連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第1話:少女の夢

 ――それはもう、ずいぶんと昔の夢だだった。

 皇帝である父上の御前では私と弟のトメス、その両脇には大将が並んでいた。
 室内に差し掛かる陽光が白い柱に反射して部屋を照らす。
 私達の目の前に座る皇帝の手には、ある楽器があった。

 小太鼓――真っ白な面のヘッドに真紅な横周りのシェル、銀色に輝く金具の数々。
 一見それはただの楽器に見えて、その実はこの世で最も優れた魔法道具。
 所持者の魔力を40倍にまで増幅させ、持ち主は無尽蔵の魔力を持つことになるその楽器。

 この楽器を用いて、大陸統一を目指そう。

 そう語る父を制す者は誰も居ない。
 大陸統一と永劫の安寧こそが我々の悲願だから。

 なればその楽器は強者が持つべきであり、力を持つ者がより強き者へとなって蹂躙するのだ。
 だから選ばれる者は――。



 ◇



 ゆっくりと瞼を開き、ラナ・ファイサール・バスレノスは起き上がった。
 朝に弱い彼女も、見た夢のせいか今日は目が覚めていた。
 ジャージを着て寝る彼女は長い髪を垂らし、自分の手元を見る。

 誰よりも努力した。

 長女だから、誰よりも重い物を背負っていると思った。

 国のために頑張る私に、光が当たると思った。

 でも、結果は違う。
 選ばれたのは私じゃない。
 私よりも弱く、怠けておちゃらけている弟だった。

「……終わった事だ」

 自分に言い聞かせるように、彼女は呟いた。
 あの頃に戻ったところでラナには何もできないし、神楽器はトメスタスに渡ったであろう。
 幾ら説得したり、欲しいと皇帝おやに駄々をこねても無駄なのだ。

 彼女は起き上がり、髪を束ね始める。
 皇族にまつわるリング状の髪飾りを手に、腰まで伸びていた髪を一本に纏めるのだった。

 このまま朝食を食べてトレーニングをする彼女は、ジャージのまま部屋の扉を開けた。

「……プロン?」

 彼女が目の当たりにしたのは、足を投げ出して壁に寄りかかり、目を閉じているプロンだった。
 皇族の側近――バスレノスではかなり緩い護衛体制ではあるが、いくらチャラついたプロンとて眠るような事はないのだ。
 ならば死んでいる――そう思った矢先、ラナはプロンの胸元に手を当てた。
 心臓の動悸を確認し、ラナは安堵する。

『――その娘に怒ってやるなよ』

 不意に聞こえた低い声に、またラナは立ち上がって辺りを見回す。
 すると、今自分が出てきた部屋に、ソレは居た。
 蔓の生えた銅色の冠、ボロボロになったピンクの着物、死人のように青白い肌――そして、骨と化した腕。

「……魔王」

 陽光に照らされる黒髪をなびかせ、この世界の魔王はソコに立っていたのだ。

『久しいな、ラナ皇女。初めて会ったのは6年前か?』
「御託はいい。プロンに何をした」
『見ての通り、眠ってもらっただけだ。そう身構えなくていいだろう』
「魔物の王がよく言う。貴様ほどの殺戮者が目の前に立っていて、落ち着けと言う方が狂ってる」
『……そうだな』

 魔王はこれを認め、警戒されたままながら話題を変える。

『皇女よ。其方そなたは弟が憎いのか?』
「…………」

 その言葉を聞くと、ラナの眉が一瞬だけ跳ね上がる。
 憎いのか、そう聞かれると彼女はどうしようもない気持ちになるのだ。
 トメスタスは不真面目で、いつも遊んでいて、人を驚かせたり、迷惑をかけたりする。
 それでも国を思う一面を見ると神楽器を持つのに相応しい人物と思うこともある。
 家族として――ということは、あまり考えなかった。
 ラナはどちらかというと、幼少期はトメスタスよりもプロンと居る事が多かったのだから。
 今ですら側近と居る時間の方が長い彼女は、家族というものが国を指揮する意味を考えさせられて居るのだった。

 憎いか、その答えはまだモヤモヤしていてわからない。
 ただ、今のラナに出せる答えとしては――

「トメスタスは、ウザい。いつもちょっかいばかり出してきて、隣に立たれると腹が立つ」
『……それは憎い、といっていいのか?」
「どうだかな。ただ、死んで欲しいと思うときはあるが、殺したいとは思わん。そういう存在だ」
『……そうか』

 ラナの主張を聞き、魔王は彼女をまっすぐ見据えたまま口を閉ざす。
 反応の薄い魔王に、思わず尋ねた。

「なんだ、バスレノスまで来て用事はそれだけか?」
『……用事と言われれば、そうだな。ラナ皇女、次は茶でも飲みに行こう』
「…………」

 訝しげに魔王を睨むも、当の女は忽然と姿を消していた。
 瞬間移動――絶対的な力であるソレを前に、ラナは呆然と立ち尽くすのだった。



 ◇



「そっかぁ……環奈さんや瑛彦を見て思ってたけど、【ヤプタレア】は【地球】と似た世界なんだねぇ」
〈そうねー……。まっ、私は【地球】に行ったことがないし、話してる限りは、だけど〉

 ミズヤが話した後に、サラとの間にある板から文字が浮かび上がって読むミズヤ。
 白魔法でも色を変えるのは初歩のため、もうミズヤはサラに魔法を作ったのだ。
 今ではサラも魔法を使うのに慣れ、部屋に篭って二人で会話を楽しんでいる。

「サラも制服着てたんだねーっ。僕と同い年だったの?」
〈同い年ね。一緒に学校行ってたのよ? 懐かしいわ……〉
「学校かぁ……。この世界にはあんまりないよねぇ……」
〈なくていいじゃない。勉強なんてメンドくさいし〉
「でも、サラは王女なんでしょ? 勉強する?」
〈めっちゃするわ……〉
「大変だねぇ……」

 ションボリと項垂れるサラを、ミズヤは両手で掴んで抱き寄せ、ヨシヨシと頭を撫でた。
 サラは嫌がる素振りも見せず、されるがままに撫でられる。
 ミズヤは優しく猫の頭を撫でながら、独り言のように言った。

「……なんだかね、こうしてサラとお話ししているのが懐かしいんだ。不思議だよね、記憶無いのに」
「…………」

 サラは何も言わない。
 ただ床に置かれたボードの文字だけが変化する。

〈不思議じゃないわ。私達はずっと繋がってるのよ。運命の赤い糸で、強く、深くね〉
「……サラはそういう恥ずかしい事、よく思えるなぁ。僕はまだ実感もないからさ、なんとも思えないよ……」
〈そっ。でも、私は瑞揶・・に対する気持ちを恥ずかしいとか思わないわ。そのぐらい好きだもの〉
「…………」

 サラが想う相手は、瑞揶・・である。
 だが、今この世界のこの場所に居るのはミズヤ・・・で――

 それは誰に対する好意なんだろう――?

 ちょっぴり寂しい気持ちを抱きながら、ミズヤはサラを撫でる。
 優しい愛撫を受け入れるサラは、惚けながらミズヤに体を預ける。
 2人の中は1歩進み、物語は次のステージへ移動する――。

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