連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第12話:地球の話

 夜、クオンはこの日の夜番であるミズヤを部屋に招き入れた。
 ポゥポゥと光る白い玉を中心に、ネグリジェ姿のクオンと、いつもの和服に身を包んだミズヤがサラを足に乗せて座っている。

「僕、こんな夜中に皇女様の居て、いいの?」
「私が許したんですし、ミズヤは何もしないでしょう」
「そうだけど、ねーっ?」
「ニャー」

 ミズヤがサラの手を持って同意を得ようとすると、どっちだかわからない返事が返ってくる。
 見慣れたその様子にクオンは微笑み、部屋に呼んだワケを話し始める。

「ねぇ、ミズヤ? 貴方の居た世界は、どんな所だったのですか?」
「【ヤプタレア】の事は知らないよ? 僕はサラ達すら居なかった、別の世界での記憶しかないもん」
「……【地球】、でしたっけ? そこはどのような所だったのですか?」
「地球? うーん……」

 ミズヤはサラの頭を撫でながら、上を向いて考える。
 地球という星を説明するにはどうすればいいか。
 パッと思いつくことといえば――

「機械がいっぱいあって、なんでも電気で動いたりして、便利なものがいっぱいあったよ〜」
「電気……ですか? カラノールでは電灯が使用されていましたけど、あれ以外に使い道が……」
「その辺は僕も知らないんだけど、電気を使った商品がいっぱいあってーっ、こんな感じかなぁ……」

 唐突にミズヤは魔法により、手元に黒いボードを生み出す。
 次に【白魔法】を使い、ボードに自分の思い描く光景を念写し、着色した。

 そこに映し出されたのは木の机に、白くて四角いディズプレイと、キーボードが配置されていた。
 キーボード付近にはマウスと携帯端末が置かれており、クオンは食い入るようにボードを見つめる。

「これ、僕の部屋の一部だったんだよ? この真ん中が黒くて外枠が白い装置がパソコンでーっ、キーボードで文字を打つと、色々調べたり、買い物したり……なんでもできるんだよっ!」
「……調べたり、買い物したり? 本も見ずに、移動もしないで、そんなことができるのですか?」
「うん。インターネットって言ってねーっ、世界中と繋がれるんだ〜。電波を飛ばしたり……? 僕、学生だったからよくわかんない」
「そうですか……」

 ミズヤにはよくわからないようで、クオンは落胆してみせた。
 今の文明レベルからパソコンを作るにしても、その普及まではどんなに頑張っても100年はかかるだろう。
 どのみち、【サウドラシア】で通信機器の開発は難しいのだ。

「あとはねーっ、電車とかバスっていって、人がたくさん入れる四角い箱みたいなのがあってね、それに乗って会社とか学校に行くんだよ〜っ。ちょっとこれ見ててね?」

 ミズヤはクオンにボードを手渡した。
 クオンは両手で持ってボードを凝視すると、ボードの絵が変わる。

 そこは黒い地面に猫が整然と並んでいた。
 黒い色、黄色い線、白い線があり、そこから先は崖になっている。
 その向こうにはいくつかの看板があり、猫に関する広告が貼ってあった。

 突如、ボードから電子音が鳴り響く。

《まもなく、各駅停車、ねこさんゆきが参ります。危ないですから、黄色い線の内側に、おさがりくださいですにゃ》

 構内放送が終わると、ホームの向こう側から猫耳の生えた白くて四角い車体が、滑らかに線路を走行して走ってくる。
 一陣の風とともに駆け抜ける箱――その電車が速度を落としながらやってきた。
 風邪を纏う巨大な箱の風圧に、多くの猫が吹き飛んで行く。

ファーーーーン!!!

「ひーーーーっ!!!」
「にゃぁぁああっ!!!」

 最前列に並んでいた猫達が丸ごと居なくなったところで、電車は停車した。
 プシューと音を立てて扉が開くと、残った猫がゾロゾロと列車の中に入っていく。

 そこで映像は終わり、クオンは顔を上げた。
 苦いものを食べさせられたのに、美味いって言わなきゃいけない時のような表持ちで、うんうんと頷きながら感想を告げる。

「ねこは兎も角、こういう移動手段があるのはわかりましたよ。魔法で動かしていないのなら、凄い事です」
「魔法じゃないんだよーっ。この電車が毎日、朝から晩まで動いてるんですにゃ」
「年中稼働しているわけですか。移動が便利そうで良いですね。飛竜より利点が多そうです」

 何度も頷きながらクオンは再生を終えた画面を見て、そんなクオンをミズヤはいつもの笑顔で見ていた。

「……いつか、私がもっと賢くなって、色々と指示が出せる立場になったら……このようにとはいきませんが、バスレノスをもっと豊かな国にしたいです」
「そーだねぇ〜……」
「ニャーッ」
「むっ、軽いですよミズヤ。他人事ですか」
「僕はサラの所に行かなきゃだもん。ねぇ、ねこさん?」
「…………」

 サラは鳴いて肯定せず、ミズヤの足から立ち上がってピョコンと飛んだ。
 そしてクオンの持つボードの上に着地し、クオンはなんとかサラの体重をボードの上で受け止めた。
 バシバシと、乗っかったボードを前足で叩くサラ。
 その行動に2人ははてなを浮かべるも、クオンはある事に気付き、ミズヤに尋ねる。

「ミズヤ……サラって、魔法が使えるんですよね? 【白魔法】は使えるんですか?」
「えっ……うーんとね、飛んだりするから【無色魔法】は使えるはずだけど、それ以外はわからないなぁ……」
「……サラに【白魔法】が使えれば、このボードに文字を写して会話したりできますよね?」
「おおっ……」

 新たな発見にミズヤが目を丸くする。
 その発想に気付かないのもおかしな話だが、サラからすれば――

(それができるならとっくにやってるわよ……)

 という事なのである。
 しかし、この世界の魔法は付与する事ができる。
 イグソーブ武器やジャージなどが代表的だが、他色の魔法すら扱うことが可能になるのだ。
 つまり、ミズヤがサラ自身に魔法を付与することもできる。
 色を変える――それだけでサラはボードに文字を写すことが可能になり、意思疎通が可能となるのだ。

「サラに【白魔法】が使えても使えなくても、僕が魔法作っちゃうねっ」
「ニャーン」

 サラが鳴き返すと、ボードから降りてミズヤの膝皿に頬ずりをした。
 これからは意思疎通が楽に取れそうになり、お互いに嬉しいのだった。

「……魔法はすぐにできませんし、この話はまた今度でお願いします」
「あ、うん。今は【地球】の話だったね。何が聞きたいのかな?」
「なんでも聞きたいですよ。人々の暮らし、文化、食べ物、娯楽……なんでも話してください」
「はーいっ。じゃあ、まずはねぇ……」

 それからミズヤは地球での事を話し始めた。
 国によって話す言語が違う事、彼の生まれた国の文化、食べ物の事や娯楽にまつわる事を。
 クオンは何度もミズヤに質問して、ミズヤは答えて、苦笑することもあれば2人で笑い合うこともある。
 そんな楽しい1日を、彼等は過ごすのだった。

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