連奏恋歌〜求愛する贖罪者〜

川島晴斗

第11話:羨望

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃぃぃいいいいっ!!!」
「謝らなくていいよーっ」
「にゃーっ」

 医療室のベッドにて、ヘリリアは側に座るミズヤに土下座をしていた。
 起きた彼女はいつものヘリリアに戻っており、ミズヤは安堵の笑みを浮かべる。
 そんな彼の頭上にはサラが乗っていて、帽子の上をゴロゴロと転がっていた。

「うぅぅ……ミズヤくん、怪我とかしてない? 大丈夫?」
「怪我してませーんっ。僕は大丈夫だから、マシュマロでも食べなよ。これクオンが好きなんだよ〜っ」
「え? ど、どうも……」

 裾からマシュマロの袋を取り出し、顔を上げたヘリリアの口へと1個放り込むミズヤ。
 白いモチモチとしたものをよく噛み、ヘリリアは小首を傾げる。

「変な食感……」
「ヘリリアさんには受けが良くないようですにゃーっ。甘いもの、好きじゃない?」
「そ、そんなことないんだけど……なんて言うか、形容し難いなぁ……。あっ! 言えなくてごめんなさい!! 私の語彙能力がないばかりにっ!!」
「いっ、いや、謝らないでいいからね?」

 ミズヤは苦笑しつつ、マシュマロを裾の中に戻した。
 お互いに無言となり、サラが欠伸する音すら聞こえてくる。

 そんな中、ヘリリアはポツリと言葉を漏らした。

「もう1人の私は……ヘルリアって言うんです。ヘリ、ヘル、心の中で彼女と会話をするときはそうやって呼んでるんです」

 か細い声で語り出す言葉に、ミズヤは真剣に耳を傾けた。
 ヘリリアはさらに言葉を続ける。

「ヘルリアは、凶暴で、乱雑で、私とは似ても似つかない……。でも、私の一部であることには変わりないんです。どっちが姉で、どっちが妹かもわからないけど……それでも姉妹なんです」
「……そっか。大切に思ってるんだね」
「うん……。でも、ヘルリアはいつも寝てて、急に出てきたら人と衝突して……。だから、私……」
「…………」

 ミズヤはヘリリアの表情から、いろんな感情と思いを悟った。
 彼女が異常なまでに臆病で謝り続けるのは、ヘルリアが原因なのだと。

「大丈夫、僕はヘリリアさんの友達だよ。ヘルリアさんが出て来たって……また倒しちゃうから」
「――ヘルリアは、ミズヤくんとの試合で、全く力を出してません。剣術は本気だったけれど、魔法は……」

 言い切らずに言葉は途切れた。
 悲しい言葉だったが、ミズヤはどこかおかしくなって、吹き出した。

「そんなの、僕だっておんなじだよ? 仲間だもん、本気でやるわけないよねーっ」

 朗らかに笑うミズヤを見て、ヘリリアは舌を巻くのだった。
 ミズヤの底知れぬ強さに、驚く他なかったから――。



 ◇



 そんな模擬戦からも一夜明け、襲撃がないからとミズヤは暇を持て余していた。
 自室のベッドに座り、ふわふわなクッションに背を預けて魔法液晶に文字を打ち込んでいる。
 そんな主人に構ってもらえず、サラはミズヤのお腹を叩いて「構え構え」と抗議するも、ミズヤは「んー」と気の無い返事をするだけだった。

 魔法作成はシュテルロードで習い、魔王からも教わることもあって、今では彼の趣味の1つとなっていた。
 お腹に乗った猫の背を撫でながら、ミズヤは魔法文字を入力していく。

「ここはねこさん」
「にゃーっ」
「ここもねこさん」
「ニャー?」

 ポチポチと空間パネルを押しながら呟くミズヤに、サラは鳴いて答える。
 ミズヤは鈴のなるような声で鳴く猫の頭を撫で、もう片方の手で文字を打っていった。

「できたーっ!」
「ニャーッ」

 魔法が完成し、ミズヤはウィンドウを閉じる。
 するとサラを抱えて立ち上がり、部屋の外へ出て行った。

 1人と1匹が一緒になって赤い絨毯の廊下をとことこ歩き、外にやってきた。
 中庭では鍛錬をする者が居る中、ミズヤ達は隅っこの肌色をした地面の上に座り、魔法を使う。

「【黒魔法カラーブラック】」

 ミズヤが短く呟くと、何もない空間に黒い粒子が生み出され、それはやがて形を成した。
 黒い塊は人が1人座れるサイズであり、4輪でハンドルが飛び出ている。
 ミズヤが生み出したのは、所謂いわゆるゴーカートだった。

 オープンで窓はなく、サイドブレーキも無い。
 アクセル、ブレーキ、ハンドルだけのシンプルな作りだった。
 なんでこんな物を作ったのか。
 そんなの決まっている、遊ぶためである。

「おおっ……。【白魔法カラーホワイト】」

 自分で作った物に自分で驚きながら、彼は黒いゴーカートの色を変化させる。
 彼の服の色でもある黄緑を中心にして青い水玉模様を描き、ナンバープレートの文字まで描く。

 着色も終わって完成したゴーカートに、ミズヤは乗った。
 サラがボンネットの上に飛び乗り、ミズヤがゆっくりアクセルを踏む。

 ゴーカートはゆっくりと進み始めた。
 およそ歩いた方が速い速度で。
 のそのそと進むゴーカートに、ミズヤはわーきゃーと騒ぐ。

「凄いよサラ! ほら、進んでる!!!」
「ニャー」
「わ〜っ♪」

 朗らかに笑いながら優しい風を受け止め、ゴーカートはのそのそと道の端を進んでいく。
 年相応――いや、幼少の子供のようにミズヤは楽しみ、サラはぼーっと空を眺め、ミズヤからの声掛けをテキトーに鳴いて返していた。

「……何してるんですか?」
「にゃ?」

 凛とした問い掛けに反応したのはミズヤの声だった。
 ブレーキを踏んで彼が止まると、後ろには木刀を持ち、額から汗を垂らすクオンと、その後ろからは汗一つかかずに木刀を杖にするケイクが居た。
 2人は訓練をしていたようだが、ミズヤはひとまず問いに答える。

「遊んでるんだよ〜っ。クオンも乗る?」
「いえ、そんな幼稚な物には……」
「幼稚じゃないよーっ。ゴーカートの競技だってあるんだからっ」
「そうなんですか?」
「……あっ、前世の話です」

【サウドラシア】にそんな競技はないし、ゴーカート自体あるかも定かではないのだった。
 もし車が出来たとしても、インフラ整備も大して行われていないこの世界ではまともに走ることが出来ないのが実態である。

 クオンはジャージの裾で汗を拭い、ミズヤのゴーカートを前後左右、ジロジロと見て回った。

「……乗りたい?」
「いえ、全然。テーマパークにこれを置けば反響がありそうだと思っただけです」
「遊園地とかに……あっ、前世の話です」
「……前世ではあったのですか。ふむ……」

 じっとゴーカートを凝視し、顎に手を当てて考え込むクオン。
 ミズヤは前を向き直してアクセルを踏み、再びのそのそと運転を開始した。
 ゆっくりと進んでいくゴーカートを、クオンとケイクは目で追っていく。
 地蔵のように固まったクオンに、ついにケイクは声を掛けた。

「……クオン様? どうかされましたか?」
「……ケイク、彼の異世界の知恵を使えば、この国は楽しくなりそうだと思いませんか?」
「はぁ……」
「お菓子の時も感じましたが、きっと娯楽が多く、笑顔も多い世界なのでしょう。後で、色々と話を聞いてみたいと思っただけです」

 去りゆくミズヤの後ろ姿を見ながら微笑むクオンを、ケイクはポカンと口を開けて見ていた。
 彼女の笑顔に見惚れたのもそうだが、あんなのそのそと進む魔法のどこにそんなことを思ったのかと、理解できなかったからだった。

 のんびりと過ぎる時の中、バスレノスの1日は今日も平和に過ぎて行く。

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