたから倒した、それだけなのだ。
【羽衣天技】、そんなものはミズヤにとって強い魔法でもない。
彼にとってみれば、1対1の戦闘などおそるるに足りないのだ――。
「えーっと、とりあえずクオンの所に行きますかにゃーっ」
ミズヤは陽気に笑いながら、よたよたと食堂へと戻っていくのであった。
◇
「イグソーブ武器は使わなくても良い! 自分の命を最優先に行動しろ! 城の略奪を全力で阻止せよ!!!」
『オオオオオオォォオオッ!!!!』
大広間は血と熱気に包まれていた。
大将ヴァムテルの指揮のもと、多くの兵士が魔法を持って特攻していく。
空を駆け地を蹴り、ひたすら相手を殺すことのみを考える。
その相手は、レジスタンスだった。
かつて倒し封じてきた者たちだけではない、キュールのトメスタス本隊もが攻め入っている。
怒号と叫び声が飛び交い、いくつもの血が吹き出て肉が倒れる。
火が点き氷が刺し、風が人を吹き飛ばす。
ここはまさに、地獄の最奥と呼ぶに値する場所だった――。
「怯むなァア!!! 今までの雪辱、今こそ晴らす時!! 我らが祖国と誇りを取り戻すのよぉ!!!」
ヴァムテルに対し、広間で相対するは彼の妹であるフィサだった。
牢屋で話し合った彼らは、ついぞ和解ができずにこうして相対し、共に指揮官として兵を奮い立たせる。
(フィサ――!!)
(兄さんなんかに負けない!! あの悲しみを忘れないためにも――!!!)
遠く離れた兄妹の絆は、こうして戦う運命を手繰り寄せた。
互いに悪いわけではないと知りつつも戦う兄妹、その命運は"力"によって示される――。
◇
「どこもかしこも煩くて敵わんな」
「? 兄様、今何か仰いました?」
「なんでもない! 行くぞミュベス!」
「はいはい」
肩透かししながらも、ミュベスは兄のキュール王子について行く。
レジスタンスの長たる2人は部下を連れずに2人で歩んでいた。
目的地など無い、この城の構造を詳しく知らないからだ。
しかし、狙う獲物は居る。
それは当然、皇帝及び皇后だ。
バスレノスの王を討ち取れば戦いは終幕へと向かう。
バスレノスはこれまでレジスタンスを殺さなかった、その敬意を評して2人は今日の敵を殺さず、早く戦いを終わらせるために国の王を探していた。
「んっ?」
「む」
そこに、銀髪でポニーテールの女が現れる。
目つきの悪いその女は、何を隠そうこの国の皇女であるラナだった。
「よく約束を守り、自国を滅亡に導いたな、ラナ」
「世辞はいい。貴様等、こんな所でのんびりと何をしている?」
「皇帝、皇后を探してるのですわ。こんな戦い、さっさと終わらせたいですの」
「ああ、それなら――」
ラナは自分の頭の位置まで右手を上げる。
そこには2つの首があり、血がぼたぼたと落ちた――。
「もう殺ったぞ」
「……。仮にも自分の実親だろうに、お前は豪胆な女よな」
「御託はいい。これで用は済んだ筈だろう。これからどうする気だ?」
「そんなの、もう戦いを終わらせるに決まってますわ」
「ハッ」
ミュベスの言葉に、ラナは鼻で笑った。
バカにする態度にミュベスはムッと顔をしかめる。
「戯け、こんな奴らを殺した所で何にもならん。この2人は政治、軍整備面において活躍していたに過ぎん。バスレノスの戦う気力を無くさせ、終戦に向かわせるには――トメスタス、ヘイラ、ヴァムテルを討つ他にない。そして、トメスタスは私が討つ」
「……ふははっ。単に其方がトメスタスと戦いたいだけだろう。それに、プロンとかいう側近を向かわせたんだろう? 暗殺術か……もう死んでるんじゃないか?」
「案ずるな、プロンには殺さないよう言ってある。それに――」
ラナは思い浮かべる。
トメスタスという男の戦い方を。
豪快で野蛮で無鉄砲――しかし、それだけではない。
常に最新の注意を払っている、その点に関してはラナですら測れしれないほどに。
「プロンでは、奴等に勝てんだろうな」
こういう緊急時にはトメスタスの元に3人全員の側近が揃う。
プロンも側近とはいえ、1対4では――勝てない――。
◇
2階、廊下――。
「【罠嵌術・綱渡り】!!!」
プロンは壁に背を付け、手から炎の絡む糸を発車させた。
しかし、その糸は
「【青魔法】【水】♪」
最も簡単な【青魔法】により、消されてしまう。
トメスタスは手で腹を抑えて笑い、満身創痍なプロンを指差していた。
彼の側近は無傷で、トメスタスはプロンを相手に何もしていない。
側近の3人だけでプロンを倒したのだ。
「うぅっ……」
ズルリとプロンの体が落ち、座り込んでしまう。
その壁は彼女の血がベッタリと付き、赤く染まっていた。
彼女の周りには糸が散らばっており、戦いにすらならなかったことを示唆していた。
「もう諦めろプロン……兄妹のよしみだ、すぐに逝かせてやる」
「ツッ……ばーか、まだ諦めてないし〜……」
強気に返しながらプロンは立ち上がる。
しかし、その足はもつれて倒れてしまった。
切り傷、火傷、打撲、そして足の骨も折れている。
意識があるのは奇跡と言えよう、もはや彼女になす術はなかった。
「…………」
「ジャガルさぁ、私ゃ別にコイツ生かしといてもいいよ? 断頭台に乗る日までは」
「おお、俺もいいぞ? 少しでも国民がスッキリする死に方をしてくれればな」
「いやいや、トメスタス様もクルタも適当なこと言わないでくださいよ。それなら俺が殺しますから」
黒髪の青年は褐色肌の女と君主を制し、糸で作った爪を出す。
そんなお堅い兄を見て、2人はやれやれと肩をスかせた。
もう1人、刀を携えた青年は表情一つ変えず、ただ終わるのを待っている。
「そういう事だプロン、悪く思うな」
「ヒュー……ヒュー……」
「……返事もできぬか。いいだろう、早くラクにしてやる――」
ジャガルは手を挙げ、そして――動けぬ妹へ向けて、鋭い爪を突き立てた――。
しかし、その爪は赤いカーペットに刺さるだけで、プロンには当たらなかった。
突然消えたプロンの体、4人は目の色を変えて体制を整える。
しかし、見つけたものを見て力を抜くのだった。
「……何を、してるんですか?」
プロンの体を身元において立っていた、緑の帽子を被るクオンの側近を見つけたのだから。
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